第五話
「黄金の剣と蒼玉のついた首飾り…王家の証には間違いないな」
「だが解せん。そんな人間がなんでこんな場所にいるんだ?」
「……………」
他の兵士達が眉間に皺を寄せて話し合う中ラシドは無言で目の前にいる女を睨み付けていた。
「お前、名前は?」
「マリア=アングレアです」
「国王の一人娘の名だ。顔も見たことはある」
「そうか、なら殺そう。首を投げ込んでやれば敵の士気も下がるだろう」
曲剣を抜き放ち、ぴったり首にあてがう。
それだけで失禁しかねないほど、彼女は怯えていた。
「やめろ、ラシド。そいつは交渉材料にしたほうがいい」
「剣を下げろラシド。今は殺さないほうがいい」
二人がそう言って聞かない。
仕方なく、彼も剣を鞘に納めた。
「……反吐が出る。俺には話しかけるな」
「は、はい…」
「…サハルと合流するぞ、敵の情報はこいつに聞いた方が早い」
「ああ、あと捕虜はもう一人いるぞ」
彼が指差すのは先ほどの落馬した兵士。
縛り上げて地面に転がされている。
なにやらラシド達を見て叫んでいるように思えるが口に布を噛ませているため何を言っているかはわからない。
「…連れて行くか?」
「幸い馬は手に入ったからな。乗せて行こう」
「このッ!」
サハル達と合流して、真っ先に行ったのは振り下ろされた剣から二人を守ることだった。
「落ち着けサハル、まったくラシドと同じことをするなよ。お前はラシドをお守りする側だろうが」
「落ち着け?この女の仲間に私達はやられたのよ!?いいからどきなさいよ!殺してやるから!!」
ラシドは凄まじい殺気と形相で怯えるマリアを庇っているが、正直彼自身も彼女に賛成だ。
「こいつはティエップとの交渉材料にする。それに亡命希望だそうだ」
「亡命だと?」
「理由は後で聞く。ひとまず拠点に戻るぞ。報告もしないとな」
「…そうか」
拠点に戻ったラシド達、長のいる幕舎に他の戦士と共にマリアを連れて行きハダリン族がどうなったのかを説明すると長は大きく肩を落とした。
「それと長、この女が…」
長の前で座らされているマリア、縄などはかけられていない。
長に対して何かしようものなら後ろにいるラシド達が即座に首をはねることになるだろう。
「聞いている。ティエップ王国の王女だそうだな。なんとも…」
「その…亡命を希望します。見ての通り何も持っていませんが情報だけなら提供できます」
「…我らがそなた等の言葉を信じると思っているのか?よもや何をしたのか忘れているわけではあるまいな?」
怒りは長も同じだったらしい、元々皺だらけの顔だがより眉間に皺をよせている。
「…忘れることなんてできません。我が国に尽くしてくれた方を虐殺するなんてことは」
「そう思っているのなら止めるべきであったな。そなた自身の手で」
「…無論そう思っていました。ですが状況が変わったのです。私が亡命を希望したのもそれが原因です」
「まずは訳を聞こう」
「ありがとうございます」
頭を下げ、彼女は話しを始めた。