1話 仲間を押し倒す仲間
「ひゃ! 何するの!?」
私が夜の川でお皿を洗っていると、勇者パーティの仲間であるハブルールが、いきなり私を押し倒してきた。その顔は気持ち悪く欲望に歪んでいる。
「クロエ、お前も毎日ランド達の声とかを聞いて溜まってるんだろ? 聖女だろうが女だもんな。ちょっと楽しいことしようや」
「いや! あなたと一緒にしないで! 誰か来て! むぐ!」
私がそう叫ぶと彼は私の口を塞いでくる。そして近づいてくる口は臭く、手も変な匂いがした。
「そんな叫ぶなよ。ほんとに来ちまうだろ? それともそういうのがお好みか?」
ハブルールはそう言って私の服に手をかけようとしてくる。私は慌てて魔法を唱えた。
「ふふふんんふんふふん!」
口を手で押さえられているので声にはならなかったが、発動自体はしたようだ。奴からの防御には十分だ。
奴は私の服を何とかしようとするが、私の得意の防御魔法がかけられているので、どうにもすることが出来ない。今の私の服は騎士の鎧のように硬い。
「くそ! なんだこれは! サッサと解け!」
奴は私の顔をひっぱたく。だが、そんなものは痛くも痒くもない。私の防御魔法にかかればこいつの攻撃なんて虫が止まった程度。奴が側にいる方が精神的には嫌だった。
「つぅ~」
奴は気分に任せて私を思いっきり叩いた手を押さえて呻いている。馬鹿め。
そこへ私の声を聞きつけた仲間がやってくる。
「お~い、問題起こすなよな。クロエ、またなんかやったのか」
ハブルールの後ろから声をかけてきたのは勇者ランドだ。彼が今代の勇者でゆくゆくは魔王を倒すだろうと言われている。金髪碧眼は目の前にいる薄汚い盗賊とは住んでいる世界が違う、と言われても納得出来てしまう。
「何もしていません! お皿を洗ってたらハブルールが襲ってきたんです!」
私はハブルールを押しのけて無実を訴える。
ランドは面倒気にハブルールを見ていた。
ハブルールは不愉快そうに吐き捨てる。
「クロエがこっちにこいって言うから来たんだ。そして来たらいきなり声を上げられてこの有様だよ」
「そんな誰にでも分かる嘘を!」
私はそこまで言ってランドに向き直る。ランドとハブルールは仲がいいけど、流石に今回のことは私の事を信じてくれるはず。
「あークロエ、後でちょっと話があるから、その皿洗いが終わったら来い」
「え? 今の話は?」
「それも後でするから」
「分かりました……」
「ハブ、さっさと行くぞ」
「うっす」
二人は面倒そうにテントに戻って行く。暗いそこには私と松明、そしてこれから洗わなければならない大量の鉄食器が残されていた。
面白かった、続きが気になると思っていただけたなら、ブックマーク、下の評価をお願いします。
星1個でも頂けると、小説を書く励みになります。




