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混乱ともう一人の少年

 なんで。

どうやって。


 俺は混乱した頭で考える。


『あれは間違いなく『御手が刻みし(グランド)勝利の聖印(クロス)』だった』


 憧れた必殺技だ。

見間違うはずもない。


 対魔物の戦闘しか俺は知らないが、ヴィルヘルム様は対人にも秀でてたと聞く。

あの剣術と体術やこちらの動きを先読みするような動き。

あれは膨大な経験で身に付くもの。

とても俺とそう歳の変わらない青年の技量じゃない。


 記憶の中のヴィルヘルム様の髪はもう少しくすんでたけど、あの白い髪のイメージもどこかダブる。

精悍(せいかん)な顔つきも、思えばどこか似ていたかも知れない。


 でも結局。


『分からない』


 俺は足を止めた。

互いの十字をぶつけ合った時の隙をついて俺はアイゼンと戦闘を離脱し、森の中を走っていた。


『アイゼン、無事?』


「なんとか。装甲が何枚かやられたが」


 アイゼンはガシャガシャと手を振った。


 闇と光の十字は互いに相殺(そうさい)しあったけど、漏れた光を浴びた。

俺は(まと)った闇と服の一部を灰にされて。

そしてアイゼンは折り重なる装甲をやられて本体が所々覗いている。


「上位属性光、正直()めてた。他の属性とあそこまで一戦を画すものなのか」


『確かに光は他の4属性と比べて対闇に強い。でもそれだけじゃない。光を剣の切っ先に集中させてた。あそこまで圧縮して状態を保って、さらに俺の闇の干渉があってもぶれない。光を操る技量がとてつもなく高いからこそできる芸当だ』


「厄介なのに目をつけられたわけか。元聖騎士、実は知り合いだったりするか?」


『…………いや』


 俺は少しの間を空けて首を左右に振った。


「で、どうする? 一旦引くか?」


『このまま行こう。光の属性の欠点は消耗だ。さっきの戦いであいつはもう俺達と戦えるほど光は残ってないはず』


 俺とアイゼンは予定通りロキの屋敷へと向かった。


 屋敷のそばには守衛や使用人のための宿舎が別にあり、さらに柵を隔てて屋敷があった。

俺達は柵を飛び越え、屋敷へと侵入。


 だけどそこはもぬけの(から)だった。

ロキの姿はない。


 俺とアイゼンは書斎の本や手紙などを(あさ)って手がかりを探す。


 でも大した収穫もないまま、空が白み始めた。

俺達は屋敷をあとにして。

次に俺達は宿舎の方も覗いたけど、そこにも人はいなかった。


『誰もいない?』


 そう呟いた時、突然あの黒いスライム質が湧き出した。


 身構える俺とアイゼンの前で、スライム質は人型に。

そしてメイドへと姿を変えた。

現れたメイドは何事もなかったかのように廊下の掃除を始める。


 外にもたくさんの人影が湧き出し、中には昨日会話を交わした門の守衛もいた。


「日の昇ってる時間だけ活動する偽物ってとこか」


 アイゼンが言った。


 その後、俺は山の中腹にある街へと戻った。

手がかりはなし。

ロキの謎の能力の新たな側面を目にしただけ。


 受けていた簡単なクエストも消化して、俺達は東の街へと戻る。







「あ、来た」


 アンさんにクエストの達成を報告しようと訪れたギルドで。

黒い羽を編み込んだマントをする黒髪の少年が言った。


「え」


 俺は思わず固まった。


 あの光属性適正者の連れていた少年がなんでここに。


 俺は素早く視線を走らせた。

あの男がいないか確認す────


 ぎゅ、と。

俺が視線を下ろすと、俺の服の裾を少年が掴んでいて。


「捕まえた」


 俺の顔を見上げて言った。


 俺が服の裾を引っ張ると、少年の手から裾が抜ける。


「あ、ちょっと」


 再び服の裾を掴もうとする少年。

俺は彼を押し退()けた。

腕を突っ張って彼の手が届かないようにする。


「待って、逃げないで」


 少年が言った。


「もう少ししたらきっと兄ちゃんとか来るから」


 俺はそれを聞いて俄然(がぜん)この場をあとにしたくなった。


 そもそもなんで顔がバレてるのか。


「リヒトさん、お帰りなさい」


 さらに俺に気付いたアンさんが声をかけてきた。


「クエスト達成の報告ですね」


「は、はい。そうだったんですけど」


 確かにそのために来たけど、今はそれどころじゃない。


「そちらの方は?」


 アンさんが少年を見て言った。

子供と見るや目を輝かせている様子を見るに、アンさんは本当に子供が好きなようだ。

中腰になって少年と目線を合わせる。


「おれはムニン」


 黒羽の少年──ムニンが答えた。


 ムニン。

あの青年と、一緒にいた少年の会話で名前が出てきてた。

どうやらあの時の少年とは見た目はそっくりだけど別人らしい。


 ムニンはじっとアンさんの顔を見つめて。

()いで慌てて後ろに下がった。

驚いたような顔でアンさんを見る。


「どうかしましたか?」


 アンさんが心配そうにムニンに言った。


「…………ごめんなさい。ちょっと驚いただけ」


 ムニンはぺこりとアンさんに頭を下げた。


「おれは敵だ。仲良くはできない。でも優しい人なのは分かった。だからごめんなさい。子供達に会えるといいね」


「ありがとうございます」


 俺にはムニンの言ってる言葉の意味は分からないけど、アンさんは何か思うところがあったようだ。

少し悲しそうに笑って礼を言った。


 ムニンはじっと俺を見て、後ろをついてきた。

クエストの報告をしている間もずっとこちらを見つめて立っている。







「────で、連れてきたってわけ?」


 ハティがやれやれと肩をすくめて言った。

ふんふんとムニンの匂いを()いで。


「ほらぁ。こいつ、どう()いでもあっち側じゃん」


 どう()いでも、て。

見た目で判別がつかないなら俺には分からない。

あとあっち側?


「ハティちゃん、失礼だよ」


 スコルが物陰からムニンを(うかが)いながら言った。


 ムニンはハティとスコルを交互に見て。


「え、2つに分かれたの? えー、なにそれ気持ち悪い」


「あ?」


「ふぇ」


 ムニンの言葉にハティとスコルが反応する。


 ハティとムニンが睨み合い、スコルも少し嫌そうな顔。


 あの青年の事を()きたかったのと、放っておけなくて連れてきちゃったけど。

もうそろそろ拠点を別の街に移した方がいいかもしれないな。

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