魔将集結
「暗黒剣士!」
「くそ! あの複合攻撃を容易く……?!」
「第1級禁忌指定種、過ぎた区分と思っていたが。まさかこれほどとは」
闇を纏う夜の俺を前に王国騎士達が息を飲んだのが分かった。
巨人に向けていた意識の全てを俺に向けて警戒する。
『──?』
俺の背後からは短い呟き。
その言語は俺には理解できないけど、震えた声から困惑しているのようだ。
俺は肩越しに巨人を振り返った。
王国騎士達から陰になる顔半分の闇を払って。
(大丈夫ですよ……アンさん)
俺は唇の動きで伝えた。
巨人が。
彼女──アンさんがハッとする。
あの巨人はアンさんだ。
顔が似ているからとかじゃない。
いつも応援してくれていたあの仕草と眼差しが教えてくれた。
攻撃しなくて良かった。
アンさんを傷つけなくて、良かった。
俺は顔を再び闇で覆い、王国騎士達に向き直る。
あれはおそらくロキの仕業。
人を魔物へと変えるのはあいつの能力だ。
でもこれまで魔物へと変異されられた人達の中であれほど強大な魔物の姿へと変わった事があっただろうか。
『…………』
俺はその事を考えるのを1度止める。
今はアンさんをこの場から連れ出して、ハティの闇喰らいで人に戻すしかない。
そのためにもまずは王国騎士達をどうにかしないと。
けどアンさんはこの巨体。
王都の真ん中で隠れられる場所もない。
さすがに王国騎士の人達を壊滅させるわけにもいかないし。
思案している間にも王国騎士達は動き出した。
俺目掛けて攻撃が次々と放たれる。
俺はそれら全てを暗黒のクレイモアで弾き、斬り払った。
王国騎士クラスの、それも大人数からの攻撃を受けてクレイモアに纏わせた闇が消耗していく。
王都は当然闇払いがこまめに行われていた。
王都中のわずかな闇と、その近郊から闇を集めて応戦してるけどそのストックもどこまで保つか。
背後から地響きがした。
アンさんが上体を起こす。
次いで天高く伸びる影。
それは巨人の脚だった。
アンさんの能力は自身の身体の複製を生む能力なのか。
振り上げられた脚が現れたかと思うと、王国騎士達に向かってその脚を振り下ろす。
回避するために散開する王国騎士達。
だけどその足が地面を穿つ直前に消失。
『────!』
代わりにアンさんの声と共に。
いくつもの巨人の腕が出現し、王国騎士達をその手のひらで挟み込んで包み込む。
アンさんは傷を負わせずに無力化しようと。
だけど相手は王国騎士。
この国の守護者だ。
容易くその手を破って再び攻勢に出る。
「暗黒剣士は闇を使う! そしてそれは無尽蔵じゃないに。全て消耗させろ!」
王国騎士側から声。
すかさず騎士達が複合攻撃を展開した。
火、水、風、土の4属性を束ね、闇払いの性質を兼ねた攻撃が放たれる。
王国騎士クラスの属性量を束ねた闇払い。
それも数が多い。
全て相殺してたら闇が間違いなく尽きる。
俺は受ける攻撃を最小に。
さらに極力受け流すように十字剣を滑らせる。
縦に。
袈裟に。
体をよじり。
回し。
振り上げて。
クレイモアで次々と受け流した攻撃が、背後で城壁や庭に大きな穴を穿つ。
第一波は凌いだ。
けど王国騎士達はさらに複合攻撃の構えをとる。
すでにクレイモアの闇は剥がれかかっていた。
やはり彼らに怪我を負わせずにこの場を切り抜けるのは難しいか。
俺はクレイモアの柄を握り直す。
深傷を負わせるのもやむを得ない。
致命傷にならないようにだけ留意して、俺は王国騎士達に向かって行こうと。
「────はっ。困ってるみてぇだな」
だけど空の彼方から声。
見上げた先には青の光。
それが闇の蒸気と共に吐き出される炎だと気付いた次の瞬間。
目の前の大地が陥没した。
衝撃波と共に瓦礫が飛散する。
もうもうと立ち込める黒の蒸気。
周囲で燻る青の炎。
その先から姿を現したのはアイゼンだった。
さらに羽ばたきの音が響くと、王城の上空を旋回するブラックドラゴンの姿。
その背にはゴブリン・ロードナイトが跨がったいた。
ロードナイトもドラゴンの背から飛び降り、俺の前へ。
『我ラガ王ヨ。ココハ、オ任セヲ』
ロードナイトが王笏と戦斧の融合した巨大な得物を振りかざす。
その2つの魔物の影を前に、王国騎士達にどよめきが走った。
深い闇の気配を纏って現れた異様な魔物の姿を前に攻撃の手が止まる。
『アア、任セタ』
俺は闇の仮面越しに言った。
同時になけなしの闇で魔法陣を描く。
魔法陣から姿を表したスケルトン・ビショップアーキテクトが俺達の頭上に浮遊。
神殿を展開し、魔将の2人と王国騎士達を取り囲む。
これが王国騎士達にとって最悪の日。
十数年経っても悪夢に見ると後に言われた戦いの始まりである。




