【幕間】酔っ払いが寝落ちしたその裏で
「んー、ろうかさーん、わらしは、べんべん、らいじょー…、ぐぅ…。」
酒が弱いくせに泥酔し、好き勝手の限りを尽くした美雪が、ついに潰れた。
突然のリタイアに場が少々パニックになったが、息遣いや脈は問題ない。大丈夫、ただ酔い潰れて熟睡しただけだ。
すーすーと寝息を立てて熟睡する美雪の両腕を持ち、ササラに両足を持ってもらって、近くの長椅子に寝かせる。
これで酔っ払いの猛攻は終わりか…。どこからともなく、安堵の溜息がいくつも聞こえてくる。
溜息嵐が止まり、宿屋金字塔の食事スペースに静寂が訪れるが、突然どっと笑いが上がる。
「いや、なんで普段はあんなに真面目に装ってるのに、酔っ払うとあんなにおかしくなるんだよ!!ダメだ、笑いが止まらねぇ!!」
「普段は、あんなにクール演じてるんに、なんで酔うてまうと、あんなになってまうん!?あかん、ササラも、笑いが止まらん!!」
「いや、真面目を装ってるとか、クール演じてるとか言わないでくださいよ!!美雪さん、怒りますよ!!睨まれたら…、マジで怖いんすから!!」
「目つきはすごい怖いですが…、隙が多い女性ですよね…。酔っ払うと、より一層、その傾向が強まるような…?気を引き締めなくっちゃ…!」
「お姉様が無防備に寝てるっていうのに…、私は膝の上で寝てる愛さんを起こせないから、動くことが出来ない…!!く、くぅー!!悔しいけど、それを良しと思ってる私もいる…!!」
「美雪さんは、豪快で面白いリーダーだな!俺は気に入ったぜ!百合展開も多いし!」
「私の鍛冶を積極的に手伝ってくれるし…、姫様探しも応援してくれるって言ってくれました。私はその気持ちに応えるために、人引き車を飛ばしてみせます!!」
各々が酔い潰れた美雪に対して感想を告げる中、レズメッグァナーイが真面目な顔で、ボソッと呟く。
「なるほど。」
突然のレズメッグァナーイの一言に、全員がぶっと噴き出す。
「似とる!!美雪はんの口癖の…、なるほどに…、めっちゃ似とる!!」
「なんで、そんな一発芸を隠してやがった!!レズメッグァナーイ!!」
「い、いや、美雪さんの前でやったら、怒られるからじゃないっすか…、ぶふっ!!」
「ほ、ほんとうですよ…!!ぷ…、や、やめて…、絶対に…、怒られる…、くく…!!」
笑いを堪える私達に、レズメッグァナーイは眉をひそめながら、ボソッと呟く。
「…なるほど。」
再び場に笑いの渦が巻き起こる。
「やめろ、レズメッグァナーイ!!その言い方は、美雪がよく分かってないけど、とりあえず考える時間を得るために、ボソッと呟く、なるほどじゃねぇか!!言い方と、無駄に神妙な顔、似すぎだ!!」
「それ言う時、美雪はん、絶対分かってへんねん!!主に、愛はんのとんでも剛話に使うやつやん!!似過ぎ…!!ほ、ほんま、やめてや…!!」
「ほ…、ほんと…、美雪さんに…、怒られ…。ぶふっ!!」
「やめて…、素敵なステッキ…、録音しようとしないで…!!絶対に…、怒られるから…!!くくくっ…!!」
「え?その杖、持ち主に話す機能があるんですか!?聞いたことありませんよ、そんな武器!!そのうち、調べさせてくださいね!!」
サっちゃんが話の流れを気にせず、シロ坊の持つ杖に興味を持ったところで、美雪のなるほどいじりは止まる。
笑いの渦が落ち着いたところで私達は、残った料理を食べながら、少しばかりのお酒と会話を楽しむ。
会話が盛り上がってきたところで、突然ユリが大きな声を上げる。
「皆様!!なんか、愛さんが光ってるんですけど!?」
「愛が光ってる?いや、そうはならんやろ?」
「なっとるやろがい!!実際、愛さん、こんなに光っとるやろがい!?」
ユリの普段と違う慌てる声に、愛を確認すると、ぴかーっと白く光っていた。
「この光は、レベルアップの時の光?いや、なんで寝てるのにレベルアップすんだよ。しかも、この光って、壁を超えた時の光り方だろ?この前、ペトラの従魔のミノタウロス相手に、レベル30の壁を超えたばかりじゃなかったか?え、もうレベル40の壁を超えてんの?いや、寝てるんだよな…?そうはならんやろ…?」
「なっとるやろがい…。」
目の前の光景を信じることが出来ず、混乱する私とユリに、ユウジとシロ坊が困惑をしつつも解説をしてくれる。
「愛はたまにあぁやって光るよな。あと、美雪さんも。」
「そうですね…。愛さんと美雪さんは、たまに寝てる間に光ることがあるんですよ…。転生者はこういうこと、よくあるかなーと思って納得してたんですが…、やっぱりおかしいですよね…?」
「おかしい。」
寝て起きたらレベルが上がってたなんて…、異世界転生してから数年が経ってる私でも経験したことが無い。同じ転生者のササラを確認するが、首を横に振っている。やっぱり、おかしい。
「いや、やっぱりそんな経験、普通は起きないぞ。有り得ないだろ。おかしいだろ。」
「トウカはん…、あれ…。」
美雪と愛のおかしなことに困惑していた私の服の袖を、誰かがくいくい引っ張る。
ん、なんだ?と思って見ると、ササラが信じられないといった表情で、美雪の寝てる方向を指差していた。ササラの指差す方を確認した私は、美雪の体の周りを虹色の光の粒が包んでることに気付く。
「いや、そうはならんやろ?」
「なっとるやろがい!!」
「なぁ、さっきから言うてるそれ、なんなん?」
私とユリのやり取りに、ほっぺを膨らませて抗議してくるササラを無視して、私は美雪を包む虹色の光を観察する。
「まさかと思うけど…、あの虹色の光って、星五の装備品を入手した時の光り方じゃね?」
「「「え?」」」
私の言葉に、全員が驚きの声を上げる。
「いや、確かにレアな装備品を手に入れた時の光に似てたし、色も星五装備品の時に出るって噂の虹色だったけど…。寝てるんだよな、美雪さん…?そんなことあるか?」
「星五装備品と言ったら、ユウジが持ってる神話級の大剣デュランダルクラスの、装備品ってことですよね…?え、寝てるんですよね…?」
「あいつ、ペトラと戦ってる時も、倒れて起きたら強くなったよな…?やっぱ、あいつのシークレットスキルって、睡眠中に発揮するっぽいな…。」
「シークレットスキルって、チート級な効果やって聞いてるけど…、トウカはんもササラも、まだその効果を実感できてへんのよな…。そんなもん無いって思うとったシークレットスキルやけど、こんなん見せられたら、ササラも自分の中の力の目覚めに期待してしまうわ。」
「夢見るお姉様の寝顔…、ちょう可愛い…。」
美雪に起きた異変を見守っていたところで、私の服の袖を、誰かがくいくい引っ張る。
ん、なんだ?と思って見ると、ユウジが困惑の表情で、とある方向を指差していた。ユウジの指差す方を確認した私は、愛ちゃんの体も金色の光が包んでいることに気付く。
「愛ちゃんも星四装備品をレアドロップかよ…。いや、そうはならんやろ…?」
「なっとるやろがーい…。」
「なぁ、ほんまに!さっきから言うてるそれ、なんなん!?なんで、お決まりみたいに言うてるん!?」
困惑するササラを無視して、もう驚くのに飽きたレベルの愛ちゃんの光を見守っていたところで、私の服の袖を、誰かがくいくい引っ張る。
ん、なんだ?もうこれ以上は受け入れられないぞ…と思って振り返ると、シロ坊が困惑の表情で、とある方向を指差していた。シロ坊の指差す方を確認した私は、眠気の限界を迎えたサっちゃんがこくこくと舟をこいでいることに気付く。
「良かった異変じゃなくて…。おーい、みんなー。サチおばあちゃんは、もうお眠みたいだー。シロ坊も時間的にキツイだろうし、みんなも面接で疲れてるだろー?私はもう少し飲むけど、順次解散にしようぜー。それじゃ、お疲れー。」
私の一声に、仲間達は散り散りに解散していく。
そんな中、愛ちゃんを背負うユウジが目に入ったため、おもわず声をかける。
「おいこら、ユウジ。愛ちゃんを襲うんじゃねぇぞ…!!」
「襲わねぇよ…!!なんでみんな俺をそういう扱いするんだよ…!!」
なにやら落ち込むユウジ。
男なんだから、据え膳食わぬばでも私は問題無いと思うけど…、あいつじゃ無理だな。
そんな度胸無いだろうし、そんなことしたら愛ちゃんに殴り殺されるだろうし、美雪にバレても爆殺されるだろうし…、なによりあいつの想い人は多分…。
そんなことを考えていると、サっちゃんを背負うユリが目に入ったため、おもわず声をかける。
「おいこら、ユリ。サッちゃんを襲うんじゃねぇぞ…!!」
「トウカ様!!い、いやー、襲うわけないじゃ…、いや、襲いますね、すみません。据え膳食わぬば女の恥なんで。ゴチになります。」
「お前、今日美雪のことをお姉様と慕い始めたんじゃねぇかよ。良いのか?美雪に嫌われるぞ?」
「大丈夫、お姉様は今寝てますので…!!それはそれ、これはこれです…!!」
「やめろ。」
「やめません。」
ユリの意志は固い。なにこいつ…、度胸があり過ぎるんだけど…。少しユウジに分けてやれよ…。
仕方ない。このままじゃ、サっちゃんが美味しくぺろりされてしまうため、私は一肌脱ぐことにする。
「サっちゃんの代わりに、私が相手してやるよ。さっき、お前が私の胸を物欲しそうに見てたの…、私気付いてるからな?こいつを好きにさせてやるから…、サっちゃんは大人しく部屋に寝かせてやれ。」
「と、トウカ様が!?分かりました!!」
まさに効果抜群。私の言葉を聞いたユリは、ものすごい勢いで宿屋の二階に消え、サっちゃんを下ろした後、すぐに戻ってくる。
「さぁ、トウカ様!!はやく、行きましょう!!」
「待て待て、私はもう少しお酒を飲みたいんだよ。だから、先に部屋で待っててくれ。」
「もうお酒は充分飲んだじゃないですか!?ほら、早く早く!!」
なんだよ、このグイグイ。勢いあり過ぎだろ。少しシロ坊に分けてやれよ…。
私の腕をぐいぐい引っ張りながら、揺れる私の胸から目を離さないユリに危機感を感じながら、掴まれていない方の腕を顎に持っていき、ユリを上目遣いで見る。
「もう少し飲ませてくれよ、ユリ…。私だって…、は、恥ずかしいんだから…、お酒の力を使わせて…。お願い…?」
私の一言に、ユリは大きく口を開けて、茹でたカニのような真っ赤な顔になる。
真っ赤な顔のユリは、びしっと敬礼ポーズをする。
「分っかりました!!トウカ様!!私、ユリ・シンジョウ!!先に部屋でトウカ様をお待ちしております!!色々…、準備しておきますので!!たっぷり酔ってから、来てください!!」
高らかに宣言したユリは、だらしない笑顔で走り去っていく。チョロいな、あいつ。
しっかし、あいつどこに行ったんだろ…。まさか、私の家か?くっそー、姫様に壊された家の扉、まだ直してもらってないんだぞ…。侵入し放題だぞ…。
まぁ、良いや。どうせ、今日は帰らないし。あいつには誰も帰らない私の家を、朝まで警備してもらおう。
さて、ひとまずの問題は解決したな…。それじゃ、そろそろ私の背中に、あほうあほうと小さな声をずっと投げかけてくる和服のアホの相手をしてやるか…。
なぜか怒りながら、ユリとの会話に対して、もっと体を大切にせなあかんとか、なんでユリなんやとか、色々と聞いてくる。
あー、めんどくさい…。仕方ないから、アホにも分かるように、順を追って説明してやるよ…。
「…だから、私はサっちゃんを助けるために、ユリに適当なことを言っただけだよ。実際に行くわけねぇだろ。さっきここの空いてた部屋借りたから、ここでお酒を満喫した後、一泊していくよ。」
「そ、そうやんな!!ササラ、最初から知っとったで!!全然、慌ててへんで!!」
「お前のそういうとこ、もはや尊敬する領域だけど…。まぁ、良いや。他のやつ皆いなくなっちまったし、ちょっと私の酒に付き合え、ササラ。お前も少しは飲めるだろ?」
「あんまり得意やないけど…、まぁ、今日はお祝いやからな!ササラ、付き合うで!」
「お前、いつもお祝いしてんな…。まぁ、良いや。レトチー。私とササラに、さっきの日本酒ー!あと、軽くおつまみ…は、まだ料理余ってるから良いか。そこの魚の甘酢あんかけと、変な魚の刺身は、日本酒に合いそうだな。丸々残ってるし、それをつまみに飲もうぜ!」
程なくして、私とササラの前に日本酒が注がれた大きめの木製のカップと、おちょこ二つが置かれる。
まぁまぁと言いながらお互いのおちょこに日本酒を注ぎ、カツンと小さく乾杯をする。
「あぁ、うめぇ…。色々あって少し疲れたから、体に染み入るわぁ…。なぁ、ササラ…?」
「んなー…!!」
日本酒を堪能していた私の耳に、変な声が聞こえてくる。
突然変な声を上げたササラを確認すると、眉を寄せてあごがきゅーっとなった、変な表情をしていた。
いや、ちびっと飲んで、そんな顔になるレベルかよ…。そんな分かりやすい和服着て、日本酒苦手なのかよ…。そんなんで、よく私の酒に付き合うって言ったな…。てか、すごい顔だな…、せっかくの美人な顔が台無しだぞ…。
色々なツッコミが湧き上がってくるが、ここで声を荒げるのは雰囲気壊すなーと思ったから止めておく。
無粋なツッコミは、日本酒と一緒に飲み込みながら、魚の甘酢あんかけと刺身を堪能する。
日本酒を飲む度に、んなーんなー言うササラと、どうでも良い会話をしながら酒を嗜む。
よくよく考えたら、ササラとこうして話すのなんて、一年前じゃ考えられなかったな。
美雪のパーティ…、いや、私達のパーティ、平和への旅路で活動してく内に、こういう機会も増えていくのかもな。
師匠が死んだ時は、もうこんな辛い思いをするなら、ずっと一人で活動すれば良いや、いや、冒険者も辞めて商業職として生きてくか、なんてことも考えた。
引きこもってた時は毎日そう考えてたのに、気が付いたらパーティの中にいる。いや、自分から望んでこのパーティに参加したんだけど…。そう考えが変わるなんて、思ってもみなかったんだよ。
自分の考えの変わりように、思わず頬が緩むのを感じる。
「んなー…!!」
私の真面目なしんみり雰囲気は、ササラの変な声で壊される。
なんでそこまでして、私の酒に付き合うんだよ…。まったく、こいつは…。
「ほんと、ありがとうな…。」
気付いてないフリしてるけど、ササラが私が引きこもってる部屋に毎日ご飯を届けてくれたことは、大家さんに聞いて知ってる。
知ってるけど、安い言葉じゃなくて、ちゃんとした形でお礼を伝えないといけないと思うから、私は黙ってる。決して、なんとなく気恥ずかしいからじゃない。
だから、ササラに聞こえないよう小さい声でお礼を言った。なんとなく、今、ササラに感謝の気持ちを伝えたくなったから。
「ん?なにがありがとうなん?トウカはん?ササラ、お礼を言われるようなこと、してへんけど…?」
「いや、なんで聞き取るんだよ。聞かれたくない言葉を聞きとるんじゃねぇ。ばーか。」
「そ、そうなんか?ササラ、あかんかったな。堪忍な、トウカはん!」
私の八つ当たりに、ぺこりと頭を下げるササラ。
あれ、こいつってこんなキャラだったっけ?最初会った時は妙にツーンとしてたし、それ以降も、妙に張り合ってきたり、突然ぱちーんと叩いてきたり…、ほんと変な困ったやつって印象だった。
そんなササラが、ほんのり頬を赤らめながら、私の顔を見てほにゃほにゃ笑ってる。
ササラの表情から、私は彼女がおかしくなってる理由を突き止める。
そうか、酔っ払ってるのか…。お酒の力ってすげぇな。長椅子で寝かされてる美雪を見ながら、改めて実感する。
熟睡中の美雪を見た私は、以前から美雪が言っていた、異世界での目標…、私達のパーティ名にも取り入れられている言葉を思い出す。
「なぁ、ササラ。美雪の目標…、いや、もう私達の目標か。魔族との戦争を止めるって話…、実現できる可能性、どのくらいだと見積もってる?」
「魔族との戦争を止めるなー…。正直、難しいんやないかって感じるな。戦争って、そんな簡単に止まるもんやないやろ?相手はあの魔王やろ?美雪はんには悪いけど…、確率は1パーセントも無いと思うわ…。」
んなー?くらいの返答を期待していた私は、想像以上にしっかりとした返答をするササラに驚く。
アホみたいに酔っ払ってるが、ちゃんと私達の目標をササラなりに考えてたんだな。私も気を引き締め、ササラに返答する。
「やっぱ、そう思うよなー…。なんとか、南大陸の金等級冒険者、火魔法の極致である獄炎魔法の使い手である紅獅子が魔族の侵攻を止めてるらしいけど…、いくら紅獅子でも長くは持たない、ってのが王城に忍び込んだ時に聞いた、お偉いさん達の意見だ…。他大陸の金等級冒険者四人が集まれば、魔王にも勝てるかもしんねぇけど…、それも難しいだろうな…。」
「逸話で聞いた話やけど…、金等級冒険者は、個性豊かな方々らしいからな…。」
「そうそう。共闘とかは程遠いタイプばっかりだ。我らが北大陸の金等級冒険者は、行方不明だし…、サっちゃんの出身地である、西大陸の金等級冒険者…、エルフのとこの王妃は、戦争の裏で利益を得るようなタイプだからなー…。」
「水魔法の極致である深海魔法の使い手、青眼白妖精王妃なー…。あん王妃は、南大陸での魔族との衝突にもだんまりらしいからなー…。下手したら、戦争が起きるんを期待してるくらいやで。」
エルフの秘術を用いた、魔力を帯びた強力な装備品、魔具を売って生活をするエルフ達。
そんなエルフ達は、魔具を大量に必要にする、逼迫するような戦いがあればあるほど、大きく儲けることが出来る。だから、エルフの王妃が戦争を止めるために動くことは無い。
そういう裏事情とか、ほんと面倒くさいなーって感じても、自分達じゃどうしようも出来ない現実に気が滅入る。溜息を吐いたところで、ササラが一人の男を提案する。
「東大陸の金等級冒険者…、風魔法の極致である轟嵐魔法の使い手の、緑の巨塔はどうなん?あん男は、全ての民に優しい、最優の魔法使いなんやろ?」
「残念ながら、緑の巨塔は病に臥せってるらしい…。自分の足で立つことも出来ないくらいの状態で…、魔族との戦争を止めるために、南大陸に足を運ぶのは無理らしい。」
「北は行方不明、西は非協力的、東は病に伏せっとって…、南の紅獅子は魔王の侵攻を止めとる…。最後の、もう一人の金等級冒険者…は、あかんな…。」
「地魔法の極致である絶地魔法の使い手の、金色放蕩児か…。金色放蕩児は神出鬼没だからな…。本当に存在してるかも怪しい存在で…、前に確認されたのは、五年前だっけ?期待するのも無駄だろう…。」
「あかんなー…。考えれば考えるほど、魔族の戦争を止めるんが難しいってことが分かるだけや…。」
ササラの一言で、押し黙ってしまう私達。くいっと日本酒をあおった私は、何の気になしに、ぽつりと呟く。
「私が金等級冒険者になるくらい…、強くならないといけないな…。」
「ササラが金等級冒険者になるくらい…、頑張らないとあかんな…。」
私の呟きに、同じような意味のササラの言葉が重なる。
思わずこぼれたはずの言葉が、ほぼ一致。私とササラはお互いの顔を見合う。
「真似すんな、ササラ。くくっ…!!」
「トウカはんこそや。ぷふっ…!!」
思わず吹き出しそうになった私とササラは、お互いの顔を見ながら、言葉を掛け合う。
「お、おい、ササラ…!!美雪が寝てるんだから、静かにしろよ…!!くくっ…!!」
「み、美雪はん、あんなぐっすりしてるから、大丈夫やろ…!!ぷふっ…!!」
「ササラ…!!美雪、寝てる時は、天使の寝顔…!!くくっ…!!」
「目を…つぶっとるからやろ…!!眠ってるときまで、悪魔みたいに目つき悪かったら…、あかんやろ…!!ぷふっ…!!」
起きてたらブチ切れるだろうけど、熟睡してることを良いことに、私とササラは美雪のことを指差しながら笑いを堪えあう。
「くくっ…!!」
「ぷふっ…!!」
「尊い…!!」
「「突然のレズメッグァナーイ(はん)!!」」
どこかから聞こえてきた突然のレズメッグァナーイの声に、美雪のなるほどのモノマネを思い出した私とササラは、堪えきれなくなり、二人して大きな口を開けて笑い合う。
幸いにも、熟睡中の美雪はそんなことじゃ起きなかった。
それから、私達は魔族との戦争をどう止めるか、終始笑顔で話し合った。
「私は美雪の眼光威圧で、有無を言わさず西大陸のエルフ王妃を、協力させれば良いんだと思うんだよ!あいつの眼光威圧なら、可能じゃね?まじやべぇもん!!」
「ほんまやな!どうせなら、東大陸の病弱も引っ張り出したらえぇ!!美雪はんなら、うるせぇ、甘えたこと言ってんじゃねぇって言うて、首根っこ捕まえて、戦地にポーンってするで!!」
二人ともお酒も入ってたから、夢のような空想話になってたけど、不思議と楽しく笑い合うことが出来た。
夜も深く更けてきた頃、ラクレとレトチにいつまで飲むんだと、食事スペースを追い出されるまで語り尽くした私達は、熟睡中の美雪の前に立つ。
「それじゃ、我等がリーダー…、困ったちゃんの美雪を部屋に運んでやらないとだけど…、ササラ、頼んだ。」
なんとなく嫌な予感がした私は、ササラにお願いをする。
なんでやーと言いつつも、酔っ払って思考力の落ちたササラは、文句を言いつつも美雪を背負う。
程なくして、私の嫌な予感は的中し、今日一番の悲劇がササラを襲う。
「うぅ…、急に上下運動は…、う、うぅ…、気持ち悪っ…!!う、(自主規制)」
「んなーーーー!?」
ぽつりと呟き、突如マーライオンに進化する美雪。背中にマーライオンの放水を受けたササラに、私は両手を合わせる。
「どんまい、ササラ…。」
「(自主規制)」
「んなーーーー!?」
こうして、私達のパーティ、平和への旅路の初日は幕を閉じた。




