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変わり果てた故郷とならず者

 それからの事はほとんど覚えていない。

俺は騎士団の証である白の鎧とマント、そして愛剣だったクレイモアも奪われて。

数少ない荷物をまとめ、ぼろ布のようなマントを纏って聖騎士団の宿舎をあとにする。


 リーンハルトはまだ気付いていない。

自身がヴィルヘルム様に劣らない光の使い手だというおごりを。

そして俺が去る事で燦然さんぜんと光をたたえていたこの聖堂都市が闇に飲まれる事をリーンハルトも、そして俺もこのときは知るよしもなかった。

音もなく。

静かに。

ひっそりと。

だが確かに、聖堂都市と聖騎士団の滅亡が始まった────







 俺は夜のうちに聖堂都市を出た。

聖騎士団を追われた俺の噂はすでに広まっている──というか根回しされていたようで、どこの宿屋に行っても門前払いされ、騎士団の中だけでなくこの聖堂都市にも自分の居場所がない事を突きつけられる。


 悲嘆ひたんに暮れる俺が向かうのは故郷である小さな町。

だが長い旅路の果てにたどり着いた故郷は酷い有り様になっていた。

砕かれた石垣に壊れた家々(いえいえ)

中にはまだ火がくすぶっているのか煙をあげている家もある。

町の往来に人気ひとけはほとんどなく、その顔色は暗かった。

聖騎士を志してこの町をあとにしたのが12歳の頃。

まさかそれから5年余りでこんなにも様子が変わってしまうなんて。



「一体なにが……」



 俺は町の様子を横目見ながら自分の家に向かう。



「すみません、この町に一体なにが」


「…………」



 俺は通りかかる町の人々に声をかけるが、返答はなかった。


 曇天のせいか、町並みは酷く暗く見えた。

だがその原因が天候のせいではないとすぐに気付く事になる。


 突如とつじょとして響き渡った悲鳴。

俺が慌てて駆け付けると、そこには魔物の姿があった。

町の中心に近い広間に魔物がいる事に最初は驚く。

だがそれよりも驚いたのは、不確かだった真っ黒な影のようなその姿が鮮明になるその瞬間。

生まれたのだ、魔物が。

闇より生まれる魔物が、この町の真ん中で。


 それで俺は気付いた。

この町は闇に飲まれてしまっていたんだ。



「……でもなんで。騎士の闇払いはどうした?!」



 俺は女の人に襲いかかろうとするゴブリンに向かって駆け出そうと。



「へへ、この町は騎士様に見放されちまったのさぁ」



 だがその時、俺の背後から声がした。

振り返るとそこには、ならず者が数人。



「用心棒様、お助けください……!」



 魔物の出現に悲鳴を上げた女性が、ならず者達に助けを求めた。



「いいぜ、銀貨1枚だ」



 ならず者が言うと女の顔が青ざめる。



「金がないなら、この間みたいに身体で払ってくれてもいいぜ?」



 ならず者の言葉に女は一瞬顔を歪めた。

だが迫ってくるゴブリンとならず者とを交互に見ると、涙目でこくこくとうなずく。



「あいよ! 町の用心棒様に任せなぁ!」



 ならず者の1人がいやしい笑みを浮かべ、袖をまくって力こぶを見せた。

いで腰の短剣を抜いて。

瞬く間にゴブリンに迫るとその喉をき切り、その眉間に短剣を突き立てる。


 崩れ落ちたゴブリンの姿に女性は安堵あんどの息を漏らして。

だがならず者にその手をぐいと引かれるとまたその表情が強張こわばる。



「さぁー、お約束の報酬を頂こうかぁ」


「なんなら後払いだけじゃなくて、先払いしくれてもいいんだぜ?」


「回数ごとに1回、お前さんを助けてやるけどどうだ?」



 げらげらと下品な笑い声をあげるならず者達。

俺は我慢できず、女性の手を強引に引くならず者の腕を掴んだ。



「あ? なんだ小僧?」



 ならず者が俺を睨んでくる。



「その人、嫌がってるじゃないか」



 俺が言うとならず者はぱちくりと目をしばたたかせて。



「おんやー? 嫌がってる? あんた嫌なの? そうだったのー?」



 ならず者は女性の背後に回り、その耳許みみもとささやいた。



「俺達は別にいいんだぜ? 俺達は紳士────」



 ならず者の言葉に、仲間がどっと笑い声をあげる。



「嫌がる女性を無理やりなんてしないさ。代わりにちゃんとお助け料さえ払ってもらえればね。さぁ、金を払ってもらおうか。銀貨1枚。それで命が助かるんだから安いもん。もちろん金のない奴に払えなんて無茶は言わない。自分からぜひ私の身体で払わせてくださいって言われたんなら応じるだけよ」



 女はならず者の言葉にぎゅっと唇を噛み締めた。



「分かったか、坊主。これは了承の上の────」



 ならず者がしたり顔で喋っていたが、これ以上は聞くにえない。

俺はその顔面目掛けて拳を繰り出した。



「ぎゃっ」



 ならず者が情けない悲鳴を上げて後ろに転がる。



「てめぇ、何しやがる!!」



 俺に殴られたならず者が叫んだ。

鼻が折れたらしく──というかそうするつもりで殴ったが、そのひしゃげた鼻からは鼻血が止めどなく流れ出ている。



「おい、坊主。正義感は結構だが、お前さん喧嘩を売る相手を間違えたな」



 ならず者の中でも一番体格のいい男が言った。

俺より頭3つ分ほど高い上背うわぜい

その腕は丸太のように太く、自身の身の丈ほどもある大剣を抜いて構える様は、その剣の重さをまるで感じさせない。

身のこなしから見てもこのならず者達の中で抜きん出た実力者だ。



「喧嘩を売る相手は考える。来世の教訓にするん、だな!」



 大男は俺目掛けて大剣を振り下ろす。


 だが俺はかわさない。

かわす必要がない。

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