二日酔いに負けず新しい武器と防具の性能を試す②
前回のあらすじ:美雪は風食魔の籠手と鷹目の眼鏡を、愛は青鉄熊剛拳-極-を、ユウジは神盾アイギスを手に、新しい装備品の性能の確認へ向かう。
「着いたー!!石像の荒野ー!!今日もゴーレムいっぱいボコボコにするぞー!!この青鉄熊剛拳でー!!」
「愛さん!!新しい武器で浮かれてるのは分かりますが、前みたいに暴走しないでくださいよ!!」
「大丈夫、サっちゃん。今日は俺が全ての攻撃を受ける。この神盾アイギスで!」
サっちゃんの鍛冶に必要な炉の素材を入手するため、石像の荒野を訪れた私達。
草木は生えておらず、渇いた荒い土に、身長を超える程の岩石が剥き出しになったフィールドの中を、2メートル程の岩で作られた人型のモンスターと、1メートル程の泥人型のモンスターが数多く歩いている。
おそらく、あれが今回のターゲット、ゴーレムと泥人形だろう。
ターゲットを確認したところで、サっちゃんがコホンと小さく咳をして話し始める。
「それでは、人引き車の中でも説明しましたが、作戦のおさらいをします。今回は美雪さんがいるため、攻撃力は大幅アップしていますが、回復役は不在です。たっっぷり買い込んだポーションがありますが、私が投げかけるのにも限界があります。前回と同様、無理は禁物です。複数で群れを作ってるモンスターは無視します。群れから離れた、一匹でいるモンスターを確実に倒していきましょう。各個撃破です。」
「オッケーオッケー!キンチョー感を持って、カッコゲキハだね!この青鉄熊剛拳で、カッコゲキハする!!」
「大丈夫、サっちゃん。今日は俺が愛の暴走を止めるからな。この神盾アイギスで!」
いやー、愛とユウジは分かりやすく新しい装備品に浮かれてるなー…。
サっちゃんの作戦を聞きながら、私は弓に矢をつがえ、大きく引き絞る。
「美雪さん…?なんで無言で弓矢を構えてるんですか…?」
「多分、風食魔の籠手を装備した状態で、ちゃんと弓矢を使えそうか試してるんだろう。」
「もー、美雪ったらー、新しい装備品に浮かれちゃってー!まったくもー!」
「ロケットアロー!!」
「「「!?」」」
爆音と共に、私の放った矢が遠くのゴーレムの胸に突き刺さり、光の粒へと変える。
「はー…。鷹目の眼鏡すごいわね…。あんな遠くにいるゴーレムも簡単に狙えるわよ。転生前の世界でも、双眼鏡や望遠鏡って遠くを見るための道具はあったけど、ズームに時間がかかったり、なんとなく焦点が合わなくてぼけたりしたってのに、鷹目の眼鏡にはそれが無いなんて…。スキル必中と合わせたら効果絶大ね。ありがとう、セクレト。」
「美雪さん!?」
私が群れから離れたゴーレムを各個撃破したところで、サっちゃんが耳元で大声を上げる。
驚いて声のした方を確認すると、サっちゃんが顔を赤らめて頬を膨らませている。あれ?怒ってる?
「な、なに、サっちゃん?言われた通り、群れから離れたゴーレムを各個撃破したのだけど…?」
「なんで大きな爆発音のする攻撃を、突然ぶっ放すんですか!?ビックリして、心臓が飛び出すかと思いましたよ!!」
顔を赤らめて、私の腕をポカポカ殴ってくるサっちゃん。
ほんと、見た目と行動は可愛らしい少女だな、サっちゃん(236歳)。頭を撫でながら、謝罪をする。
「あ、そっか。サっちゃんは私の爆発魔法を見るの初めてか。ごめんごめん。」
サっちゃんに謝罪しながら、念のため他の二人にも謝罪をしようとサっちゃんの後方を確認する。
そこには、私に対して神盾アイギスを構えるユウジと、ユウジの後ろから怯えた目を向けて威嚇する愛が立っていた。
怯えて威嚇する愛とユウジに、私は素直に頭を下げる。
「…ごめん。だから、そんな危険な人を見るような目を向けないで…。」
「「本当…?」」
「…本当。びっくりさせてごめん。」
私の謝罪に、愛とユウジは怯えながらも、盾を下ろし緊張状態から戻る。
愛とユウジを怯えさせてしまったが、新しい装備品に浮かれた状態は落ち着けることに成功したから、まぁ良しとする。
サっちゃんが、警戒するのは愛さんだけじゃなかった…?と呟いていたのが気になるが、きっと聞き間違いだろう。それじゃ、まるで私が警戒対象みたいじゃないか。
最初にひと騒動があったものの、それからの私達は、順調にゴーレムと泥人形を討伐していった。
「美雪ー!!私が殴り掛かろうとするゴーレムを爆殺しないで!!私の標的を奪わないで!!」
「いやー、ごめんごめん。鷹目の眼鏡が思った以上によく見えるから、つい後方支援が捗っちゃう。あ、あそこにもゴーレム。ゲイルアロー!!」
「いや、どんだけ遠くのゴーレムを倒したんすか…?やっぱり美雪さんって、凄腕スナイパーなんじゃ…?なにサーティーンなんすか…?」
「あのー…、ゴーレムや泥人形のついでに、ラヴァゴーレムやアイアンゴーレムを倒さないでください…。さっきまで緊張感を持っていた私が馬鹿らしく思えるじゃないですか…。」
ゴーレムや泥人形だけでなく、たまに現れるラヴァゴーレムやアイアンゴーレムも、愛の鬼火流剛術、私の遠方支援射撃、ユウジの神盾アイギスを用いた防御からのデュランダルの反撃によって、次々と光の粒へと変えていく。
順調にゴーレムと泥人形を倒していく中、ふと疑問を感じた私はサっちゃんへ声をかける。
「サっちゃんが召喚するゴーレム、このフィールドだと紛らわしいわね…。」
「ごつごつで手足が長い、岩で作られた野生のゴーレムに比べて、私のゴーレムは手足が短いずんぐりむっくり体型で、土で作られたゴーレムです。見た目は全然違いますよ?」
「いや、見た目や体型じゃなくて、呼び名のこと。同じゴーレム呼びじゃ、指示出しの時に紛らわしいのよ。サっちゃん、ゴーレムを使ってゴーレムの行動を邪魔して…って感じで。」
「確かにそうですね…。どのゴーレム?ってなりそうです。」
「そんなわけで、サっちゃんのゴーレムは、ゴーちゃんね。」
サっちゃんのゴーレムだから、ゴーちゃんだけど、我ながら安直だったかな?
不安に感じたが、サっちゃんの表情はパァっと明るくなる。
「はい!ゴーちゃんで構いません!」
サっちゃんのゴーレムの呼び名が決まったところで、アイアンゴーレムと戦う愛とユウジを確認する。
新しい武器である青鉄熊剛拳を装備した愛は、アイアンゴーレムの硬い体も難なく砕いていく。
その硬い体によって、物理攻撃があまり効かないのが特徴のアイアンゴーレムなのに、剛を極めんとする愛さんには関係無しだ。味方ながら、恐ろしい子。
愛の恐ろしさを再確認したところで、もう一人の仲間を確認する。
「しかし、星五装備品で固めたユウジの安定感はすごいなぁ。」
「神話級の剣と盾を装備してますからね…。もはや、英雄クラスですよ…。」
ユウジはアイアンゴーレムの重量が乗った反撃も、神盾で正面から軽々と防いでる。普段は相手の攻撃に対して、盾を斜めにして衝撃を受け流しながら防いでるのに、今日は正面から堂々と受けることで、神盾の性能を試してる。
さらに、反撃は鋭い切れ味のデュランダル。片手での攻撃でも、アイアンゴーレムの硬い体を傷つけていく。あれ、両手で振り回したら、アイアンゴーレムくらいなら両断出来るんじゃないか?
私も星五装備品である風食魔の籠手を持っているけど、地属性魔法か火属性魔法しかいないこのフィールドでは、風魔法吸収の効果を発揮できないからなぁ…。今日の戦闘ではあまり性能を実感することができない…。
少し残念に感じていたところで、サっちゃんの慌てた声が聞こえてくる。
「美雪さん!!ミスリルゴーレムです!!態勢を整えるため、一旦逃げましょう!!」
サっちゃんが指差す方を確認すると、そこには青白く光るゴーレムが立っていた。
普通のゴーレムの二倍弱の大きさのミスリルゴーレムは、仲間を倒された恨みを感じさせる瞳で、私達を睨んでいた。
これは、まずい。そう思った私は仲間へと指示を飛ばす。
「愛、参の型で先制攻撃!!深追いはせずに、すぐ回避!!弐の型と参の型を中心に、隙を見せたら壱の型!!終の型は絶対に使っちゃダメよ!!ユウジは敵の反撃を神盾で防いで、デュランダルで反撃!!大振りではなく、あくまでも防御を主体にした小振りで!!私は足元に爆発魔法でミスリルゴーレムの体勢を崩すことに徹する!!」
「「了解!!」」
「いや、美雪さん…。」
何か言いたそうなサっちゃんを片手で制する。大丈夫、分かってる。
「サっちゃんは、ゴーちゃんの陰に隠れて、私達へポーションを使っての支援をお願い!!」
「いや、私への指示を求めたわけでは…。」
「愛、ユウジ!!大振りは手痛い反撃を受ける可能性が上がるから、あくまでも防御主体の攻撃を意識して!!今日はシロ君がいないから、回復や地属性魔法による支援は受けられない!!もどかしいかもしれないけど我慢で、少しずつ相手のHPを減らすわよ!!」
「「了解!!」」
サっちゃんの何か言いたそうな視線を感じながらも、私達はミスリルゴーレムとの戦闘を始める。
「愛、ユウジ、サっちゃん!!ミスリルゴーレムのHPが半分ほどに減ったわ!!こちらは大きなダメージを受けてないし、MPも多く残ってる!!このペースなら苦戦せず倒しきれるわ!!」
「いや、美雪さん、それフラグ…。」
ユウジが何かを言おうとしたところで、今まで物言わぬモンスターだったミスリルゴーレムが、天に向かって大きな鳴き声を上げる。
「な、なに!?この地を震わせるような鳴き声は…!?」
「ミスリルゴーレムが鳴き声を!?まさか…!?」
「美雪さんがフラグ立てるから!!」
「うるせぇ!!」
何か起きそうな雰囲気を無視して、大きな鳴き声を上げるミスリルゴーレムの胸に、愛さんが正拳突きを打ち込む。愛の正拳突きを受けたミスリルゴーレムは、ふらりと体勢を崩し、鳴くのを止める。
「何かをしてくるのが分からないなら、何かをしてくる前に倒しちゃえば良い。それが鬼火流剛…って、ぬわぁ!!」
なにやら鬼火流剛術の教えを披露しようとする愛に、風の塊のようなものが炸裂する。とっさに腕を組んで防いだようだが、愛は大きく吹き飛び地面に倒れる。
「ユウジ、スキル挑発を発動して防御に集中!!大丈夫、愛!?」
地面に倒れていた愛は、両手を使ってぴょんと起き上がる。髪がボサボサになっている以外に大きな怪我は無さそうだが、辛そうに顔を歪める。
「大したことない軟弱な風だと思ったけど…、なんでか体がダルくなるー…。」
愛のHPを確認すると、半分ほどに減っている。なんで愛がこんなにダメージを受けてるんだと疑問に思ったが、すぐに原因に辿り着く。
そうか、さっきのは魔法による攻撃か。魔法防御が異常に低い愛にとっては、不意打ちの魔法攻撃は効果抜群だったのだろう。
私はサっちゃんにHP回復ポーションをお願いしようと思ったが、サっちゃんは空を見ながら固まっていた。
「そんな…、なんでここにウィンドワイバーンが…!?」
「ウィンドワイバーン…!?」
愛に私が持っていたHP回復ポーションを投げつけながら、サっちゃんの声を聞いて空を見上げる。そこには、数匹の黒い影が空を飛んでいた。
シロ君、解説をと言いそうになったが、今日はシロ君はいない。代わりに、サっちゃんが私の質問に答えてくれる。
「きっと、さっきのミスリルゴーレムの鳴き声で、ウィンドワイバーンを召喚したのでしょう!!ウィンドワイバーンは適正討伐レベル36ですが、遠方から風属性魔法を繰り出してきます!!ミスリルゴーレムと戦いながら、ウィンドワイバーンの遠距離攻撃の風属性魔法に対応するのは難しいです!!ここは逃げましょう!!」
風属性魔法での、遠距離攻撃…?
サっちゃんの声を聞いて、私は思わずニヤリと笑ってしまう。戦略を立てて、愛とユウジへと指示を飛ばす。
「ユウジ!!ウィンドワイバーンへのスキル挑発は解除して!!ユウジはミスリルゴーレムからの攻撃に集中!!愛もミスリルゴーレムへの攻撃に集中!!愛とユウジでミスリルゴーレムを対応して!!ただし、終の型は使わないこと!!」
「分かった!!」
「美雪さん、ウィンドワイバーンはどうする!?どんどん数が増えてるぞ!!」
「私に任せて!!私にとってボーナスみたいなもんだから!!」
「ボーナス…?」
「ボム!!」
キョトンとした表情を浮かべるサっちゃんとユウジに、私はニヤリと笑って爆発魔法ボムを空に向かって放つ。ドーンと空気を震わせる爆音に、全てのウィンドワイバーンが、ギラリと私のことを睨む。
自分の領分である空を侵されて怒り心頭といった表情のウィンドワイバーンは、一斉に私に向けて風属性魔法を放つ。
「おい、美雪さん!!そんなことしたらウィンドワイバーンの攻撃が集中しちま…って、そういうことか…。」
神盾を構えて私の前に立とうとするユウジだが、すぐに私の意図に気付いたのかミスリルゴーレムの前へと戻る。
たくさんの風属性魔法が私に向かって飛んでくる中、私は両手を前にして立つ。ウィンドワイバーンの放った風属性魔法は、私の体に当たる直前に無効化され、両手に装備した籠手へと吸収されていく。
「あぁ…、MPが回復していく…。このMPを使って…、テンペストアロー!!」
MPをごっそり奪うため、普段はあまり使わないようにしている武技テンペストアローを、ウィンドワイバーンへと放つ。
高威力、高消費のテンペストアローを受けたウィンドワイバーンは、一撃で光の粒へと姿を変える。
ニヤリと笑った私に、他のウィンドワイバーンが反撃の風属性魔法を放ってくるが、全て私の籠手へと吸収されていく。
「サっちゃん、フィールドボスモンスターであるミスリルゴーレムが現れてる間って、他に危険なモンスター現れなかったりする?」
「あ、はい!!フィールドボスモンスターが現れている間は、基本的に他モンスターは現れません!!ウィンドワイバーンのように、ボスモンスターが召喚する特殊なモンスター以外は現れません!!」
「なるほど!サっちゃん、ウィンドワイバーンの素材って、高く売れる?」
「え!?ウィンドワイバーンは普段上空を飛んでいるため、なかなか素材が手に入らないのですが、武器にすれば風属性魔法を帯びたものになり、防具にすれば風属性への体制を得られ、肉はとても美味しいため、食材としても人気の素材ですが…って、突然なんですか!?」
「愛、ユウジ!!方針転換!!ミスリルゴーレムは殺さないように、さっきの鳴き声を誘発して!!召喚されたウィンドワイバーンは、私が倒していくから、ユウジは防御に集中!!愛はミスリルゴーレムを倒す直前までHPを削った後は攻撃を止めて、敵の攻撃を回避する練習!!」
「「了解!!」」
「え?美雪さん…?」
愛とユウジが防御に徹するのを横目に、指示を受けれなかったサっちゃんが困惑の声を上げるため、私はサっちゃんにも指示を飛ばす。
「サっちゃんはさっきまでと同じように、ポーションで支援を!!私にはポーションはいらないけど、防御の要であるユウジと、無茶をしがちな愛のHPとMPには注意して!!」
ウィンドワイバーンの放つ風属性魔法をMPに変換しながら、私はテンペストアローで各個撃破していく。飛び回るウィンドワイバーンだが、鷹目の眼鏡とスキル必中の効果で、テンペストアローを外すことはない。
「HPかMPのポーション、どちらかが10個を切れそうになったら、教えて!稼ぎを止めてミスリルゴーレムの討伐へと移行するから!」
「稼ぎ!?今、稼ぎって言いました!?フィールドボスモンスターであるミスリルゴーレムを相手に、召喚するウィンドワイバーンで稼ぎをするんですか!?」
驚愕といった様子のサっちゃんの声に、私はにこりと笑ってこくりと頷きながら、テンペストアローでウィンドワイバーンを光の粒へと変える。
頭の中に響くレベルアップの音声と、マグカに表示されるアイテム欄に増えていくウィンドワイバーンの素材で私は確信する。
こりゃあ、忙しくなるぞ…!!
「おい、愛、サっちゃん…。美雪さん、全身にウィンドワイバーンの攻撃を受けながら、マグカ見て笑ってるぞ…。」
「私が一発で大きなダメージを受けた風攻撃を、あんなに全身に受けて平然としてるなんて…、美雪、恐ろしい子…!!」
「いや、愛さんとユウジさんも、何気ない会話をしながら、ミスリルゴーレムの攻撃を軽々と防御と回避をしないでください…。あぁ…、私の中の常識がドンドン覆されていく…。」
ウィンドワイバーンの風魔法からMPを無尽蔵に得られるため、消費を気にする必要が無い、効率的に経験値と資金を増やせる機会。
こんな美味しい機会を、逃がすわけにはいかない。
「あーっはっはっは!!」
ドンドン貯まるウィンドワイバーンの素材と経験値に、私は高笑いをしながら、ミスリルゴーレムが呼び出すウィンドワイバーンを次々と光の粒へと変えていく。
どれほどのウィンドワイバーンを倒しただろうか。10匹を超えたところで数えるのをやめたが、かなりの数を倒しただろう。素材と経験値はがっぽがっぽである。
しかし、私のレベルは39に上がってから、少しも上がらなくなった。
「これは、あれね。レベル40の壁ね。」
レベルの壁とは、レベルが10の倍数に上がる時に現れる、強敵を倒さないとレベルが上がらないというもの。
レベル10の壁は夢の中で戦った黒い影、レベル20の壁はファストの町のボスモンスター大悪魔グラットン、レベル30の壁は私の勘違いで闘技場で戦ったペトラさん。
さて、レベル40の壁はどうしよう。
愛は夢の中でミスリルベアを倒した時、ユウジはこの前ミスリルゴーレムを倒した時にレベル40の壁を超えたと言っていたけど、私もミスリルゴーレムを倒したらレベル40の壁を超えられるかな?
いや、無理だな。ミスリルゴーレムには悪いけど、今すごく余裕な状況だもん。苦戦するほどの相手じゃないと、レベルの壁は超えられない。
ウィンドワイバーンの風攻撃を吸収しながら、レベル40の壁の相手について考えていたところで、頭の中に間延びした声が響く。
「レベル40の壁の相手にお困りー?そんな悩まなくても、大丈夫だよー!すぐに美雪ちゃんの目の前に現れるからー!」
間延びしたノアの言葉の内容に、嫌な予感を感じると同時、石像の荒野に着いた時にサっちゃんから言われた言葉を思い出す。
「フィールドボスモンスターは、フィールドのモンスターを何体も倒していると現れる強力なモンスターのことです。」
この石像の荒野のフィールドボスモンスターであるミスリルゴーレムと戦闘中だから安心していたけど、ミスリルゴーレムはゴーレムをたくさん倒してたから現れたってことよね?
それじゃ、私がいっぱい倒していたウィンドワイバーンは…?
私の嫌な予感が的中だと言わんばかりに、クロロロロロという今まで聞いたことのない何者かの鳴き声が上空から聞こえてくる。
続けて聞こえてくる大きな羽音に頭を上げると、羽の生えた蛇のようなモンスターが空を飛んでいた。
コウモリに似た大きな翼に、細く鋭い角を持つ頭に長い首。そして、首に負けないくらい長い尻尾が特徴の、まるで翼の生えた蛇のようなモンスターには、見覚えが無い。
全長10メートルはある巨大な蛇は、クロロロロロと鳴き声を上げながら、その鋭い両目で私を睨んでいる。まるで、仲間を数多く殺した私を憎むように…。
「あ、あれは…、ウィンドドラゴ…!?なんで、こんなところに…!?」
「ウィンドドラゴ…!?サっちゃん、知ってるの!?」
「適正討伐レベル56の強力なモンスターです…。風竜とも呼ばれるウィンドドラゴンの幼体で、幼風竜とも言われていますが、強力な突進攻撃と、牙の毒、口から放たれるウィンドブレスが武器の危険なモンスターです。」
サっちゃんから得た目の前のウィンドドラゴの情報に、私は仲間へと指示を出す。
「愛とユウジはミスリルゴーレムを集中して倒して!!私はそれまでウィンドドラゴの注意を引くから、サっちゃんはポーションで援護をお願い!!」
「「了解!!」」
「え!?戦うんですか!?無茶です!!フィールドボスモンスターが二体ですよ!!逃げましょう!!」
「鬼火流剛術 壱の型!!牡丹!!」
サっちゃんが逃亡を提案する中、どぉん…と大きな衝撃音が石像の荒野に響く。
音のした方を確認すると、ミスリルゴーレムが光の粒になって消える前で、愛が拳を引いて大きく息を吐いていた。
「これで、フィールドボスモンスターは一体。逃げる理由が無くなったね、サっちゃん!」
愛の頼もしすぎる言葉に、思わず私は笑ってしまう。サっちゃんが引きつった笑みを浮かべる中、クロロロロロと鳴き声を上げるウィンドドラゴを睨みながら、私は右肩をぐるぐると回す。
「適正討伐レベル56のウィンドドラゴね…。レベル40の壁の相手としては充分ね!いくわよ!!」
「「おう!!」」
「ははは…。」
サっちゃんが渇いた笑みを浮かべる中、愛とユウジと私はウィンドドラゴへと駆け出す。




