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僕と神様と恋愛フラグ  作者: デンダイアキヒロ
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おいでませ、女神様

 僕の名前は相浦秀人。

 十六才のいたって普通の一般人───ではない。

 まあ溜めたわりには普通っちゃ普通なんだけど。

 焦らすのもなんだし、単刀直入に言おう。

 うちの実家は神社だ。

 あの鳥居がボーンってあって狛犬がズドーンって座っているあの、神社だ。

 日本全国から見てもかなり珍しい部類にはいるのではなかろうか。

 父は神主、母はうちで働く巫女の統括。

 家族ぐるみで神様に奉仕している。

 ──勘のいい人はここで気づいているだろう。

 そう、うちの神社はちょっと大きい。

 流石にうち目当てで来る参拝者は少ないが観光本に解説が乗るほどには大きい。

 ご利益は恋愛成就。

 うちのお参りに来た人の多くはこれが目的だ。

 単身で来る哀れな者からやたらいちゃつくカップルまで良くも悪くも様々な人が来る。

 そんな参拝客を見て、僕は育った。

 最初はピュアな心で末長くお幸せにと思って見ていた。そんな時代が僕にもあったのだ。

 しかし、それは月日がたつにつれてそれは哀れみへと変わっていった。

 今では参拝客を金蔓かねづるとさえ思ってきてるようになっている。

 単身のときに恋愛成就のお守りを買って、結婚したら子宝成就、子供ができたら安産祈願、出産したら子孫繁栄と参拝者はまんまとこちらの術中にはまってくれる。

 それに賽銭とおみくじ代が来るのだからこちらはもうウハウハだ。

 無論、個人的な思考なので悪しからず。

 けれど、そんな僕でもちゃんと神様のことは大事に思っている。

 腐っても家が神社、その思いは本物だ。

 うちの家はお布施の大部分を神社の維持費に使っているし僕自身も毎日お参りをしている。

 それはそれは心を込めて。

 ──でもはっきり言える。

 神様は多分人間のことなんてなんにも思っていない。

 理由は単純、僕がこの人生十六年で一回も彼女ができたことがないからだ。

 ──恋愛成就が売りの神社の神主の息子がだぞ!?

 なんなら父さんと母さんに次いで三番目にここの神様のことを信仰しているこの僕がだぞ!?

 一歳半にはすでに神社に二礼二拍手一礼をマスターしていた僕がだぞ!?

 そんな僕がどこから来たかもわからないペーペー共に先を越されていいわけがない。

 外出をするときにいつもじゃらじゃらとついた絵馬を見るのだがそれが僕の清々しい朝を不快にする。

 何が「ここに参拝して一ヶ月で彼氏ができました~☆」だぁ!?

 ふざけんのも大概にしろよ!?

 そんなんなら僕はハーレムを作れてるわ!!

 近辺の女子全員僕の虜だわ!

 俺の人生モテモテだわぁ!

 ………………すまない。

 ちょっとヒートアップしてしまった。

 とどのつまり、僕の言いたいことは神様は信仰なんてどうでもいいって思っているってことだ。

 それ以上の意味はこの長ったらしい文にはない。

 

 話を変えよう。

 僕の住んでいる町である火板町(ひいたちょう)についてだ。

 この町は田舎でもなく、かといって都会でもなく、中途半端な町である。

 それはうちの神社の境内から見ればわかる。

 西を見ればビルや高層マンション、東を見れば自然溢れる野山が見える。

 山を生き抜く猪もいるがコンクリートジャングルを生き抜くサラリーマンもいる、ある意味ガラパゴスな土地なのだ。

 そんな火板町にはちょっと変わったことがある。

 これは僕も転校生から聞いてはじめて知った、というか気づいたことなのだが、うちの町は()がとても多いそうだ。

 この理由には一応僕なりに心当たりがある。

 それはこの町の成り立ちにも由来する。

 ここは昔、かなり大きな遊郭があったのだ。

 これはちゃんとした証拠がうちにあるので裏はバッチリとれている。流石は神社、歴史的資料がたくさん。

 話を戻して、ここにあった遊郭は城下町だった西から多くの人が来て栄えていた。

 しかし、この遊郭は風紀上の関係から国に潰されてしまう。

 行き場に困った遊女たちの多くは仕方なくここに住むことを選んだ。

 仮にも遊女、顔は良いのは言わずもがな。

 その子孫がこの町の人なのである。

 そんな彼女たちの子孫なのだからこの町の人たちも顔がいいというわけだ。

 確かに僕もテレビを見ているとそこら辺のアイドルよりうちの母さんのほうが美人だと思う事がある。

 まあそんなこんなでうちの周りには優良物件があるらしい。

 それが火板町だ。

 僕もこんな町に生まれたのだからどうにかして彼女できないかなーと日々思っている。

 神社もつがないといけないしもうそろそろ行動に起こさないと。

 そりゃあ大学にでもいったら彼女はできるかもしれない。

 でも僕が目指すのは将来的に神職系の学部になるだろう。

 そうなると彼女ができる確率は絶望的だ。

 だから、最後のチャンスは高校生活といっても過言ではない。

 ここで青春を謳歌して彼女をゲットするのだ。

 ───そんなことを思って息巻いていた矢先に、僕の「普通の」高校生活はものの見事にぶち壊された。

 一人の少女・・・いや、一人の女神によって。




 それは進学が決まって、あとは溜まりにたまった受験疲れを解消しようと明日に思いを馳せている時だった。

「さーてさて。なにしようかなー」

 これから始まる二週間という自由時間。

 その長さは僕にとって魅力的なものだった。

 もう十一時を回ろうかというのに全く眠くならない。

 受験期ではこの時間に寝落ちすることも多々あったのに。

 特にやることもないので布団をゴロゴロと転がる。あー幸せ。

 ・・・ん?

 窓が妙に明るいことに気づく。

 不思議に思って体を起こして窓を覗きこんだ。

 っ!?

 僕は唐突な発光に目が眩む。

 思わず尻餅をついた。


「な、何事!?」


 父さんが急いで靴を履いて神社に向かう音が聞こえる。


「ちょっと! あなた!」


 母さんもその後を追って玄関から出ていった。

 あの発光はなんだったのだろうか。

 悪戯ならたちが悪い。

 まあ、余程のことじゃない限り大人たちが何とかしてくれるだろう。

 子供が首を突っ込むことではない。

 …………おそらく。

 …………多分。

 …………気になる。

 やっぱり気になる。

 ほらだってあれじゃん。

 もう高校生じゃん。

 働けるじゃん。

 つまり大人だ。

 大人だったら首を突っ込んでいい。

 ───よし行こう。

 僕は玄関でサンダルを履いて神社へと走った。



「父上、何で儂が下界などで過ごさぬといけないのじゃ!」

「コトハ、お前はここの祭神を継がねばならぬ。そのためには必要なことなのだ」


 駆けつけたお父さんとお母さんが神社の前で呆然としている。

 無論、僕もだ。


「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!! 人間共と共に過ごすなど儂の誇りが許さん!!」

「では野良神にでもなるのか?」

「ぐぬぬ・・・」


 神社の賽銭箱の前では明らかに気色の違った二人が言い争っていた。

 一人は髭の生えた壮年の男。もう一人は艶のよい髪を振り回して駄々をこねる少女だ。

 どちらも時代遅れ、というか絶滅危惧種レベルの古い衣装を来ていた。

 名前は忘れたが日本神話の絵本で見たことがある。

 両親はそんな修羅場を魂の抜けた目で見ていた。

 なんだこの状況、カオスすぎるだろ。


「おい、そこの人間」

「は、はい!」

 髭の男に急に呼ばれて父さんは声を裏返させて返事をした。

「紹介が遅れた。我はここに祭られし祭神だ」

「アスナワカヒコ様ですか?」

「うむ。そうである」


 男は平然と父さんの質問に答えた。

 いつもだったらヤベー奴認定していただろう。

 何しろうちの祭神を名乗るのだ。ヤベー奴以外でなんと言う。

 しかし僕の家族はその言葉を飲み込んだ。

 何しろ僕たちは神に仕える身。

 神を疑うなんてあるまじきことだ。

 ────そして何より後ろで少女がフワフワと浮いている。

 あれ?ここ宇宙だったっけ?


「コラっ! コトハ! そこの人間が驚いているでいるろうが!」

「えー。だって暇なんじゃもん」


 浮いていた高飛車な少女───コトハは渋々賽銭箱に座った。

 いや、それ結構罰当たりだからやめてほしいんですけど。

 ありがたいんだけどやめてほしい。


「あのー。アスナワカヒコ様は今回はどういったご用件で…………」

「うむ。そうであったそうであった。実は我が娘のコトハのことで頼みがあったのだ」

「はあ…………」


 焦燥してため息混じりの返事をする父さんに目もくれず、うちの祭神は話を続けた。


「我が娘、コトハは見ての通り奔放な性格だ。このままでは次期祭神としては器量不足でな」

「はあ」

「そこでだ。お主たちにコトハに下界の成り立ちを教えてほしい。人間の言う留学というやつだ」

「「「!?」」」


 うちの家族は驚愕した。

 どんな無茶振りぃ!?

 神の娘の教育係!?


「お主たちは我に仕えるもの者たちであろう?」

「まあ、そうですが・・・」


 確かに、確かにそうだけど。


「ならば話が早い。お主たちにコトハの教育係を任ずる。コトハに人間とはいかなる者かを教えてくれ」

「そんなことをおっしゃられても……」

「利益は増やしておく」

「ありがとうございます」


 九十度の完璧なお辞儀。

 おい、この神主目先の利益に屈したぞ。

 完全に教育係のほうが面倒だろ。


「では頼んだぞ。コトハ、この者たちに挨拶ぐらいせん」

「嫌じゃ」


 父親の言葉に速攻で拒否の意を示す娘。

 そんな娘を見てアスナワカヒコ様はため息をついた。


「はあ…………ならば我にも考えがある。そこの者ら、コトハには砕けた言葉を使ってよいぞ」

「なあああああ!?」


 コトハは目を見開いて父親を凝視する。

 お、それはラッキー。神とはいえ新参者にいちいち敬語を使ってられるかってんだ。

 下手したらうちの家庭内ヒエラルキーの最上位がこのいけすかない少女になるところだった。


「父上! それはあんまりじゃ!」

「ではこれ以上嫌な思いをしたくなかったら挨拶ぐらいせい」

「うぬぬ…………」

 コトハはついに父親の脅しに屈っして苦渋に満ちた顔で自己紹介を始めた。


「儂の名前はコトノハビメという。略してコトハじゃ。よしなに頼む」

「よ、よろしくね。コトハちゃん」

「誰が儂をちゃん付けで呼べといった! 儂には敬語を使え! あと様をつけろ!」

「コトハの言うことは聞かなくてよいぞ」

「おのれ父上ェ!!」


 実の父親に敵意をむき出しにするコトハ。

 これがいわゆる反抗期と言うやつだろうか。

 難儀なものだ。


「とにかく父上! 何度もいっておるが儂はこの者等の世話にはならぬ! 神が人間と同じ地に立つなど言語道断! さっさと「不祥の娘だが頼む」せ!」


 そう言い残してアスナワカヒコ様はコトハを無視して逃げるように消えていった。

 僕は思わず息をのむ。

 文句を垂れている途中で一方的に残されたコトハは状況についていけていない。


「父上? 冗談じゃろ?」


 目を丸くしたコトハはそこにはいない父親に向かって呟く。

 しかしなにも起こらなかった。


「流石に儂を置いていくなんてそんなことはないじゃろ? まさかなぁ。父上がおらんと帰れんのじゃが」


 さらに呟く。

 しかしなにも起こらなかった。


「仮にも儂は娘じゃぞ? 人間と一緒に暮らせと?」


 しかし(以下ry


「父上! 父上! 嘘じゃ! よしわかった! 儂が悪かった! 反省した!」


 それから何度懺悔の言葉をいっても、泣いてギャーギャーわめいてもアスナワカヒコ様は出てこない。


「金輪際儂は父上に逆らわん! 大好物の餅もとらん! 今までの三倍は敬うぞ! ……だから!───だから儂をおいていくなアァァァァァー!!」


 コトハの絶叫が闇夜の神社で慟哭のように響いたのであった。

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