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2.職場は魔王城


 面接が終わるとその場で解散となって、俺は面接中高圧的だった女性に連れられて城内を歩いていた。


 威圧的な逆光から解放されてみると、彼女は明るい緑の髪に、それに合わせたライトグリーンを基調としたジャケットにスカートと、何だかやたらと陽気な恰好だ。

 緑髪の隙間からは魔族の証である角が二本、にょきりと生えている。すらりとした品のある綺麗な形だ。


 もしかしたら、さっきの面接はこの人も緊張していたのかもしれない。話してみたら気の良い人なのかも。


 なんて、淡い期待を抱いていたのだけど。


「ここが貴方の仕事場です」

「えっ? ……ここ?」


 やって来た、というより戻って来たのは城の入口。城門を潜ってすぐの大広間だ。


「えーと、門番になれ、ということですか?」

「その役割もありますが、貴方には四天王の土として、訪問者を最初に出迎えてもらいます」

「あの……その四天王って、何ですかね?」

「っ!? …………」


 何やら当然のように話が進んでいくので、何だか知らない俺が悪いみたいだけど、聞いておかなくては。

 俺の質問にピタリと固まった緑の女は、勢いよく背中を向けると、何処からか取り出した紙をペラペラと捲って「むむむ……」と小さく唸り声を上げた。


「あの?」

「っ!? ごほん! いいですか、新人! 『四天王とは、魔王を支える優秀な幹部の事』、です!」

「はぁ……えっ!?」


 カンニングペーパー丸読みな感じの返答は気になるけれど、それよりも。


「魔王様!? この城に魔王様がいらっしゃるんですか!?」

「いると言えばいますが……」

「俺もお会いできますか?」

「っ!? いえ、それは……まだ……」


 うん? なんだか歯切れが悪いな。 

 きびきびした人だと思ったんだけど。


「どうしてですか? 俺は四天王というのになったのでは?」

「ええと……そうです! 貴方はまだ試用期間なのです! そのような半端者に魔王様を会わせるわけにはいきません!」

「う……。そう言われると。じゃあ、真面目にやっていたらいつか謁見も叶いますか?」

「…………考慮はします」


 キリッとした眉根を寄せて、眉間に皺を浮かべた緑髪の女が渋々と頷いた。 


 うーん。魔王様はお忙しいから無理なんだろうか。

 でも、城の大広間を守るんだ。いずれお見掛けする事くらいは出来るだろう。


 そう一人頷いていると、


「こちらがマニュアルになります」

「うわっと!? こ、こんなに!?」


 どさりと一抱えもある冊子を渡された。重い。


「城の見取り図なども入っています。絶対に無くさないように。では」

「あっ。あの、ちょっと待って!?」


 立ち去ろうとする女を思わず呼び止めてしまった。

 しかし、手元には大量のマニュアル。読みもせずに質問をするというのも心象が悪そうだ。


「はい、なんでしょう?」

「えーと、……あ、そうだ。名前を教えてもらっても?」

「『あ、そうだ』?」

「いや……。教えて、ください」


 頭を下げると、小さなため息のような音が漏れ聞こえてきた。


「アリエル。風のアリエルです」


 顔を上げると、アリエルは生真面目に引き締めた顔にうっすらと微笑みを浮かべていた。


「あ、俺は――」

「結構です」


 ピシャリと遮ったアリエルは、ピラピラと何か紙切れを振って見せた。

 アレは俺の履歴書か? 

 確かにアレに名前は書いてあるか。


「それでは、くれぐれも……頑張ってくださいね」


 カツカツカツと靴音を広間に響かせて、今度こそアリエルは去って行ってしまった。

 広々とした広間に、ポツンと一人きり。

 どこからかヒューッと隙間風が流れ込んでいた。


「とりあえず、マニュアル読もう」


 独り言ちて、壁際に腰を下ろす。

 ……床が冷たい。




   ◇




「何々……『四天王は基本となる火水風土の四属性からなる』か。だからアリエルさんは風なのか。それで火と水の人が元々いて、土を募集していた、と……」


 圧迫面接の場に居合わせた残りの二人の面接官を思い出して、一つ頷く。


 四天王。その主な業務は、『魔王を支えて武威を示すこと』か。

 何ともよくわからない仕事だ。

 魔王陛下に仕えるなんて名誉な事のはずだけど、これだけ胡散臭いと誰も集まらなかったんだろうか。

 武威を示すというのも、普通の土魔法使いは建築魔法が専門だから、及び腰になってしまうだろう。


 チラシの見出しにも『求む! 四天王』なんて書いてあるけれど、俺みたいな半端者くらいだよな、こんなのに応募するの。

 そもそも俺は衣食住完備のとこしか読んでないしな。四天王なんて文字が目に入っていたら……いや、それでもここに来たか。

 実家に帰ったところで、まともに建築も出来ない土魔法使いなんて小作人扱いだもんな。帰りたくねぇ。


 マニュアルへと意識を戻す。

 『訪問者が魔王への挑戦を求める場合は、四天王各自がその力量を試す』か。注意事項として、『死ぬな。殺すな』? どういう意味だ? 求道者的なものなんだろうか?

 四天王についてはよくわからないので、パラパラとページを捲っていくと、城の見取り図が出てきた。


「俺が今いる広間はここか……うん!?」


 広間の奥に二階へと続く階段。その先には巨大な扉があり、その向こうにはきっと魔王様の謁見の間でもあるのだろう、と思っていたのだが。


「広間奥の扉……『閉め切り。開きません』ってなんだよそれ……」


 見取り図で見る限り、一応奥には広間があり、城自体が未完成ということでもないようだ。

 一体何故?

 気にはなるけれど、考えていてもどうせ答えは出ないだろう。他の項目を確認しよう。

 広間から続く道は他に二つ。一つは先ほど面接に行くのに通ったりした、今ほどアリエルが去っていた入って右手の通路だ。


 注釈で『順路』と書かれている。


 もう一方、入口から見て左手には扉があり、その先にも通路がある。こちらには『通用口 開放厳禁』と注釈がなされている。

 先を見てみると、娯楽室やランドリールームと書かれた部屋がいくつかある。生活用の施設が集まっているんだろうか?


 魔王陛下の城とだけあって、住人が四天王の四人だけということはないだろう。


「……ん? おおっ!?」


 通用口の先に、食堂と書かれた部屋を見つけた。

 そういえば食事付きという話だったっけか。えーと、食事についてのマニュアルは……これか。

 『正門の戸締りをして食堂へ行ってください』か。時間は朝昼晩か。今から行けば昼飯の時間に間に合うか?


 一人になって緊張が通り過ぎ去ると、忘れていた空腹感が急に襲ってきた。

 しばらくまともな物を食ってないんだよな。魔王陛下の居城ともなれば、俺みたいな下っ端にも美味い物を食わせてくれるだろうか。


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