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22.熱く激しい出迎え


 不本意ではあるが、マオたちは俺を倒してしまったので、続く四天王の火・カリンの部屋へと続く扉を開けた。しかし、二人は「消費した魔力が回復するまで休む」と言い出して、床に蹲ったままの俺の傍で座り込んで世間話を始めやがった。

 俺は冷たい床の上から二人を見上げて聞くともなしに話を聞かされていたのだが、どうやら二人はかつてパーティを組んで活躍していたようだ。


 しかし、前衛の要だったマオが当時は眉唾だった魔族の目撃情報に食いついてド田舎へと向かうと言い出したので、パーティは解散したのだとか。

 ラフローネは稼ぎの良い狩場で雇われ魔法使いをやっていたのだが、魔族の目撃情報が増えてきたので気になり、マオの顔を見るついでにここにやって来たと。


 魔族の噂が増えたのは完全に俺の所為だよな。いや、マオを送り届けるのも業務の内だったからしょうがないんだが……。

 元気溌剌なマオと成熟した大人の色気を振りまくラフローネのチグハグとしたコンビの馴れ初めから、パーティ解散に至るギスギスとした話まで語り尽くした二人は、やたらと上機嫌に部屋を去って行った。


「はぁ……やれやれ」


 ようやく静かになった広場の床に座って、俺はため息を吐いた。

 詫びだか何だか知らないが、腹痛に苦しむ俺にラフローネが回復魔法を掛けていった。おかげで昨夜からの鈍痛も収まり、今ならあいつらともう一戦交えれる程に回復している。


 だが、事故のようなものとはいえ、あいつらは実力で俺を倒したのだ。素直に見送るのが粋というものだろう。

 しかし暇になってしまったな。外の冒険者たちを村へと送り返しにでも――


「あっ」


 そういえば、あいつらが負けたらどうするんだ? もしかしたらのたらればどころか、俺に勝つのもやっとの二人だ。カリンとやり合えば十中八九、マオたちでは勝てないだろう。カリンの戦闘能力は分からないが、普通の二本角の魔族というだけで魔法の扱いが俺よりも遥かに上のはずだ。

 二人が負けた後は、あのカリンが彼女たちを村まで連れて行くんだろうか?

 外の男の冒険者たちは……運んでくれないだろうなぁ。ということは、俺が二人を受け取るのか?


「……ちょっと覗きに行ってみるか」


 他の四天王の戦う姿を見た事がない、などという野次馬根性ではなく。これは視察なんだと言い聞かせて。

 俺は二人の後を追ってカリンの部屋へと続く扉を開けた。




 幸いにも先行したマオたちに追いつくこともなく、俺は一人、カリンの部屋の扉の前へと辿り着いた。

 室内からは何か物音が聞こえるが、はっきりとしない。扉に耳を当てようと頭を近づけると、扉からジリジリと室内の熱さが伝わってくるような気がして諦めた。

 扉をゆっくりと押し開け、吹き出す熱風に目を細めながら室内を覗き込むと――マオが倒れていた。


「マッ――!?」


 思わず駆け寄りそうになるのをぐっと堪えて、さらに室内に目を凝らした。

 マオの隣では、ラフローネが魔力障壁を作り出して身を縮込ませている。その向こうには、いくつもの火球を周囲に漂わせたカリンが挑発的な笑みを浮かべていた。


 おもむろにカリンが手を振り下ろすと、三つの火球が魔力障壁に叩きつけられて爆炎を上げる。

 ラフローネの生み出した魔力障壁は何とか防ぎ切ったものの、維持するために多量の魔力を消費したラフローネの顔には、焦りの色が見える。

 カリンも魔力障壁越しにそれを見たのだろう。余裕の笑みを崩さず、追撃の火球の雨を降らせた。


 爆音を立てて火球が魔力障壁を攻め立てる。

 ラフローネが歯を食いしばって猛攻をしのいでいたが、ついにはパリンと乾いた音を立てて、魔力障壁が砕かれた。

 魔力障壁を打ち破ったカリンは嗜虐的な笑みを浮かべると、一際巨大な火球を生み出し、「トドメだ!」と二人へ目掛けて――


「ぬん!」

「っ!? あれ……? あ、貴方は!?」

「っくく。やあ、さっきぶり」


 背後から発せられたラフローネの素っ頓狂な驚きの声が可笑しくて、思わず笑いが漏れてしまった。

 だが残念がら、振り向いて彼女をからかう余裕はない。

 爆炎が晴れると訝しそうに眉根を寄せていたカリンと目が合い、その目がキッと吊り上げられた。


「お前は何をしているんだ!?」

「何って……。流石にトドメはやりすぎじゃないか?」

「負けたくせに偉そうに!」

「それとこれとは話が別だろ?」


 声を荒げるを宥めるように語り掛けて、俺は左腕に生成した岩盾を振った。魔力の残滓がこびり付いていたのか、薄っすらと岩盾の表面を覆っていた炎が掻き消えた。

 中々に気合の籠った一発だ。もしも二人に当たっていれば、軽い火傷では済まなかっただろう。

 思わず語気を強めてカリンを見つめたのだが、カリンは悪びれた風もなく、


「チッ。ちょっと、熱くなっただけだ」

「ちょっとって……」

「殺しさえしなければいいんだろ? ティアにでも治してもらえばいい」

「治せばいいって、そういう問題じゃ……あ、ちょっと!?」

「興が削がれた! 後片付けはお前がしておけよ!」


 不機嫌に唇を尖らせたカリンはそう言い捨てると、奥の別室へと姿を消してしまった。

 子供かっ。

 肩をすくめて振り返ると、床に崩れ落ちて茫然と俺を見上げていたラフローネと目線が合ってしまった。


「あ、あはは……。邪魔して悪いな」

「え? そ、そんな! 助けてくれて、ありがとう……」

「ああ、うん。どういたしまして」


 顔を真っ赤にしたラフローネが、照れからか視線を彷徨わせながら謝辞を述べるのに、俺も居たたまれなくて視線を逸らせてしまう。

 そしてはたと気付くと、暑さからかラフローネのローブは乱れに乱れていて、あられもない姿を露出していた。

 迂闊にも汗ばんだ白い柔肌に視線が吸い寄せられていると、その視線に気が付いたラフローネが「きゃっ」と可愛らしい悲鳴を上げて乱れたローブを胸元まで引き寄せた。


「み、見ないでください……」

「す、すまん! えと、そうだ! マオを治療しないと!」

「そうでした! マオ!?」


 慌てて視線を逸らした先に倒れるマオを見つけて、そちらへと駆け寄る。

 苦しそうに浅い呼吸を繰り返しているが、命に別状はなさそうだ。

 しかし、剥き出しになった手足は赤く爛れた箇所もあり、あまり状態はよろしくない。


「大丈夫そうだが、治療が必要だな。ラフローネ、魔法は?」

「すみません。もう魔力はほとんど……」


 訊ねると、ラフローネは悔しそうに首を横に振った。魔法に長けるというエルフといえど、魔族には劣るのだろう。カリンを相手に、よく頑張ったものだ。


「そうか……。いや、ラフローネはよく頑張ったよ。しょうがない、ルール違反かもしれないが、こっちに付いて来てくれ」

「え? ええ」


 俺は苦しそうに呻くマオを抱き上げ、戸惑うラフローネを連れて扉を開いた。


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