6話 泉の彼
「え? あ、ちょっと逃げて!」
「?」
その男の人は湖の中で水浴びをしていたようで肩口で切りそろえた真紅の髪を水滴で濡らしていた。上半身は筋肉がついているが引き締まっている程度で顔だちは精悍過ぎずひ弱過ぎない。切れ長の眉は凛々しく本来はキリリとしているのだろうが今はそんな風には見えない。そんな彼は顔をポカンとさせてこちらを見ていた。
「グルアアアアアア!!!」
「!?」
彼はポカンとしていた顔をグリズリーベアの声を聞いた途端に、顔をキリリとさせて腰に佩いている剣を抜きはなった。
「下がってろ!」
そして彼はこちらに走ってくる。その顔は真剣で素直にかっこいいと思ってしまう。そしてランドよりも速い速度で私を追い抜き、やつ目掛けて剣を振り抜いたらしい。
彼が振り抜いた後にヒュパッ!と音が遅れて聞こえる。その剣を振りぬいた動作は見えなくて、剣を構えて気が付いたら振り終わったようにしか見えなかった。
彼はグリズリーベアを追い抜き、剣をカチンと鞘へ戻す。
その途端グリズリーベアの動きが止まり、首がずるっと落ちた。
「大丈夫か?」
「え? あ、ああ、はい、ありがとうございます」
彼はそう言って私に声をかけてくれる。私は素直に返すことしか出来なかった。
「あの、お怪我はないですか?」
「俺か? 俺は大丈夫だ」
「お強いんですね。グリズリーベアって言ったらCランクパーティでも苦戦するような相手なのに」
そうなのだ。彼が勇者パーティのメンバーならいざ知らず、ただの人でないことは分かる。ただの人はこんな危険な場所で水浴びをするどころか、来ることすら出来ないだろう。
「そうだな。だがここらへんで住むには、これくらい出来ないと生きていけない」
「ここで暮らしているんですか?」
「そうだぞ? といってもちょっと離れてるから遠いけどな」
そう言って彼は肩を竦める。その仕草だけで何か芝居でもしているかのような雰囲気を感じられた。
「あの! そこに私も連れてって貰えないでしょうか!」
「あ? まぁ、いいけど、その代わり、あのグリズリーベアは貰ってもいいか?」
「え? はい! 倒してくれたので勿論です」
私は逃げていただけなのにそれを要求することなんて出来るわけがない。というか助けてくれたのだから何かお礼出来る者はないかと思って、ポケットを探って見るが何も入っていない。ほとんどの物を勇者パーティに返したのだから当然だろう。
その時、ポケットからポロっと勇者に貰ったお守りの小石が落ちる。
「あ」
「ん」
赤髪の彼は私が落とした真っ黒な小石を地面に落ちる前にキャッチしてそれを見つめている。その目はさっきグリズリーベアを倒した時よりも真剣だった。
「これは?」
「その石ですか?」
「どこで手に入れた? それともこれが何か知っているのか?」
「???」
その顔は真剣そのもので、眉も寄せてとても友好的とは思えない。一体どうしてしまったのだろう。
「それは、さっき私と別れた人がお守りに……と」
「これがお守り?」
「はい」
「ちょっと状況が掴めない。最初から説明してくれ」
「分かりました」
こうして私は自分の身に起こったことを彼に話した。
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