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スコルとハティ その2

 まだこの街には大量の闇が残ってる。

それをまとえば。

だがそうすれば間違いなく怪我を負わせてしまう。


 どうする。

どうすれば。


「ふ────」


 俺は咄嗟とっさに叫んだ。


「伏せ!」


『!?』


 その声を聞いた赤い狼が突如軌道を変えた。

素早く地面に着地して伏せる。


 赤い狼は困惑しながらも再び襲いかかろうと構えた。


「待て」


 だが俺が言うと動きが止まる。


 俺が生んだ魔物は俺の命令に従う。

このフェンリルから生まれた魔物も幸い俺の命令が効くようだ。


 赤い狼は牙をき、こちらを睨んでいた。

耳をV字にぴんと張り、グルルルルと低いうなりを上げている。


「ハティちゃん!」


 青い髪の子供が部屋から飛び出してきた。

その子はもふもふの尻尾を股の下から回して抱き抱え、前を隠している。


 俺が青い子に視線を向けると、その子は驚いて。


「ひっ」


 小さく悲鳴を上げると、こてんと後ろに転んだ。

耳をぺたんと折り、ぎゅっと自分の尻尾を抱き締める。


『────スコルに手を出すな!」


 赤い狼から子供の姿に戻って。

獣のうなり声が言葉に変わる。


 俺は刺激しないよう、ゆっくりと中腰になった。

2人に視線を切って。


「落ち着いて。俺に敵意はない」


 俺はできる限りの穏やかな口調で言う。


「俺は2人を傷つけたくない。傷つけないと聖十字に誓う。だから落ち着いて」


「…………」


 赤い髪の子は無言で俺を睨んだまま。


「…………」


 そして青い髪の子はおずおずと立ち上がった。

そろりそろりと、俺に歩み寄る。


「……え、えい」


 いでぺちんと俺の頬を殴った。

痛くない。


 俺が視線を向けるとその子はびくっと首をすくめた。

だが動きを見せない俺を見て、相方に言う。


「ハ、ハティちゃん! わたしが攻撃してもこのお兄さん反撃してこないよ!」


「そんなの攻撃のうちに入らないってだけよ」


「で、でもハティちゃんが攻撃したときも、お兄さん剣で斬りかかってきてないよ」


「むかつく。あたしの攻撃も攻撃のうちに入らないってわけ?」


 赤い髪の子の敵意がまた膨れ上がる。

いや、そんなこと一言も言ってない。


「いや、君の攻撃には驚いたよ」


 それは事実だ。

俺は続けて言う。


「運が良かったんだ。あのまま戦ってたら俺は手も足も出ずにやられてた、よ?」


 俺がそう言うと赤い髪の子がふふんと笑って。


「そうでしょう。あたしは強いんだから」


 未だ俺の命令を受けて地面に伏せたまま、赤い髪の子が得意気に言った。

耳がぴこぴこと揺れる。


「ハティちゃん、一旦中に戻ろう? わたし達裸だし」


「て言われてもあたしは今なんでか動けないし。ていうかスコル、なんであんたも裸で出てきたの?」


「うぅ……だってお布団、外に持ってきて汚したら怒られると思って」


 顔を真っ赤にして青い髪の子が答えた。

毛先にかけて緋色ひいろに染まる尻尾をまた、ぎゅっと抱き締める。


 俺は赤い髪の子への命令を解くと、2人を連れて部屋に戻った。

人目がないのを確認。

いでガコン、と。

ひとまず吹き飛んだ扉を枠にはめる。


 修理費はいくらくらいだろうか…………。


 俺が振り返ると、2人は尻尾を抱えて俺を見ていた。

青い髪の子が自分の尻尾に隠れるように体を丸め、内股でもじもじとしていて。

赤い髪の子の方は尻尾を抱えながら腕を組み、仁王立ちしている。


 2人の姿を見て、色だけじゃなくて雰囲気も対照的だなと思った。


「俺の名前はリヒトだ。2人の名前は?」


 散々名前を口にしていたので正直2人の名前は聞かなくても分かる。

でもちゃんと名乗り合うのは大切だ。


「あたしはハティ」


 赤い髪の子供──ハティが言った。

ハティは隣でもじもじとしている青い髪の子を横目見て。


「で、こっちはスコルよ」


 青い髪の子供──スコルに代わってハティが彼女の名前を言った。


 スコルは自分の尻尾の陰から俺を盗み見ていた。

その耳が時折ぴょこぴょこと動く。


 ハティは尻尾を抱えたまま俺の方に歩み寄ってきた。

ふんふんと俺の匂いをぐ。


「……?」


 ハティは首をかしげると、ぐるぐると俺の周りを回って。

ふんふん。

ふんふん、と何度も匂いをいできた。


「お前、変な匂いね。人間なのに闇の匂いがこびりついてる。ちょっと美味おいしそう」


 匂いをぎ終えたハティが言った。

小さな舌がぺろりと舌なめずりする。


 ……お、美味おいしそう?

俺は自分の身長の半分くらいしかない子供に少し恐怖を覚えた。

まさか2人は人間を食うのか?


「……俺は闇の属性適正者だからね」


 ひとまず俺は胸中に膨れ上がった怖い予想に蓋をして答えた。


「人間なのに?」


「うん。未だに俺も驚いてるんだ」


「ふーん、変なの」


 ハティはそう言うと、どかっとベッドに腰かけた。


 スコルは俺とハティを交互に見ると、そそくさとハティの隣へ。

ちょこんとベッドに腰かける。


 俺はベッドに腰かける2人を見て息をついた。

なんとか話も通じそうだし、ひとまず一段落だ。

あとで2人の服を見繕ってあげないとな。


「ハティちゃん……」


 スコルがハティに耳打ちした。

ハティはスコルの方に体を傾けて話を聞く。


「ねぇ────」


 ハティが俺に声をかけた。


「結局あんた、変態なの?」


 俺はハティの──いや、おそらくスコルの質問に毅然きぜんと答える。


「断じて違うよ!」

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