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障海に消えた騎士団長と冒険者達

 ────その(しら)せは瞬く間に広がった。


 聖堂都市を守護する聖騎士団の総団長リーンハルトが特務の最中に失踪(しっそう)した、と。

伴った数百人の騎士や兵士と共に、障海(しょうかい)の底へと通じる魔物の巣窟で消息を断ったらしい。


 障海(しょうかい)の闇の海を生み出す第1級指定禁忌(きんき)種『ヘル』の討伐に向かう最中(さなか)の出来事。


『ヘル。フェンリルに並ぶ魔物の将、か』


 ヘルもまたフェンリルと同様、魔物の軍勢の中でも最上位の魔物の1体。

その存在は古い伝承の中にもいくつか残されている。


 (いわ)く死者の怨嗟(えんさ)と嘆きの海に沈む方舟(はこぶね)

(いわ)く生と死を流転(るてん)させるモノ。

(いわ)く死せる者全てを支配する、人を(かたど)った青い古書。


 伝承の中のヘルは死者を捕らえ、(もてあそ)び、終わることのない永遠の責め苦を与える。

人が死を恐れるのはヘルにその魂を捕らわれるからだとも語られていた。


 なぜリーンハルトが聖堂都市の守護を離れたかは分からない。

俺が抜けてからは都市の防衛状況が悪化する一方だったと最近知ったけど、その状況で最大戦力の光の属性の使い手が離れるのがまずいのは子供でも分かる。


 聖堂都市の聖騎士団はもうほとんど機能してなかった。


 俺の抜けた穴を埋められず、貴族や王族の血縁者の騎士の中から能力だけで選出された新たな団員。

彼らの代わりにベテランの騎士達をリーンハルトが追い出してしまったせいだ。


今は僻地(へきち)の聖騎士団から人員を派遣して統率をとろうとしてるけど、選民思想の強いリーンハルトの選んだ騎士達だ。

危機的な状況にあっても、平民の出の他所(よそ)の騎士の言うことなんて聞こうとしない。


『世話の焼ける』


 俺は崖の上から呟いた。

眼下には聖堂都市を目指す魔物の軍勢と、それを少数で迎え撃つ俺の生み出した魔物の姿。


 正直今の聖騎士団はどうでも良くなっていた。

俺の知ってた。

あの憧れてた聖騎士団はもう、ない。

それでも聖堂都市に住む人達を守るために。


『…………』


 ふと騎士団を追放された夜を思い出した。

俺の居場所が騎士団にもあの街にもない事を突きつけられたあの夜だ。


 俺は(かぶり)を振った。


……そしてまだ俺が昼にギルドでクエストを続けてるのは微かな未練か。

王国騎士となるための実績は今も重ねてる。


 でも今の俺のメインは(こっち)


 昼は冒険者として。

そして夜は魔物を()べる王として。


 俺の存在はいつの間にか一般人にも知られていた。

俺を語る声を街で耳にする機会も日に日に多くなる。


 俺の頭の中で彼らの声がぐちゃぐちゃに混ざりあって飽和した。

そこに込められた恐怖が。

敵意が。

俺の心を(くろ)(くろ)く、染めていく。


 俺は闇の仮面で表情(かお)を覆い隠したまま。

闇に飲まれていく世界を俯瞰(ふかん)する。







「リヒトさん、本部から特殊クエストが発行されましたよ!」


 いつものようにギルドに行くと、受付嬢のアンさんが興奮した様子でこちらに走ってきた。

でも足をくじいてそのまま転倒。

ゴチン、とひどい音を立てて顔面を床に叩きつける。


「わわわ。アンさん、大丈夫?」


 一緒だったフランが慌ててアンさんに駆け寄った。


「い、痛いですぅ」


 鼻を覆うように押さえてアンさんが言った。

涙目になっている。


「気をつけてくださいよ」


 俺もアンさんのもとに行くと、手を差し出した。


「しゅみません……」


 片手で鼻を押さえたまま。

アンさんは俺の手を取って起き上がる。


「それで特殊クエストって?」


 フランが()いた。


「そうでした! 特殊クエスト『障海(しょうかい)探索任務』が発行されたんです! 主な目的は行方不明となっている騎士や兵士達の捜索です」


 リーンハルトと、一緒に消えた騎士と兵士の救助が目的のクエストか。


「報酬と実績スコアが破格になっていて、ランク制限も下限がCまで拡張。リヒトさん達でも受けられます」


 アンさんは両手で拳を作り、興奮して上下にぶんぶん。

鼻息が荒くなってふんふん。


「大規模な合同クエストになりますので、参加条件は下がりましたが受付可能時間が短く設定されてます。受けるなら早めが良いかと」


「でもそれって、リーンハルトがいるんだよね?」


 フランが俺に小声で言った。

フランは俺がリーンハルトに退団させられた事を知ってる。


 俺だってもう顔も見たくない、けど。


「受けます。アンさん、手続きをお願いします」


 一緒に消えた他の人達は可能なら助けたい。

障海(しょうかい)の先に伝承通りヘルがいるなら、おそらく並の冒険者では行方不明者が増えるだけだ。


 それにこの機会にヘルを討てれば、結果的に多くの人が救えるはず。


「分かりました。それではクエストを受注しますね」


 アンさんは大きくうなずくと、駆け足で受付カウンターに戻っていく。


 出発は明日の早朝。

各ギルド支部から荷馬車で移動し、道中で合流していく手筈(てはず)


 その日の夜、俺はいつものように闇の仮面で顔を覆った。

でも向かう先はいつもと違う。


『こんばんは』


 仮面越しに響いたくぐもった声に反応して。


「また、会えた」


 月明かりにキラキラと光る灰の髪を揺らし、俺の方を振り返ったのはフラン。


 俺は正体を隠した魔王として、フランのもとに来ていた。

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