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亀のロクが僕に教えてくれたこと

作者: 渡辺哲

 僕は鈴木聡。中学二年生だ。

 僕はペットショップでミドリガメを買ってきて、「ロク」という名前をつけた。

 僕は水槽にロクを入れ、毎日、エサをあげた。そして、毎日、話しかけた。

「ロク。僕はもう少し背が高くなりたいよ」

「ロク。サッカーがうまくなりたい」

「ロク。数学が得意になりたい。テストで良い点数を取って、成績を上げたいんだ」

「ロク。もっと性格が明るくなりたいよ」

「ロク。みんなから好かれるためには、どうしたらいいんだ? それから、女の子にもてたい!」

「ロク。クラスメイトの中にいじわるな奴がいるんだ。僕はバカにされたくないし、いじめられたくない。どうすればいい?」

「親も担任の先生もうるさすぎる。僕に命令してばかりだ。大声で怒鳴りたい。殴りたい」

「ロク。もっとお金がほしい。小遣いが少なすぎる。ゲームとか、お菓子とか、欲しいものを買いたい」

「自分が行きたい高校に合格できるだろうか? 合格できなかったら、どうしよう?」

「ロク。将来、僕はどんな仕事をしたらいいんだろう? 自分がやりたいことがわからないんだ」

「僕は自分に自信を持てるようになりたい! それに、これからどう生きていったらいいか、教えてほしい!」

「とにかく、苦しいのはイヤだ! 楽になりたい!」

 僕は毎晩、ロクに話しかけた。ロクはエサを食べ終わったら、水槽の中をゆっくりと歩きまった。

 しかし、夏休みのある晩のことだった。僕はいつも通り、ロクにエサをあげた。すると、どこからか、声が聞こえた。

「聡くん」

 僕は辺りを見渡した。誰もいない。

「聡くん。僕だよ。ロクだよ」

 僕は水槽を見つめた。そして、唾をゴクンと飲み込んでから、言った。

「ロク! 君が僕に話しかけたのか?」

「そうだよ、聡くん。僕が君にテレパシーを送っているんだよ」

 ロクが僕を見つめた。

「聡くん。びっくりしないで。これから僕が言うことを聞いてほしいんだ」

「うん」

「聡くん。僕は君に言いたいことがある。なぜ君は考えすぎるの? それに、どうしていつもイヤな気持ちになるの?」

 僕はロクを見て、言った。

「ロク。僕は好んでそうしているんじゃないんだ。そうせざるをえないんだ」

 僕はロクに尋ねた。

「ロク。どうしたら、悩まなくてすむ? どうしたら怒り・悲しみ・不安・恐れなどのイヤな気持ちから解放されるんだ?」

 ロクは右の前足を僕の顔に向けた。

「欲望を手放すんだ」

 僕は叫んだ。

「欲望を手放す? そんなこと、できない!」

 ロクが首を左右に振った。

「いいや、できるよ」

 僕は言い返した。

「そんなこと、できない! 何かが欲しいとか、今よりも良い生活がしたいとか、それは人間の本能じゃないか! 君だって、眠たいとか、食べたいとか、子孫を残したいとか、いろいろな欲望があるだろう?」

「聡くん。『欲望のすべてを捨てろ』とは言ってない。自分を苦しめる欲望は何かを明らかにして、それを手放すんだ。握りしめた手の力を抜けば、それは落ちていく」

「ロク。そんなこと、できないよ」

 ロクは頭を振った。

「いいや。できるよ。『自分は今晩、死ぬ』と考えるんだ。そして、自分が本当にやりたいことだけをやるんだ。そして、今日一日を全力で生ききるんだ。だって、僕らはいつ死ぬか、わからないんだから」

「うん」

「それから、もう一つ。余計なことを考え始めたら、深呼吸して、頭を空っぽにするんだ」

 そして、ロクは再びゆっくりと歩き始めた。

 

 翌日、僕は水槽を見た。ロクが死んでいた。

 僕はロクを水槽から出し、そして、家の庭に穴を掘って、ロクを丁寧に葬った。

 僕は手を合わせて、祈った。

「ロク。安らかに眠って下さい」

 その時、声が聞こえた。

「聡くん。僕も君も、同じ『いのち』だ。『いのち』の火が燃え尽きるまで、精一杯生きるんだ。ベストを尽くせば、後悔はない」

 僕はつぶやいた。

「とにかく、前に進むんだ!」

 僕は今、走り始める。

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