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第四話

 「あの子以外一人もいないな。ラシド」


 「ああ。ついでに言うなら敵もな」


 崖の上に登った二人の兵士、じりじりと焼くように照り付ける太陽が真上にいるが彼らが着ている服のお陰である程度までならしのげる。

 いろいろな方向に二人は目を向けるがどこにも人影はない。

 

 「襲ったのはティエップ兵だろう。これを見ろ」


 「ん?」


 彼が取り出したのは切り裂かれた旗と思われるものの欠片。


 「青地に黄金の剣の模様…間違いなくティエップの物だな。部族間の争いじゃなかっただけまだましだな」


 「ああ」


 皮肉たっぷりに言ってのけるが、ラシドも隣にいる戦士も瞳が全く笑っていない。

 その黒い瞳に怒りを宿し顔を歪ませている。


 「…必ず叩きのめしてやるさ。奴らには裁きが必要だ」


 「ああ、もちろん…ん?」


 「どうしたラシド?」


 そんな風に言っているとラシド達の間反対、砂丘がいくつも存在するほうから何かが近づいて来るのが見えた。


 「駱駝…か?」


 「いや人間だ!襲われてる!!」


 ラシドの目に映ったのは黒い服に身を包んだ人間。

 そしてその後ろから、砂煙を上げながら追ってくる三騎の騎兵…ティエップ兵の姿だ。


 「行くぞ!助けるんだ!!」


 「ああ待てラシド!ええい!!」


 すぐさま馬に跨り、全速力でかなり急斜面な崖を降りるラシド、迂回すらしない。


 「何騎か付いてこい!」


 「何があった!?」


 「多分生き残りだ!行くぞ!!」


 ラシドを先頭に二騎、真っすぐ走ってくる人影の方へと灼熱の砂漠を駆け抜ける。


 (間に合えッ!!)


 件の人間はもうすでに追いつかれそうになっている。

 このままでは捕らえられてしまうだろう。


 「こっちに来い!!早く!!」


 何とか声の届く場所まで来たラシド、叫びながら腰の曲剣を抜き放つ。


 「砂塵の民!?なぜここに!?」


 追っていた騎兵が驚きの声を上げた。

 

 「貴様らの命、この俺が貰う!」


 馬を止めてしまったティエップ兵に向かって突撃、迎撃とばかりに振るわれた剣を避け、すれ違いざまに兵士の首を斬り、馬から叩き落した。


 「野郎ッ!!」


 激昂した生き残りがラシドを打ち取ろうと迫る。

 だが…


 「俺たちもいるぞ!」


 「ティエップ兵の豚ァッ!!」


 後から来たラシドの仲間が一人は切り伏せ、もう一人は剣の柄で額を打ち付けて落馬させた。


 「が…ああ…」


 ラシドに斬られたティエップ兵だったが砂の上で首の傷を押さえてうめき声を上げていた。

 

 「…仲間は何処にいる?吐けば助けてやる」


 一応聞いてみた。

 

 「へへっ、誰が言うか…薄汚い豚が」


 「そうか」


 彼から帰ってきた返事は嘲笑だった。

 彼の傷は動脈まで達している、放っておいても死ぬだろう。


 「馬は連れていくぞ。あとは…」


 「よせッ!」


 主人が落馬し、辺りをさ迷う馬に目を向ける。

 そのあと彼に止めをさし、彼から鎧、剣、服、硬貨の入った袋など役にたちそうなもの全て剥ぎ取った。

 

 「ラシド…」


 「無事か?」


 「ああ、全員だ。追いかけられていた奴も」


 「ハダリン族の人間か?」


 「いや違う。おい、連れてこい」


 もう一人の戦士が追いかけられていた人間を連れてくる。

 全身を覆う白い服、細身でどうにも女性に見えるが…

 顔の頭巾を無理やり取ると、ラシドは顔を歪ませた。


 「あ、あの…」


 金髪、白い肌に碧眼の十代半ば程の女性。

 頭巾の下の顔はどう見てもティエップ王国の人間のものだった。


 「まてラシド」


 「どけ。斬るのに邪魔だ」


 「だから待てって言ってる。話を聞け」


 今にも手にした曲剣で飛び掛かろうとするラシド。

 怯えるティエップ人を庇いつつ戦士は彼女からある物を受け取りラシドに渡した。


 「なんだこれは?」


 差し出されたのは蒼玉と黄金で出来た首飾り…


 「わ、私は、ティエップ王国の王女です。その…亡命を希望します」


 「は?」


 とても自然に間抜けな声を出していた。

 

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