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8.不器用なんです


 オニギリを食べ終えて、人心地ついたところで、俺は気付いてしまった。

 恐る恐る伸ばした手でガタガタな石の戸を開ける。

 ズリズリと床を擦りながら開いた先は、真っ黒な空洞。

 来訪者(マオ)の応対に追われていた所為で、部屋は未完成のままだ。


「…………」


 部屋の予定地を覗き込む。窓すらない石造りの空間は、傍目に見れば牢獄も同然の様相ではないだろうか。


「…………今日はここで寝よう」


 用意されていた布団を広間の隅に引いて、身を横たえた。

 今日は色々あって疲れた。すぐに眠気が――




「こんなところで寝てる……」

「ん……?」


 どれぐらい眠っていたのか。

 ふわふわとした明かりが横切った気がする。それと共に聞こえた馴染みのない幼い声が気になって、重たい瞼を持ち上げた。

 ぼんやりとした視界には、不安そうにこちらを覗き込んでいるリムの姿があった。


「ごめん。起こしちゃった?」

「いや、眠りが浅かったんだろう。リムはどうして?」


 可愛らしいピンク色の寝間着に身を包んだリムの周りを照らすように、ふわふわと明かりの魔法で作られた光球が漂っている。天窓の向こうは未だに暗く、夜明けにはまだ早そうだ。

 気遣っているつもりなのか囁くようなリムの声に合わせて問い掛けると、しばらくの無音が返って来た。


「…………おトイレ」

「…………俺が悪かったから睨まないでくれ」


 顔を俯かせて頬を膨らませたリムに、思わず苦笑いが漏れる。

 見た目は幼いながらに、立派に女の子か。

 夕食に間に合わなかったし、用を足したついでに俺の様子を見に来てくれたのだろう。

 俺が空になった箱に視線を落とすと、同じく視線を追いかけたリムが「おいしかった?」と訊ねて来た。


「うん。おいしかったよ」

「ふふん。メルと一緒に作ったの。かんしゃして?」

「ありがとう。ご馳走様でした」


 小さな胸を精一杯に張るリムにへへえと頭を下げて感謝を示す。明かりに照らされたリムの小鼻が、ぷくぷくと得意げに膨らんだ。

 しばらく傅いていたら満足したのか、高揚した様子のリムは視線を俺の作った石の戸に向けると、哀れみの色を帯びさせた。


「それにしても……本当に下手なんだね」

「まあ、な」

「その……これの所為?」


 リムの小さな手が、俺の額の左側を撫でた。ひんやりとした感触が気持ちいい。

 魔族の角は(つい)になっている。本来なら右側と同様に角が生えているべきばしょには、わずかに膨らみがあるばかりだ。


「たぶんね」


 角は魔族の象徴というだけでなく、魔力の高さにも深く関わっている。

 共振効果だかなんだかで、大きさよりも二本の角の形が整っているのが良いとされている。そんな角を持つ人ほど、魔力の扱いが上手いのだ。


 そして俺は、生まれながらの片角だ。

 両親は他の兄弟と差別なく育ててくれたが、やはり俺の魔法の習熟は遅かった。

 だが、幸いにも俺たちには時間がある。あとはやる気さえあれば、人並みには魔法が使えるようになる。

 頑張ってようやく人並み、だが。


「魔法が下手だと四天王失格か?」

「ううん。やってくれる人がいなかったから……。でも、辛くない? 今日は挑む人がいたって聞いたよ?」

「ああ。突然で驚いたが……あのくらいなら何とかなりそうだ」


 家事手伝いの傍ら、少ない魔力で何が出来るか試行錯誤を繰り返していたおかげか、マオとの戦いでも後れを取ることはなかった。

 あのマオで人間の中でも強い方ということなら、なんとかやっていけるだろう。別に負けてもいいわけだし。


「まあ来客があった所為で部屋を作る時間はなくなっちまったけどな」

「お部屋作るのお手伝いする?」

「いや、大丈夫だ。自力で頑張るよ」


 底冷えする広間の床の冷たさに思わず頷きたくなるような魅力的な提案だが、幼子に手伝わせたとなればメルフィアさんはともかく、アリエル辺りの視線が怖い。

 ただでさえ面接での手応えを感じていないのだ。

 ここは強がりの一つもしておこう。


「そう……。頑張ってね?」

「うん? ああ。任しとけ」


 妙に気遣うリムの首を傾げながら、通用口へと向かうリムを見送る。

 部屋へ送るという提案は断られてしまった。

 通用口の扉を開けたリムが、上半身だけを扉の陰から覗かせて、パタパタと手を振る。

 それに手を振り返し、扉が閉まるのを確認してまた寝床へと身体を横たえた。


 ハードな一日の疲れは取れていなかったのか、長話で眠気が飛ぶという事もなく、あっさりと俺は意識は沈んでいった。




   ◇




 翌朝。案の定寝過ごした俺は朝食の時間ギリギリに食堂に滑り込み、苦笑するメルフィアさんに用意してもらった朝食をかき込んで、広場へと取って返した。


 さて、今日こそは部屋を完成させるぞと石の戸の前に立ったところで――


「すみません、ちょっと……」

「あれ? メルフィアさん? どうかしましたか?」


 背後から声を掛けて来たのは、つい今しがた食堂で別れたはずのメルフィアさんだった。


「今日のご予定なのですが」

「予定? 来客が無ければ部屋作りの続きをするつもりですけど」

「いえ、それよりも優先しないといけない事があります」

「なんですか?」


 マニュアルには他の業務については書いてなかったと思うんだけど。

 首を捻っていると、たおやかに微笑んだメルフィアさんがちょいちょいと下を指差した。


「床ですか?」


 ニコニコと微笑んだままのメルフィアさんは答えてくれないので、改めて足元を見る。石造りの床は汚れ一つなかった……のだけど、昨日のマオとの戦闘でタイルは抉れ、そこかしこに飛び散っている。


「え? これ直すんですか? 俺が?」


 ニコニコと。

 メルフィアさんは俺の問い掛けに答える事もなく、始終微笑みを浮かべ続けている。


 ニコニコ。


「……はい。わかりました」

「はい、ではこちらはお部屋とは違って完璧でお願いしますね?」

「え!? ちょっと!?」


 そう言い置いてメルフィアさんはそそくさと通用口へと消えてしまった。


 ……マジか。




 結局納得のいく仕上がりになかなか出来なくて、俺は丸一日を広間の修繕に費やすのだった。


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