白亜の街『グラッシア』
ザッザッと砂を踏みしめる音と風がびゅうびゅうと吹く音だけが辺りに響く。
周囲は真っ白な砂と雲一つない青空の二色だけに染められており、シンプルだが鮮やかな景色を生み出していた。
「綺麗だな」
地平まで続くその光景を見て、その白亜の砂漠の真ん中を突き進んでいたその人物は砂を踏みしめて駆けていた『騎竜』と呼ばれる人を乗せて移動するドラゴンの背中から、そう漏らしていた。
雲一つない青々とした空と、白に輝く白亜の砂漠を突き進み始めて半日。時折見かけられるサボテン以外はそれ以外の色を見せることのない広大なこの砂漠地帯を進んでそれだけの時間が立ちながらも、思わずそう言わせてしまうほどにはこの砂漠は美しかった。
「しかし、暑いな……。砂漠だから、当然だが」
しかし、その美しさとは裏腹にこの砂漠の環境は過酷だ。
砂漠というだけあり、降水量がまず少ない。これだけで生命が生きていくには不向きな環境であると言えるだろう。気温も当たり前のように高く、強過ぎる日差しから肌を守るため、砂漠を進むこの人物もこの暑さの中にありながら全身を布で覆っていた。
そしてもう一つはこの砂漠に常に吹いている強い風だ。
周囲には大きな山もなく、遮るものがない。砂漠の向こうは固い地面の荒野が広がっており、山と言えるものがあるのはここから半月は進まないと拝むことは出来ないだろう。
そんな一切の遮るものがないこの地域は非常に強い風が常に吹く。その強さは定期的に巨大な砂嵐を生み出すほど。大きなものでは1週間以上その地域を覆い続け、強い風で舞い上がり凄まじい勢いで飛ぶ砂は、それだけで肌を傷つけるほど。
更にもう一つ。生命がこの地域に少ない理由がこの足元の白く美しい砂にあった。
さらさらと手触りが良いこの砂はガラス質のもの。これではまともな植物は育たない。
もちろん、サボテンをはじめとした砂漠地帯、乾燥地帯に適応した多肉植物は存在しないわけではないが、それも多くは先ほどの砂嵐により、根こそぎ攫われてしまうのだ。
生体ピラミッドというのは基本的に植物を底辺とし、その上にそれを餌にする草食動物と更にそれを餌にする肉食動物、といった具合で形成されていく。
その根底である植物が壊滅的では、生命というのがこの地域に根付くのはとても難しいだろう。いない訳ではないが、非常に少ない。
故に、この砂漠を移動する面妖なこの人物は今のところ生き物らしい生き物を見ていなかった。
「……ここら辺でもう一度方角の確認をしておくか」
風と地面からの強烈な照り返しからめを守るためにしていたゴーグルを少しずらし、手荷物の中から地図を取り出すと、騎竜の鞍に取り付けられたコンパスとおおよその距離を測る計測器を見ながら、自身がいるところに目星をつける。
「よし、問題はなさそうだな。これなら、予定通り夕方にはオアシスに着くか」
そう呟きながら、白亜の砂漠とは真逆の黒曜石のように美しい瞳を収めたその目じりを嬉しそうに下げて笑う。声音も高く、澄んだもので体を覆うマントやら何やらで分かりにくいものの、その人物が女性であるというのはすぐにわかることだった。
「しかし美しい。危険なだが、これを見られたのならお釣りが来るというものだ」
どうして彼女がたった一人でこの白亜の砂漠を進んでいるのか。
危険で滅多に人が通らない、目印もない砂漠はとにかく遭難しやすい。ベテランの商人でも、砂漠のルートは避ける。
それに、砂漠を超えた先にある目的地のオアシスは河川での移動が発達しており、移動網は運河を利用した船が基本だ。
値段もほどほどであり、彼女のように砂漠を超えようという酔狂な者はごく少数。大体は勇気と無謀を履き違えた愚か者か、自殺志願者かのどちらかだ。
「そら、水だ。もうひと頑張り頼むぞ」
「がぅ」
そんなごく少数の酔狂な者に数えられる彼女は、この白亜の砂漠の美しい景色を目に収めたいという、これまた頭のネジが数本吹き飛んでいるのではなかろうかという理由で命をとして砂漠越えのこのルートを選んだのだった。
ごくごくと水筒から水を飲む騎竜の背をポンポンと叩いて労った後、再びゴーグルをして美しくも恐ろしい砂漠を駆け抜けていく。
そんな酔狂者である彼女の名前はセイラン。セイラン・アオバ。
10年前この世界を訪れた異世界人だった。
気が向いたら続き書くくらいの適当さでやります。続きが読みたい時は評価とブクマとコメントとレビュー辺りで作者のケツを蹴り飛ばしに来てください