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鈴は鳴らない  作者: 水際
1/1

プロローグ

十数年の付き合いである親友のヒロキは

ソウスケの性格を熟知している。


「俺はもう終わりかもしれない。」


ソウスケが溜息混じりに言った。


高校卒業後一人東京へと出て

しばらく会っていないソウスケが

何やらおかしな心配事を打ち明け始めると

ヒロキが決まって言う台詞がある。


「考えすぎだろ。都会に染まりやがって。」


そう言い放った口がすぐさま閉じられることを

ソウスケは知っていた。

次の言葉など考えていないのだ。

だが別にそれで良かった。

それもそうだと流せてしまえるその一言が好きだった。


いつもならその言葉に続いて

俺は彼女のどこが好きだ

あいつのために俺はこんなことをしてやりたい

などと一通り男らしい話をして

大人になり相手のことを考えられるようになった

そんな自分達を称えあった末電話を切るのだが

ソウスケの言葉の端の

わずかな砂煙を感じ取ったヒロキは珍しく

自慢の彼女の意地らしい身体の話をするのをやめた。


「もしかして、女とうまくいってないのか?」


ソウスケにはマナという大学生の彼女がいる。

そして、ソウスケがマナに相当惚れ込んでいるのを

ヒロキは知っていた。


「いや、そういうわけじゃないけど。」


関係は平凡かそれ以上に良好だ

ソウスケ自身もそう感じているはずだった。


「本当はちゃんと打ち明けたいと思ってるんだ。」


ヒロキが部屋で飼っているネズミが目を覚まし

伸びた爪でケージを掴んではカタカタと揺らしている。

弱く舌を鳴らしながらつまみを外し、手のひらへと乗せた。


「何だよ?」


何のことだかさっぱり分からないヒロキは

聞こえなかったフリで聞き返す。

物事をニュアンスで伝える癖のあるソウスケからは

具体的な質問でないと答えを引き出せなさそうだ。


「何を打ち明けるって?」


ソウスケは小さく二つ息を吸い、答えた。


「俺、この前別の女とセックスしたんだ。」


ヒロキは肩に乗せようとしたネズミを

摘んでケージへと戻した。

いつになく深刻そうな声色のソウスケを気にかける。


「何があったんだよ。」


ソウスケがマナをずっと一途に思い続けてきたことを

ヒロキは知っていた。


ーーーーーーーーーー。


ソウスケはそれから何も話そうとはしなかった。

どうやら泣いているらしい。


「話し辛いなら気が向いた時でもいいぞ。」


ヒロキはコンタクトが渇くのも忘れて

話が切り出されるのを待っていたが

やがて音がしなくなった携帯を耳元から離し

穴の無い針に糸を通すかのように電話を切った。


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