04 可能性の大地-1-
「……とまぁ、ざざっと院内を案内してみたけれど……1回じゃ覚えきれないでしょう?」
苦笑いを浮かべて、学院を案内してくれている教師は後ろを振り返った。
「そう……ですね」
教師の言葉に返しながらも、タキはその教師ではなく辺りを見回す。
海に面した国グラストヴァルク。そこは剣士や魔法使い、武道家から薬師などに至るまで、様々な役職を育てる世界でも群を抜く学院があった。学院には人間ばかりではなく、獣人族やエルフ、極々少ない数ではあるが天使など、見た目に違いのわかる者達も少なからず通っており、広大な寮が完備されているという事もあって、その生徒数は把握できているんだろうかと疑問に持ちたくなるほどだ。
それに、今案内されただけでも覚えられるかわからないほどの建物をタキは見てきた。様々な目的の建物が広大な敷地内にいくつも存在しており、場所によって使用する科の者も全く違うらしい。
(授業の時、迷わなきゃいいけど……)
タキは内心で、軽くため息をつく。
「授業を受けるのは明日から?」
不意に声をかけられる。そこでタキはようやく、案内してくれていた教師へと向いた。
「あ、はいそうです。とりあえず今日は学院の案内と部屋での荷解きを、と」
「そう。じゃあ、このままもう少し案内しましょうか?」
「いえ、えっと……挨拶させていただいてから今までずっと案内していただいてましたし、後は自分で歩こうと思います」
教師の申し出を、タキは言葉を選びながら断った。
屋敷の外での会話など慣れているはずもなく、どうやって言えば相手を不快にさせないかなどタキには知る由もない。だがこれ以上案内されても、きっと頭には入らないだろうことは明白だ。
「……すみません」
「気にすることはないわ。これも仕事のうちだもの。けれどそうね……案内されながらよりは覚えられることもあるだろうし、とりあえず疲れるまで歩いてみるのも面白いと思うわよ。困ったことがあったら、目についた人に聞いてみなさいな。大抵は教えてくれるから」
それじゃあ、と教師はもと来た道を戻っていく。その姿を見送ってから、タキも足を進めだす。
(それにしても……)
広い。広すぎる。
これは迷子になってくださいと言わんばかりの広さだ。
別に似たような風景が延々続くというわけ訳ではなく、ただここが今どの辺りで、目的地に近づいているのかすら定かではない。
自分の行動範囲だけでも覚えるまでに、いったいどのくらいかかるのだろう……
(……本当に、ここにいるんだろうか? いたとしても……この広さじゃ……)
正直、見つけられるか不安だった。見つける前に、何処かへ行ってしまわれては意味がない。
タキがここに来た目的は、ふたつあった。