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フェンリル討伐








「────フェンリル、お前はここで討つ」



 俺はフェンリルに向かって言った。


 フェンリルは鋭い牙を剥き出し、俺を睨む瞳からは蒼いほむらを噴き出している。


 その身体から溢れ出す闇の量は異常だ。

俺は背後のフランシスカが激流のような闇に襲われないよう、闇を操作してその流れを変えている。


 だがどうしたものか。

やはりフェンリルと街中で戦うのは得策じゃない。

フェンリルの攻撃もそうだけど、何より俺自身の攻撃の威力が未知数だ。

街の人達の避難状況も分からないし、考えなしに振るった俺の攻撃で人が死ぬなんてのは絶対に避けたい。


 俺は建物を吹き飛ばしていく闇を横目見た。



「…………よし、それでいこう」



いで顔を覆い隠す闇の仮面の下でにやりと笑う。


 俺は周囲の闇へと意識を集中した。

周囲の闇全てを掌握しょうあく

そしてその闇の流れを一気に変える。



『────っ?!』



 フェンリルの驚愕きょうがくする声。


 俺は周囲の闇を束ねてフェンリルの巨体を下から突き上げた。

竜巻のようになった闇がその身体を高く持ち上げる。



「このまま街の外まで運んでやる!」



 俺はフェンリル自身が今も放ち続ける闇を巻き込みながら渦の勢いと角度を調整。

街の外に向かって吹き飛ばす。


 遠ざかる銀色の巨体。

尾を引いた蒼の光とたなびく闇が弧を描く。

その姿が街の防壁の彼方に消えて。

防壁の向こうから地響きがとどろいた。


 俺はフェンリルを追って街を駆け抜け、防壁を飛び越えた。

湧き出していた魔物をぎ払いながら進み、再びフェンリルと対峙たいじする。


 襲いかかってくるフェンリル。

フェンリルは凄まじい速度の猛攻で爪や牙を次々に振るってくる。

俺はその巨体の繰り出す致命の一撃を全て完璧にさばいた。


 振り下ろされた爪を俺は横に跳んでかわす。


 フェンリルはかわされた爪を軸に身体を旋回させ、巨体によるタックルを繰り出した。

それを俺はクレイモアで受け止めて。

同時に後ろに跳んで衝撃を殺す。


 追撃に出るフェンリル。

フェンリルは跳躍すると鋭い爪を横薙ぎに振るう。

俺の体はまだ宙空。

踏ん張りはきかない。



「そこだ!」




だが俺はタイミングと角度を見切り、クレイモアを袈裟けさに振り上げてその攻撃をいなす。


 いで俺は着地。

俺は剣の構えを維持したまま。

ズザザザザ、と土煙をあげながら勢いのままに後方へと地面を滑る。


 再び地面を蹴って俺に飛びかかるフェンリル。

そして俺はそのタイミングを待っていた。

前足が地面を蹴ると、その獰猛どうもうな首が体の先端にくる。

その間、フェンリルの首は無防備だ。

腕や爪で守ることはできない。


 俺は重心を腰からかかと、そして爪先へと移した。

前傾ぜんけい姿勢になると地面を蹴り、その勢いをバネに再び跳躍。

フェンリルへと肉薄する。



『──!』



 フェンリルが声をあげた。

すかさずフェンリルはその鋭い牙で俺に喰らいつこうと。

だが俺は地を這うように姿勢を低くし、その攻撃をくぐり抜けた。

同時に体をよじり、フェンリルの首目掛けてクレイモアを振り抜く。


 鋭い風切りの音。

いで俺のクレイモアに蓄えられていた闇の全てが斬擊となって天をく。


 その巨体が大きくのけり、その頭が宙に舞った。

切断されたフェンリルの首が驚愕きょうがくに歪む。

そして瞳から噴き出していた蒼の炎がき消えて。

その瞳から生気が消え去る。



『………………』



 その時。

のけっていたフェンリルの胴体が上体を折った。

首を失ってなお俺に襲いかかろうとする。


 だが俺は先の一撃のあと、すでに再びクレイモアに闇をまとわせていた。

俺は体をよじった勢いのままに旋回。

同時に剣を振りかぶって。

着地と同時に俺は剣を縦に振り下ろす。



「黒き十字を抱いて眠れ、フェンリル……!」



 暗黒色に染まった剣身けんしんが再びうなりを上げた。

放たれた暗黒の斬擊が大地を駆け抜け、フェンリルの肢体を真っ二つに斬り裂く。


 2擊による闇の斬擊が黒の十字を描いていた。

フェンリルの致命の攻撃。

それは同時に刹那せつなの間だけ浮かぶフェンリルの墓標でもある。



「終わった」



 俺は静かに呟いた。


────だがすぐにまだ終わっていない事に気が付く。


 フェンリルは倒した。

だが残されたその身体が問題だった。

絶命したときに時が止まったように空中にとどまっている両断された肢体。

その側面からは深淵しんえんのような深い闇が覗いていた。



「まずい」



 莫大な闇を生み出し続けていたフェンリル。

伝承では大地を黒く染め、万の魔物を生むとうたわれたフェンリル。

その身に宿している闇の量があまりにも多い。

多すぎる。


 死した身体からその闇が解き放たれようとしていた。

その切断面からごぽごぽと闇が沸き立つ。



「あんなのが解き放たれたらこの国は──いや、この世界は……!」



 俺はクレイモアを地面に突き立て、両の手をかざした。

両断されたフェンリルの身体の左右にそれぞれに意識を注ぐ。

俺は闇を必死に圧縮させる。


 あんなものが拡がったら世界が終わる。

なんとしても抑え込まないと。


 だが俺の顔が苦悶くもんに歪んだ。


 どうやって1つの身体に収まっていたのか。

その闇は俺の闇の操作をもってしてもうまく抑え込めない。

徐々に徐々に。

歯がゆいほどゆっくりとしたペースでようやく圧縮できている。


 滝のように汗が吹き出す。

その汗が目の表面を流れ落ちる。

だがぬぐってる余裕はない。

少しでも気を抜けば抑え込んでる闇が四散してしまう。


 俺は闇を小さく。

小さく小さく圧縮していく。



「……お、終わったぁ!」



 俺は叫ぶと地面に大の字に倒れた。

ゼェゼェと荒く息をつく。


 どれだけ時間が経っただろう。

苦闘の末にようやく俺は闇の圧縮を終わらせた。


 俺はその圧縮した闇の方へと視線を向ける。

そこには2つの黒い塊。

それが徐々に形を変えている。


 魔物が生まれる。

それも強大な魔物が。

あのフェンリルの闇の半分ずつを引き継ぐ魔物なのだ。

特に意識してなかったからウルフ種になるのか別の種族になるかは分からな────


 そこで俺の思考が1度途切れた。


 闇からついに魔物が生まれた。

横たわる2体の魔物。

だがその姿が…………。


 俺は鉛のように重い体を起こし、魔物のもとへと向かった。

その2体の魔物を前にして目を丸くする。


 フェンリルの闇から生まれた2体の魔物。

その魔物は今は丸くなってすやすやと寝息を立てていて。

そしてそれは────



「こ、子供……?」



 人間の子供の、姿をしていた。

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