31.コントラストが眩しくて
新たな日課となった、中庭の家庭菜園の手入れ。
火魔法による温室に水魔法の自動給水と、俺が手を入れる必要性があるのか疑問があるが、本格的な菜園は初めてなので愛着がある。
芽吹いたばかりの新芽の色合いを確かめ、虫が食っていないか一つ一つ確認していると、視界に赤い影が映った。
顔を上げてみると、俺が作らされた中庭への出入り口から顔を出したカリンが、キョロキョロと中庭を見回している。
「お? 珍しいな。お前がここに顔を出すなんて」
「うん。ちょっと見学に、な」
何処となく心細そうに見えたその姿に声を掛けると、気恥ずかしそうに頬を赤らめたカリンがこちらへと歩みを進めてきた。
迂闊に踏んではいけないと恐る恐る畑に踏み入って来るカリンに苦笑して、俺は手招きしてほとんど見分けのつかない若芽たちを紹介した。
横でふんふんと素直に頷くカリンはとても新鮮で……朱色の水着のような物を纏っただけの肌面積はいつも通りだった。
「どうかしたのかい?」
「あ、いや……すまん」
視線に気付かれたかと思わず謝罪を口にして顔を逸らすと、「何を謝っているんだ?」と不思議そうなカリンの声。
バレていなかったのか、と誤魔化しの言葉を探していると、「ヘクシッ」と可愛らしい声が隣から聞こえてきた。
「え? 今のって……?」
「…………なんだ」
ぷいと顔を背けたカリンは、真っ赤な髪越しに不機嫌そうな声を発するのだが、その耳までも赤く羞恥に染まっていた。
これがリムであったなら一通りいじくり倒す所なのだが、未だカリンとはそこまで打ち解けた関係にはなっていない。
中庭はカリンの火魔法で温かいとはいえ、それは春の陽気さながらのものだ。流石に夏でもしないような恰好をしているカリンは冷えてしまったのだろう。
「いえ、何でもないです」と視線を逸らしたまま、シャツを脱いでカリンの肩に掛けた。
俺は身体を動かしていたおかげで一枚脱いだくらいならば寒くはない。
袖を通す衣擦れの音が終わるのを見計らって振り向くと、ダブダブの袖を持て余したカリンと目があった。カリンの身長はそれなりに高いが、俺の服では大き過ぎたか。
カリンは何を思ったのか、持て余した袖に鼻を近づけて「……土臭い」などと宣った。
「どっちの意味でかな!?」
土いじりの所為なのか俺の魔法系統を揶揄しているのか、返答によっては服を剥ぎ取ってやらねば。
そう鼻息を荒くする俺を無視して、カリンはまた畑にしゃがみこんだ。
「説明、続けてもらっても?」
「お、おう……」
カリンのつれない態度に釈然としないものを感じていながらも、畑自慢をするのはやぶさかではない。
彼女の隣に腰を下ろして、一つ一つ新芽の説明を続けていると――気が付いてしまった。
シャツを羽織ったカリンの肌面積は減っているのに、シャツの裾からスラリと伸びる引き締まった脚は存在感を増し、スカートというには丈の短いシャツでは非常に扇情的な恰好になってしまっていた。
いや、こいつが下に着てるのはさっきと変わらないし!
理性が何度叫んでも、視線はついつい白いシャツから伸びた小麦色の肌に吸い寄せられていく。
当然気もそぞろとなって、説明のあやふやさを不審に思ったカリンが俺の視線を追って――
「おい。どこを見ている?」
「す、すまん! 悪気はないんだ!」
「ふむ?」
睨むでもなく訝しむ視線を送って来たカリンは、不思議そうに裾へと手を伸ばすと、「こんなものを見て何が楽しいんだ?」と不思議そうにヒラヒラとはためかせた。
その拍子に小麦色の肌の奥に朱い下着のような服がチラリと覗いて、思わず生唾を飲み込んだ。
「いや、まあ……素晴らしいものだと思うぞ」
「っ!? そ、そうか」
本人が気にしないのだし、と横目でチラチラと眺めていると、作物の説明がそぞろだと怒られた。
しょうがないので真面目に残りの説明を終えると、立ち上がったカリンは裾を下に引っ張るように伸ばし、もじもじと恥ずかしそうにしていた。
あれ?
「どうかしたのか?」
「お前がこそこそと見ようとするから、何だかアタシまで恥ずかしくなってきた」
なんと。折角の眼福が!
「分かった。これからはこそこそ見ない! じっくり見るから!」
などと戯けた事を抜かして、じっとカリンの下半身へと視線を注ぐと、当然のように硬い拳骨を食らってしまった。
「バカたれ!」とぷりぷりと怒って去って行ってしまった。
その去り際の後ろ姿、白いシャツから張りのある尻がチラチラと覗き見えてしまう事にドギマギしてしまったなどとは、口にしてはいけないのだろう。
カリンは暑がりなだけで別に痴女ではないです。




