28話 先生
「クロエ? あなたゆう」
「先生! ちょっとお話したいことがあるのでいいですか!」
「え、ええ。いいですが……。そちらの方は?」
「俺はフリッツ。冒険者をしている」
「そうですか。私は……と、クロエにでもそのことは聞いてください。どこかで話す必要があるのでしょう?」
「はい、ありがとうございます! フリッツさん! 先に行ってて下さい! 宿の名前は何ですか?」
「ああ、『秋風の小枝亭』だ」
「分かりました。先に行っててください!」
「分かった」
フリッツさんはそう言って先に行ってくれる。正直助かった。
「それで。どうして貴方がここにいるの?」
「それには色々ありまして……どこかひっそりと話せる場所はないですか?」
「少し早いですが昼食にしましょうか」
「ありがとうございます」
私は先生に黙ってついていく。そして先生は高級そうな店に入る。私もついて中に入るとそこはやはり高級店らしく個室になっているようだった。
先生は店員さんに案内されるままに一室に入り、店員さんが出ていくのを待つ。そして出ていくと同時にじっとこちらを見て一言。
「説明してもらえる?」
「はい……実は……」
それから私は勇者パーティに捨てられたこと、魔力片を持たされていて危うく死ぬところだったところ、そしてフリッツさんに助けられたこと。それらを全て話した。勿論フリッツさんの髪の事などは一切話していない。先生に対する申し訳なさで会えないと思っていたけど、まさかこんなことになるなんて。
「それは……本当? いえ、流石に貴方はこんなことでは嘘はつかないわよね」
「はい……」
「取りあえず、そのことは上に報告するわ。というか勇者パーティを潰してやりたいところだけど、流石にそれは人類にとって被害がでかすぎるからね。ちょっと出来ないかも」
「流石にそれは」
やめてくださいの言葉は、私を見つめる先生の威圧感を前に飲み込んでしまう。
「クロエ、貴方は聖女なのよ?その聖女を馬車馬の様に扱っておいて、そのままで済ませられるもんですか。取りあえずあいつらはここに来るのよね? ここの司教に事情を説明して彼らへの支援を打ち切って貰うわ。後で来て、いえ、この後いきましょう」
「え? え?」
「何? 不満でもあるの?」
「そういう訳ではないですけど……」
「いい? あいつらは貴方のその優しさにつけ込んでふざけた事をさせまくった。私たちが送り出した聖女であるクロエ、貴方に」
「はい……」
「クロエ、貴方は何で自分が聖女になったか分かっていないでしょうけど、他の候補も皆認めていたのよ? 貴方は回復魔法は使えないかもしれないけど、防御魔法は歴代の聖女でもトップクラスの実力はある。それを理解しない勇者が問題なのよ?」
「それでも勇者様が魔王を倒せないのは問題があるんじゃないですか?」
「それは……そうだけどさ」
先生はさっきまでのぐいぐい来る感じを少し押さえてくれた。
「先生がそう言ってくれるだけで私は嬉しいです。なので私、少し自由に生きてみてもいいですか?」
「クロエ……どうしたの?前はそんなこと言ってなかったじゃない」
「いえ、最近私の作った料理を美味しいって言ってくれる人がいまして。その人が私に料理屋をやって欲しいっていうんです。私にそんなつもりはなくて、でも、それが凄く嬉しかったんです。だから料理をやってみるのか、それともまた修道院で働かせて貰うのか。それとも何か別のことをやるのか。探してみたいと思うんです」
「クロエ……」
「だから、少し、自由に生きてみたいんです。先生が私の事を考えてくださってるのは分かります。だから、少しだけ好きにやらせて貰えませんか」
私は頭を下げる。
「クロエ、頭を上げなさい」
「でも」
「いいから」
「はい」
私は顔を上げると先生は呆れたような、それでも嬉しそうな顔をしていた。
「クロエ、貴方は聖女でもあるけれど、私の大事な生徒であり、娘なのよ。だからそれくらいは任せなさい」
「先生」
私は嬉しくて涙を堪えるので必死だった。
「クロエ。もう少しだけお節介はさせて」
「でも」
「少しだけだから」
「はい……お願いします」
私がそう言うと先生は目をキリッとさせて私のことを見つめてきた。
「まずはクロエ、貴方分かってないようだから言っておくけど少なくとも聖女という名前を辞めるなら、その服と聖印は止めておきなさい」
「え? でもこれは院で使っていたもので」
「あの院は聖女養成用の院よ。だからシスターとしては普通に思ってたかもしれないけど、あの格好で外に出ることは禁止なの。もしそんなことをすれば、聖女か聖女候補だって事がバレてしまう」
「え、そんなことは一度も」
「言う必要がなかったからね。それに、勝手に脱走した聖女候補を捕まえる時に役に立つのよ。服装が違っても問題自体はないし、それに違いも少ないから本当に敬虔な人にしか分からないわ」
「門番の人にバレてしまったかもしれません」
「なら後でお願いしておきなさい。それだけで分かってくれるわ」
「分かりました」
「普通の修道服は後で上げるわ。それまでは……そうね、これでも使っていなさい」
先生はそう言って懐に入っていた小さなポーチから大きな外套を差し出してくれた。見るからに入らないサイズの所から出てきたところを見るとマジックバックなのだろう。
「これを上から羽織っておけばいいわ。後からさっきの子が言っていた宿に持っていくから」
「ありがとうございます」
「いいのよ。それじゃあ待っておいて。それと、これを渡しておくわ」
そう言ってポーチから小さな指輪を出してきてくれる。
「これは?」
「それはもしもの時に使いなさい。教会だったら基本的に力になってくれるわ。私に連絡を取れるようにもなるしね」
「いいんですか? そんな凄いものを」
「いいのよ。むしろこれくらいしか出来なくてごめんなさい」
「そんなことありません!」
「ありがとう。それなら受け取って頂戴。それと面倒な話はこれくらいにして一杯食べましょう?」
「はい!」
そして私と先生は会えなかった間に起きたことを一杯話し合った。
面白かった、続きが気になると思っていただけたなら、ブックマーク、下の評価をお願いします。
星1個でも頂けると、小説を書く励みになります。




