パーティ入り希望者に会おう②
前回のあらすじ:先輩冒険者であるトウカに洋食屋くろばらに呼び出された美雪たち。しかし、夕食に何を頼むか盛り上がり過ぎた結果、トウカの怒りを買う。
「先輩待たせて何やってんだ、お前ら?ぶち殺されてぇのか?あぁ?」
美雪達の仲間に入りたい冒険者を紹介する、という理由で先輩冒険者であるトウカさんに、洋食屋くろばらに呼び出された私達。
しかし、そのことを忘れて夕食のメニュー選びに夢中になっていたところ、トウカさんをブチ切れさせてしまった。
「黙ってないで、何か弁解をしたらどうだ?あ?」
額に血管を浮き上がらせ、般若のような怒りの形相を浮かべるトウカさん。完全にキレている。
さぁ、どうしよう。歌姫の護衛クエストの時のペトラさんのような、トウカさんを止められる人がいない…。これは困ったぞ…。
と思っていたら、ブチ切れトウカさんを止められるかもしれない人物が、トウカさんの後方から現れる。
「トウカはん、なんで後輩を威圧してるん?周りの冒険者が怯えとるから、やめぇや。」
「あん…?って、ササラか。」
トウカさんの後方から現れたのは竹調の異名で知られるササラさんであった。
歌姫の護衛クエストで、一緒に護衛をした仲である。
護衛クエスト中も喧嘩ばかりだったササラさんだけど、トウカさんと旧知の仲っぽいから、怒り爆発中のトウカさんを止められるかもしれない。
トウカさんに見えないように、ササラさんの健闘を祈る。
「美雪たちが先輩である私との約束を忘れて、夕食談義に華を咲かせてっからよー。先輩として嘗められるわけにはいかないだろ?だから、説教中ってわけ。先輩として怒って当然だろ?」
「相変わらずトウカはんはヤンキー気質やな…。かっか怒ってても、話は先に進まへんで。美雪はん達はクエストでお腹ぺこぺこなんやろ?ここのメニュー見て、何食べるん談義しても仕方ないんやない?先輩として器の広さを見せた方が良ぇんやないかえ?」
「確かにそうだけどさー…。んー…。」
ぶすーっと頬を膨らませるトウカさんだが、ササラさんの言葉によって、先ほどまでの怒気が少し落ち着く。
護衛クエストの時には、トウカさんと喧嘩ばかりしていたササラさん。
しかし、私とペトラさんの戦闘の際に、ササラさんはトウカさんとの協力ライブを経て、少し仲良くなったらしい。トウカさんのことを見かけて、声をかけるくらいには仲が良くなったようだ。
怒り顔のトウカさんに、なぜかササラさんの頬が赤くなっているのが気になるけど。
ササラさんに諭されたトウカさんは、大きく溜息を吐く。
「先輩として器の広さを見せるか…。少し腑に落ちてねぇけど、まぁいいや。許す。それじゃ、各々食べるやつを頼んで、顔合わせすっぞー。」
怒りを落ち着かせたトウカさんの言葉に、私達は助かったーと溜息を吐く。
「ちぇー、せっかく本気の喧嘩が出来ると思ったのになー。」
ただし、喧嘩大好き戦闘狂の愛さんを除く。
まぁまぁとシロ君とユウジになだめながら、愛は注文カウンターへ向かう。
喧嘩と同じくらい、食べることが大好きな愛は、料理を注文することによってご機嫌になる。
キラキラした目の愛と、やれやれといった表情のシロ君とユウジはメニューの中からオーダーを選んでいく。
愛はポークカツレツ定食にエビフライとカラアゲをトッピング。
シロ君はふわとろオムライスに、エビフライとコロッケをトッピング。みんなで食べる月光草のバターソテー。
ユウジはメンチカツ定食にエビフライをトッピング。
私も負けじとミックスフライ定食に、コロッケとカラアゲのトッピングを注文しようとしたところで、後ろから声をかけられる。
「あ、美雪はん。少し良ぇか?」
私を呼び止めたのは、ササラさん。なんだか、かしこまった表情で私のことを見ている。
かしこまった表情というか…、もしかして少しお怒り…?
あ、そういえばササラさんには、ライブイベントで暴走したことを謝れていなかった…。これは食事前に注意か説教かもしれない…。
それなら、私にやれることはひとつ。
「ササラさん、ライブイベントの時には私の暴走で迷惑をおかけし申し訳ございませんでした!!」
ササラさんに何かを言われる前に、私は先制謝罪を繰り出す。振り向きざまに頭を深く下げる。
少し待ってもササラさんから返答が無かったため、恐る恐る顔を上げると、ササラがキョトンとした表情を浮かべていた。
「はえ?なんで美雪はんが謝るん?謝るんはササラの方やで?」
「え?いやいや、謝るのは私の方です。トウカさんとの対バンライブを、ペトラさんを磔吸血鬼と勘違いしての爆発攻撃によって、滅茶苦茶にしちゃったんですから。」
「それは美雪はんの仲間のホワイトはんから聞いとるわ。確かに美雪はんがしたんは暴走かもしれん。やけど、それでもササラは美雪はんに謝らなあかんねん。」
「え?」
「トウカはんとの対バンライブ中に、美雪はんとペトラはんが乱入してきた時な。ササラ、ライブが失敗したくない思うて咄嗟に美雪はんがペトラはんと戦う流れにしてもうた。それに対する謝罪をさせてや。」
「戦う流れにしないとライブが失敗だったんですから、ササラさんの判断は最適なものだったと思います。謝罪は必要ないですよ。」
「いや、いくらトウカはんとササラの補助魔法があるいうても、二つも等級が離れた冒険者同士を戦わせるなんて無謀なことや。実際、美雪はんはペトラはんにボロボロにされてもうたやろ?闘技場やから死ぬことはないけど、死ぬ程の痛みは味わせてもうたんや。やから、謝罪。ほんま、ごめんなさい。」
ササラさんの表情は真剣そのもの。でも、その中に優しさに満ちた慈愛が込められている。
ササラさんの謝罪は、私のことを思っての謝罪だった。
トウカさんと喧嘩ばっかりしていたササラさんだけど、彼女は温かく優しい大人の女性だった。
「ササラさん、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした。そして、ありがとうございました。ササラさんのおかげで、ライブは失敗せず、ペトラさんにも勝利することが出来ました。」
「そんな、深々と頭を下げんで!美雪はんには感謝の気持ちが多いんやから!!頭を下げるんはササラの方や!!」
私が深々と頭を下げたところで、ササラさんも頭を下げる。
お互いの頭頂部同士が向かい合い、謝罪と感謝がぶつかり合う。どちらが先に頭を上げるかの謝罪合戦が今始ま…。
「いや、お前らなんで洋食屋で頭を下げ合ってんの?事情は知らねぇけど、周りの冒険者が、なんだなんだ?って気味悪がってるから、やめろ。な?」
トウカさんの冷ややかな視線と言葉によって、謝罪合戦は開始前に終了する。
「美雪、バカやってないで注文してきちゃいな。私とササラもさくっとオーダー決めちまうから、ちょっと待ってて!」
トウカさんの言葉を受け、ササラさんにぺこりと頭を下げて、注文する場所に向かう。
しかし、直前で足を止める。ふと、トウカさんとササラさんの会話が気になったため、その場に残り、そっと二人の会話に耳を傾ける。
もしかしたら仲間に入りたいという冒険者の情報を得ることが出来るかもしれない。
そう思って聞き耳を立てていた私に、さっそく重要な情報がもたらされる。
「あの子の分はどうするん?」
「大丈夫、事前に聞いてきてる。豆腐ハンバーグ定食だって。エルフは肉を食べないからな。」
ササラさんが言うあの子とは、私達のパーティに仲間入りしたいという冒険者のことだろう。
そして、トウカさんの言葉から、新入りはエルフと推測することが出来る。
エルフ?
エルフの知り合いの中で、私達のパーティに所属したいという人に心当たりが無い。
今まで出会ったエルフで、真っ先に思いつくのは、ファストの町の冒険者ギルド長のシリシュ・イムクールさん。
でも、シリシュさんは私と愛をファストの町の専属冒険者にしたいって打診するくらいには、ファストの町のことを大事に考えている。
そんなシリシュさんがファストの町から王都に来て、私達のパーティに所属したい…?
いや、無いな。仲間入りしたいというエルフはシリシュさんじゃない。
では、私達のパーティに入りたいエルフの冒険者とは、一体、誰なのだろうか…?
私達は王都に来たばかりで、特に珍しい功績を残したわけでない。そんな私達のパーティに入りたいという冒険者が、見知らぬエルフ?
より謎が深まったため、トウカさんとササラさんの会話に集中することにする。
「食事制限があるなんて、エルフはほんまに大変やな。ほな、トウカはんは何を頼むん?ササラはこの煮魚定食にするわ。」
「煮魚定食?相変わらず地味なの頼むなー。彩り添えるためにも、エビフライトッピングしとく?」
「エビフライなー…。ササラ、甲殻類アレルギーやねん。食べられんほどやないけど、喉がひゅうひゅう鳴ったり、あちこち痒うなったりするねん。」
「それは食べない方が良いな。んじゃ、ササラの分のエビフライは私が食べるよ!」
「トウカはん…!!」
「ササラの分と、あの子の分も合わせて、エビフライ三本トッピングだな!デラックスゴージャスフライセットに、エビフライ三本トッピングでお願いしまーす!!」
「いや、フライいっぱいやん!ササラとあの子の分を食べてくれる優しいトウカはん…、みたいに感心しとったけど、自分でエビフライ食べたいだけやん!!美雪はん達のこと注意できないんやない!?それに、デラックスゴージャスフライセットって、この前も言うたんやけど、この店で一番高いやつやん!!また食べるん!?」
「うん、大好き!!」
「んあ…!?だ、大好きなんかえ…!?」
「美味しいじゃん!デラックスゴージャスフライセット!私の大好きなシルバーブルの牛カツもついてるしなー!まさに絶品!」
「あ、デラックスゴージャスフライセットのことな!!だ、大好きなら仕方ないな!!んじゃ、トウカはんは、デラックスゴージャスフライセットにエビフライ三本トッピングな!!あの子の豆腐ハンバーグ定食と合わせて頼んでくるわ!」
「あ、ちなみに先輩冒険者として、私達のどっちかが奢らないとなー…って思うけど、ササラの奢りで良いよね?」
「いや、なんでなん?この前、奢ったばっかやん。」
「私は金欠なんだよ…。いくつかクエストやって稼いだけど、家の扉の修理代が思ったよりも高いんだよ…。なんか扉と壁の繋ぎ目の金具が普通より深かったらしく、フィーネが無理矢理ひっぺがした時に、壁全体にヒビが入ったんだって…。壁の張替えだぜ?立て直しかよ?ってくらいのお金の請求書が私のとこに来たよ…。なんでだよ、フィーネが払えよって思ってフィーネに会いに王城にいったんだけど、フィーネ数日前から留守にしてるらしいしよ…。」
「分かった、分かったわ!!奢ったる!!今日はササラの奢りで良ぇわ!!」
「やったぜ!!おい、美雪たち!!今日はササラの奢りだ!!これでもかってくらい、好きに頼んで良いぞ!!」
「「「ありがとうございます!!」」」
トウカさんの声に、注文待ちをしていた愛とシロ君とユウジは歓声を上げる。
愛は嬉々として追加注文するものを探し、シロ君は少し申し訳なさそうにデザートのフルーツパフェを追加し、ユウジは流れに乗らねばといった感じで、ロック鳥の丸焼きを追加する。
いや、遠慮ないなー…。と思っていたところで、愛は壁のメニューの中のひとつを指差す。
「あ、私これ追加で!!」
愛が指さした先には、黒い大きな八本足の生き物の絵。
愛さん…、デッドリーポイズンタランチュラの素揚げですか?その追加注文は、冒険が過ぎるよ…?
きっとシロ君が止めてくれるだろうってことで、私も追加注文を選ぶ振りをしながら、トウカさんとササラさんの会話の盗み聞きに戻る。
「トウカはん?今日の稼ぎの数倍以上のゴールドが消えそうなんやけど…?」
追加注文を増やしていく三人を横目に、さすがのササラさんも怒りの表情。
そんな四人のことを見ながら、トウカさんは腕を組みながら満足気に頷きながら答える。
「チャンスの時に遠慮せず、自分の利益を重ねていく力。そういう遠慮の無さは、冒険者として大切な姿勢だよな。先輩冒険者として威厳を示そうと思っての奢りだったけど…、思わず三人の冒険者としての資質を見れて、私は満足だよ。ササラも満足だろ?」
「いや、トウカはんは財布が痛まんから満足かもしれへんけど、ササラは財布に大打撃やかんな?」
「でも、この後のことを考えると、美雪達に恩を売っておくのは良いことだろ?必要経費ってやつだ。」
「それもそうやけど…。」
トウカさんの言葉に、ササラさんの表情が少し険しくなる。
そのササラさんの表情と、トウカさんの言葉に私は引っかかる。
この後のことを考えると、私達に恩を売っておくのは良いこと?
この後って言ったら、私達のパーティに入りたいという冒険者の紹介だよね?恩を売っておかないとまずいような人なの?
まだ見ぬエルフの新入りに、私の中で警戒が高まる。
「そんなわけで、ササラ会計よろしくなー!美雪、なにを追加注文するか決まったかー?」
もっと情報を…と思ったが、残念ながらトウカさんとササラさんの会話は終わってしまった。
聞き耳を立てていた私に、トウカさんが近づき腰に抱きついてくる。
突然の急接近だが、普段から距離の近いトウカさんなら、不思議なことはない。
妹がよくやってたなー、こういうスキンシップ。
トウカさんの抱擁を気にせず、私はメニューの確認に戻る。
「それじゃ、私はお土産メニューのカツサンドを人数分追加で。」
「次の日の食事までゲットかよー!?美雪、強欲ー!!でも、私としてはそういうとこ好きだぜ!!」
私の大胆な追加注文に、腰に抱きついたトウカさんは、うりうりと顔を埋めながら笑う。
考えても分からないトウカさんとササラさんの策略に警戒しても仕方ない。
それに、歌姫の護衛クエストでの感覚から、二人は悪い人じゃないというのは分かる。
無理なお願いや変な仲間を紹介したりはしないだろう。
考えても分からないなら、自分の利に繋がるように二人の思惑に乗って、注文を重ねてしまおう。
本当に大丈夫かなー…という不安は思考の外に追い出してのカツサンドの追加である。これで、明日の朝ご飯をゲットだ。
「…んなー…。」
自分の利に繋がるようにと思っての追加注文に満足していた私の耳に、ササラさんの何とも言えない低い声が聞こえてくる。
私も見てくるササラさんの目が怖い。これは確実に怒っている。
い、今なら注文したばかりだから、カツサンドの注文をキャンセル出来るか…?
注文カウンターに向けて、キャンセルを伝えようとしていた私に、はぁ…と溜息を吐いたササラさんは、おでこに手をやりながら優しく語りかける。
「まぁ、えぇわ。ササラ、注文いってくるな。みんなの分が出来たら呼ぶから、先に仲間入りしたいいう冒険者と顔合わせしとき。」
「それもそうだな!ありがとう!んじゃ、美雪、バカ愛ちゃん、ホワイト坊ちゃん、ユウジー。サっちゃんに会いに行くぞー!」
「「「サっちゃん?」」」
突然のサっちゃんという謎の人物の登場に、私達は声を合わせて質問をする。
私達の質問に、トウカさんの表情が、あ、やべ。といった表情に変わる。
「会うまで内緒だったけど…、まぁ、良いや。それじゃ、サっちゃんに会いに行こうぜー!!」
トウカさんは親指を立てて、食事スペースを指差す。
どうやら私達のパーティに入りたいというエルフの冒険者サっちゃんは、食事スペースで待っているらしい。少し警戒をしながら、食事スペースの中を歩く。
「はい、美雪たち!注目!こちらがサっちゃんです!!」
トウカさんに案内された八人掛けの席には、一人の少女が座っていた。
身長は150センチくらい?くりっとした瞳が特徴な、幼い少女が座っていた。
流れるような黄緑の髪に長い耳の細身の少女。エルフの特徴を持った少女が、申し訳なさそうに座っている。
どうやら、彼女がサっちゃんのようだ。
反射的にぺこりと頭を下げた私に、サっちゃんもペコリと頭を下げる。
謎のエルフ少女、サっちゃんの正体を知るためにも、ひとまず自己紹介をしてみる。
「初めまして、私の名前は美雪といいます。よろしくお願いします。」
「え?あ、すみません。初めてじゃありません…。」
「あれ?あ、すみません。」
「あ、いえ、こちらこそすみません。私なんて忘れて当然なのに…。覚えてもらっているなんて、自意識過剰でした…、本当にすみません…。」
申し訳無さから頭を下げた私に、サっちゃんはより深く頭を下げる。
どうやら、サっちゃんと私は初対面じゃないらしい。
ダメだ。少し記憶を探ってみたが、目の前のエルフの少女に見覚えがない。
「愛、サっちゃんと私って初対面じゃないらしいけど…。愛は見覚えある?」
小さな声で、隣の愛に聞いてみる。普段一緒にいることが多い愛なら、私が覚えていないサっちゃんも覚えているかもしれない。
しかし、私の予想に反して、愛は眉間にしわを寄せて首を傾げる。
「うーん…。なんとなーく、見覚えがあるんだよねー…。どこかで会ったことあるようなー…?ないようなー…?ただ、なんとなーく、その日のことを思い出したくない、みたいな感覚になって思い出せないんだよねー…?んー?んー?」
「なるほど。」
思い出したくない記憶か…。
無理して愛に思い出してもらうのも悪いため、ここは素直に謝って彼女の正体を教えてもらおう。
素直に頭を下げようとしたところで、トウカさんが得意気に話し始める。
「どうやら美雪達はサっちゃんの正体が分からないって感じだから、私から教えてやるよー!!彼女はー…!!」
もったいぶるように一呼吸おいたトウカさんは、ゆっくりと目の前のエルフの少女、サっちゃんの正体を告げる。
「王都名物の行方不明のエルフの姫を探す薄幸の少女!!よく中央通りで、エルフの姫の写真持って声かけまくってるから、美雪達も会ったことあるんじゃねぇの?」
「「あー、なるほど。」」
トウカさんの説明に納得した愛と私は、手をポンと打つ。
「思い出してもらえたようで良かったです…。」
私達が思い出したことに、安堵の表情を浮かべるエルフの少女。
確かにサっちゃんと私達は以前出会っていた。
なかなか思い出せなかったのは、あの日起きた嫌なことと一緒に、彼女のことを記憶の奥底に封印してしまったためだ。
忌まわしきガイドさんめ…。案内料として全所持金を回収させられたこと、絶対に忘れない。
おっと…。ガイドさんに復讐心が膨らんで来たところだが、今は目の前のエルフの少女について確認しなければいけない。
「でも、なんでサっちゃんが私達のパーティ入り志願?あの日、出会った以外に接点無いですよね?本当に私達のパーティに入りたいのですか?」
私の質問に、サっちゃんはこくりと頷く。
「トウカさんに何か弱みを握られて、私達のパーティに入るよう脅されてる…、ってところですか?」
私の更問に、サっちゃんはぶんぶんと首を横に振る。
「おいこら、美雪。お前、私を何だと思ってるんだ?」
「ばかトウカの普段の行いのせいだろ。バーカバーカ。」
「ん?」
「あ?」
「じゃあなんでサっちゃんは、私達のパーティに入りたいの?」
「え!?この一発触発のお二人は無視ですか!?」
「大丈夫です。いつものことですから。気にしないでください。」
「いつものことなんですか!?少し不安になってきました!!」
いつもの愛とトウカさんのやり取りは無視して、サっちゃんの話を聞く姿勢になる。
当のサっちゃんは睨み合う愛とトウカさんのことが気になって仕方ないようだが、私の睨みに負けたのか、ゆっくりと説明を始める。
「え、えーっと、そ、それでは気を取り直しまして…。私が美雪さん達のパーティに入りたい理由を説明します。」
先ほどまでの困った表情とは異なり、真剣な表情に変わるサっちゃん。
サっちゃんが私達のパーティに仲間入りしたいのは、間違いないらしい。真剣な表情のサっちゃんにあわせて、私達も気を引き締める。
「私が美雪さん達のパーティに入りたい理由ですが…。」
「おーい、トウカはん!美雪はん達ー!サっちゃんはーん!食事の用意が出来たでー!さすが洋食屋くろばら!調理が早いなぁ!やけど、料理がすっごい量やから、ササラ一人では持っていけへーん!手伝ってくれへんかー?」
サっちゃんが説明を始めようとしたところで、ササラさんの声が聞こえてくる。
私達の注文した料理が出来上がったから呼んでくれたようだ。
ササラさんに悪気は無いだろうが、気を引き締めていたところのタイミングを外されて、私達はがくっと肩を下ろす。
「タイミングが悪くてすみません…。」
「それでは、話を聞くのはご飯を食べながらにしましょう。良いですか?」
「あ、はい!」
なぜサっちゃんが仲間に入りたいかという説明は後にし、私達は食事を始めるため、大量の揚げ物を席に運ぶ。
ポークカツレツ、メンチカツ、カラアゲ、コロッケ、トンカツ、メンチカツ、イカフライ、エビフライ、アジフライ、なんかゴージャスなフライの群れに、エビフライ、エビフライ、エビフライ、エビフライ…。
机の上に運ばれる様々な揚げ物を見ながら、段々と冷静になる。
「こんなにいっぱいの料理!美雪さん達はいっぱい食べるんですね!さすが、冒険者です!すごいです!」
サっちゃんが拍手をしながら、私達にキラキラとした視線を向ける。
「見る目があるな、サっちゃん!!その通り!!鬼火流剛術の前には敵なしだぜ!!」
「冒険者なら、このくらい朝飯前だぜ!!サっちゃんも、エルフだから痩せてる、なんて固定観念を壊していこう!!いっぱい食べよう!!なんなら、私のエビフライあげるぜー!!」
「いや、私はお肉食べられないので!!エルフとして、食物由来の物以外を食べると、お腹を壊しちゃいます!!」
「「まぁまぁ、遠慮せずに!」」
「遠慮じゃないですー!!お腹ピーピーは嫌ですー!!」
愛とトウカさんは両側からサっちゃんの肩を組み、サっちゃんの頬をうりうりと人差し指でいじり始めている。出会ったばかりなのに、あの二人は相変わらずだなぁ。
その様子を、鬼のような形相で睨むササラさん。そして、テーブルの上には大量の揚げ物。人数分のエビフライ。
場は混沌と化す。
「いや、さすがに揚げ物頼み過ぎたな…。」
「揚げ物の山が三つある…。」
「ひとつは美雪さんの山ですよ…。」
私とシロ君とユウジは、頼み過ぎた揚げ物を前に後悔する。
頼み過ぎた料理の香りと後悔に包まれながら、サっちゃんの正体を探る揚げ物地獄の食事会が、いま始まる。




