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16.犯人はあんただったのか


 森を駆け抜けて人里へと降りていく。

 毎度の事で森を抜けるのにも慣れて少しずつ速くなっているんだが、その分マオのやつも魔王城で粘る時間も伸びているので、人間の村に辿り付くのはいつも夕方だ。

 いつものように夕闇に紛れて塀を飛び越えて村の中へと飛び込むと、何だか村の中が妙に騒がしい。


「なんだ?」

「君の所為……というか、半分は僕の所為」


 不思議に思い様子を窺っていると、俺の首に腕を回したマオが耳元で囁いて来た。


「起きてたのか。どういう意味だ?」

「ほら、いつも君が僕を連れ帰ってくれるだろう? それが誰かに見られちゃったみたいで……。この村に魔族が出るぞって噂が一気に広まっちゃったみたい」


「ふーん……。あれ? お前もその噂を聞いてこの村に来たんじゃないのか?」

「僕の時は眉唾な噂だったけど……。今度は目撃者も多いし、何より“僕がずっとここで何をしてるのか?”ってのもそれ自体が一つの噂みたいになってるみたいで……」

「そ、そうか……」

「今はまだ、森を踏破したのが僕だけみたいだけど、すぐに僕以外の人たちもあのお城に行くようになるかもしれないよ」


 悩ましいマオのため息が首筋を生暖かく撫でていき、ゾワリと背筋が逆立つ。

 当人には悪気がないので責めるわけにもいかず、モヤモヤとした思いを抱えたまま思案を巡らす。

 こいつも同じ様に魔王様を狙うライバルが増えるのを嫌がってるのかね。勇者様も大変だな。


「ていうか、起きてるなら降りるか?」

「…………まだ無理」

「そうかい」


 結局、背中にマオを負ぶさったまま教会へと忍び込んで、いつものようにアンリに怒鳴られて撤退するのだった。




   ◇




 魔王城へと戻るのは早くなり、晩餐には間に合うようになった。時間は遅いから一人だけど。

 何だか意味深な微笑みを浮かべるメルフィアさんに見送ってもらって広間へと戻ると、不機嫌そうなリムに出迎えられた。


「何を怒ってるんだ、お前は?」

「何をって……。私をあれだけ蔑ろにしておいて、よくもそんな事を言えたわね」


 ぷくっと艶のいい頬を膨らませる姿は、まるで見た目通りの子供のようで愛らしくもあるのだが……その本性を知っているとどうにも素直に慰める気にならない。


「そんなにあの人間の娘が大事?」

「なんでそうなるんだよ」

「あんなに大事そうに村まで運んで行ってあげてるじゃない」

「むぅ……」


 たしかに怪我したりしないように慎重に運んではいるけれど……。


「そもそもお前が決めたマニュアルなんじゃないのか?」

「え? アレを作ったのは私じゃないわよ」

「は?」


 じゃあ一体誰があんなものを?

 首を捻っていると、苦笑いを浮かべたリムが懐から件のマニュアルを取り出した。それは、俺のものよりもさらにクタクタになるまで読み込まれていた。


 その色褪せた表紙を、リムは愛おしそうに撫でた。その姿は、猫かぶりの少女とも腹黒魔王とも違って見えて、妙に引き込まれるものがある。

 思わず見惚れていると、俺の視線に気づいたリムが眉をひそめてねめつけて来た。


「何よ」

「いや……。あー、で、このマニュアルを作ったのって?」

「お父様」

「お父様……って、魔王陛下?」


「あなたの魔王様はわ・た・し」

「それはもういいって」

「良くない!」


 子供の様にぷんすこと憤るリムを宥めすかして、俺はようやくマニュアルの創作秘話を聞き出すことが出来た。

 魔王城のマニュアルの作者はリムの父親である魔王様。大陸西部の魔族を治めている事から西の魔王と呼ばれているお方だ。


 しかも、共著だそうだ。お相手は人間の勇者。

 そして何を思ったのか、この魔王城とマニュアルをセットで娘であるリムにプレゼントした、と。


「めちゃくちゃだな……」

「楽しい人でしょ?」


 幸せそうにマニュアルを抱きしめるリムは、見た目相応の少女のように見える。――まあ気のせいだが。


「お前は何だってこんな所に追いやられたんだ? 悪ガキが過ぎて魔王様に見放されたのか?」

「そんなわけがないでしょ! お父様はちゃんと私を愛してくださってるわ!」


 ほんの軽口のつもりだったが、凄まじい剣幕で食らい付いて来たリム、「ただ――」と続けた。


「お忙しすぎて……そして危険だからって、私をこんな場所に送ったの。自分の右腕まで付けてね。だから、私はお父様のお手伝いが出来るくらいに、立派にならないといけないの」

「そういや、メルフィアさんに『サボらないでください』ってしょっちゅう怒られているな……うん? 誰が立派だ?」

「ちょっと羽を伸ばすくらいいいでしょ!?」


 んべっと舌を伸ばすリムは生き生きとしていて、これもこいつなりの息抜きなんだろうかと考えさせられる。

 しょうがないから付き合ってやるか、などと親切心を出した俺が憎らしい。

 リムの父親自慢は、あいつが欠伸を噛み殺すようになるまで続いた。眠い。


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