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Dear.~君に続く未来へ~  作者: ばんぺいゆ
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05 可能性の大地-2-

―――― 時間は、数日前に遡る



「お体の調子は如何ですか?」


イヴルの問いに、タキは己の身なりを確認するように目を下ろす。


「うーん……ちょっと変な違和感があるけど……大丈夫。すぐに慣れるよ」


タキの答えに、イヴルはそうですか、と軽く微笑み次の瞬間にはまた、真剣なものへと表情を改めた。


「今、タキ様のお力は「石」によって抑えられているに過ぎません。「石」をその御身から決して離さぬよう、お気をつけください」


「うん……わかってる」


タキは自然、手を胸元へとやった。そのまま服ごと、その下にある「石」を握り締める。

今のタキには、天使の象徴である羽も、耳もない。その姿はまさしく「人間」そのものだった。


「……タキ様がこれから行く所は、学院です」


1拍おいて、イヴルは話を変えた。ここからが本題だとでも言うように。


「学院?」


「はい。地上ではかなり大きい部類に入る場所のようですね。3年程前から一定の間隔をおいて、ジークフリード様の気配が感じられました」


「一定の間隔……?」


「何故かはわかりません。ただ、我々が最も力を強くする時、蒼月の日にのみ感じられたので……」


「そこから動いたことは?」


「ありません」


「じゃあ行ってみて損はないかな……」


「あともう1つ、そこにはどうやら古代の者達が書き遺した未解読の書物が数多く保管されているそうです」


「……そっか。それなら、どっちみち行かないとね」


タキはそう言って、少しの期待に笑んだ。

天使は刑罰としては勿論、自分で選択して堕天する事ができる。ならば、その逆だって可能なのではないか、と考えたのだ。

そしてもしかしたら、その事が記された文献のひとつくらいあるのではないか、とも。

自分勝手、他力本願、ご都合主義も甚だしい考え方かもしれない。

でも、可能性がゼロと断言できる者は1人もいない。

希望は多い方が良いに決まっている。たとえどんな結果になろうとも、諦めないとタキは誓ったのだ。


「それじゃあ、行ってきます」


タキは真正面からイヴルに向き直り微笑んだ。迷いなど、微塵もない顔で。


「福音が訪れるよう、ここからお祈りいたします。何かありましたら、どうかお伝えください」



―――― そして、今タキはここに立っていた。



ジークフリードを見つけ出す事。

堕天使を天使に戻す方法を探す事。


この2つがタキの目的。

だが、まさかその学院がこれほど広大だとは考えてもみなかった。


タキ     :えーと……さっき案内してもらったのはこの道じゃなかったから……最初から間違ってたのかな……? それとも……


現状、タキは歩けば歩くほど自分がどこに居るのかわからなくなっていところだ。

ちょっと見て回った後案内されていた場所へ行こうとしたのに、そこへと続く見覚えある道が一向に見つからない。

辺りを見回しても記憶と合致する所はひとつもない。人に聞こうにも、人自体が見当たらない。

何でこんなに人通りがないのか聞きたいくらい、そこはタキ1人きりだった。



「何してるの?」


「えっ!?」


突然声をかけられて、タキは文字通り飛び上がった。

先程まで人は見当たらなかった。なのに、いつの間に背後まで……?

狼狽して振り返る。そこにいたのは、穏やかな笑みをした青年だった。

少し癖のついた紫銀の髪が、太陽によって淡く光っているように見える。

少女のような顔立ちをしているが、背丈的に「青年」で合っているはずだと、タキは目の前の青年を見る。


「さっきからキョロキョロしてるけど……何してるの? もしかして迷子かい?」


「あ、え……」


タキはまだ動悸が収まらず、思考もまとまらない。口に出る声は、言葉になっていなかった。


「見たところ、君武術学科の生徒じゃないね? 誰か捜してる? それだったら残念だったね。武術学科、今日授業延びてるみたいだよ?」


そう言ってお気の毒様、と肩をすくめる。


「ま、僕もここに来てやっとその事実を知ったんだけどね~」


骨折り損だよね、と青年は笑った。タキはそんな青年に尋ねる。


「いえ……俺は図書館に行きたいんですけど……」


「図書館?図書館なら、この通路をまーっすぐ行って突き当りを左。そのまままたまっすぐ進むと、階段があるからそこを下って右の通路を行けばあるよ」


青年は、通路の奥を指差す。


「あ……ありがとうございます」


タキは青年の言葉を頭の中で繰り返しながら頭を下げた。


「気をつけてね」


青年は再びニッコリ微笑むとタキにそう言った。タキはもう一度頭を下げると覚えているうちに、とでも言うようにその場から駆け出した。

廊下を遠ざかるタキを見ながら、青年は少し楽しそうに笑う。


「あの子が噂の転入生君、かな?」


タキが行ってしまった廊下を見ながら、一言呟いた。

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