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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
王都滞在編 -新しい仲間と共に王都での生活基盤を整え強くなる-
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夢の中で転生初日の夢のことを確認する

前回のあらすじ:パーティ名決めて、乾杯したところから憶えてない。


深い眠りから目覚めた私は、無限に続く黒い空間の中で、状況を確認するために立ち尽くしていた。


「ん?ここはノアがよく私を呼び出す空間っぽいけど…。いや、なんか全体的に暗いな。ノアの空間は真っ白だったわよね…。それじゃ、ここは?」


「ここは我が管理する、黒の空間。ノアが管理する白の空間とは異なる場所だが、同じような空間だと思ってもらって構わない。」


暗闇の中から、ぼうっと白い光に包まれた一人の男が浮かび上がってくる。

背が高いが、体は骨が浮かび上がる程に痩せている。片手には先の曲がった杖を持ち、顔にはツタンカーメンによく似た仮面を被っている。

全身を覆う白い布と煌びやかな装飾に、仮面と杖も相まってエジプトの壁画を思わせるような男だ。

そんな不思議な男は、杖をカツーンと鳴らしながら、重々しい声で呟く。


「お主、今日は飲み過ぎだ。飲んでも飲まれるな。この言葉はお主の世界の、先人の知識が詰まった名言ではなかったのか。お主は、親父の小言と冷酒は後で効く、を読み返すべきだ。よく居酒屋のトイレの壁に書いてあるだろう…と言っても、飲みに行かずに社畜をしておったお主は、見覚えが無いかもしれん。我が読んでやろう。火は粗末に…」


エジプト男はぐちぐちと私に説教をしてくる。

親し気に話しかけてくるが、こんな特徴的すぎる見た目の男、私は見覚えが無い。見覚えは無いが、この声には私は聞き覚えがある。


「この声は…、セクレト?」


「朝はきげんよくしろ…、然り。我はセクレト。お主が闘技場で窮地に陥っていた時に声をかけ、シークレットスキルの覚醒を促した者。お主ら転生者のシークレットスキルの管理人、セクレトである。」


「あなたがセクレト…。…なるほど。」


親父の小言を延々と説明していたエジプトっぽい男は、私がペトラさんと戦っている時に聞こえてきた声の主、セクレトで間違い無かった。

突然、夢の中で現れたセクレトに、私は感じたままの疑問を伝える。


「シークレットスキルの管理人…、秘密の番人みたいな存在のあなたが、こんな簡単に私の前に姿を出して良いの?ノアもそうだけど、私にだけ、支援が手厚すぎない?」


シークレットスキルの存在を確認した後、同じ転生者である、愛、ユウジ、トウカさん、ササラさんに確認をしたが、セクレトなんて男の声は聞いたことが無く、シークレットスキルの効果を感じる場面も無かったという。

普通の転生者なら、その存在も効果も分からないまま終わるのもおかしくないシークレットスキル。

そんな文字通りの秘密の力であるシークレットスキルを、私はセクレトさんから覚醒の手ほどきを受けただけでなく、ノアから効果の太鼓判までもらっている。


どう考えも、好待遇過ぎる。なにか裏があるのでは…?

不穏な気配を感じた私は、目の前のセクレトに真意を確認しようとする。しかし、人の心理を読み取ることが出来るセクレトは、私の疑問に先回りで回答する。


「本来はお主ら転生者に支援することは禁じられている。しかし、お主に関しては、想像を司るノアからも、手助けをすることを許可されておる。そのため、こうして余はお主の前に現れた。」


「え?ノアが?なんで?」


「ノアはお主に申し訳なく思っていることがあるのだ。」


「ノアが私に?」


我が道を往くって感じのノアが、私に何を申し訳なく感じているのだろう?転生してからのことを思い返すが、特に心当たりが無い。


「ノアがお主に申し訳なく思っていること。それは、ノアがお主の転生理由…、前の世界での死因を、働き過ぎによる過労死と謝って伝え、本来の死因よりも少ない転生ポイントを与えてしまったことに責任を感じているのだ。」


「本来の死因?え?どういうこと?」


「あの時のお主は混乱しておったから仕方が無いが…。持病なども無く、暴飲暴食もしない、健康体の二十代女性のお主が、過労状態に運動不足とはいえ、突然の脳出血による死亡は、おかしいと感じないか?」


「私に医学の知識は無いけど…。言われてみれば確かに、なんとなく確率は低そうね…。それじゃ、私の本当の死因は、何なの?」


「お主の本当の死因は、頭を強く打ったことによる脳出血。そして、出血による圧迫を受けた脳動脈瘤の破裂だ。」


「頭を強く打ったことによる脳出血に、出血による脳動脈瘤の圧迫?え?どういうこ…、って、あぁ、そうか。なるほど。」


「思い出したのだな。」


「えぇ。そういえば死ぬ前に頭に強い衝撃を受けてたわね…。」


「然り。お主が死んだあの日。お主は、先輩社員と一緒にお昼ご飯を食べる前、己の身を鑑みず、一人の少年を交通事故から救った。無我夢中のお主は気付かなかっただろうが、お主はその時に致死の一撃を受けていたのだ。」


セクレトの言葉で思い出す。

私は転生前の世界で、一人の少年を交通事故から救っていた。


私と先輩が一緒にお昼ご飯を公園で食べていた時、ボール遊びをしていた少年が道路に飛び出した。

彼は以前から、妙に私と先輩に話しかけてくる、人懐っこい少年だった。そんな顔馴染みの少年の死の間際、私はとっさに道路に飛び出し、少年を抱えて道路脇に飛び込んだ。

絶体絶命のピンチに、私の中の火事場の馬鹿力が発揮したか、なんて考えていたが、あの時に私は頭に致命の一撃を受けていたらしい。


「…なるほど。」


次々とセクレトからもたらされる、私の死に関する新情報に、脳が混乱し始める。

いや、ちょっと待って。私の転生前の死の話は、ノアと要件定義をする前に、ウデムシに転生するとか、妹の涙無しでは見れない映像とかで、散々やったじゃん…。

その時に、転生前の死は受け入れたのよ。今さら、あなたの本当の死因は別だったんですよーと言われても、正直どんな反応をして良いか困る。

例えるなら、半年前にご飯を食べに行ったお店で、最近になって食品の産地偽装問題が発覚した、って話を人伝いに聞いた感じ。


一言で表すなら、反応に困る。別に今さらどうでも良いけど、なんとなくモヤッとする感じ。

むむむー、と思っていた私だが、すぐにひとつの結論に辿り着く。


今の私がどうでも良いと感じてるんだなら、それはどうでも良いことなんじゃないだろうか。

うん、そうね。考えないことにしましょう。こっちの世界に来てから一月以上経つってのに、今さら前の世界の死に方に対して文句を言っても仕方ないし。

そんな結論に辿り着いた私は、気にしないでくださいと目の前のセクレトに伝えようと思ったが、私の少し悪い面が顔を出す。

いや、ちょっと待て。ノアが責任感を感じて、少し融通を働かせてくれるなら…、魔王と交渉をするために戦力を蓄えている私としては、利用するべきじゃないだろうか?

セクレトにバレないように、心の中でにやりと笑った私は、さっそく交渉に移ることにする。


「セクレト、今の話は私にとって重大な話です。私の死因が過労死ではなく、外傷に伴う死の場合…、私にとってこの世界に転生した意味が変わってきます。なにせ、私は過労死するまで勤労を強いた前の世界での恨みを、この世界を牛耳ろうとする魔王にぶつけたい。更に言うと、この世界を魔王の支配によって、強制労働が強いられる世界に変えるのを止めたい。というのが、この世界で人族と魔族の戦争を止めようとする活力の源なのです。つまり、過労死に対する恨みが活力。でも、私の本当の死因が、交通事故に巻き込まれそうな少年を救う、という自分自身の行いが原因とあれば、私の活力である過労死に対する恨みは、荒唐無稽な八つ当たりってことになります。強制労働を減らすという使命感は、中身の伴わない薄っぺらいものに変わります。」


「…。お主の活力の源って、過労死への恨みや強制労働を止める使命感だったか?我にはそのような記憶が無…」


「過労死するまで勤労を強いた前の世界での恨みを魔王にぶつけたい、世界を支配した魔王による強制労働を止めたい、というのが、この世界での活力の源なのです。」


セクレトの言葉を中断してまで、二度同じことを言って強調したが、もちろんそんなことはない。

せっかく神が申し訳ないと感じているのだから、利用するための言葉だ。


まぁ、考えていることを読み取る力を持つ神相手には効果が無いだろうけど…。いや、考えを読み取る能力があるからこそ、何かを得られるかもしれない。

私が別に何も感じていないけど、ささやかでも何かをもらえないかなーと思ってることは神は分かっているだろう。

それを跳ね除けるのは、神なら簡単なこと。でも、神の魔王退治して世界に平和を、というお願いを叶えるために尽力をしている私のささやかな願いを、無下に跳ね除けることは神ならしないだろう。

特に、今回は神にも落ち度があるのだから。そんな状況で、依頼主に無下にお願いを跳ね除けられたら、私は本当に活力が減ってしまう。

だから、何か欲しいなー、神様ー。示談金代わりの何かー!聞いてるんでしょ、神様ー?何か、ちょーだい、神様ー?


「たちが悪いな、お主…。」


「え、何がですか?」


「…分かった。お主の活力が枯渇しないよう、特別に、お主に我が管理する強力な防具をいくつか与えよう。そして、これ以上無茶なお願いをされないよう…、特別に、お主たちのパーティに、強力な装備品を手に入れる機会を多く与えるよう、ノアに言い伝えておく。特別にな。これで、満足か?」


「ありがとうございます!」


お!思ったよりも効果があったぞ!想定以上の報酬に、私は笑顔で答える。

どんな強力な防具が手に入るかなー。夢から覚めたら、すぐに確認しなきゃなーなんて考えてみたものの、一向に夢から覚める気配が無い。

あ、そうか。現状では、秘密の番人みたいな存在のセクレトが、簡単に姿を出したわけじゃないって理由を聞いただけか。

セクレトが姿を現した理由、本題をまだ聞けていない。まさか、私の本当の死因を伝えるためってわけじゃないだろう。


「然り。我がここにいる理由。それは、お主がシークレットスキルの力を使って我を呼び出したのだ。」


「私がセクレトを?そんなことしてないわよ?」


「然り。正確には、無意識で呼び出した、というのが正しいだろう。お主、シークレットスキルの効果を確認した時、我に聞きたいことがあっただろう?」


「無意識に呼び出した?セクレトに聞きたいこと?」


私がシークレットスキルの管理人、セクレトに聞きたいこと。

その言葉に、私は以前見た一つの夢を思い出す。


「…あー。なるほど。うん、私セクレトに聞きたいことあった。」


「お主に恩のある我は、お主の疑問に真摯に回答する義務がある。我が回答できる範囲にも限りがあるが…、なんなりと質問するが良い。」


「ありがとう、セクレト。私が聞きたいのは、転生初日に見た夢。多分、魔王と戦った後に、愛が魔王に体を乗っ取られて、私が弓で射るっていう、今考えたら最低最悪の悪夢。私のシークレットスキルのことを考えると…。あれって、現実になるの?」


私が質問をしたのは、転生した初日…、ブラックベアに追いかけられた愛を救い、愛と私が仲間になった日に見た夢のこと。


荒廃する城の中…、今考えると、あそこは魔王城だろう。

魔王城の中で、なんとか魔王を倒した愛と私だが、愛は魔王に体を乗っ取られてしまった。

その結果、魔王退治という私の目標と、愛をなんとか救いたいという気持ちを天秤にかけ、私は愛に必殺の武技を放った。


これが私が転生初日に見た夢。

あの時は変な夢を見たものだ、くらいの気持ちだったが、シークレットスキルの効果を知った今の私にとっては意味合いが変わってくる。

私は魔王と対峙した時、愛を自分の弓で射殺すかもしれない。ずっと一緒に戦ってきた、仲間であり、親友である愛を。

有り得ないと思いつつも、私はセクレトに真意を確認した。叶うことなら、セクレトは私の言葉を否定してほしい、という願いを込めながら。

しかし、無情にもセクレトの首は縦に振られる。


「然り。お主が転生初日に見た、仲間の少女を射殺す夢。あれは、現実になる。お主は間違いなく、愛を射殺すことになる。」


セクレトの言葉に、私の視界は真っ暗になる。

え、私が愛を射殺す…?無邪気に笑って、自分の妹のように感じてる少女を…、私が射殺す…?

その考えが脳裏を過ぎった時、頭の中に妙に鮮明な光景が浮かんでくる。


胸に大きな穴を開けた愛が、口から血を流しながらも、にっこりと笑う。


「美雪…。辛い思いをさせて、ごめんね…。魔王の魂は私がスキル魂縛りでちゃんと天国に連れていくから、安心して…。」


あの日の夢の続きとしか思えない光景に、私は髪が乱れることを気にせず、両手で頭を覆う。

消えろ、こんな未来!!

左右に大きく振っても、あの日見た夢の光景が消えることは無い。

どんなに有り得ないと否定しても、私が実際に見た夢、シークレットスキルの効果、セクレトの言葉が、私が愛を射殺すという未来を論理的に事実だと伝える。


「そんなに悲しそうな顔しないで…。私は、笑って送り出して…、欲しいな…。」


消えろ、こんな未来!!

今まで見てきた愛の笑顔が脳裏を過ぎる度に、私の頬を涙が伝う。愛を射殺す自分の腕に対し恐怖を感じ、背筋に戦慄が走る。

気が付いたら私は、身を引き裂く痛みも気にならない程、両腕を自分の手で強く掻きむしっていた。

髪留めが千切れ、長い髪が乱れても気に留めること無く、流れ落ちる涙を拭った私の顔は、両手から流れる鮮血で真っ赤に汚れた。


「美雪…。私の分も…、幸せになってね…?」


今の私は客観的に見たら凄惨な有り様だろう。それでも、私は血と涙で汚れることを止められなかった。

血まみれの拳を地面に打ち付けたところで、私の凄惨な姿を見かねたのか、セクレトがカツーンと杖を打ち鳴らす。本能的に音のする方を確認した私に、セクレトは重々しい声をかける。


「落胆するのは尚早である。お主が仲間の少女を射殺す夢は、まだ確定していない未来。数ある分岐未来の中のひとつに過ぎない。容易ではないが…、今なら大きく変えることは可能である。それこそ、仲間の少女を殺すことなく、少女と魔王と共に笑い合う未来に変わる可能性もある。これからのお主の行動によっては、最悪の未来を変えることは可能だ。」


「変えれるの…?」


「然り。変えられる。むしろ、変えてもらわねば我も困る。お主が少女を射殺す夢の先にある未来…。それは、ノアにとって望む未来だが、我にとっては最悪の未来である。故に、我はノアの目をかいくぐり、こうしてお主の招集に応え…。いや、回りくどい言い方は止めよう。お主とあの少女の未来を変えるため、我はお主に未来を変えるための大きなヒントを与える。」


「愛を救うための…、大きな…ヒント…?」


私の言葉に、セクレトはカツーンと今まで一番大きな音で杖を鳴らし、重々しい声ながらも、どこか優しさを感じる声で告げる。


「然り。しかし、まずはお主のその痛々しい姿を戻さねばいけないな。幸いにも、ここはお主の夢の中。元の姿をイメージすれば、回復も用意だ。さぁ、立ち上がるのだ!!美雪!!」


セクレトの言葉に従い、私は取り乱す前の姿をイメージする。

淡い光が私の全身を包み込む。全身が温かくなるような感覚の後、私はピシッとしたスーツ姿へと変わる。服装を整えた私は、ネクタイをキュッと締め、セクレトに片手を差し出す。


「セクレト、愛を救うためのヒント。早く教えなさい。早く。」


「ふふっ、お主はそのように傲岸不遜な態度の方が似合っておる。私から与えるヒントは、これだ。」


私の目の前に、何かがゆっくり落ちてくる。

ふわーっと落ちてくる薄い物を、私は丁寧に両手で受け取る。

セクレトがヒントと言って私に与えた物。それは、何の変哲もない、一枚の紙の封筒だった。


「なんでわざわざ紙の封筒にいれるのよ…。ヒントはこの中ってこと?面倒なことするわねー…、って、ん?ん?」


紙封筒の中を確認した私は、想定外の展開に両目を見開く。

あれ?この紙封筒、中身ないわよ?

いやいや、そんなわけない。この中に、愛を救うための大事なヒントがあるはず。私は何度も紙封筒を逆さにして、中に無いかを確認する。

ひとしきり確認し、紙封筒の中身が何も無いことを悟った私は、セクレトを全力で睨む。


「わ、我が中身を入れ忘れたわけじゃない。故に、そう睨むな…!!」


「じゃあ、どういうこと?私が納得のいく回答を述べなさい。」


「そ、その紙封筒自体が、ヒントということだ。」


「は?この何の変哲も無い紙封筒がヒント?は?さっき、私は私が納得のいく回答を述べなさいと言ったわよね?ねぇ、セクレト?」


私の眼光威圧を発動しての睨みに、セクレトは目線を逸らしながら答える。


「我はヒントを与えると言った。答えを与えることはノアに禁じられている。その紙封筒がヒントなのは間違いない。だから、睨むのをすぐに辞めるのだ!!」


ここまでやっても口を割らないってことは、どうやらこの紙封筒自体がヒントで間違いないのだろう。

私は紙封筒をひっくり返したり、匂いを嗅いでみたり、セクレトの発する光にかざしてみたりしたが、結果は変わらない。

セクレトがヒントと言って渡してきた紙封筒は、何の変哲もない紙封筒だ。


「同じ物を、目覚めたお主のマグカにも入れておこう。お主が鬼火の里の少女を射殺すまで、まだ時間はある。その紙封筒が、どういう意味を持つかよく考え、未来を変えるのだ。」


これで話は終わりだとばかりに、セクレトはカツーンと杖を鳴らす。

正直なところ、あまり腑に落ちないヒントだが、セクレトを問い詰めてもこれ以上の情報を得ることは出来ないだろう。

私は紙封筒をスーツの内ポケットにそっとしまいながら、セクレトにもうひとつ気になっていたことを質問する。


「ねぇ、セクレト。もうひとつ聞いて良い?」


「問題ない。」


「ユウキって少年と、名前が分からない少女がたまに夢の中に出てきて、戦闘指南をしてくれるんだけど…、あの子らって何者?」


「ユウキとあの少女のことか?あの二人は、(シークレットスキルの効果を逸脱しております。禁則事項のため、この情報はお伝えすることが出来ません。)」


「ん?」


セクレトの言葉に、レベルアップの時に聞こえてくる機械音声によく似た声が重なる。

シークレットスキルの効果を逸脱している?禁則事項のため、お伝えすることが出来ない?

突然のことに首を傾げていると、セクレトが重々しい声で回答をしてくれる。


「ふむ。あの二人の情報をお主に伝えることは禁じられているようだ。申し訳ないが、我の口からお主に伝えられる情報は無い。」


「そっか、残念。まぁ、良いや。知れれば良いな、ってくらいの感じだし。今のとこ二人は、恩恵を与えてくれる存在だし、害は感じられないから、気にしないことにする。」


「そうしてもらえると助かる。他に聞きたいことは無いか?」


セクレトの言葉に、私は少し考えてみる。

他に聞きたいことかー。んー?あー、一応念のためにひとつ聞いておくか。


「ちなみに聞くけど、私が交通事故から助けた少年。彼は元気にしているの?」


「命を賭してまで少年を救ったお主には言いづらい話だが…、お主に助けられた少年は約十年後…、複数の女性にめった刺しにして殺されておる。」


「殺され…、え?」


想像していたよりも物騒な話に、私は思わず眉を寄せてしまう。


「お主が疑問を感じるのも当然だ。これはお主がいた世界の事情のため、詳細を語ることは出来ないが…。とある悪意を操る男が、女性たちを操り、少年を無残にめった刺しにされるように仕組んだのだ。」


「え?いや、全然わからないんだけど…?」


私の疑問の声に答えるためか、セクレトは少々長くなるぞ、と前置きを言ってから詳細な説明を始める。


「お主が助けた少年は、無意識に女性を魅了する少年でな。彼に惚れた複数の女性がいたんだが…、その少年には意中の女性がいた。故に、少年に恋した女性は、嫉妬心を積み重ねることしか出来なかったのだが…、その感情を悪意を操る男に利用された。男に嫉妬心を増大された女性たちは、少年に対する危険なヤンデレへと進化した。その結果、少年は刃こぼれのひどい包丁で、ゆっくりゆっくり、何度も切られ、何度も刺されて命を奪われた。以上が、お主が命を賭してまで救った少年の末路だ。」


いや、なんか私が助けたせいで、少年は未来ですごい辛い目にあってんじゃん。

少年の憐れな未来に、私は両手を重ねる。


「…なるほど。だから、私の転生ポイントは増えるのね。」


「然り。命を賭けてまで救った少年が、約十年後に無残にあっけなく殺される…。悪く言うと、お主の死は無駄だった。」


「だから、私の本当の死因に対する不幸度が上がって、転生ポイントが増えるってわけか。なるほど。」


セクレトの言葉に、私はあごに手をあてて頷く。

しかし、こうしてセクレトと話をしているのに、今日の夢はなかなか覚めないわね。そんなに昨日の私は、深い眠りに落ちたのだろうか?

なぜか昨日の夜から記憶が無い私は首を傾げる。首を傾げる私に、セクレトも首を傾げながら、疑問を告げる。


「思ったよりも冷静だな。我はお主が少年の無残な死の話を聞いて、落胆すると思ったいたのだが…。」


「いや、さっきその話は、私にとってどうでも良いって結論に達したから。少年も、私が助けたおかげで十年くらい長く生きられたんでしょ?十年もあれば、その間で少年は多くの経験を出来ただろうし、私の死は無駄じゃなかったって思うには十分よ。だから、私のどうでも良いって結論は変わらない。」


私の言葉に、セクレトが何か小さな声で呟いたが、私の耳では聞き取ることが出来なかった。

ま、薄情な女性だなとか呟いているんでしょう。セクレトは呟いたことなど無かったかのように、私に声をかける。


「今まで多くの転生者を見てきたが、お主ほど前の世界に対して割り切った考えをする転生者は初めてだ。我の前だからと、気丈に振る舞ってるわけではないのか?」


変なことを言うセクレトに、私は首を傾げる。


「いや、何のために、そんなことしなきゃいけないの?私、その辺は死んだ直前に、ノアとしっかり整理したから、今更何を言われても、別にどうでも良いって考えは変わらないわよ。なんとなく少年には悪い気がするけど、今の私が何か出来るわけじゃないしね。」


「整理したとは言え…。お主…。」


私の言葉に、なんとなくセクレトが気まずそうにしてるのを感じる。

いや、私がどうでも良いって思ってるのは間違い無いんだから、そんな不安そうな、心配そうな雰囲気を出さないでよ。

神なんだから、気丈に振る舞いなさい。そう思った私は、オドオドするセクレトに優しい声をかけることにする。


「セクレト、心配してくれて、ごめんね。」


「む?」


突然の私の言葉に、セクレトは予想していなかったのか、驚いた表情を浮かべる。

いや、仮面をつけてるから、なんとなくそんな気がするって感じだけど。


「いや、ここはありがとうかな?そうね、ありがとうが正しいわね。セクレト、ありがとう。色々質問に答えてくれたことを含めて…、本当にありがとう。」


私の言葉に、セクレトは落ち着きを取り戻す。

なんだか、神っぽくない男ね…。最初は、その出で立ちに恐れ多い存在だと感じたんだけどな…。

目の前の男に、不思議と人間味を感じた私は、ひとつの推論に辿り着く。


まさかセクレトが、私が前の世界で死ぬ前に助けた少年ってこと?仮面で表情は分からないけど…、なんとなく雰囲気でそんな感じがする。

それなら、なんとなくこの不自然な動きも納得ね。

セクレトにその辺りを確かめたくなったけど、私は質問するのをやめた。

さっき、どうでも良いって結論に達したって伝えちゃったもんね。なんとなく、ここで質問をしちゃうのは無粋に感じた私はセクレトへの質問を取り下げる。


そんなことを考えていたところ、真っ暗闇だった部屋が、少しずつ明るくなっていくことに気付く。


「お主の夢からの目覚めの時も近いようだ。何か他に聞きたいことはあるか?」


「ん?もう無いよ。」


「そうか。ならば、最後に我から言葉をひとつ。我はお主が紙封筒の意味に気付き、お主と仲間達とこの世界の未来が、明るい物に変わることを願う。」


「ありがとう、セクレト。あなたとは気が合いそうね。いつか、私の夢の中で飲みましょう!」


交通事故から救った少年と以前結んだ約束。大人になったら、一緒にお酒を飲むという約束。

少年が覚えていることを願い、私はにこりと笑いながらセクレトの表情を伺う。

私の視線に対し、右下に目線を外したセクレトは、今日一番の重々しい声で答える。


「…遠慮する。」


「遠慮する!?」


「…だって、お主、酒癖悪いもん…。」


「…!?」


私の驚きの声は、光の中へと消える。

昔の約束を断られるほど、私の酒癖って悪いの!?記憶が無いから、否定も肯定も出来ないんだけど!?

モヤッとした気持ちを抱えたまま、私は深い眠りから覚醒する。

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