レベル30の壁を超えよう!
前回のあらすじ:無事に(?)歌姫の護衛クエストをクリアした。
私と愛が、一人前の冒険者の仲間入りである青等級冒険者に昇級してから三日。
私達は王都から二時間ほど人引き車を走らせ、チョチツオ草原に来ていた。
太陽の暖かい日差し、周囲の木々を揺らすそよ風、どこからともなく聞こえてくる小鳥たちのさえずり。
風で撫でられる、芝生に似た草の緑鮮やかなチョチツオ草原は、ピクニックに最適な場所だった。
日々の業務と都会の喧騒に疲れ切っていた以前の私なら、お弁当片手にレジャーシートなんて敷いちゃって、陽気さ満喫、ピクニックにしゃれ込む、なんてのも良かったかもしれない。
でも、私達がチョチツオ草原に来た目的は、残念ながらピクニックじゃない。
ぶぉぉぉおおお!!
ピクニック気分を台無しにするモンスターの咆哮。
草原の陽気さに似つかわしくない、巨大なモンスターの咆哮が周囲に響いていた。
「あいつがサイクロプスかー!でっかー!!」
隣に立つ愛が思わず声を上げるのも仕方ない。
私達の目の前には、三階建ての一軒家程度の一つ目一本角の巨人が、無骨な棍棒を片手に我が物顔で闊歩していた。
近くを通りかかった鹿のようなモンスターを、棍棒の一振りで昏倒し、大きな手で掴んで軽々と口の中へと放り込む。
バリバリと骨を噛み砕く音が周囲に響く。
食事を終えたサイクロプスは、キョロキョロと次なる獲物を探して歩き出す。
「うん、敵として不足なし!!よしっ!!行こうか!!」
「こらっ!!愛!!すぐに挑もうとしちゃダメ!!様子見!!」
「ぐぇっ!!」
サイクロプスに向かって走り出そうとする戦闘狂の愛。しかし、途中でその動きは止まる。
見るからに強敵なモンスターを目の前に、愛が暴走することは予想済みだったため、私は愛が装備しているハチマキを握り締めていた。
なんとか止まった愛に、シロ君が話しかける。
「あまり大きな声を出さないでください…。まだ気づかれていませんが、適正討伐レベル42の強敵です…。一旦、相手の行動を観察しましょう。」
「適正討伐レベルって何だっけ?」
「前に説明したような気がしますが…。適正討伐レベルは、冒険者ギルドが定める、モンスターの強さを表す指標です。適正討伐レベル42の場合、バランスの取れた冒険者パーティ四人の平均レベルが42ないと戦いにすらならない、といった感じです。」
「え、俺達の平均レベルって、30程度だよな…?」
ユウジの当然の疑問に、私はサイクロプス挑戦の理由を伝える。
「まず、強敵に挑むのはシロ君のレベル30の壁を超えるため。歌姫の護衛クエストを無事にクリアし、愛と私は青等級冒険者に昇級。パーティ内の全員が王都のダンジョンに挑戦できる等級になったけど、レベル30以上の条件を満たしてないからね。」
「すみません、僕のために。」
「いや、シロ君は謝らなくていいのよ。悪いのはユウジだから。」
「なんでだよ。」
ユウジのツッコミは無視して、サイクロプス挑戦の理由を伝える。
「次に、平均レベルを大きく超えるサイクロプスに挑むのは、私達のパーティ状況を考えての結果よ。私達のパーティは四人中三人転生者な上、シロ君も転生者並みの魔法適正。平均レベルはプラス10って考えて良いでしょう。さらに、サイクロプスは魔法攻撃も状態異常攻撃もしてこない物理特化モンスター。愛の弱点の魔法防御と、状態異常耐性を気にしなくていいモンスターだから、私達なら厳しいモンスターじゃない。そう判断したんだけど、ユウジは怖い?その辺の白マルモコ討伐に変える?」
白マルモコ。ふわふわした白い毛に覆われた丸いモンスター。この世界、最弱と名高い。
「怖くねぇよ。よし、やってやろうぜ。サイクロプス狩り。」
うん、さすがユウジ。単純。
煽ってみたところ、分かりやすくヤル気が上がっている。
「おい、ユウジ。あいつは私の獲物だ。お前は私のサポートに徹しろ。その辺の白マルモコとでも戦っておけ。」
「お前ら、白マルモコに何の恨みがあるんだよ…。」
愛の言葉に、こめかみをひくつかせながらユウジは答える。
しかし、すぐに得意気に笑って愛に言葉をかける。
「良いぜ、サポートに徹してやるよ。ただし、俺の前には絶対に出るなよ?愛は小さいから、気付かずにデュランダルで叩っ切ちまうからよぉ…!!」
「んー?」
「あぁ?」
なぜか愛とユウジは喧嘩を始める。
まぁ、良いか。仲間のヤル気が上がったところで、私は満足気にうんうんと頷く。
「でも、サイクロプスって荒野などの岩場に現れるモンスターなんですよね…。平均適正討伐レベル20程度のチョチツオ草原にいるのは変ですね…。」
「なんか急に現れたんだっけ?最近、強力なモンスターが王都の周囲に突然現れるのよね?なんだろ?不思議。」
シロ君と二人で腰に手をあて首を傾げつつも、今は目の前の強敵が大事と作戦会議を始めることにする。
おおまかな基本方針を伝えたところで、サイクロプスの大きな咆哮が聞こえてくる。
咆哮がした方を確認すると、サイクロプスのもも裏を愛が殴っていた。
「「「愛さん!?」」」
愛さん。愛が暴走した時に、思わず私達は敬称をつけて呼ぶ。
使用例:愛さんが強そうな冒険者に殴り掛かった。愛さんが開かない箱を殴って壊した。
「美雪!!こんだけでかいと、足にしか攻撃できない!!」
「いや、そうじゃなくて!!なんで戦闘開始しちゃってるの!?様子見って言ったじゃん!!」
「美雪さん、ツッコミしてる場合じゃない!!戦闘開始だ!!」
強敵との戦闘大好き愛さんによって、私達は様子見や戦略練りを飛ばして、サイクロプスとの戦闘に突入する。
「巨体の割には、動きが早いな…!!」
「それに、あのでっかい棍棒を軽々と振り回してる…!!なかなかの剛の者だね!!」
「愛さんが嬉しそうで何よりです。」
サイクロプスとの戦闘から一時間程が経過。
私よりも大きい棍棒を振り回すサイクロプス相手に、ユウジのスキル魔法盾と、シロ君の光魔法シールドによって、なんとか私達は致命傷を回避できていた。
サイクロプスとの対格差に、こちらも大きなダメージを与えることは出来ないが、ポーションで回復しつつ、小さいダメージを積み重ねていった。
マグカでサイクロプスのHPを確認したシロ君が、大きな声を上げる。
「美雪さん、サイクロプスの残りHPが二割を切りました!!このままいけば勝てま…って、危ない!!サイクロプスがそちらに突進しています!!気を付けてください!!」
「おっけー。風よ、私を上方へ吹き上げよ!ウインドムーブ!!大丈夫!避けられたよー!」
風魔法ウィンドムーブで空に浮かび、サイクロプスの突進を避ける。
ちょうど上空にいるので、周囲を確認することにする。
うん、追加のモンスター無し。ここでサイクロプスに増援が来たらやっかいだったけど、増援が来る様子はない。
そりゃそうか。他のモンスターも、サイクロプスの攻撃に巻き込まれたくないもんね。
「まだか!!まだ膝を折らないか、こんにゃろう!!」
「愛、危ない!!頼むから、防御も覚えろよ!」
「防御はユウジの役目でしょ?美雪が言ってる、敵うざい的っしょ!ってやつ!!」
「なんだそりゃ…って、もしかして、適材適所か!?」
なんだかんだ言いながらも、愛とユウジの近接戦闘組は相性が良い。
愛は敵の背後に回りながら攻撃しているし、サイクロプスの振り向きざまの攻撃も、ユウジが盾で防いでいる。しかも、ユウジは防御だけじゃなくて、デュランダルで反撃もしている。
盾で防ぎながらのユウジの攻撃も、神話級の剣であるデュランダルのおかげで、大きなダメージに繋がっている。
接近戦を挑む二人が狙われ続けるおかげで、シロ君と私は反撃を気にせずに遠距離攻撃が繰り出せる。
強敵であるサイクロプス相手にも、私達パーティは十分以上に戦える。
仲間達の頼もしさを感じながら、風魔法ウィンドムーブで空中へと再度飛び上がり、サイクロプスのがら空きの背中へと攻撃をしかける。
「風魔法は攻撃だけじゃなく、移動にも使える。地を走る二次元的な移動ではなく、空中を飛び回る三次元的な移動なら、攻撃と回避の幅は大きく広がる。こんな風にね!!ボムアロー!!」
愛とユウジに集中していたサイクロプスの背中に、私の放った矢が刺さり、爆発が発生する。
突然の背後での爆発に、大きく棍棒を振り回すサイクロプス。
背中で炸裂したボムアローによる爆発も、サイクロプスの厚く硬い皮膚の前には大したダメージにならなかったようだ。
怯むことなく、サイクロプスは私へと大きな棍棒を振り上げる。
しかし、私はすでにウィンドムーブで退避済み。サイクロプスの棍棒は虚しく空を切る。
シロ君の近くに降り立つと、愛とユウジも近付いてくる。
「サイクロプスのHPも、残り一割弱!!みんな、一気に決めるわよ!!シロ君!!トドメの魔法のため、高威力の魔法の準備を!!」
「は、はい!!」
ぶおぉぉぉおおおお!!
私のシロ君への指示をかき消すように、サイクロプスは大きな雄叫びを上げる。
地を震わせる程のサイクロプスの咆哮。
同時に、サイクロプスの体から赤いオーラのような物が立ち上がり始める。
「HPが減ったら発動するスキル背水です!!能力が大きく上がるので注意です!!」
シロ君の言葉のとおり、サイクロプスのステータスが上がったことを、直感的に感じる。
全身の筋肉が膨れ上がり、青い血管が浮かび上がる。
並の冒険者なら怯み上がるサイクロプスの様相だが、私達のパーティの中で恐慌状態に陥る者はいない。
むしろ、士気が高まる少女が一人。彼女はニヤリと獰猛に笑う。
「良い咆哮じゃねぇか、一つ目巨人!!それでこそ、私の相手に相応しい!!剛力を右足に圧縮!!そして解放!!鬼火流剛術 壱の型!!睡蓮!!」
体躯の小さな愛だが、魔法を使えない代わりに、彼女の物理攻撃力は上級冒険者に迫る。
そんな彼女の放つ高威力の豪快な蹴りは、愛の何倍以上もの大きさを持つサイクロプスですら、大きくバランスを崩す程である。
しかし、スキル背水が発動したサイクロプスも負けていない。
蹴りの衝撃に耐えたサイクロプスは、蹴りを放った後の愛へと棍棒を振り下ろす。
愛の体より大きい無骨な棍棒。直撃したら小さな愛の体は、ひとたまりもない。
「相変わらず、すごい蹴りだな。サイクロプスの巨体が揺れてるぜ…。って、当然反撃してくるよな。棍棒が振り下ろされるけど、そこは俺の出番!!攻撃を受け止める!!スキル魔法盾!!」
愛に向かって振り下ろされる棍棒の前に、私達のパーティの盾役であるユウジが立ち塞がる。
スキル魔法盾によって、盾に魔法の力を纏わせて防御力を上げたユウジは、振り下ろされた棍棒から愛を守るために盾を上方に構える。
正面から受けたのでは無事で済まないことを悟ったユウジは、盾に少し角度をつけ、棍棒の攻撃を左側へと受け流す。
「私は左足を狙う!!ユウジ合わせろ!!スキル魔力昇華発動!!」
「おっけー!!俺は右足だな!!スキル魔法剣発動!!」
愛の拳が赤く光り、ユウジの手に持つデュランダルが青く光る。
必殺の一撃を放とうとする二人をサイクロプス越しに確認しながら、私はサイクロプスの背後に移動。マグカから取り出した竜槍を構える。
「二人が両足なら、私は背中かな?スキル必中発動。」
サイクロプスは振り下ろした棍棒を持ち上げて反撃を繰り出そうとするが、すでに手遅れ。
各々のスキル発動と共に、左足に愛、右足にユウジ、背中に私が武技を放つ。
「萩に猪!!紅葉に鹿!!牡丹に蝶で華やかさ大爆発!!鬼火流剛術 壱の型奥義!!萩紅葉牡丹 猪鹿蝶!!」
「荒れ狂う水流!!俺のデュランダルをぶっ壊す威力の魔力の奔流!!逆巻いて渦巻いて、荒れ狂いやがれ!!狂水一迅 アクアスラッシュ!!」
「放つは、神をも恐れぬ一撃。神による不名誉な名付けに、炸裂せよ、我が怒り!!神槍投擲による神罰!!」
サイクロプスの左足に、スキル魔力昇華によって大きく威力の上昇した愛の連続殴打が炸裂する。
サイクロプスの右足に、スキル魔法剣によって大きく威力の上昇したユウジの横薙ぎの武技が炸裂する。
サイクロプスの背中に、スキル必中によって心臓の裏へと正確無比に放たれた私の武技が炸裂する。
両足と背中に武技を受けたサイクロプスの体は、前のめりにゆっくりと傾く。
「やったか!?」
三人が各々のスキルを発動して放った、現状で取り得る最高威力の一撃を、その身に受けたサイクロプス。しかし、サイクロプスのHPを削り切ることは出来なかった。
「やっぱ、あの硬い皮膚をどうにかしないとダメージが半減されちまうな。」
ユウジの言葉に答えるように、サイクロプスは倒れ切る前に、両手をついて地面に打ち付けられるのを防ぐ。
大きく開いたサイクロプスの口は、歯を食い縛るかのように力強く閉じられ、顔中に青筋が浮き上がる。
怒りの形相でギョロリと動いた一つ目は、目の前に立つ少年を捉える。
モンスターに感情があるか分からないが、サイクロプスの表情は驚愕へと変わった気がする。
「サイクロプスの弱点は一つ目!!転倒させた場所も狙い通りにシロ君の前!!さぁ、シロ君、トドメをお願い!!」
「放つは最高硬度の金剛石!!炸裂せよ!!ダイヤモンド・ロック・ブラスト!!」
シロ君の杖の先から、拳ほどの大きさの無数の金剛石が、ショットガンのようにサイクロプスの頭へと放たれる。
地属性魔法から進化させ、大きく威力の上がった岩魔法は、想像力を駆使することで、放つ岩をダイヤモンドである金剛石へと変えることが出来た。
残念ながら、魔法の発動後には消えてしまうため、巨万の富を得ることは出来なかったが、攻撃手段としては既存の岩魔法よりも大きく威力が上がる。
地球上での最高硬度を誇るダイヤモンドである金剛石は、サイクロプスの厚い皮膚が邪魔しない、大きな一つ目へと吸い込まれていく。
青黒い血をまき散らし、大きな悲鳴を上げるサイクロプス。
大量の血をまき散らしながらも棍棒を大きく構えたサイクロプスだが、ついにHPが削り切られたのか、光の粒へとその姿を変える。
サイクロプス相手に勝利を収めた私達は、トドメの岩魔法を発動したシロ君へと駆け寄る。
「うん、なんとか作戦通りに勝てたわね。」
「隙を作りながら、みんなで攻撃をする、トドメはシロに。これが作戦って言えるか?美雪さん?」
「いや、ちょっと待て、ユウジ。愛さんが暴走したせいだから。本当はサイクロプスの行動を様子見して、ちゃんとした作戦を練ろうとしてたから。それに、無事に勝てたんだから、良いじゃない。細かいこと気にしてるとハゲるよ?」
「あ?」
「そうです!今の勝利で、僕のレベルも30になりました!!目標達成したんだから、良いじゃないですか!ハゲますよ?」
「なんでそんなにハゲ推ししてんのか分かんねぇけど…、終わり良ければ総て良しってとこか。あれ、こんな時に大声を上げる元気一番はどうした?」
そういえば愛の姿が見えない。
強敵に勝利した時には、愛が勝どき代わりに大声を上げるのに。
サイクロプスに単騎で挑んだ説教もしなければいけないってのに、肝心な説教相手がいない。
キョロキョロ周囲を確認すると、どこかから愛の声が聞こえてくる。
「美雪ー、助けてー、動けないー…。」
大声での勝どきの代わりに、愛のか細い声が聞こえてくる。
声のする方を確認すると、愛が地面に倒れていた。
「いや、なんで?」
「分からないー。力が全然入らないよー。なんで、シロくーん?」
「多分、スキル魔力昇華のせいですね…。MPが減る代わりに、大きく攻撃力と速さを上げるスキルですが、愛さんのMPは低いですからね…。少しのスキル発動で、MP切れになったようです。」
「なるほど。」
「なるほど。じゃないよー…。助けてー。」
そういえば、始まりの草原でバッタの大群に大魔法を発動してMPを大きく減らした私も、膝ががくがくになったっけ。
愛の現状もMPが足りなくなったからか…。納得した私は、ポンと手を打つ。
「愛は魔法が使えないから、無駄になるMPの有効活用で取得したスキル魔力昇華だってのに…、そもそもMPが少ないから短時間の発動になってしまうってわけか…。愛、お前この世界向いてないぞ?」
「あん?おい、ユウジ。お前、喧嘩売ってるのか?買ってやるよ、その喧嘩ー!!」
「倒れた状態で、よくそんな威勢を張れるなぁ…。ほれ、MP回復ポーションだ。さっきの言葉のお詫びに、俺が奢ってやるよ。」
「ん、ちょっと待って!よいしょ…っと!おっけー!!」
「おっけーって、うつ伏せから仰向けになっただけじゃないか…。」
「あー…。」
「まじか…。」
ごろんと愛は仰向けになり、大きく口を開ける。
「そのまま飲むのか?まぁ、愛が良いなら良いけどよぉ。」
大きく開けた愛の口に、ユウジはちょろちょろとMP回復ポーションをゆっくりと垂らす。
「ごくごく。」
よくそんな体制で飲み物を飲めるなー…と思っていたところで、愛の体が青く光る。
MPが回復した愛は、仰向けの体制から両手と背筋を使って飛び上がる。
すごい起き上がり方だな…。まるでアクション映画じゃん…。
愛の行動に驚いていた私に、親指を立てて愛は笑う。
「ふぅ!元気出た!!」
「それじゃ、愛も元気になったことだし、シロ君も無事にレベル30になったし、トウカさんとの約束のため、王都に戻ろっか!」
王都へ戻ろうとした私に、愛がキョトンとした表情で質問をする。
「約束?トウカと?」
「え?忘れたの?冒険者ギルドに行く前に会ったじゃない?」
「そうだぞ。その時に、俺達パーティに仲間入りしたいっていう奇特な冒険者と、夜ご飯を一緒しながら、ひとまず顔合わせをするって話になっただろ?」
「?」
私とユウジが説明をするも、頭にはてなマークを浮かべた愛は、首を傾げる。
どうやら愛は本当に忘れてしまったらしい。そういえば、寝起きだったからか、少しぼんやりしていたな…。珍しくトウカさんに喧嘩をしかけないと思っていたら、気付いてなかったのね…。
今もなんだか眠たげに目をこすってるし、もしかして寝不足?いつも布団に入ったら、すぐに寝ちゃう愛が?何かあったのかしら…?不安ね…。
愛の睡眠不足の理由を確認しようとしたところで、シロ君に話しかけられる。
「でも、大丈夫ですか、美雪さん?トウカさんに決めとけって言われていた僕達のパーティ名、結局まだ決まってませんよね?怒られちゃいますよ?」
「んー…。みんなでいろいろな案を出し合って考えてみたけど、ピンと来るパーティ名が思いつかなかったからねー…。」
歌姫の護衛クエストの前に、トウカさんにパーティ名を決めるように言われてから、みんなでパーティ名を考えていたが、私達はまだ決められずにいた。
人族魔族との戦争を止めるため魔王と和解する、という私達の最終目標に相応しいパーティ名をつけようと思っているが、なかなか良い名前が決まらない。
トウカさんに怒られるかなー?パーティ名は新しい仲間と一緒につけたかったっていう理由で誤魔化せないかなー?そんなことを考えていた私に、元気いっぱいな声がかけられる。
「大丈夫だよ!美雪!私が良い名前を考えたからね!」
元気いっぱいな声の主は愛。
両手を腰に当て、胸を張っている。愛が考えたパーティ名というものに、あまり良い予感がしないが、一応確認しよう。確認しないと拗ねるし。
「愛、良い名前って?」
「よくぞ聞いてくれた!私が考える、私達のパーティ名は…、剛を以て全を制する冒険者パーティ…略して、剛険者!!どう、剛険者ってパーティ名!?冒険者と剛をかけてるんだよー!良い名前でしょ!どうかな、どうかな?」
「あ、あー、剛険者ですねー…、美雪さん、ユウジ、どうですか?」
「「却下。」」
愛の考えたパーティ名に対し、私とユウジは即座に却下を伝える。
一瞬、びくっと驚いた愛だが、シロ君の横に立って胸を張る。
「シロ君は賛成だから、二対二!!同票だよ!!さぁ、シロ君!私と一緒に美雪を説得しよう!!」
「あ、いえ、僕も却下です。三対一で却下です。一考の余地無しです。」
「どんだけー!?」
シロ君の無情の報告に、愛は予想していなかったのか大声を上げる。
ちなみに、ユウジが「一考とIKKOをかけているのか…」と変なことを呟いたが、何を言ってるか分からなかったので無視する。
「えー!?なんでー!?良い名前じゃん!!剛険者!!」
「私は剛じゃない。どっちかというと柔よく剛を制すタイプ。だから、剛険者は似合わない。」
「僕もです。考えて戦うタイプです。剛じゃないです。」
剛険者というパーティ名案に対する、シロ君と私の忌憚のない意見。
愛は片足で地団太を踏みながら、ユウジの方を向く。
「二人はそうだけどー!!ユウジはどっちかと言うと、剛だよね!?剛だよね!?」
「剛とか柔とか関係なく、剛険者ってパーティ名は、シンプルにダサい。」
「背負い投げー!!」
「やめろ、愛!!俺を投げ飛ばそうとするな!!」
トドメのユウジの言葉に、愛は掴みかかる。
ユウジを投げ飛ばした愛は、ユウジを投げ飛ばしても無駄と悟ったのか、両手で頭を抱えて大声を上げる。分かりやすくショックを受けている。
「んなー!?せっかく寝る時間を削って考えた、私達に相応しいパーティ名だってのにー!!」
愛の寝不足の理由も判明。剛険者を考えていたのが理由だったようだ…。
しかし、どんなに真剣に考えても、愛が提案するパーティ名には必ず剛の字が入る。
両腕をバタバタして抗議する愛をなだめつつ、隙あれば提案してくる剛のパーティ名を拒否しつつ、私達は王都の帰り道につく。
意外なパーティ入り希望者に出会うまで、あと数時間。




