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20.変化


「どうも、お疲れさんです」

「おう。ご苦労さん」


 森を抜けて村が見えてきた所で、俺が向かうのは塀ではなく村の入り口だ。

 木の柵で作られた簡易な門を守っているのは、この村出身の自警団の者たちだ。初めはとても警戒されて大騒ぎになったものだが、ここ数日で彼等とはすっかり打ち解けてしまった。


「じゃあこれ、お願いね」

「へへっ。毎度」


 冒険者たちから巻き上げた――もとい頂戴した挑戦料(所持金の半分)から一握りばかりの小銭を門番が差し出した手の平に落とすと、下卑た笑みを浮かべ、俺の手からリヤカーを引き取る。

 後は彼等に任せておけば、宿なり冒険者ギルドなりにあの冒険者たちを運んでくれるだろう。


「ではな」

「ありゃ? 魔族の旦那。マオちゃんは預からなくていいんですかい?」


 俺の背中で眠ったフリをしていたマオに、目敏く気が付いた一人が声を掛けてきた。ピクリと反応したマオが、少しだけ俺の首に回した腕に力を込めた気がした。

 村の門番とて、その粗暴さは冒険者たちとそう変わるわけではないだろう。

 「これは別口だ」と睨みを利かせると、門番たちはピシリと硬直して怯えた目を向けてくる。


 後でマオが何と言われるかは分からんが、許してもらおう。

 抗議の声の一つも上げない背中の温もりに気を馳せながら、俺は教会に急ぐのだった。




「また来ましたか! この外道! マオさんを放しなさい!」

「分かった分かった。今降ろす……っていうか、起きてるんだから降りろ」

「あばばばばっ!? 降りる、降りるよ~」


 教会に入ると毎度のコトながら姦しいシスターが食って掛かって来るので、背中で狸寝入りを決め込んでいるマオを激しく揺さぶった。

 ガツンガツンと俺の後頭部に頭突きを繰り返して可愛らしくはない悲鳴を上げたマオが慌てて背中から逃げ出すと、ようやく暴力シスターの拳から解放された。

 力は弱いくせに、やたらと的確に俺の急所を突いてきやがる。おかげで腹がジクジクと痛い。


「用は終わりましたか? さっさと帰るのです!」

「はいはい。じゃあマオ、またな」

「うん。また明日ね」

「もう来るなです!」

「ん? ……っふ。またな!」


 何やら楽しそうなマオの様子に首を傾げながらも、湯気が出そうなほどにカッカしているアンリを鼻で笑って教会を後にした。

 



   ◇



 翌日、既にマオが来ないから実質休業日などという事は無く、昨日とは違う顔ぶれの冒険者たちが朝から長蛇の列を成していた。

 しかし、その中にマオと同レベルの実力の者は混ざっていない上に、雑談を交わすような顔見知りも当然ながらいないので、昼には行列も捌け終え、後には気絶した冒険者の山だけが出来上がっていた。

 する事もないので城門の外でリヤカーに冒険者を積んでいると、


「あれ? 今日はもう店仕舞いなの?」

「いや、暇だから運び出していたんだが……マオ? もう来たのか?」

「へへっ。こんにちは」

「随分早いな。昨日の今日だぞ?」

「うん、それがね……御覧の通りでして」


 俺の問いに照れ顔で頭を掻いたマオが森の方を指し示すと、そこにはすっかり立派な獣道が出来上がっていた。今も、黒いローブを深く被った冒険者らしき者がこちらへと向かってきている。

 毎日歩いてればそりゃあ道が出来るか。

 以前はマオでは数日掛かったという道中が、半日で辿り着けるようになったというのも納得出来る。


「なるほど。しかし、今回は修行を挟まなかったんだな? 財布大丈夫なのか?」

「ふっ、ふふ……。僕を昨日の僕と一緒にしていると痛い目を見るよ?」

「あ、そう」


 いつも財布を仕舞っている胸元を抑えて、震えながら半泣きで俺を見つめ返すマオに、俺は苦笑いしか出なかった。

 よいせっと最後の冒険者をリヤカーに積み終えると、正門を開けてマオを城内へと招き入れた、その時。

 遅れてやって来た黒ローブの冒険者もマオの後に続こうとしたので、慌てて止めに入る。


「ちょっと待ってくれ。城内は一パーティ毎だ」

「あら。それなら問題ないでしょう?」

「あん?」


 驚いた事に、冒険者には珍しく女のようだ。深く被ったフードの奥から発せられた妙に艶のあるハスキーな声には、俺をからかうような響きが混じっている。

 「あ、そうだった」と駆け戻って来たマオが、黒ローブの腕を引いた。


「友達のラフローネ。今日はパーティでいくよ」

「話は聞いてるわ。よろしく、魔族さん」

「…………魔族は種族名だ」


 マオに紹介されたラフローネが目深に被ったフードを外すと、その下からは見惚れるような美貌と共に、サラサラの金髪と、特徴的な尖った長耳が現れた。

 エルフか。初めて見るな。

 そんな驚きと、何だかマオたちの手の平の上で踊らされているようなのが気に食わなくて、ぶっきらぼうな返事しか出来なかった。


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