新たなる魔将──スケルトン・ビショップアーキテクト
一体何が行われたのか。
俺達を置いて橋の先へと走り去る死者達は生者と見分けがつかない。
肉体の再構成。
あるいは死体の吸収。
まだその詳細は分からないけど、その条件を満たせばこちらが不利になることは間違いない。
相手を自身に有利な状況にしてから招き入れる。
「ヘルはかなり狡猾な魔物なのかも知れないな」
俺は伝承のヘルを思い出した。
残忍な上に、さらに狡猾。
かなり厄介なタイプの魔物。
でも今はまず先へ行く方法を見つけないと。
何か突破する方法があるはずだ。
うろ覚えだけど1度あいつを倒すまでは冒険者の死体があった。
何らかの事象を受けて死者が起き上がったのは魔物がやられてから。
そしてここに来たときあの魔物はやられた姿だった。
生きた状態で魔物を倒した存在がいたはず。
その人物は居なかったし、先へ行くことを諦めて戻ったとも思えない。
ならここを目指して進んできた俺達とすれ違う。
おそらく生者のまま先へと向かった人がいる。
「あいつは不死身だ! 撤退しよう!」
俺は残ってる冒険者達に叫んだ。
撤退を促す。
このままだと死者が増えるだけだ。
俺も周りに冒険者がいたら十全に闇の属性の力を振るえない。
そして俺が時間を稼ぎ、冒険者達は退避して。
ここには魔物と俺だけが残った。
周囲は暗闇。
見えるのは炎の橋と、その逆光で浮かび上がる魔物のぼんやりとしたシルエットだけ。
仄かに光る程度にまで光量の落ちた偽装の光刃を解除した。
暗闇よりも色濃い暗黒のクレイモアが姿を現す。
迫り来る魔物に俺は真黒の刃を一閃。
放たれた黒い三日月型の斬撃が魔物をバラバラに消し飛ばす。
「もう手加減はなしだ」
他の冒険者の目がない今、俺がこの魔物にやられる要素は完全になくなった。
だが同時に仕留めきれない。
魔物は再び再生を始める。
復活した魔物は俺を見下ろしてにたりと笑った。
仮面の下から覗く口許が気味悪く歪む。
この魔物はまだ分かってないんだ。
俺に勝てるはずがないなんて、そんな単純な事が。
俺は剣を振り上げ、その不気味な顔を身体ごと両断。
走り抜けた黒の斬撃が洞窟の壁に衝突して轟音を響かせる。
この魔物本体の能力か、条件を満たすことで作用するヘルの能力か。
……どちらでも構わない。
能力なら俺にも自身がある。
「やってみるか」
何度でも再生する魔物を前に呟いた。
ヘルが死者の王だと言うなら、俺はそれと同等以上の魔物を造り出してみせる。
ここに満ちる闇は深く色濃い。
ロードナイトのように配下を増やすことで互いにバフをかけるような能力にする必要はない。
俺は周囲の闇を1つに集中させた。
魔物の特性を改良して掛け合わせた新たな魔物を創造する。
生み出したのはスケルトン種。
厳かな白のローブを身に纏い、手には大きな杖を握っていた。
その顔は鈍く光を反射する金色の髑髏。
頭部からは湾曲した角が2つ伸び、それらが合わさって頭上に浮かぶ光輪のように見える。
「やれ。『スケルトン・ビショップアーキテクト』」
俺はその魔物の名を呼んだ。
同時にビショップアーキテクトの片方の眼孔に紫の炎が灯り、その紫色の眼差しが巨人種の魔物を見据える。
ビショップアーキテクトは杖を掲げた。
『■■■□、■□□。□■■■■────』
祝詞と反転した呪詛が音を介さずに空間を伝播し、魔物を中心に魔法陣を描く。
魔物はビショップアーキテクトへと襲いかかろうとするがもう襲い。
魔物は魔法陣の境界に阻まれた。
見えない壁に何度も手を叩きつけるが、その境界は微塵も揺らぎはしない。
『■■■■!』
そして詠唱が終わると同時に魔法陣の中の視界が反転した。
光が闇に。
闇が光に。
黒と白とが入れ代わる。
悶え苦しむ魔物の体表が一瞬で輝きとなってこぼれ落ちた。
残された黒い骨格がずぶずぶと魔法陣に沈んでいく。
魔物は再生しない。
これが権能『大神官』。
スケルトンの上位種が持つ強大な呪詛を反転し、さらに祝詞を織り混ぜて詠う術式。
呪いの力を以て魔物を浄化し、滅する力だ。




