51話 一方勇者はその頃⑤
勇者パーティー一行は未だにハブルールが死んだ場所から旅立てずにいた。既に日が昇ってそれなりの時間が過ぎている。それにも関わらずに旅立てていないのは、死んだハブルールにあった。
勇者ランドは吠える。
「ハブルールの死体は連れて帰るべきだ! 弔ってやらずにどうするんだ!」
彼はハブルールの死体を持って帰りたいといい、それに真っ向から反対するのは剣士ルーカスだった。
「そんな死体を持って帰る様な余裕はない。捨てておけ。それが嫌ならせめて燃やして弔う位で十分だ」
「ふざけるな! 共に戦った仲間だろうが! 血も涙もないのか!」
「だからこそだ。死んだ者が生きている者に迷惑をかけるべきではない」
「ルーカス……!」
ランドはルーカスを睨みつけるが、彼は涼しい顔で受け流す。
「大体、クロエの持っていた荷物でさえ今かなり圧迫しているんだぞ。それなのに死体なんて重たい物を持てる訳ないだろう。サラ、ディーナお前達もどちらがいいか分かっているだろう?」
ルーカスはそう言っていつもは煩いのにこういう時は静かな2人に振る。
「えっと……。私はどっちでもいいっていうか……」
「ランドの好きにしたらっていう気持ちもある様な……ないような」
そんな曖昧な事を言う。2人にとってハブルール等仲間ではない。ランドが連れて来て、仲良くしているから一緒にいただけで、本当ならば近くにいるのも嫌だったくらいだ。
しかも彼は下卑た視線を魔法使いサラと付与術師ディーナの体に暇さえあれば向けていた。その事を考えると、今回ハブルールが死んだことは彼女らの内心的には嬉しかったほどだ。
但し、それはあくまでも彼個人が好きではないという話で、荷物持ちや、料理を比較的マシに作るといった意味では死んで面倒になったという気持ちがある。
彼女らが死体を持っていくことに強く反対しないのはランドが彼女らの予想以上にハブルールを気に入っていたからに他ならない。
「ほら、サラはまだしもディーナは賛成している。死体は持って帰って弔うべきだ」
「だったらその分の荷物はどうする。死体だけで70キロ奴の荷物も入れたらもっと重たくなるだろう。ただでさえパーティの荷物を持つので精一杯なのにこれ以上どうするというんだ」
「そんなの手分けしてもって行けばいいだろうが」
「クロエの荷物を分けるのですら揉めたのを忘れたのか? 最終的にどうなった?」
「ハブルールが多く持つことになった……」
「だろう? そのハブルールは死んだ。その荷物の振り分けも考えねばならんのに、死体まで持っていく余裕などある訳ないだろう。死体など邪魔だ捨てていく。いいな?」
「……」
ランドもルーカスの言っている意味は分かる。それでも彼の中でハブルールという男が神格化されつつあった。これまでクロエが居なくなってから不手際が多くなっていた彼だが、それは何か理由のあっての事だろうと。そう考えるのは、ハブルールを誘った自分が正しいに決まっているという考えから来るものだった。
その考えに思考を巡らせられる人は、そこにはいなかった。だから、ランドとルーカスは終わらない話し合いを続ける。
「それでも、ハブは俺が連れていく……」
「っ!? ランド! 貴様、まだ俺の言っている意味が分からんのか!?」
「分かっている! わっかっているさ! それでも! 俺は!」
「分かっておらん! そんなゴミを持っていく余裕など無いと言っているのだ!」
「ルーカス! きっさまああああ!!!」
ハブルールの死体をゴミ、そう言ったルーカスは何も考えていなかった。昔からその様な一人で走る傾向のあった彼は所属していた傭兵でも周りのフォロー等もあって何とかやっていたにすぎない。このような無神経な発言も自分では間違っているとは思っていなかった。
ランドはルーカスに掴みかかる。大事な親友が侮辱されたと思い込んで、本当は自分がゴミを仲間に引き入れたと言われたのを認められずに。
ルーカスはそのランドの手を掴み、捻り上げる。
「っつう!」
「いい加減にしろ! こんなことをやっていると、昨日のアイツがまた来るかもしれん! サラ!サッサと奴に死体を燃やせ!」
「え……でも……」
「死にたいのか? ここで話しているだけ時間の無駄だぞ」
「やめろ! サラ! ハブは仲間だったはずだ! ぐっ!」
腕を捻り上げられながらでも、ランドは何とかサラを止めようとする。
しかし、サラはランドに言われて一つ思い至った。それは、彼女はハブルールを仲間などと思ったことは一度も無かったこと。そして、このままこの近くで騒ぎ続ける事は良くない。そう思っていた。
彼女は無言で杖を掲げ、呪文を唱える。
「ファイヤードーム」
「サラ!」
彼女は帽子を目深に被り、勇者ランドからの視線を切る。
その数秒後にはハブルールの遺体が燃え上がり、そこには黒い何かが残っているだけだった。
「ハブ!」
ルーカスはそれを確認すると勇者の手を放す。
勇者ランドはハブルールの死体だったのもに駆け寄りそれを見つめた。
「ハブ……」
「……」
「……」
「……」
それを見つめる勇者ランドの背中は哀愁が漂っている。その姿を見て、ディーナが声を上げる。
「ちょっと、ルーカス、サラ。何てことしてるのよ。私たちは勇者パーティーなのよ? どうして持って帰れる死体があるのに持って帰らなかったのよ」
「ディーナ。話を聞いていなかったのか? 持って帰れないと言ったばかりだったろうが!」
ルーカスはそう言って吐き捨てる。彼は勇者ランドの背中をまるで駄々っ子を見るような見下した目で見ていた。そして、その目をディーナにも向ける。
「な、何よ」
「いいから帰るぞ。奴の荷物の半分は俺が持つ。残りはお前達が半分にしろ」
「はぁ? あたしに荷物を持てっていうの?」
「そんな余裕はないんだけど?」
サラもディーナも勇者ランドから目をそらすようにルーカスに噛みつく。しかし、ルーカスはそれを認めなかった。
「なら、俺だけで行く」
そう言って彼は荷物を持ち、サッサと歩き出した。
「ちょっと! 勝手なことをしないでよ!」
「そうよ! もし一人で昨日の男に出会ったらどうするって言うのよ!」
サラとディーナは何とかルーカスを引き留める。彼がいなくなったら苦手な見張りを長時間しなければならない。それは肌を気にする彼女たちにとって許せない事だった。
そして、ルーカスも1人で行く危険性は自体は頭にあったので、仕方なく足を止める。
「ならサッサとしろ」
そういうルーカスはもしこれで来なければ本当に置いていく。そう思わせる鋭い目をしていた。その目は決して仲間に向けるような物ではない。
そんな空気の中、彼らはのそのそと荷物を纏め、歩き出した。勇者ランドは亡霊のように覇気のない顔でただただ進む。
皆さま、良いお年を
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