3ーテロリスト瞬殺ー
魔法学園にはイスカが転生する前に居た世界の学校と同じように昼休みが存在する。
ミルフィーユが学園に登校していないことには朝から気づいていたシンだったが、昼休みに同じクラスの女子に、
「ミルフィーユのこと知らない?」
と話しかけられた。
「知らないけど......」
動揺を隠せない様子でそう返すシン。
シンが動揺している理由はふたつある。
ひとつめは昨晩自分がミルフィーユに対して行った行為を思い出しているからだ。
当然ながらプラスの感情は存在せず、罪悪感に駆られていたシン。
同級生の、しかもミルフィーユの親友に話しかけられて動揺を隠せないのも止むなしというところだろう。
ふたつめの理由はシンに話しかけてきたその少女が学園長スレイヴの娘、サーシャだったからだ。
シンは自分の私利私欲のために学園長を利用し、そして殺害している。
父親の死はまだ明らかになっていない(死体はシンが消し炭にして捨ててしまった)が、シンはそのことに今更ながら罪の意識を抱いていた。
ひとつの罪の意識がもうひとつの罪の意識を掻き立てているという面も間違いなくあるだろう。
話しかけてきたのがサーシャでなければ動揺も隠せたかもしれないが、運の悪いことにサーシャは優れた洞察眼を持っていた。
ことシンに対しては特に。
「嘘。ホントは知ってるでしょ」
「サーシャには関係ないだろ」
「関係あるわよ!」
教室中に響き渡る声。
教室どころか廊下を歩いていた生徒までもが何事かと振り返る。
「私はミルフィーユの親友よ!
それに、シンの......友達でもある」
大声を出したことを恥じたのか、後半は段々と小さくなっていく声。
その様子を見たからなのか、もしくは周りの自分を責めているかのような視線から逃げるためなのか、シンは教室を抜け出した。
⭐︎
シンは教室を出て、学園寮までの道を歩いていた。
目的地はミルフィーユの部屋だ。
学園寮は男女共に同じ建物に存在している。
流石に階は分けられているが。
偶数階は男子、奇数階は女子。
昨夜ミルフィーユを襲ったシンの部屋は2階、これから訪れようとしているミルフィーユの部屋は3階だった。
「おい、おまえ」
そんなシンは教室のある建物と学園寮の丁度中間地点でひとりの男に声を掛けられた。
男は30代前半と思われる顔つきをして、黒いローブを羽織っていた。
明らかに学園の関係者ではない。
「......」
明らかに敵意のある声色に、シンは神経を張り巡らす。
敵意を感じ取れるのはイスカに鍛え上げられたからか。
「サーシャとかいう女を知らないか?」
「いや、知らない」
即答するシン。
しかし男はより敵意を剥き出しにして、
「おかしいな。
おまえと同じクラスな筈なんだが」
と言った。
「悪い。
俺は同じクラスの人間の名前を把握していないんだ」
素っ気なくそう言い放つシン。
そんなシンの態度を見て、男の頭に血管が浮き出た。
「そんな訳あるかよ。
それに......歳上には敬語を使えよカス」
言い終わるや否や、右手の人差し指をシンのこめかみに向ける男。
男の指から黄色い閃光がシンに向かって放たれた。
恐らく電撃の類いだろう。
当たれば死が避けられないであろう威力。
そうシンは判断した。
バチィィーーーン!!
閃光がシンに届く直前に、シンと男の中間地点に火花が発生する。
それはシンが男と全く同じ攻撃を行い相殺したことを意味する。
「......なに?」
驚愕の表情を浮かべる男。
それもその筈。
魔法とは基本的に自分の身体を媒介として発生されるもの。
先程の男の例からすれば右手の人差し指をシンに向けるということが前提条件だった。
しかし今、シンは何の動作も行っていない。
「詠唱棄却できるってことはおまえ......只者じゃないな?」
詠唱棄却とは魔法を使う際に発する呪文を省略する技術である。
その技術を持つというだけで、どんな種類の人間かはある程度絞れる。
......シンやイスカといった例外を除いて。
「どっかの国のテロリストってところか?」
「ちいっ!!」
男は情勢が悪いと見たのか、後ろに飛び跳ねて逃げようとする。
シンが先程使用した技術は詠唱棄却の更に上、動作棄却というものだ。
魔法を使う際に必要な予備動作を省略する技術である。
「逃げようとするのは賢明な判断だ。
すぐに決断できるのも有能な証。
......だが相手が悪かったな」
ドカン!!
突如男の頭が爆発した。
頭の中に埋め込まれた爆弾が爆発したとしか思えない威力。
周囲の落ち葉が吹き飛んだ。
テロリストは呆気なく頭の部分を爆発させて死んだ。
⭐︎
シンは男を殺した後、どう行動するか迷った。
テロリストともなればひとりで行動することはほぼあり得ない。
ならば必然的に、目的と思われるサーシャを守りに行くべきだろう。
迷いは一瞬。
すぐにシンはサーシャの元に向かおうとする。しかし、
「シン」
聞きなれた筈のその声はシンの背後から聞こえた。
シンが背後に立たれて気づかない人間などひとりしかいない筈。
それは今いちばん聞きたくない声。そして今最も頼りになる男の声だった。