初めての異世界での戦闘
前回のあらすじ:やっと始まる異世界生活
異世界の門をくぐった私の視界には、青々とした草原が広がっていた。どこまでも広がる青い空、温かい陽の光、心地よい頬をなでる優しい風。
ここが魔法世界マグノキス、始まりの草原か。
目の前に広がる想像よりものどかな光景に、転生する前の異世界への緊張が和らぐ。高層ビルと舗装された道路の中で生活していた私は、都会の喧騒を離れた大自然の風景に思わず頬をゆるめてしまう。
そんな私の近くに白くて丸いモコモコふわふわが近付いてきた。異世界のたんぽぽの綿毛は大きいなと思ったが、どうやら違うらしい。よく見るとふわふわな毛の中に、つぶらな瞳と小さな口がある。動物だ!
そんな白くて丸いモコモコふわふわの動物は短い手足をちょこちょこと動かしながら私に近付いてくる。
「か、かわえぇ…!」
イメージに合わないと妹に言われてから秘密にしているが、実は私は無類のかわいいもの好きである。白くて丸いモコモコふわふわの生き物は、そんな私の心を一瞬で射止めてしまった。周囲に誰もいないことを確認し、私は近付いてくる白ふわ(白くて丸いモコモコふわふわの略)に向かって、中腰になり両手を広げる。ぎゅーってしたい!ぎゅーってしたい!
私が広げた両手の間に向かって、白ふわは近付くスピードを上げる。私は驚愕の光景に目を開く。
そ、そんな…!小さな動物はいつも私の目つきに怖がって逃げていくのに…、この子は私の胸に飛び込んできてくれるというの…!?
私は異世界での素敵な出会いに心を弾ませる。ついに巡り合えた…、私のベストパートナー!白ふわを胸に抱きしめ、軽やかなスキップをする私の妄想が目の前に広がる…!
決めた、私この子を飼う!!この子と温か触れ合いスローライフを過ごすの!
そんな妄想を膨らませる私の手元に、白ふわは近付きグッと力をためて飛び跳ねる。妄想通り、私の胸に向かって飛び込んできてくれたの!
ドボッ!!
ぷぎゅっ!!
そんな私の幻想をぶち壊す勢いで、白ふわは私の胸に体当たりを繰り出した。マイベストパートナーが繰り出した予想外の攻撃に、私はショックを受けながら少しよろめく。な、なぜ…?心が通じ合ったと思ったのに…!そ、そうか!転んじゃったのね、そうなのね!
再び白ふわが近付いてくる。つぶらな瞳で短い手足をちょこちょこと動かす姿が愛らしい。そんな白ふわの健気な姿に、私は再度両手を広げて受け入れ態勢を取る。おいでー、さっきは受け止められなくてごめんねー!今度はぎゅーとする!ぎゅーっとするから怖がらずおい
ドボッ!!
ぷんふっ!!
白ふわは先ほどと同じ勢いの体当たりを繰り出した。な、なぜまた体当たりですかー?と思ったが、さすがに二回も同じことが起きたら私も異常に気付く。どうしてこうなった?考えろ、私の脳!
そして、私の脳は今起きたことを冷静に分析し、次の結論を導き出す。
シロふわが あらわれた!
シロふわの こうげき!
みゆきは 2のダメージをうけた!
そうか!白ふわはモンスターだ!!
愛らしい外見に騙されたが、白ふわはどうやらモンスターのようだ。納得した私に白ふわは体当たりの姿勢で応える。ちょっと待って!私すでに二回の体当たりをくらって少しふらふらなんだけど!!
しかし、モンスターは待ってと言っても待ってくれない。白ふわはグッと力をため、体当たりをくりだす。私は間一髪で避ける。
二回もくらった攻撃をそう簡単には受けないわよ!私は肩にかけていた弓と矢を持ち、白ふわに反撃の姿勢を取る。高校の弓道部の頃を思い出し、白ふわに狙いをつける。
顔を的に向けたまま左足を的に向かい半歩踏み開き、右足を外側に半歩踏み開く。両足の上に上体を安静におき、弓を引き分けるために弓矢を持った両拳を上に持ち上げる。
ドボッ!!
ぷほぉっ!!
部活時代の弓を引く動作をしたことで、がら空きになっていた私の胸に向かって、白ふわは体当たりを繰り出した。だめだ!礼節を重んじていた高校部活の弓道じゃ隙だらけだ!!有効だと思って選択した弓は近接戦闘に弱いことに気付いた。
え、このままじゃ白ふわに倒されちゃう!!魔王に辿り着く前どころか、可愛いモンスターに気がゆるんだという理由で…?
「いやいやいやいや!そんな倒され方じゃノアと創さんに顔向け出来ないでしょーーー!!!!」
気がつくと私は空に向かって叫んでいた。異世界に送り出してくれた二人を思い出し、決死の覚悟を決めて戦うことを決める。短距離戦闘に特化するため、弓と転生者特典のショルダーバックを放り投げ、矢を小さなナイフのように構え白ふわに向き合う。木製だし、刃渡りは短いしで武器にするには少し心許ないが、これでやらなければいけない。
私が覚悟を決めたところに白ふわは体当たりを繰り出した。飛び掛ってくるとこが見えていれば避けるのは容易い。難なく回避し、隙だらけの横腹に矢を突き刺し、間髪言わず蹴り飛ばす。
「やったか!?」
思わず叫んだが、白ふわは立ち上がる。体に矢が刺さったまま、先ほどの勢いと変わらない体当たりを繰り出してきた。そんな体当たりを私は間一髪かわす。
「厚い毛に阻まれて矢が通っていないのか…!!」
変わらない白ふわの体当たりの勢いと矢を刺したときの違和感に、攻撃が通っていなかったことに気付く。唯一の近距離攻撃も白ふわに通用しない事実に、少したじろぎながらも次の矢を手に持つ。手に持った矢を力が入るよう握りなおしていると、白ふわと目が合う。その目は、先ほどまでの愛くるしい瞳とは違い、野生の獣の目をしていた。
これが異世界のモンスター。転生する前は、モンスターはレベルを上げるために狩るものという認識だったが、白ふわとの戦いで認識を変えられた。モンスターだって狩られたくないから必死にこっちを狩りに来るのだ。私は矢を握っていた手が少し汗ばむのを感じる。
思い返すと、白ふわは最初から私を倒しにきていた。自分が倒されないために。それなのに私は可愛いと言って、見た目だけで相手を嘗めきっていた。いや、モンスターだけじゃない。転生特典があるからと異世界自体を嘗めきっていたのかもしれない。追い詰められて初めてそのことに気付くなんて…。愚かだった自分に後悔の念が湧き上がる。
いや、私はまだ倒されていない!!相手はまだ目の前にいるんだ!!敵を目の前に反省を始めるなんて愚かの極みか!!どこまでも甘い自分を押し殺し、握っていた矢に力をこめ、白ふわをにらみつける。
私の眼光に白ふわが一瞬ひるんだが、体制を立て直し、グッと力をこめ再度体当たりを繰り出す。
「可愛いとか、可愛そうとか言ってる場合じゃない!!これはお互いの命をかけた戦いなんだ!!」
私は手に持った木の矢に全身の体重を乗せた突きを白ふわに繰り出す。先ほどは厚い白ふわの毛に矢が通らなかったが、私が狙ったのは唯一攻撃が通る部分、目である。愛くるしさで私を誘惑した目に容赦なく矢を突き刺す。白ふわが悲鳴を上げるが、両手で渾身の力をこめ、深々と矢を突き入れる。
白ふわは少し暴れた後、光の粒となって消えた。異世界では倒されたモンスターは光の粒となって消える、とノアに聞いていたが、実際に先ほどまで戦っていた敵が目の前で消えると涙がこみ上げてきた。
「ありがとう、白ふわ。あなたのおかげで私は異世界で戦っていく覚悟ができたよ。」
天に昇っていく光の粒を見ながら、好敵手の白ふわへ感謝の気持ちを述べる。呼吸を落ち着かせながら、額の汗を拭う。
おっと、感傷にひたっている場合じゃない。次のモンスターが襲い掛かってくる可能性があるため、私は周囲に警戒を向ける。そして私は気付く。少し遠くで先ほど倒したモンスターと同じ白ふわが子供三人を襲っていることに!!
私が苦戦したモンスターと子供達が戦っている…!?
あぶない!!私は子供達の元へ向かって闇雲に走り出す。
あと数メートルの距離まで近付いたところで、光の粒が天に昇る。助けることが出来なかったと絶望しかけたが、子供達は変わらずその場に立っている。どうやら倒されたのは白ふわの方だ。子供達の声が聞こえてくる。
「さすが、白マルモコ!僕たちでも倒すことが出来たねー!」
小さな木の剣を持った無邪気な男の子が元気いっぱいに他の子供達に話しかける。
「そりゃそうだよ!だって白マルモコはマグノキス最弱のモンスターだもん!」
杖を持った女の子が当然と言った感じで応える。
「確かに、もこもこの毛で攻撃は通りづらいけど、せっかくの小さい体も体当たりで飛び跳ねてくるから攻撃当てやすいし、魔法攻撃はしてこないし、僕たちのような子供でも安定して相手ができますね。」
メガネをかけた博識そうな子供が得意げに二人に解説する。
ノアが言ってたとおりマグノキス人の言葉が分かるとか、どうやら白ふわは白マルモコが正式名称らしいとか、そういえば胸の高さに体当たりしかしてこなかったとか、そんなのどうでもよかった。
私が死闘の末に勝利をもぎ取ったモンスターは、マグノキス最弱だった。わ、私は一人だったし、今日異世界に来たばかりで君たちより経験値が足りないのだから、仕方がないのだよ!と心の中で言い訳をし、自分を慰めてみるが現実は変わらない。子供達三人が苦労せず倒せるモンスターに私は大苦戦。
これが私の異世界で最初のモンスター討伐であり、波乱の異世界生活の始まりであった。