1.仕事がない!
異世界ファンタジーの日常系でほのぼのとしたコメディになると思います。多分。
『誠に残念ながら、今回は採用を見送らせて頂きます』
またかよ、ちくしょう。
何が『ご健勝をお祈り申し上げます』だ!
祈るぐらいなら雇ってくれればよかろうに!
ぐしゃぐしゃに丸めた手紙を地面に叩きつけて、やるせない憤りに拳を震わせる。
陰鬱とした気分でトボトボと足を動かした。
はぁ。いい天気だなぁ……。
麗らかな春の昼下がり。からりと晴れた青空に、何処からか子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
そんな陽気に相反して、俺の心と懐には空っ風が吹き荒れていた。
「……しま~す………………お願いしま~す!」
「うん?」
閑散とした通りをぶらぶらと当てもなく歩いていると、小さな女の子が必死に声を張り上げていた。
何事かと目を凝らすと、道の先で何やら紙のようなものを必死に道行く人に差し出している幼い女の子の姿があった。
チラシ配りか? ご苦労なことだ。
少女の長い銀髪は、陽気に照らされてキラキラと煌いていた。しゅるんと伸びた角もどことなく上品で、身なりもいい。良い所のお嬢さんだろうか。
特に感慨もなく眺めていると、前を歩く男が少女から紙を受け取り、チラリと視線を落としてクシャリと丸めて路面に投げ捨てた。
む。何もそんな捨て方をしなくても……って。俺は何を腹を立ててるだ。見ず知らずの子供だろうに。
他人の心配をする余裕などないだろうと寒い懐具合を思い出して頭を掻いていると、手渡した紙の行方を視線で追っていた少女が道端に屈み込み、丸められた紙を拾い上げた。
俯く銀髪の少女はクシャクシャに丸められたそれを丁寧に広げると、四つ折りにしていそいそとポケットに仕舞い込んだ。
そしてすくっと立ち上がると、切なげに寄せられた眉毛の下、晴れた空のように澄んだ青い瞳と目があった。
「あっ」
思わず立ち止まって眺めていた俺に気付いた少女が、きゅっと唇を引き締めた。
「よろしくお願いします!」
「えっ!? あ、うん……」
差し出されるままに紙切れを受け取ってしまった。
思わず手元の紙切れと少女との間を視線が行き来してしまう。
「?」
「あはは……、どうも」
少女の無垢なくりっとした目に見つめ返されて、受け取った紙切れを丸めて捨てる事は勿論、突き返す事も出来なくなってしまった。
愛想笑いを浮かべて紙切れを胸元に引っ込めると、少女はにぱっと花が咲いたような微笑みを浮かべて、「お願いしますね!」と繰り返した。
「はぁ……あっ、ちょっと!?」
どうしたものかと紙に視線を落とした間に、少女は次の獲物を求めて銀髪を翻して駆けて行ってしまった。
俺、何をお願いされたんだ?
見ず知らずの子供のお願いを聞く余裕なんて……、と握っていた紙へと視線を落とすと。
「……お?」
◇
全ての人が扱える魔法には、得意な系統がある。
火系統魔法が得意な人、水系統魔法が得意な人。それぞれの個性だ。
各属性毎に向き不向きもあるし、それで世の中は上手く回っている。
「貴方の得意な魔法は?」
「土系統、です」
「ふぅん……?」
硬く冷たい声色で俺に質問を投げかけた女性が、おもむろに指を組んで口元を覆い隠した。
居並ぶ面接官たちは窓から差し込む逆光で表情も窺い知れない。翻って俺は日差しに照らされて顔をしかめないようにするので精一杯だ。
これが噂に聞く圧迫面接という奴か。しかし、今まで散々揉まれて来たんだ。今更このくらいで……。
「この申告書には職歴無しとありますが、今まで何を?」
「っ。……はい。実家で農業の手伝いをしていました」
世の中はバランス良く回ってる。一部の例外を除いて。
土系統魔法に攻撃能力はほとんどないが、その代わりに石材を生成する建築魔法の需要は他の系統魔法よりも遥かに高い。
とはいえ、その需要は極めて限定的だ。
頑張って弟子入り試験を突破した一級建築士の先生には、面接で落とされた。
泣きついた二級建築士の親方も、息子が出戻って来たとかで修行中にクビにされた。
それ以外も、身内優先で雇用は埋まってしまい、弟子入りしての修行もままならず、俺は土魔法使いとしては半端者となってしまった。
もう何もかも嫌になっていた俺が、それでもこの面接に来たのは――
「でも、これには『能力不問』って書いてありますよね!?」
「む……」
俺が手に持ったチラシを突き付けると、高圧的だった女性がたじろいだ気配がする。
あの日少女から手渡されたチラシ。そこには『土系統の魔法使い募集。能力問わず!』と書かれていたのだ。しかも三食住居付き。
これはきっと、運命に違いない。
俺はそんな淡い希望に突き動かされて、この辺鄙な森の中にある城へとやって来たのだ。
見上げるような巨大な城。その古びた門を叩いて顔を出したメイドにチラシを見せると、『え? マジで来たの?』みたいな顔でこちらを二度見していたけれど、きっと気のせいだ。
通されたのは城の規模の割にはこじんまりとした応接室で、そこでしばらく待たされた。
面接の準備でもしているのかな? などと思っていたら、どやどやと人が入って来て突然面接が始まったのだ。
向こうは女性ばかりが三人。しかも、何だか歓迎していない雰囲気だ。「どうしましょう?」とか「あんたが話しなさいよ」とか囁き声が聞こえてくる。
あれ? お呼びで無い? でもあの子から貰ったチラシには確かにここに来いと書いてあったしな……。
妙な胸騒ぎを覚えながら、俺は完全アウェイな中で圧迫面接を受け続けた。
そして、俺は見事“四天王の土”になったのだった。
……なんだそれ?
書き溜めた分を1日1話ずつ投稿する予定です。その後はしばらく休んで書き溜めて、という予定です。気長にお付き合いしていただけると嬉しいです。
ご意見ご感想お待ちしています。
※追記 今作は数行毎(およそ150字以内)で一行空けを行っています。
これは『スマホで読みやすい』という理由で一部のwebサイトなどで推奨されているやり方なのですが、それがなろうのレイアウトに合っているのかどうか、私には判断がつきません。
読みやすい、読みにくいなど、お気軽にご感想をもらえると助かります。
(現在の読者層はパソコンとスマホで半々なので、どちらの意見でもありがたいです)