98話 目覚め
「う、ううん……」
「クロエ! 起きたか!」
「わ!」
私は目が覚めるなりに誰かに抑え込まれる。目の前にはよく見た茶色い髪、と天井らしき茶色い板が見える。
私は何が起きたか分からずに為すがままにされる。抵抗しようにも体は重く力が入らない。
「いて!」
ゴン。という音と共に目の前の茶色い何かが呻く。
「フリッツ。クロエさんが困ってるでしょう? おやめなさい」
「いてて、母さんもそんなに強く叩かなくても」
「貴方は頑丈だからいいのよ。全く。ケルベロス相手に無茶をして」
「皆無事だったんだからいいだろ?」
「それでもクロエさんも魔力を使い過ぎたんだからちゃんと休ませておやりなさい」
「分かったよ……」
そう言って目の前の茶色い何か、いや、フリッツさんが離れる。これだけ会話を聞いておけば嫌でも思い出せるというものだ。
そして私は聞かなければいけないことを思い出す。
「あの! 他の人は! 怪我人はいませんか!」
「「……」」
フリッツさんもカルラさんも黙って聞いている。どうしたんだろう? もしかしてそれだけ多くの人が……?
二人は同時にふっと微笑む。その笑顔は親子なんだなと感じさせるものだった。
「大丈夫だ。これだけのことが起きたが死人はいない」
「貴方達のお陰よ。貴方達が突入してくれたお陰でケルベロスが早々に倒されて、他の魔物達はちりじりに逃げて行ったわ。本当にありがとう」
彼女はそう言って頭を下げる。
「気にしないで下さい! 私がやりたくてやったんですから」
「これも私がやりたくてやってるのよ。だから気にしないで」
「あう……」
どうしよう。何だか悪いことをした様な気持ちになってくる。
その時に助けてくれたのはフリッツさんだった。
「母さん。クロエが困ってるだろ。止めてやってくれ」
「そう? なら仕方ないわね」
「ほっ」
良かった。これで普通に話せる。
「クロエ」
「はい?」
「お前が眠ってから何があったかを話すが聞けるか?」
「はい。私も聞こうと思っていたところですので、良ければよろしくお願いします」
「それじゃああの後からだがな」
フリッツさんの話を纏めると、あの後魔物がちりじりになったことを疑問に思った村の冒険者が斥候を放って私たちの状況を確認。それから救助に来てくれたらしい。村の方はそこまで強い魔物は来ていなかったのと、村の中からの迎撃が多かった為大けがをした人間はいたけど、死んだ人間はいなかったとのことだ。
私達の所へ魔物も来たが、逃げるばかりで襲ってくるようなこともせず、フリッツさんはその場に倒れていた皆を守っていたらしい。その時は襲われるかもしれないと戦々恐々だったらしいけど。そこへ村の人達が来て彼も意識を失った。
私はその時からほぼ丸1日眠っており、起きたのが今。他の人はほとんど目を覚まして無事が確認されているらしい。
「ただ、師匠が未だに眠り続けている……」
「ドン・キホーテさんが?」
「仕方ないわ。あの技を使ったんですもの。しかも無理な状態で」
「無理な状態? 怪我をしているようには見えませんでしたけど」
「クロエ、師匠は傷薬なんて持っていなかった」
「え? じゃああの時いたのは!?」
「やせ我慢だ。村から駆けつけた治癒術師が見た時は悲鳴を上げるほど酷いものだったそうだ」
「ドン・キホーテさんは……」
死んでしまうのか。その言葉は何とか飲み込むことが出来た。
「大丈夫。峠は超えたと言っていたわ。だから後はゆっくり回復するのを待つだけ。その役目は私がやるわ」
「いいのか母さん。そういうのはあんまり得意じゃないって」
「いいのよ。私があの人に返せることなんてそれくらいしかないんだから。本当に馬鹿な人。地位も、名誉も、家族すら捨てて私達の為に……」
カルラさんは何を言っているのだろう。だけど彼女たちにしか分からないけど、ドン・キホーテさんを大切に思っていることだけは分かった。
「ふぅ、忘れて頂戴。年寄りの独り言だから」
「まだそこまででもないだろ」
「煩いわね。それとフリッツ。この村を出ていきなさい」
「え? どうしたんだ? 突然。今までも普通にやってきたのに」
「気付かれた可能性があるわ」
「……」
気付かれた? 何のことだろう。私はいてもいいのか不安になってくる。
「だったら母さんも行かないと」
「あの人を置いていける訳ないでしょう? 私はもう十分よ。だから、貴方だけで行きなさい」
「……分かった」
「クロエさん。私は、いえ、私たちはとある秘密を抱えている。そしてそれを隠すためにこの子は髪の色を変え、生活してきたの」
「はい」
「その秘密は私からは明かせない。フリッツには既に全て話てあるわ。フリッツ。貴方がいいと思えば、いつでも話していいわ。貴方は充分にそれくらいは判断できるようになっている」
「ああ」
「でも、クロエさん。少しだけ彼に時間を上げて頂戴。彼はこれまで良くないことが多かった。だから、人を信頼するのがとても怖いのよ。どこかで裏切られるんじゃないか。どこかで見捨てられるんじゃないかって」
「そんなことが……?」
確かに時々ではあるが、少し暗い雰囲気を出していた。それにずっと一人でやって来たと言うことはやはり、人に何か思うようなことがあったのだろう。
「それでも、貴方になら心を開いていると思うわ。だから一緒に居てあげて頂戴。貴方のことを裏切るような事をする子ではないから。お願い」
彼女は再び頭を下げる。その深さはさっきの比ではない。
「そう言うのはフリッツさんと話さないといけませんし……」
「俺は……お前と旅がしたい。ずっと迷っていた。このまま一人でいいのかと、誰も信用出来ないまま生きていくのかって。でもあの時、お前と出会って、これからも居たいと思った。だから一緒に旅に出ないか?」
「フリッツさん……。私で良ければ喜んで」
「クロエ!」
「へ? ひゃあ!」
私はフリッツさんに抱き抱えられてしまう。力が入らないから抵抗出来ないのをいいことに……。
ガン!
カルラさんの拳が再びフリッツさんの頭に落ちた。その一部始終を見ていたが凄く痛そうだ。
その衝撃で私はベッドの上にポスりと落ちていた。
「いてててて」
フリッツさんは頭を押さえて呻いている。当たった場所もさっきと寸分たがわずに同じ場所らしく大変そうだ。
「フリッツ、女性の体にそうそう触るものではありません。分かりましたか?」
「わ、分かった……」
「クロエさん。こんな馬鹿ですが、よろしくお願いします」
「あ、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
こうして私たちは旅をすることが決まった。でもこれは丁度いいことだと思う。私ももっと旅をして、色んな人を助けたい。そう思っていたから。
それが勇者パーティで出来なかったのは残念だけど、信頼出来る人を見つけることが出来たのだから、こっちの方が良かったと今では確信している。
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