6ーもう遅いー
イスカがサーシャを助け出す1分前、シンがテロリストの頭を爆発させた現場に、イスカとシンは居た。
「シン」
そう呼びかけると、シンは罰の悪そうな顔をしながらイスカの方を振り返った。
「イスカ......」
「これはどういう状況だ?」
そう手短に切り出すイスカ。
シンの表情に動揺の欠片は残っていたが、すぐに事態の危険さを思い出したのか、シンは状況を簡潔に述べる。
「テロリストが学園を......いや、俺のクラスのサーシャっていう女を狙っている。
恐らくは詠唱棄却の技術を持った人間狙いだろう」
「そうか。なら助けに行くぞ」
そう言って教室の方へ向かおうとするイスカ。
その背中をシンは呼び止めた。
「待ってくれイスカ。
サーシャは確かに教室にいるが、......その、ミルフィーユは学園寮に......」
「なら、そっちは任せる」
そう言って尚も教室の方に向かおうとするイスカ。
その迷いのない姿を見て、シンの中に怒りが湧き上がってきた。
おまえがそういう風にミルフィーユのことを蔑ろにするから、今の事態を招いたんじゃないかと。
そんな逆ギレにも近い感情。
原因の最も大きな部分はミルフィーユを襲った自分にあると分かっていても、シンは言葉を止められなかった。
「俺は!......ミルフィーユと、寝たんだ」
そう言い残してミルフィーユの寮に向けて走り出すシン。
心の何処かで、イスカが自分に怒ってくれるんじゃないかと。
自分の顔でも殴りに来てくれるんじゃないかと、期待していた。
例えテロリストの襲撃の真っ只中だったとしても。
いや、襲撃の最中だからこそ、そんな行動をしてくれれば、それは間違いなくイスカの本心だと分かる。
しかしイスカは、
「そうか」
と一言残して教室の方へ走っていった。
⭐︎
魔法を発動した兆候を辿ることで、イスカはサーシャと戦っているテロリストの位置を把握できた。
入学試験会場だった教室の配置は理解していたし、迷うことは無かった。
すぐにサーシャを追い詰めていた赤髪のテロリストに向けて電撃を放つ。
しかしそれを赤髪のテロリストーーリングは回避した。
「なるほど、今の一撃を躱すか」
そう独り言のように呟くイスカ。
そんなイスカを見てひとりの少女が呟く。
「......イスカ」
その少女を見て、イスカは疑問に思う。
初対面の少女にこんな因縁めいた目つきで睨まれるような人生を送っていたかと。
しかしそれは厳しい言い方をすれば、一種の油断だった。
リングがイスカに向けて炎の魔法を放ったのだ。
普通の人間なら油断を突かれれば命はない。
しかし炎はイスカの元に届く前に消え去った。
「......なに!」
余程予想外だったのだろう。
大きな声で叫ぶテロリスト。
しかしテロリストは実力者であり、次の行動へのタイムラグは存在しなかった。
すぐにイスカに向けて別の魔法ーー氷の礫を放つ。
しかしそれも、イスカの元に届く前に砕け散る。
「貴様、まさか......無効化能力者!?」
とうとう疑問を口にするリング。
そんなリングを見て、イスカは失笑を浮かべた。
「そんな大層なもんじゃないさ。
ただどんな属性の魔法も、極めれば無効化する術式は脳内で組み立てられる。
それだけのことだ」
丁寧に解説するイスカ。
しかしそんなイスカに食いつくのはリングではなく、サーシャだった。
「なにを......属性魔法の無効化ってそれ、人が一生掛けてひとつの属性を極め尽くしてやっと至れる領域じゃないの。
さっきコイツはあなたに、炎と氷の二属性の魔法を使ったわよ?
まさかその歳でふたつの属性を極めたっての?」
「.......悪いな」
サーシャの疑問を、イスカは遮る。
「俺が極めた属性は、八種類全部だ」
氷、炎、雷、水、風、地、闇、光。
その全てを制覇したということは、人が8回人生をやり直したとて成し遂げられるか分からない。
「そんな......」
絶望の声を出したのは、またしてもリングではなく、サーシャだった。
そんなサーシャは、完全に気が抜けきっていた。
「動くな!」
そんなサーシャの首を右腕に絡めるリング。
先程は否定した人質という手段を、こんどは生き残る唯一の手段と判断したのか。
しかしそんなリングに向けて、いや、サーシャにとって非情なことをイスカは言う。
「言っておくが、俺はこの学園の生徒でも、その女の友達でも何でもない。
人質にしても意味はないぞ」
ハッタリである。
イスカはシンにサーシャを救うと約束した。
この女が状況からして恐らくサーシャである以上、余計なことは出来ない筈だった。
しかし、テロリストはハッタリだと見破れなかった。
すぐにサーシャから手を離して逃げ出そうと背中を見せる。
その背中に、イスカは雷撃を浴びせた。
そしてテロリストは難なく駆逐されたのだった。
⭐︎
「......」
「待ってくれ!」
無言でこの場を去ろうとするイスカ。
しかしそのイスカを呼び止めたのは、意外なことにその場に居た教師だった。
「君は確か、今年この学園を受験した男だろう?
確か名前はイスカ」
「そうだが?」
「頼む!特待生として合格させるから、この学園に通ってくれないか!?ここには君が必要だ」
そんな教師の必死な言葉に対してイスカは、
「......もう遅いさ」
と悲しげに呟いた。