番外編
※暴力、性的表現があります。
苦手な方はご注意を…。
仕事を終え、帰宅したガルシア中将は
酒に酔っているようだった。
「俺が不能だと…?
馬鹿げたことを言うな!!」
虫の居所が悪いのか、
玄関の装飾を壊し暴れている。
「275番を部屋に連れてこい!!」
「ガルシア中将、お呼びでしょうか…」
滅多に少女を見向きも、
呼び出すこともないので、
内心戸惑っているようだった。
伺う様に声をかけた少女の髪を
中将は徐ろに鷲掴んだ。
「舐めろ」
少女の顔を無理やり
自身の下腹部に押し付ける。
「俺が不能なんじゃない。
お前に魅力がないのが悪いんだ!!
早くしろ!!その気にさせろよ!!」
中将の言葉に逆らえない少女は、
ベルトを外そうとするが、
突然のことに手が震えて
上手く外せないでいた。
「グズグズするな!!」
中将は少女を力一杯殴った。
床に倒れ込む少女に夫人が駆け寄り、
中将をきつく睨みつける。
「お止め下さい!
どうして急にこんなことを?!
殴らなくてもいいじゃないですか!!
飲み過ぎですわ…」
「女の分際で口答えするんじゃない!!
お前まで俺をバカにするのか!!」
夫人は震える少女の肩を抱き寄せ、
心配そうに見つめる。
「口が切れてるわ…可哀想に…
こちらへいらっしゃい」
「聞いているのか!!
その態度を改めろ
と言ってるんだ石女!!」
中将は部屋から少女を連れ出そうとする
夫人の胸ぐらを掴む。
「石女ですって?
私は至って健康です!
不能なのは貴方です!!」
「なにをっ?!」
中将は夫人を床に叩き付け、
倒れ込んだ彼女の腹を
何度も何度も蹴り続けた。
夫人からの侮辱に怒り、
興奮して顔を真っ赤にしている。
彼女は唇を噛み締め、
悲痛にただただ耐えていた。
「アナベル……!!
中将やめてくださいっ!!」
震えていた少女は、
夫人を庇うように覆い被さった。
何度か蹴り上げられた後、
邪魔だ。
と中将はまた少女の髪を掴み上げた。
「貴様は奴隷の分際で、
俺の妻を名前で呼ぶのか?
しかも俺の行動に反抗するとは…
教育がなってないみたいだな」
中将は使用人に命じ、
少女の上半身を脱がせ、
手首に付けた手錠を天井から
吊るさせると、
何度も鞭をぶつけた。
少女の背中には
いくつもの蚯蚓脹れが走り鬱血していた。
「貴方!やめてください謝りますから…
これ以上は…どうかやめてください…
この子が死んでしまいます…どうか…っ」
「お前はこの年甲斐もなく成熟した
淫らな体が好きなんだろう?
もうずっと俺に背いてきてるな?」
鞭を打ちながら淡々と話し始める。
中将は知っていたのだ。
妻の裏切りを。
「認めるか?
それとも否定するのか?
どうなんだ?」
「はい、認めます…認めますから…
どうか手を止めてください…
お願いします…」
しがみつき泣いて嘆願する夫人。
中将は俯いてる夫人顔を
鞭で上に向け目を合わせた。
「どちらが誘ったんだ。
お前か?このアバズレか?」
「私がこの子を手篭めにしました…」
「違います…私です…!
私が誘惑しました。
夫人は何も悪くありません…!!」
「お前に聞いてるんじゃない!!
口を慎め…!!舌を切り落とすぞ!!」
怒りで手元が狂った鞭の先は
中将に振り向いた少女の顔に当たる。
衝撃と激痛で気を失ったのか、
少女の体は力無くだらんと垂れ下がった。
「レクシー…っ!」
夫人は少女を抱きしめる。
「お前達は性の反逆者として通報する。
275番が目覚めるまで猶予はやろう。
覚悟しておけ。」
中将は血の着いた手袋を投げ捨て、
その部屋を後にした。
夫人は付きっきりで少女の看病をした。
高熱に侵された少女は、
三日三晩目覚めることはなく、
顔に当たった鞭のせいで、
彼女は片目を失う事となった。
「…アナベル?」
「レクシー…目が覚めたのね!!
ごめんなさい目がね…
もう治らないんですって…
不憫に思った使用人が、
手当してくれたんだけど……」
少女は片目を覆う包帯に触れた。
ジワジワと熱を帯び、時折鈍痛が走る。
「貴女が無事ならば、
目なんて失っても構いません。
私を庇うなんて…っ
もう二度としないでください。」
「それは無理よ。
貴女を愛してるもの」
「私も貴女を愛しているから、
アナベルを危険に晒したくないんです。」
少女は小さくため息を着く。
「それよりここは…?」
「ここはガルシア邸の地下牢よ。
私達は性の反逆者として、
貴女が目覚めたのにちに通報されるわ。」
「今日ですね。」
「えぇ、でも捕まるのは、今は私だけよ」
少女は不思議そうな顔をした。
「2人で鉢植えを育てたでしょ?
あの土、どこを掘って手に入れたと思う?」
少女は牢の中を見渡した。
ここだけは床が土だ。
「さすが、察しがいいわね。
地上に出ず安全に土を掘り出せるのは、
この牢の下くらいだわ。
掘っていたらね、
たまたま施設の通気孔にぶち当たったの。
好奇心で通気孔を覗いたら、
スラム街が広がってて…」
「でも分からないことがあるんです。
何故アナベルだけが捕まるのです?
一緒に逃げましょうよ?」
「この計画には囮が必要よ。
いい、しっかり聞いて。
スラム街に住む私の知り合いを頼って、
東へ200km先に向かうの。
シュナイザー少将を覚えているわね?
娘の顔を見なければ
死ぬに死にきれないでしょ?
ここにいたって、逃げて掴まっても
結局処刑される。
それなら娘に会いに行きなさい。」
「そんな…ダメです。
貴女を置いてなんて行けない!!」
「それなら誓って。
来世はこの手を、決して離さないと…」
「誓います。いくらだって誓います。」
「私と結婚してくれるかしら…?」
「当たり前じゃないですか…!」
「…貴女の子は私の子でもあるの。
レクシーお願いよ…行って」
半ば穴に突き落とされる形で、
少女はスラム街に降り立った。
空気はあまり綺麗ではないのか、
多少息苦しさを感じる。
病み上がりの体で
多分半日歩いた頃だろうか?
アナベルの知り合いの家は、
少女が思っていたより
そう遠くはなかった。
ドアをノックすると、
拳銃を構えた大柄の男がドアを開ける。
「なんの用だ」
「アナベルが貴方を頼れと…」
「……入れ」
男は少し驚いた顔をしたが、
家の中に入れてくれた。
スラム街は地上から逃げ延び、
地位と権力のない者達が
協力して作った住処なのだと男は言う。
「それで、何しに来たんだ。
その服、お前代理母だろ。
仕事さえこなしていれば、
それなりに不自由なく暮らせるはずじゃないか。」
「夫人と性の反逆罪を侵しました。
時期に私達は捕まる。
夫人が最期に娘に会えと
逃がしてくれたんだ。
ここから東へ200km進んだ先に、
娘がいる。」
「俺に協力しろとでも?
犯罪者を匿っただけでも
自分を脅かすと言うのにか?」
「バレたら貴方も私も縛り首。
場合によっては銃殺だ。
貴方は夫人に大層借りがあるのだとか。
夫人の頼みならば…断れないはず。」
「俺を脅すとは度胸があるな。
気に入った。望み通りにしてやる。」
こい。と一言。
案内されたのはスラム街の端に建てられた
倉庫のような場所だった。
中に入ると男はビニールシートを剥がす。
「俺はこいつでこのスラム街を掘った。
陸上自衛隊時代に拝借した
坑道掘削装置だ。
作戦はまぁ、単純だ。
これで穴を掘りながら東へ200km進む。
ただ俺はお前を下ろしたら
直ぐに引き返すから
お前は用が済んだら
引き返すなり捕まるなり
好きにしてくれ。それから…」
「決して俺のことは話すなでしょ?
分かってる。」
「分かればいい。
今からでも出発しよう。
足が着く前に、
出来るだけ早く行動した方がいい。」
「何日経った?」
「さぁな、3日くらいか?
入口を見つけなけりゃ
いくら掘った所でバレやしないさ。」
「あとどれくらいで着く?」
「もう時期じゃないか?
舌を噛むぞ。あまり喋るな。」
その頃、アナベルは
事情聴取を受けていた。
「少将。どうか昔のよしみでご慈悲を…」
「君を助けたいのは山々だが…
275番をスラム街に逃がしてしまったし、
罪状がどうもね。
助けてやれるかどうか。」
「提案があるのですが、
私を代理母として少将のお宅に
派遣していただけないでしょうか?」
「と、言うと?」
「夫が不能だっただけで、
私の体に異常はありません。
性の反逆者は処刑されるか
奴隷の道が待っていますが、
代理母としてならまだ役立てるのでは?」
「君は賢い女性だ。
恐れ入るよ。
君にはカジノでの借りもあるしな…
すぐにでも手配しよう」
男は掘り進めるのをやめ、
機械を停めた。
「この辺だろ。東に200km
どの高さに家が建ってるか分からんし、
あまり広く掘ると上が崩れるかもしれん。
あとは地道に掘るしかない。」
坑道掘削装置を降りて、
男はスコップで斜め上に掘り始める。
「あんたも手伝え」
少女はスコップを持ち一緒に掘る。
どれくらい掘った頃だろう。
カツンと何かに当たると
手探りでそこを広げライトを照らした。
「壁にぶち当たったようだな。
そしたらもしかするとこの辺は…」
男は壁に沿って少し下の方を掘り、
床があるであろう位置まで掘る。
「ラッキーだな。ここは地下牢だろう。
いい所のお屋敷には地下牢があるが、
だいたい床が土なんだ。
お前もそれで逃げてこれたんだろ。
まぁ、投獄されてから普通に手で
穴を掘って逃げ延びるのは、
無理だろうがな。」
そのまま穴を掘り牢屋から侵入したが、
牢のカギが閉まっていた。
牢を破るには時間もかかるし
音でバレてしまう。
どうしたものかと頭を抱えていた頃、
「あら、無事にたどり着いたようね?」
聞き覚えのある声に少女は顔を上げた。
「アナベル…?え、生きて、…?
もう死んだとばかり思ってました…!」
アナベルが牢の鍵を開けたと同時に
少女は彼女に抱きついた。
「犬死なんてごめんだわ」
少女は自分の視界が
青く染っている事に気がつくと、
アナベルを見上げた。
「まさか…処罰で代理母に…?」
「そう、ここに来るために賭けに出たの。
幸いにも私の体は健康だった。
審査に通って、シュナイザー少将にお願いしたの。
昔の借りを返してもらったわ。」
「貴女は一体、借りが幾つあるのですか…」
「最期に、貴女に会いたかったから…
手段なんて選ばないわ。
レクシーを一人でなんて死なせない…」
「アナベル…」
「もう俺の役目は終わったな」
「ねぇ、」
スラム街に帰ろうと背を向ける男を
アナベルは呼び止める。
「ありがとう、
レクシーを送り届けてくれて…」
アナベルは男に手を差し伸べる。
男は一瞬、手を取るのを躊躇したが、
彼女を引き寄せ抱きしめた。
「美しくなったな、アナベル…
こんな形で再会するとは思わなかった」
「私もこんな形で貴方を頼るなんて、
思ってもみなかったわ。
それに、私の名前を
覚えていてくれたのね…」
「当然じゃないか…
忘れるはずもない。その名は…」
男の口を噤むように
アナベルは静かに首を振った。
「もう二度と会うことはありません」
アナベルはレクシーの手を取り、
男から背を向けると牢から出る。
「よかったんですか?
昔の恋人だったのでしょ?」
「そう見えたのなら違うわ。
今世で恋人と呼べるのは貴女だけよ
初潮を迎えたらすぐ、
ガルシア中将に嫁いだから…」
階段を上がり廊下に出る。
「こっちよ。
今はシュナイザー少将は仕事に。
夫人は書斎で読書をしているわ」
子供部屋には、
グズる赤ん坊をあやす
使用人の姿があった。
レクシーを見られる訳にはいかない。
と、戸の裏にレクシーを隠し、
アナベルは使用人に話しかける。
「あら、お腹が空いているのかしらね?
私が見ているから
ミルクを用意して上げたら?」
使用人はアナベルに赤ん坊を託すと
そそくさと厨房へ向かった。
「レクシー…」
「〜〜〜っ」
レクシーはアナベルから
我が子を手渡される。
優しく抱きしめ、
額や頬にキスをたくさん落とし、
涙を零した。
「ママよ…覚えてる…?
イザベラごめんなさい…
貴女をここに置き去りにして…」
グズっていたのが嘘のように
きゃっきゃっと笑い始める。
「笑っているわ…
貴女の事覚えていたんじゃないかしら?
泣き虫ね、それじゃこの子の顔が
良く見えないんじゃない?」
アナベルはレクシーの涙を抜くってやる。
「…んっ、ありがとうございますアナベル」
「貴女達…何をしているの…?!」
「こんにちは、シュナイザー夫人」
「何をしているのかって聞いてるんです!
それにその泥まみれの女は…っ」
「申し訳ございません。夫人。
彼女に娘と会わせたくて…」
「口を慎みなさい。
あの女の娘じゃない、私の娘よ!!
その子を、離しなさい!!汚らしい…
早く警備隊を呼んで!!」
「やめろ、その子は私の子だ!
返して…っっ!!!」
警備隊の腕を振り払い、
レクシーはイザベラに手を伸ばした。
「逃亡中の代理母275番は、
銃殺が許可されている。
面倒だ。殺せ。」
警備隊は警告もなく銃を構える。
「やめて頂戴…!!」
レクシーの前に出たアナベルは体に
弾丸が撃ち込まれる。
「いや、アナベル…そんな…っ」
「問題ない。代理母301番は
元罪人の為、次問題を起こせば
銃殺を許可されている。
逃亡者をこの家に誘導した。
十分銃殺が認められる。」
とどめにもう一発、
アナベルに銃弾を食らわす。
レクシーはアナベルに駆け寄り
抱き寄せるが、
直ぐにその銃口はレクシーのこめかみに
突きつけられた。
「代理母275番。性の反逆罪及びに逃亡、
警備隊への抵抗。銃殺とする。」
下も上も分からない様な
真っ白な世界だった。
歩いてみたが、
自分がどれくらい進んでいるのかも
分からない。
自然と疲れも感じない。
ただ心だけは穏やかだった。
「やぁ、確か君はレクシーと言ったかい?
ちょっと観察していたんだけどね、
ここはいくら歩いても
どこにも行けやしないよぉ?」
ニコニコ笑顔を向ける幼女が
彼女の後ろに立っていた。
声色は少年のようだが、
見た目とは裏腹に
話し方は少々大人びていた。
「お前は…?」
「ん〜?僕に名は無いけれど、
君たちから神と呼ばれているね!
ここは君たちが天界と呼ぶところさぁ〜」
「私達から光を奪った
と聞かされている。
天災を起こしているとも…」
「その前に僕の創造した世界を汚した挙句、
動植物を住めなくしたのはだれだい?」
「人間だ…」
「そう!人間!
すごい足掻きだよね?
地上を捨て地底に住むなんてさぁ!
地中じゃ削除にいくら天使を送っても
なかなかしぶとくって。
なんて言ったかなぁ?
君たちが嫌う昆虫……
黒くて…テカテカしてて…
カサカサ動いて…
うーんと、うーんとぉ…」
「ゴキブリのこと…?」
「そう!ゴキブリ並の生命力!
本当に恐れ入ったよぉ!
まぁ、ゴキブリは
人類が地底に潜ったあと、
あの汚れた地上で唯一生き残って
大繁殖と進化を成した生命体なんだけど…
ちょっと気持ち悪い
フォルムしてるよねぇ」
「その割には随分楽しそうだね」
「人類をいたぶるのも飽きたから、
さっき地球を
焼き払ってきたところなんだ!
初めからこうしていれば
早かったんだけど、
それじゃつまらないだろう?
すんなり消したんじゃ、
罰にもならないし〜」
「…悪趣味だ」
「僕の悪趣味のおかげで地球が出来て、
君はアナベルと出逢えたんだよ?
僕に感謝して欲しいなぁ〜」
「そう、それ以外はあの世界はゴミだ」
「くすくすっ
人間って面白いなぁ……あははははっ!」
「どうして私は、
お前と話しているんだ。
私は死んだはず。」
「うん、死んだよ?
魂だけここに閉じ込めてる
君とお話してみたくって!」
「…話したいだけなの?
私早くアナベルとイザベラの所に
行きたいんだけど」
「そのアナベルなんだけどさぁ、
君たちにはもう帰る地球がないから、
このままだと二度と逢えないんだよね!
ここで無になるのを待つんだよ
娘のイザベラもね!」
「…は、?」
「天界って本来
死んだ人間が生まれ変わるまで
過ごす場所ではないんだよね!
死んで体を失った魂が天界に上がると、
天使たちがすぐ記憶を消して地球に投げ返して、
やっとまた子供が産まれるの!
でも投げ返す地球がもうないから
行き場を失った魂は消滅する!
その役目の天使を地球に送ったから
子孫を残せなくなって、
結果あんな世界になったみたいだよぉ?」
「それじゃあもう…
アナベルとイザベラは…」
「ああ、2人はまだいるよ?
良質な魂は君を含め残してある。
それに、君に
選択をしてもらいたくてさぁ
それに、またアナベルとイザベラに
会いたいでしょ?」
「…?」
「存在したものを急に壊したから、
新たに地球を創造し直さないと
世界のバランスが崩れるんだ。
だから何百年もかけて
創ろうと思うんだけど、
人間をどうするか迷っててね!
でもきっと人間は地球を支配し、
また同じ事をするだろうからさぁ
核を消した所で
その代わりに何を資源にするか
想像もつかないんだよ〜!
僕は人間じゃないからさぁ…
資源なんて必要ないしわかんないもん」
「結局何が言いたいんだ?」
「君に手伝って欲しいんだ!
君の記憶は消すけど、
代わりにアナベルのは残すから
そしたらきっとまた出逢えるでしょ?
人間の行動力は
僕の想像を遥かに超えるからねぇ
あとは、イザベラを
2人の子供にしてあげる!」
「創造を手伝えば
また2人に会わしてやるけど
拒否すれば私達の魂は消えて
二度と会うことは叶わないと…?
軽く脅しだろ、それ」
「ふふふ、手伝ってくれる気になったぁ?」
「選択も何も無いでしょ。
やるよ。」
「やぁ、君がアナベルだね!
君に会えて僕はとーても嬉しいよぉ!」
「ここ、は…?」
「君たちが天界と呼ぶところさ!
そして僕は創造主!
名はないけど、
君たちが神と呼ぶものさぁ!」
「ああ、クソ野郎ね」
「お口が悪いぃ〜
レクシーにそっくりだぁ…
終末戦争ってやつを生きてきた人間は、
みんな僕をそう呼ぶのかなぁ〜?」
「まぁ、大体の人が
そう呼ぶんでしょうね。
それよりあなた、
レクシーを知ってるの?」
「知ってるも何も地球を創造するのを
手伝ってくれたからねぇ!
あ、ほら、イザベラもここに居るよ!」
神と名乗るものは、
大切そうに小さな光を抱えていた。
「屈託のない、まだ汚れを知らない
綺麗な色をした魂だろぉ?
君を地球に送りだす前に、
この子を託そうと思ってね!
レクシーと約束したんだぁ
地球の創造するのを
手伝ってくれた代わりに、
君たちとまた会わせてやるって。
だから君の腹にこの子を宿すよ〜」
失われたピースが当てはまるように
私の腹に光は溶け込んで消えていく。
「本当なら君から、
記憶を消さないといけないんだけど…
これもレクシーとの約束だからさぁ、
君から記憶は消さない!
頑張ってレクシーを探してね〜!
もう10年くらい前に、
先に地球へ行くとか言って
行っちゃったんだよ〜
一緒に行けばよかったのにねぇ…
あ、なんかねぇ、
用意することがあるから、
記憶は消しても
意思だけは残して欲しいとか何とか
言ってたんだよねぇ…
あれなんだったんだろうねぇ
人間ってよく分からないやぁ〜
意思だけ残す記憶の消し方難しかったから
上手くいったか分からないんだけどねぇ…」
「なんだろう、
ありがとう…と、言うべきなのかしら…
今の気持ちをどう表したらいいのか…
あなたをクソ野郎だと
教育されてきたものだから、
なんだかしっくりくる言葉が
浮かばないのよね。」
「うんうん!
ありがとうでいいと思うよぉ!
人が作り出した言葉で一番好きぃ〜
レクシーは素直じゃないからさぁ
可愛げないけど…
君とイザベラの魂は大好き!」
「君の人生の本を読んだけど、
とても賢く、困っている人を助ける
心優しい女性だったよね。
最期はレクシーのために
体を張って死んだしさぁ
幸せになって欲しいんだよ〜
人間の中でも唯一好きな人間だから
綺麗な魂のままでいて欲しいし、
本当は地球になんて
送りたくないんだけど、
これレクシーとの約束だから仕方なくて…
創造世界へのイタズラはいいけど、
嘘はついちゃいけない決まりなんだぁ…
面倒くさいよねぇ」
「そうなのね、ありがとう」
「うんうん!」
「またレクシーとイザベラに会えるのね…」
「うんうん!」
「あ、あなた名前が無い
と言ってなかったかしら?
レクシーはなんて呼んでたの?」
「クソ野郎、ゴミ神、放火魔とか…?
最早ただの悪口だよねぇ〜
僕は創造主だから人間でいう
名前をつけてくれる親ってのが
居ないんだ。名前っていいよねぇ…」
「それならお礼になるかは分からないけど…」
「…ん?」
「…ものを作るって意味で、
クリエーターという言葉があるのだけど、
クリエなんてどうかしら?」
「…へぇ、僕に名前をくれるのかい…?
そんな人間一人もいなかったなぁ…
ママって呼んでいい?
これが感激するって感情なのかなぁ」
「ママは…嫌かも…
多分そうなんじゃないかしら」
「クリエかぁ…僕の名前かぁ…
アナベルありがとうぉ!
君は本当にいい子だねぇ」
「そろそろ行くわ」
「もう行っちゃうのかい?」
「ええ、待ってる人がいるから…
クリエさようなら」
「さよならなんて言わないで〜
きっとまた100年もしない内に
会えるよぉ〜?
僕にとって100年なんて
あっという間だから…
その時はまた、クリエって呼んでね?」
「分かったわクリエ」
「約束だよぉアナベル〜」