プロローグ
何を信じることが幸せなのかをテーマにライトに書いていきたいと思います。
拙い文章かもしれませんが、よければ覗いてみてください。
「だ、誰も救わない神様なんてもういらないの...だから女神様、本当にごめんなさい...」
彼女は血まみれのロザリオを逆さまにした。
…
今日はフィリアの門出の日だ。この世界では15才で成人を迎えると全寮制の王立アカデミアに入学することになる。
「フィリア、君は女神アリア様から特別な加護を受けた子だ。その力でたくさんの人を救ってあげるんだよ。」
「はい!もちろんです。ジン!この癒しの力で、きっとたくさんの人を笑顔にしてみせます!」
ジンは私の兄のような人だ。孤児だった私がこの修道院に引き取られからずっと面倒をみてもらってきた。今はあまりうまく使いこなせていないけれども、白魔法をおぼえることができたのもジンのおかげだ。
「目を瞑ってごらん。」
「?」
「いいから、そっと目を閉じて!」
「は、はい!」
ジンの顔が近づいてきたのに気づいてフィリアは顔を赤らめる。しばらくすると、何かを首に掛けてもらったことに気づいた。
「女神アリア様の加護があらんことを...もう目を開けてもいいよ!」
「こ、これ!!」
「うん、これはフィリアへの贈り物だよ。僕の祈りを込めておいたから、おっちょこちょいなフィリアでも、これがあれば怖いものなし!」
ジンが頭をポンポンとすると、フィリアはにっこりした。
「ありがとう..嬉しい...」
「よろこんでもらってよかった。さあ、そしたらもう行きなさい!あんまり長くいると別れが辛くなってきちゃうよ!」
「う、うん!必ずジンみたいなすごい白魔道士になってきます。」
「はい、がんばってね。それじゃあ、いってらっしゃい!」
「いってきまーす!」
フィリアはロザリオを握りしめて修道院をあとにした。
王都についたフィリアは目を輝かして、街の活気を感じた。
「ここが王都!話には聞いていましたが、すごいです!しかし、アカデミアはどこでしょう。大きすぎて全然分かりません...これから白魔導科の入学式なのに...」
あたふたしながら町の案内を探して歩き回る。
すると、裏路地の方から大きな声が聞こえた。フィリアは様子が気になり、路地の角に身を潜めながら、ゆっくりと顔を出すと、黒い裾の長い制服を着た魔導師達が奴隷とみられる少年を蹴り飛ばしていた。
「お前、俺にぶつかってくるなんていい度胸じゃねーか。少し痛い目に合わせてやろう。」
そういって魔導師の1人が魔法陣を展開させなにやら詠唱をしたと思うと少年の腕に火がついた。
「あ、熱い!熱い!」
たまらず少年は地面に転がり苦しんでいた。
「ハッハッハッ!無様だな。アカデミア屈指の天才であるこのエデム様に逆らうとこうなるのだ。よく覚えておけ!」
その様子を見て、フィリアはその場へ飛び出し、修道服の帽子をはたいて炎を消した。
「ひどいやけど!じっとしてください!」
少年の火傷に手を当て、もらったロザリオを手に詠唱する。
「女神アリア様、どうか迷える子羊に癒しをお与えください。ヒール!」
小さな光とともに少年の腕の炎症が和らいだ。
「う...あ、ありがとう。お姉さん。」
「大丈夫ですか?まだあまり動かさないで下さい。ごめんなさい、私の魔力ではこの程度の治癒が限界です。」
「おい貴様!何をしている!!」
魔導師がフィリアのもとに近づきながら怒鳴る。
「あなたこそ、何をしているのですか!この子、死ぬかもしれなかったんですよ!!」
「奴隷が1人死んだところで何だ。知ってるか?王国憲章で奴隷には人権がないとされているんだよ。つまりこいつは人じゃなくてモノだ!そこに転がっている木片と何も変わらない。貴様は暖をとる時にいちいち燃やされる木片の気持ちを考えるのか?白魔導の信仰はいつからアメニズムになった?」
「例え法律で人権がそうだとしても、こんな扱いはひどすぎます!」
「貴様、ただの白魔道士の分際でこのエデム様に楯突くか。戦場じゃ治癒と防御しか脳がないクセに。どうだ?お前も燃えてみるか?」
エデムと名乗る男が手をかざし、詠唱をすると魔法陣が描かれた。
「ハッハッハッ!せいぜいお得意の防御魔法で守ってみるんだな!」
「させません!」
フィリアは防御魔法を詠唱する。
「女神アリア様、どうかあなたの慈悲をもって私たちに加護をお与えください!プロテクト!」
「フン、その程度の障壁、我が魔力をもってして粉砕してくれよう!」
エデムが手をかざすと大きな火の玉が放たれた。
「こ、こんなの守りきれない...アリア様!!」
「そこまでだ。」
火の玉が弾け飛び黒い魔導師たちの方へ飛びちった。
気づくとフィリアの前に黒いボロボロの装束を着た男が立っていた。
「お前、アカデミアの入学生か?さっきのヒールだけど、新米にしては良い方だ。」
「えっ?」
フィリアは戸惑う。
「誰だ貴様は!次から次へと邪魔クサい奴らだ。」
「俺?俺は白魔導科の教師だよ。」
「嘘をつくな!私は黒魔道科で准教授の任を受けているが、貴様のような輩は見たことがない!それに弱輩者の白魔道士どもは信仰を保つために修道服を身につけて身を清めなければ、魔法を行使できないはずだ。そんな汚らわしい身なりで白魔道士などありえん!」
「ほう、よく知ってるじゃないか。さっすが先生〜。でも俺はちゃんと白魔法の先生だよ。まあ今日からの新任だから知らないとは思うけどね。」
「戯れるな!貴様の正体を暴いてやる!」
エデムは再び手をかざし、魔法陣を展開しようとする。しかし、エデムは異変に気付いた。
「...あ、あれ?」
前に出したはずの手がない。そして赤い魔方陣の代わりに赤い血が噴き出した。
「ぐっ、ぐあああっ!」
思わず叫び、エデムはのたうちまわる。
フィリアと少年はその姿をみて背筋を凍らせた。
「き、貴様ぁ!何をしたあ!」
「別に、ちょっと腕を切り離しただけさ」
「エ、エデム先生!!」
他の黒魔道士が驚いてかけよる。
「ク、クソ!!おいそこの修道女!!おれに治癒魔法をかけろ!早く!!!」
エデムはフィリアの方をみて叫んだ。
「こ、こんな怪我、私の力じゃ...ご、ごめんなさい。ごめんなさい...」
「おいおい、新米くん、こんな奴に謝る必要ねーよ。」
「ところでエデムとかいったかな?お前、さっき白魔道士は治癒と防御しか脳がないっていってたけど、今の君にはその治癒が必要なんじゃないかなー?」
「くっ...」
「はい、ヒール」
白魔法の教師となのる黒ずくめの男がヒールを唱えるとエデムの腕が元に戻った。
「な、なに!?こんなに早く、しかも短縮詠唱であの怪我が治るなんておかしい。そうか、貴様、幻術使いだな!」
「治った途端にこの調子か。俺は幻術士じゃないよ。だって痛いでしょ?ほら!」
なにやら詠唱をしたと思うと、エデムの腕が再び吹き飛んだ。
「グッ、グアアア!」
再び地面に倒れるエデム。
「クソッ、貴様、この俺にこんな!!絶対に殺してやる!」
「次は足かな」
そう言うと今度はエデムの足が吹き飛んだ。
「ううっ!」
「おっと、これじゃ死んじゃうな。ヒール。」
エデムの手足がもとにもどった。
「あ、君はしぶとそうだから、もう少しやるよ。」
再びエデム腕が吹き飛んだ。
「イッイダイッ、イダイィィ...助けて、もうやめて下さい。」
「人に謝る時はごめんなさいでしょ。」
今度は脚が吹き飛ぶ。
「ご、ご、ごめんなさい。許してくれぇ!」
「も、もうやめて下さい!!」
フィリアがエデムを庇い前に出た。
「お前を殺そうとした奴だぞ?こんなやつのこと庇うのか?」
「確かにそうですが、こんなにも痛めつける必要はありません。もうやめてください...」
フィリアは泣きながら答えた。
「分かったよ。生徒に免じてここまでにしておくよ。ほんとはあと100回くらいはこれ繰り返すつもりだったんだけどな。おい、エデム、これに懲りて白魔導をバカにするのはやめろよな。」
「は、はい」
男がヒールを唱えるとエデムの手足が回復した。
「お前ら帰るぞ。」
「はい、エデム先生...」
エデム達はゾッとした顔でその場を離れた。
「白魔導科は後方支援ばかりだから、ああやって見下してる奴が多いんだよ。特に貴族出身のやつはプライドが高いから、鼻っ柱を折っておいた方がいい。」
「ところでお前、名前は?」
「フィリア...です。」
「そうか。お前、なかなか面白そうだな。今日から俺のクラスに参加しろ。」
「えっえ!?」
「今日手続きしておくわ。じゃあ!」
そういうと男は帰ってしまった。
「お姉さん、助けてくれてありがとう。あの白魔道士の人、怖かったね。」
「う、うん...でも白魔道士があんな残酷なことできるはずがない。信仰上、他者を攻撃するとアリア様の加護が弱まってしまうから...それにそもそも、白魔道士は攻撃魔法なんて覚えられないのに...」
「大丈夫?お姉さん??」
「あ、ごめんね。大丈夫です。助けたはずの人に心配されてしまうなんて、私もまだまだですね。そういえば、君、アカデミアってどこにあるか知らない?」
「それならこの路地を抜けていけば、アカデミアの前の広場にでれるよ!」
「そうでしたか。ありがとう!それじゃ君、変な人に絡まれないように気をつけてね!」
「うん、ありがとう!!それじゃあまた!」
こうしてフィリアはアカデミアに向かった。
「それにしてもお姉さん、さっきので血まみれだったけどあのまま学校にいくのかな...?」
次回は白魔法の異端授業がはじまる予定です。