異世界での戦い方を模索する
前回のあらすじ:死闘を制する、最弱のモンスター相手に
現状を整理しよう。
子供達でも難なく倒せる白マルモコ相手に全力で戦い、辛くも勝利をもぎ取った私。
その時の苦戦から最弱モンスターを強力なモンスターと勘違いし、子供達に全力で駆け寄った私。
しかし、冷静に白マルモコを処理した子供達を目の前に、息も絶え絶え見守り続ける私。
それでは、この状況を子供達の目線で整理しましょう。
余裕なモンスターと戦っていたところに、必死な形相で女性が全力疾走でかけつけ、息を切らせてこっちを見てくる。
もしかしなくても、子供達にとって私は不審者じゃないだろうか…?
幸い子供達はまだ私に気付いていない。先ほど走ったばかりのため、スタミナ的に厳しいが私はその場を出来るだけ静かに全力疾走で逃げ切った。
ぜぇぜぇ。すーっ、はーっ。
白マルモコとの戦いの中で弓とショルダーバックを放り投げた場所に戻った私は、深呼吸で乱れた呼吸を落ち着かせる。すべての装備品を整え、周りにモンスターがいない安全そうな場所へ移動する。全力疾走による喉の渇きと白マルモコとの戦いのダメージを癒すため、転生者特典の体力回復用ポーションを1本取り出し、ぐっと飲み干す。薄っすらとした赤い光に包まれ、先ほどより体が軽くなる。視界の左上の方に小さな赤いゲージが表示され、半分ほどだったゲージが満タンまで増える。
ポーションの効果により体力が回復しただけでなく、頭も澄み切り、冷静さを取り戻す。さぁ、現状の課題に対して分析を始めましょう。
まず、現状の整理。白マルモコは最弱のモンスター。子供達が楽に倒せていたから、これは間違いないだろう。そんな最弱のモンスター相手に決死の覚悟を決め、弱点を突くことでなんとか倒すことができた。白マルモコの可愛らしさに油断したことを除いても、最弱のモンスターから結構なダメージを受けたし、武器を使った私の攻撃は白マルモコの厚い毛に遮られた。
なぜ転生者特典をノアより授けられた私が、最弱のモンスターに苦戦したのか…?ノアと創さんの話を聞いた限りでは、転生者は転生ポイントを使ったことにより、平均的なマグノキス人より高いステータスを持ち、異世界で俺つえー無双が出来たはずだ。しかし、現状は最弱モンスターに苦戦。まさか二人が私を苦しめるために嘘を…?と一瞬二人の言葉を疑いかけだが、魔王退治を依頼する側が嘘をつくメリットがない。
確かに私は攻撃のステータス補正に転生ポイントを使っていないから、攻撃は平均的なマグノキス人程度だ。でも、子供達でも白マルモコを倒せていたことを考えると、攻撃不足ということはない。それに、速さとスタミナには転生ポイントを使っているが、子供達に向かって走った時、速さは普通、息は絶え絶えだった。
そうなると考えられるのは、記憶の掛け違い、つまり誤解と勘違いだ。んー、何だろう。ノアの転生者特典の基本ステータスについての説明を思い出す。
「マグノキスではレベルが上がると攻撃や防御とか7つのステータスが上がるんだけどー、上がる量は基本ステータス適正によって変わるんだよねー。」
そうかー、だから私は最弱モンスターに苦戦したのかー。転生特典の基本ステータス適正はレベルが上がった時、能力上昇値に補正がかかりマグノキス人より強くなるが、私は転生したばかりのレベル1だから補正がなく弱いと。こんなことになるなら、いらないと思ってた特典の追加レベルに少し振っておけば良かった…。
過ぎたことを後悔しても仕方ないので、現状の課題解決に臨む。私に必要なのはレベルを上げてステータスを上げること。よし、それじゃあレベル上げのために白マルモコに挑むぞー!とは私はならない。最弱のモンスターの白マルモコ相手でも苦戦するからだ。
つまり、戦うための武器が必要。幸運なことに、私には神から与えられたレア魔法とスキルの必中がある!というわけで、私の武器をひとつずつ検証していきましょう!
まず、レア魔法である温度操作魔法を検証する。私は地面に生えていた猫じゃらしのような草を二本ちぎり両手に持つ。呪文などは分からないため、左手から右手へ熱エネルギーを操作するイメージを膨らませる。左が冷たく、右が熱く。左が冷たく、右が熱く。イメージしていると、視界の右上の方に小さな青いゲージのようなものが表示され、半分ほど減る。今のゲージのようなものは何だろうと思ったが、目の前の二本の草に変化が生じた。右手に持っていた草が墨のように黒くなり、左手に持っていた草がチリチリと音を立て萎れる。どうやら温度操作魔法が発動したようだ。
「おー!私にも魔法が使えた!」
温度操作魔法を使えたことに感動し、気がついたら声を発していた。ひとまず魔法が使えることは検証完了。次に、使える魔法の距離を検証してみる。触っていないと使えない場合、いまいち使い勝手が悪いからだ。
先ほどはイメージしやすいように手に持っていた草に温度操作魔法を使ってみたが、今度は5メートルほど先にある二本の草を魔法の対象にしてみる。左の草から右の草へ熱エネルギーを移動するイメージ。左が冷たく、右が熱く。左が冷たく、右が熱く。視界の右上に、半分ほどに減った青いゲージのようなものが表示され、今回は無くなる。そして視界の先の二本の草は、両手に持っている草と同じように墨と萎れた草になった。
「良かった!遠距離でも使えた!」
これで温度操作魔法も戦力に加えることができる!しかし、大きな懸念がひとつ。魔法を使ったときに視界の右上に表示された青いゲージだ。1回目に半分、2回目になくなった。魔法を使った時に減ったから、もしかして使える魔法量かな?
あれ?青いゲージなくなったけど、もしかして魔法もう使えない?視界の先にあった別の二本の草に先ほどと同じイメージで魔法を発動しようとしたが、二本の草は墨になることも萎れることもなく、変わらぬ姿で風に揺れている。
もしかしなくても魔法を使いきってしまった?どのくらいで回復するか分からないが、最悪もう二度と使えない可能性もある。まだノアにもらった魔力回復用のポーションが3本あるけど、ポーション以外の回復手段が見つかるまでは魔法の使用を節約していこう。使い切ってから節約しようってダメな考えだが今回は仕方ない。ということで温度操作魔法の検証おしまい!本当は風魔法も検証したかったが、魔力が回復するまで保留。
次はスキルの必中を検証してみよう。ノアから聞いた必中の説明は、「可能な限り、遠距離攻撃が狙ったとこに必ず当たる。」だ。それでは、可能な限り、がどの程度か検証しよう。ちょうど目の前5メートル先に1本の木がある。初期装備の木の弓を構え、木の矢を弓にあてがう。目の前の木を狙い、矢を放つ。ブンッと音がし、矢は狙ったとおり木に深々と刺さる。狙った木に刺さるどころか、狙った高さ、木の真ん中に突き刺さっている。
「おー!まさに必中!」
狙い通りに飛んだ矢に、思わず声が出る。一旦、矢を引き抜き同じ距離からもう一度同じ場所を狙ってみたが、寸分変わらず同じ場所に矢は刺さる。次は10メートルほど離れ、もう一度、弓を構え矢を放つ。しかし、矢は木の手前3メートルほどの地面に突き刺さっている。狙ったところに刺さらなかったが、概ね想像通りであった。木の弓で放てる矢では、10メートルほど離れた木は厳しいかなと思っていたから、この辺りが可能な限りなのだろう。試しに障害物をはさんで木を狙ってみたが、矢は狙った木ではなく、障害物に刺さっていた。
スキル必中は、飛距離が届かない、遮る物がある等の物理的に当たらないもの以外は必ず当たる。といったスキルのようだ。よし、狙い通り弓での攻撃に効果的なスキルだ!これなら白マルモコ相手にも戦えるぞ!
それでは早速実践!白マルモコを探して歩く。複数で群れを作っている白マルモコはいっぱいいるが、こちらは対象外。一匹を射止めた後に他の白マルモコに袋叩きにされてしまう。白マルモコ以外にも角の生えたウサギや黄色いマルモコがたまにいたが、こちらも対象外。最弱のモンスターに倒されかけたのに、いきなり他のモンスターは無理。一匹だけ群れから離れた白マルモコを探す。野生動物の狩りみたいだな、と思いながら白マルモコに見つからないよう慎重に条件に合う白マルモコを探す。
少し歩くと、目的の一匹の白マルモコを発見する。まだ相手はこちらに気付いていない。息を殺し、弓と矢を構え、狙いを定める。ふーっと息を吐き、気持ちを落ち着け矢を放つ。
矢はまっすぐ白マルモコの方に飛び、体の中央に深々と刺さる。しかし、急所を外したらしく、不意打ちを受けた白マルモコはこちらに向かって走って近付いてくる。一発で倒しきれなかったことに少しひるんだが、力任せに弓矢を構え、近付いてくる白マルモコに矢を放つ。必中スキルの補正か、白マルモコに吸い込まれるように矢が命中する。二本の矢を受けた白マルモコは光の粒になって消える。
「よしっ!!」
最初の戦いとは違い、危なげなく掴んだ勝利に、おもわずガッツポーズをする。よし、この調子で白マルモコを倒そう!
私は調子に乗って、同じ要領で一匹でいる白マルモコを倒し続けた。木の矢は10本しかないため、残り本数に少し不安を覚えたが、木の矢は白マルモコを倒すくらいではダメにならなかった。そんな中、三匹目の白マルモコを倒したとき、体が白く光った。そして、頭の中で機械のような声が響く。
「ミユキはレベル2に上がった!HPとMPが全回復した!
攻撃が1上がった!防御が2上がった!魔力が5上がった!魔法防御が2上がった!速さが5上がった!スタミナが2上がった!状態異常耐性が1上がった!」
おー!ついにレベルが上がった!待ちに待ったステータスアップだー!ステータスアップどころか、HPとMPも全回復した!HPは体力、MPは魔力のことだよね?レベルアップが音声で頭に響くことと言い、ほんとにマグノキスはゲームっぽい世界ね!
まぁ、そこはどうでもいい!HPとMPが全回復したことで魔法の検証を再開できる!早速、風魔法から検証だー!
と言ってもどうやったら発動するか分からない。温度操作魔法と同じようなイメージでやれば出来るだろうか?ひとまず、右手を突き出して、手の先に風を集めて放つイメージをしてみる。視界に例の青いゲージが表示され3分の1くらい減る。右手の先からビュウと風が吹く。おー、風魔法が発動した!強風くらいの風が吹く。
でも、これだけじゃモンスターを倒せるくらいの威力は無さそうだ。レベルが上がれば威力も上がって敵を倒せるようになるのかな?
それはレベルアップ後の楽しみにして、次は遠距離で風魔法が発動するか検証しよう!と思ったが、どうせなら別の検証も一緒にやってしまおう。それは、矢に風魔法をのせれば飛距離が上がるのではないか。という検証だ。
先ほどの検証では矢が届かなかった10メートルほどの木を目標物に選ぶ。矢に風魔法を乗せるイメージをする。青いゲージが減ったところで矢を放つ。ズヒュゥゥンという音とともに、強い風を顔に感じる。
目標物の木に駆け寄る。レベルが上がったためか先ほどより少し速く動けるようになり、息も乱れることはなかった。目標物の木の狙ったとこに先ほど放った矢が深々と突き刺さっていた。狙い通り、風魔法を矢にのせることで、飛距離と威力を上げることができた。あまりの威力に残念ながら矢が折れてしまっていたが、強力な技を覚えることが出来た。頭の中でレベルアップの時の声が響く。
「武技ウィンドアローを覚えました。MPを少し消費して矢で放つ攻撃の威力が上がります。また、攻撃に少し風属性が付与されます。」
おー!武技というものを覚えたぞ!どうやら条件に見合った魔法の使い方や攻撃をすると、武技を覚えるらしい。早速、そこにいる白マルモコに使ってみよう!最初は倒すのに苦労したのに、今では完全に検証用のモンスターだ。こうして人は成長していくんだな、と最初の死闘を懐かしく感じ、なんとも言えない気持ちになる。
「ウィンドアロー!!」
武技名を叫びながらウィンドアローを放つ。声に出さなくても発動する気がしたが、雰囲気だ。放たれた矢はズヒュゥゥンという音を鳴らし、狙っていた白マルモコを光の粒に変えてしまった。
一発!?思っていた以上の高威力に技を放った側の私が驚く。イメージを固めてから矢に魔法をのせて放った一回目より、武技になったことで、お手軽に発動することが出来た。ウィンドアローは、MPと矢を消費することが難点だが、通常の攻撃に比べ高威力・広範囲の攻撃だった。
条件を満たすことで武技を覚えられるなら、ちょうどMP切れだし、武技に結びつくような魔法の使い方を考えながらこつこつとレベル上げをしよう!
しばらく武技を考えながら白マルモコを倒していたところ、体が白く光り、あの声が頭の中で響く。
「ミユキはレベル3に上がった!HPとMPが全回復した!
攻撃が2上がった!防御が2上がった!魔力が5上がった!魔法防御が2上がった!速さが5上がった!スタミナが3上がった!状態異常耐性が1上がった!」
よし、レベルアップ来た!MPが全回復だー!レベル上げ中に思いついた温度操作魔法、風魔法、弓矢を合わせた攻撃を試してみよう!
風魔法は気体を操る。じゃあ酸素だけを圧縮できるのじゃないか?その集めた酸素に温度操作魔法で火をつけたらどうなるか?爆発してすごい勢いで矢が飛んでいくだろう!
でも、木の矢じゃ爆発の熱に耐えられない?ふっふっふ、私のレア魔法は温度操作魔法。温度を上げると同時に温度を下げるのだよ。つまり、爆発に使った熱エネルギー分、矢の温度を下げるのだ!これで爆発で放たれた矢は、爆発の熱だけでなく空気抵抗の熱にも耐えられる!
簡易的なロケットの原理で矢を放つのだ!完璧!!
思いついた時は、まさか温度操作魔法にこんな活用法があるとは…!と感動したものだよ!創さんに話した科学の力で魔法を強化する構想は、あながち間違ってなかった!
それじゃ、早速いつもの木に向かって試してみよう!今度は50メートル以上離れた木に向かって弓矢を構える。ウィンドアローでも届くか微妙な距離だ。風魔法で酸素の圧縮、圧縮した酸素に火を使い、矢はその分冷たく。魔法のイメージを固めて矢を放つ。
私のイメージ通り、ドゴォォン!!!と轟音を響かせ、目の前で小爆発が起こる。
「あっつぅぅぅうういいいい!!!」
目の前で発生した爆風は、矢を放った私にも振りかかった。想像以上の熱に顔と弓を持ってた手はやけどし、痛みが発生する。ショルダーバックから体力回復用ポーションを取り出し、ぐっと飲み干す。薄っすらとした赤い光に包まれ、顔と手の痛みが引く。
「そりゃ目の前で圧縮した酸素を爆発させたら巻き込まれるわ!!せっかくの弓矢なんだから、矢を放った後に、少し待ってから魔法を発動させなきゃこうなるわ!!」
自分で自分にツッコミをする。幸いなことに、服は弓を構えてた方が少し焦げた程度、木の弓は少し黒くなった程度で壊れていなかった。今度は少し待ってから放つぞと心に決め、再び弓矢を構える。先ほどと同じ木を狙おうとした時、バキバキという音と共に木が倒れた。
おや?と思い、木に駆け寄ってみると私が狙ったところから木が折れていた。私が想像していたより、威力絶大だった。でも、武技の取得の声は聞こえてこない。私にもダメージがあり、失敗と思っているのが原因のようだ。
そこで、目の前を飛び跳ねる黄色いマルモコに狙いをつける。色から白マルモコの強化版のようだが、木を倒すほどの威力なら倒せるだろう。先ほど矢を使った時に減った青いゲージは半分より少ないくらいだったので、もう一発使える。風魔法で酸素の圧縮、圧縮した酸素に火を使い、矢はその分冷たく、魔法発動は前回より遅く。魔法のイメージを固め、矢を放つ。
少し遅れてからドゴォォン!!!と轟音が鳴り、小爆発が起こる。今度は自分へのダメージがない。成功だ!
「オリジナル武技を覚えました。技名をつけてください。」
「オリジナル武技?」
「あなたが初めてこの武技を使いました。十分な威力が確認できたため、この武技は承認されました。あなたが命名権を得ました。」
そうか、温度操作魔法はレア魔法だから、この武技は私が初めて使ったのか!星を見つけた人が名前をつけるのと一緒かな?あまり変な名前をつけても後世の人が困るだろうし、ここは直感で思いついた名前をつける。
「オリジナル武技はロケットアローで!」
風魔法を使った矢がウィンドアローなら、ロケットの原理の矢はロケットアローだろう!
「武技ロケットアローを覚えました。MPを大きく消費し、矢で放つ攻撃の威力が爆発的に上がります。」
この武技は私の必殺技として、今後は奥の手として使おう。そういえば、黄色いマルモコは倒せたのかな?レベルが上がらなかったから、倒せたかどうか分からない。
ものすごい速さで避けた可能性も考えたが、黄色いマルモコのいた場所に肉が落ちていた。あ、これがドロップアイテムかな?ドロップアイテムがあるということは、黄色いマルモコを倒せたようだ!レベルが上がらなかったことから、黄色いマルモコはそんなに強くなかったらしい。残念。
レベル2に上がる時より、レベル3に上がる時の方が白マルモコを倒す数が増えた。効率を上げるため、白マルモコを倒してのレベル上げでなく、黄色いマルモコを倒してのレベル上げに変えようと思う。
ロケットアローの検証でMPが少なくなったため、魔力回復用の青いポーションを飲む。体が青い光に包まれながらも、黄色いマルモコを探すため、周囲を見回す。おーい、黄色いマルモコ出てこーい!私のレベル上げの糧になってくれー!
すると、遠くから土煙がこっちに近付いてくることに気付く。何だろうと目を凝らしてみると、道着のような服を着た10歳くらいのショートカットの少女が、こちらに近付いてくる。
「大きな音の方に逃げて来たら人がいたーーー!!ラッキー!!そこの人ー!助けてーーー!!!」
助けて?少女の後ろを確認すると、黒い熊がいた。なんだあれ!?少女と一緒に見るからに強そうな黒い熊が現れた!確かにレベル上げのために、白マルモコより強そうなモンスターを探していたけど、いきなりハードルが上がりすぎー!!
次回、波乱の黒い熊との激闘。