白亜の街『グラッシア』
「はっはっはっ!!全くとんでもねぇ嬢ちゃんだ!!まさかたった一人で砂漠を超えてくるとはな!!」
「危険な場所を進むのには慣れているんだ。それに地図もあるし、天候が良い日を待って、何日もかけて準備もしてる。特に驚くことじゃないよ」
夕方、白亜の地平線の向こうにオレンジ色に燃える太陽が沈み始めた頃。セイランは予定通りに大きなオアシスを中心に出来た街へとたどり着くことが出来た。
砂漠側の関所の門を叩いた直後は大騒ぎだった。何せそもそもに人が来ることも数年に一度あれば良いほう。殆どは弱り切った遭難者が運よく流れ着いた時くらいで、身一つで無傷でやって来た者など、彼女の背を叩く門番は始めての出来事であった。
「いやいや、それでもスゲェよ。アンタ名前はなんて言うんだ?」
「セイラン。セイラン・アオバだ。こいつはラウ。私の旅の相棒だ」
「ピュイィィ」
力任せに背中を叩く門番の手からさり気なく離れながら、彼女は旅の相棒である騎竜のラウから降りると、関所の中で街へ入るための書類や身分証の掲示などを済ませる。
あまり使われてなかったせいか、関所の中は半ば門番の私室と化しているようであって、彼の物と思われるものがあちこちに散乱していたが、殆ど機能していなかった関所であるなら仕方のない事だろう。
「ほいほい。冒険者のセイランな。確かに確認した。はるばるようこそ、我らが白亜の街『グラッシア』へ!!歓迎するぜ!!」
そう言われ、彼女は門番にお礼を言いながら関所を去って、街の雑踏の中へと溶け込んでいく。
騒がしい人だけど、嫌いではないなと彼女はボヤキながら周囲の建物や人々を眺める。
ここ白亜の街『グラッシア』は文字通り真っ白な外壁と同じ白の壁で作られた街並みが特徴だ。
今は陽も落ち始め、あまりその白は窺い知ることは出来ないが道すがらに聞いた話ではとても美しいものだということをセイランは思い出しながら、それを明日の楽しみとする。
「時間が時間なだけあって人が多いな」
時刻は夕方。関所で必要なやり取りをしている内に陽は更に落ち、夜の帳が降りつつある。
街道には仕事を終えた人とこれから夕飯の買い物に行く人達でごった返している。
どこの世界に行っても朝夕はラッシュというのは変わりがないようだ。それでもその中に人間以外の人種もいるのがこの世界では当たり前のことだ。
「いらっしゃい!!席の希望はあるかい?」
「騎竜がいるからテラス席で。そっち用の餌と水もあると助かる」
「あいよー」
その中でセイランが足を運んだのは定食屋だ。手軽にご飯を食べられる上に、この世界では連れ歩いてる脚用のモンスターのためのサービスが用意されている店も少なくない。
生憎、騎竜のラウは大型の部類なので問答無用で屋外の席になってしまうのがネックなところか。
「はい、騎竜用の餌と水ね!!嬢ちゃんの注文は決まってるかい?」
「この店で一番自信のある奴と果実酒をくれ。あと、この辺りで良い宿はあるか?金に糸目はつけない」
早速ラウ用の餌と水をバケツいっぱいにして持ってきてくれた定食屋の女将に注文と今日泊れる宿について聞いて彼女は尋ねてみる。
時間が時間だからそう簡単にはいかないだろうから、宿泊費は多少高くても問題は無い。
むしろ高い宿はセキュリティーやサービスが充実しているので、女一人で旅をし、砂漠を超えて疲れが溜まっているセイランにとっては都合が良いとも言えた。
「それだったらウチの店に泊ってきな!!宿もやってるし、嬢ちゃんみたいな別嬪さんでも安心だよ!!」
「冗談は止してくれ。追加で宿とデザートにフルーツも頼む」
「あいよー!!」
すると、どうやらこの定食屋は宿屋も兼ねていたらしい。これ幸いにと勧める女将に茶化されながら、宿の予約と追加のオーダーも頼んでおく。
彼女の長年の経験から、ああいう恰幅のいい女将が切り盛りしているところは得てしていい店。良いところに当たったと、頬杖を突きながら満足げに微笑みながら、テラス席から窺える人の流れと街並みにまた視線を移した。