104話 その頃一方勇者は⑧
クロエ達がダラスに到着した時、勇者一行は。
木の杭が2本打たれた場所から出てくる者達がいた。
「はぁはぁはぁはぁ」
勇者パーティーは森を抜け出て街道に出てきていた。誰もがボロボロでやつれ、服や鎧も酷い状態になっている。サラやディーナは立っているのも辛いようで、杖にしがみ付くようにして歩いていた。
「街道に……出た」
「良かったぁ。これでダラスに帰れる……」
「死ぬかと思った……」
「まさかあんなことになっているとは……」
彼らがボロボロの理由。それは様々な理由があった。食料がほとんど無くなり、調理できるものがいない中での行軍は何も考えずに食料を腐らせた。そして、その腐敗が隣の食料へと伝染り、さらにまた別の食料に、そうやって気が付いた時には食料のほとんどがダメになった後だった。
今まではクロエが少ない時間を使って確認していたため、そういったことに気付くことの出来る者は居なかったのだ。
そこへケルベロスの端の方と戦ったりもしたため、かなりの被害を受けていた。
「これでやっとまともな食事にありつける」
「もう魔物はこりごり。見たくもないわ」
「本当に、美味しくもないし、今度の旅ではちゃんとした料理人を雇いましょう」
「それだけじゃない。ある程度戦えるポーターも雇うべきだ。それと、狩人も」
「その話は後だ。まずは帰るぞ」
最初は意地を張っていた勇者だったが、苦しい旅の途中でそんなことはどうでも良くなっていた。
そうして、彼らはダラスへと向かう。
しかし、その足取りは誰しもが重く、速度も普段の半分以下だ。
そんな彼らに近づいて来る者達がいた。
「大丈夫か!?」
「?」
勇者一行が振り向くと、そこにいたのは馬に乗った冒険者達だった。それも、クロエやフリッツと共にケルベロスに挑んだ冒険者パーティーの内の1人。彼らはクロエの先生が連れてきた冒険者パーティーだった。
彼のパーティーの本来の仕事は査察に来た先生達の護衛。ケルベロスの件は既にほとんど終わってしまった為、こうして帰ってくることになったのだ。
そして、目の前ではボロボロの姿の4人組。中級冒険者が強い魔物に出会って負けたのではないか。そう思った為に声をかけたのだった。
「大丈夫か? 強い魔物でも出たのか?」
「強い魔物? 別に出会っていない」
「そうか、良かった。最近までこの近辺にケルベロスが現れてな。その退治でかなり厳しいことになった。それで他の魔物の住処が荒らされていないかと思ったんだ。わからないか?」
「は? 知るかよ。俺達は今忙しいんだ。放っておけ」
「なんだその言い方は……」
彼はボロボロな勇者達の事を心配して、もし何か困っているようであれば支援しようか。そんな事を考えていた。しかし、その優しさを無視しての勇者の言葉。冒険者達をイラつかせたことは確かだった。
一応、勇者達はかなり精神的に参っていたし、かなりの疲労感でまともな対応が出来なかったのだろう。人が出来ている冒険者達はそう納得して去っていく。
「いや、悪かったな」
「魔物は出ないと思うが気を付けて行くといい」
「ああ」
そう言って冒険者達が行ったと思ったら、その内の1人が戻ってきた。
勇者達はなんだ? と思いつつも、足を止める。
勇者の前に来た冒険者は馬から降りて勇者パーティーの顔をまじまじと見つめた。
「何だよ」
「もしかして、勇者様でしょうか?」
「見てわかんだろ」
ランドはそう言って腰にぶら下げた聖剣を掲げて見せる。これまでの旅でかなり汚れているが、それでも聖剣としての輝きは失っていない。
「おお! 勇者様でしたか! それで聖女様を遣わせてくださったのですか?」
「は? 聖女? クロエの事か? あいつなら死んだ。名誉の戦死って奴だ。魔族との戦闘でな」
「は……い?」
勇者はこともなげにそう言うが、それを聞いた冒険者は何を言われたのか理解出来ていない様だった。その証拠に、嬉しそうだった顔のまま固まっている。
ランドはめんどくさそうにもう一度言い放つ。
「だからクロエは死んだって。魔族との戦闘中にグサッとな。かなり激しい戦闘で遺体は持って来れなかったが、惜しいことをした」
「………………」
ランド達はそう言って悲痛な表情を見せる。といっても一応本人たちがそう見えるようにしているというだけであって、実際に見えているかどうかは別物だった。
冒険者は何も言えない。聖女であるクロエが死んだと言われた事も理解できないし、それを勇者が軽い感じで、まるで昨日の夕飯で嫌いなモノが出た程度に言われたような感じを受け取った。
「分かったか? わかったらサッサと行け。俺達は疲れているんだ」
そう言ってランドは彼を避けるようにして歩き出した。サラもディーナもルーカスもそれに続く。
彼らがその冒険者を通り過ぎて、暫くしてから彼は我に返る。そして、馬をその場に残して急いで勇者パーティーを追った。
「あの!」
「何だよ」
冒険者の言葉に苛立ちを隠そうともしないランド。
しかし、冒険者はそれでも怯まない。
「本当なんですか! 聖女様が! クロエ様が亡くなったというのは!」
「ああ、本当だよ。何度も言っただろうが」
「……。その言葉、神に誓ってくださいますか?」
「お、おう」
真剣に聞いてくる冒険者に、ランドは気圧されていた。先ほどの冒険者とは違う圧力さえ感じたのだ。こちらの姿が本来の姿。そう言っているような、相手にするべきではないと思わせる何かが彼にはあった。
ルーカスはその冒険者の殺気に思わず剣の柄に手をかけている。昔、彼が未だ戦場で傭兵をやっていた時に感じた命の警鐘が、彼の頭の中では鳴り響いていた。
サラとディーナは少しずつ動き、ランドの背に隠れようとしている。彼女たちは何が何だか分からないが、目の前に立つ男が恐ろしく、今すぐにでも離れたい気持ちにさせられていた。
そんな思いを勇者パーティーが味わったのもほんの少しの事で、冒険者から発せられる圧力はいつの間にか消え去っていた。
「失礼しました。まだまだ鍛錬が足りていませんでした。それと、聖女様が亡くなったのは何時頃の話でしょうか?」
「あ? 一週間位前だ」
「そうですか……ありがとうございます」
「ああ。もういいか」
「はい。それでは失礼いたします」
そう言ってその冒険者は颯爽と去っていった。
「何だったんだアイツは……」
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