邪神対魔王①
「ハティ! スコル! 闇を……!」
俺はクレイモアに闇を。
同時にハティとスコルが再びフェンリルの能力で膨大な闇を生んだ。
再び十字の斬撃。
そしてその交点にクレイモアを突き出す。
「『無へと還せ、闇より仰ぎて深淵の星』!」
十字へとありったけの闇を注ぎ込み、描いた十字をなぞって闇が迸る。
邪神を飲み込む黒の極星。
だけど俺の放った闇が瞬く間に圧縮。
気付くと闇の十字は邪神の手のひらの上で小さく揺れていた。
邪神は半眼でそれを見ると、音もなく握り潰す。
確かに規模はロキに放った時より劣る。
でも威力に関係なく、効いてない。
「────爆」
刹那。
躍り出るアイゼン。
「ぜ」
その脚部を固定。
「ろぉっ……!!」
全身のボルトが連動。
両の拳に向かって全ての熱量と威力を乗せて。
アイゼンは邪神めがけて拳を叩きつける。
だけど阻まれた。
邪神は闇の障壁を展開。
噴き出す青の炎を後方に受け流しつつ、アイゼンの拳を物理的に受け止める。
「ゴブリン……!」
アイゼンが呼んだ。
邪神からの死角。
アイゼンの背後からロードナイトが跳躍し、巨大な戦斧を振り下ろして。
それでも闇の障壁はびくともしない。
『■□■■、□□■、■□■■■■!』
さらにビショップアーキテクトが『反呪・骸神殿』を展開した。
闇の障壁を骸が取り囲み、反転した呪詛と祝詞が闇を浄化しようと。
だけど浄化が追い付かない。
浄化されるのと同じかそれ以上の速度で闇を補っていて、視覚的にはまるで影響が感じられなかった。
そして障壁の中で『千剣』による闇の刃が屹立。
だけどこれも邪神の身体をすり抜けているようで効果が見られない。
全ての攻撃をものともせずに。
邪神はおもむろに指先を突き出した。
その先端に小さな。
そして高密度の闇の雫。
景色を歪ませるほどの深淵がぽたり、と指先から滴った。
次いで、黒。
気付くと視界が暗転していて。
全ての感覚を闇に飲まれる。
「……痛っ」
気付くと俺は聖堂都市の防壁まで吹き飛ばされていた。
反射的に闇を使って防御したけど、正面の防御に集中して背面の防御がおろそかだった。
それでも大きなダメージを受けずに済んだのは。
俺は肩越しに背後を横目見た。
そこには重ねられた巨人の手のひら。
優しく俺の体を受け止めてくれたこの巨人の手のおかげだ。
「ありがとう、アンさん」
俺は呟くと立ち上がった。
正面に視線を向けると、邪神は俺を眺めていて。
追撃するわけでもなく、ただ俺に視線を向けている。
まるで敵対している様子はない。
敵として見なされて、いない。
闇が通じないからか。
スコルが言っていた。
邪神は闇では倒せない、と。
「だったら」
俺は『変異』で右腕を解放した。
現れたページを破り捨て、封じられた力を解放する。
例え闇を受け流す力があっても、『必中』の力を付与した攻撃なら当たるはず。
俺はクレイモアに闇を纏わせた。
次いで闇による飛翔。
掌握する闇の範囲を広げながら邪神へと肉薄する。
「喰らえ!」
俺は暗黒の刃を振り下ろした。
その斬撃は確かに邪神を捉え、肩口を大きく斬り裂く。
攻撃は通った。
だけどその傷口からは闇が溢れだし、次の瞬間には傷が塞がる。
『『無機質』の槍の力か』
邪神は俺の右腕を見て呟いた。
わずかに目を細める。
『どれ、戯れだ』
邪神は闇を圧縮。
闇の刃ではなく実体の剣を手に取った。
魔物を生む能力の応用。
あるいはあの剣自体が魔物の性質を兼ねているのか。
血のように赤い剣身の長剣。
邪神はその刃に闇を纏わせた。
逆巻く闇の剣を俺へと振り下ろす。
俺はその刃をクレイモアで受けた。
互いの闇が交わり、次いで邪神が俺の闇へと干渉する。
俺の闇を奪うつもりか。
だけど俺は逆に邪神の闇へと干渉した。
鍔迫り合いのまま、俺と邪神は闇を奪い合う。
すでに俺の支配下にある闇だ。
例え邪神でも奪えはしない。
邪神はより強い闇を剣に纏わせるけど、その分の闇を俺は奪い取って。
常に俺と邪神の闇の刃は拮抗する。
攻撃に転じる能力、あるいはそもそも闇による攻撃を受け付けない性質を持つ邪神。
だけど周囲の闇の支配で劣りはしない。
俺は邪神の剣をいなした。
すかさず邪神を斬り裂き、同時にその闇を絡めとる。
このままその身体を構成する闇の全てを奪い取ってやる。
闇の掌握は俺の方が上。
俺ならそれができる。
1歩後ろに退いた邪神に俺は言う。
「闇は俺の領域だ」




