守れ!歌姫!護衛クエストで等級アップだ!⑩
前回のあらすじ:シークレットスキルで学んだ戦闘技術、スキル眼光威圧、不意打ちの爆発魔法プチボム、意図せずの伊達メガネ。使える物をすべて使っての戦闘により、なんとか美雪は格上の冒険者であるペトラ・ジャーマネに勝利を収めた。しかし、体力の限界を迎えて気を失ってしまう。
重力を失ったかのように、全身がふわふわと浮遊感に包まれている。
指先すら動かしたくない虚脱感に包まれる中、妙に間延びした声が聞こえてくる。
「…ちゃーん、み…き…ゃーん…」
遠くから私を呼ぶ声。声と言っても、耳で聞くのとは違い、頭の中に響くような不思議な声だ。
でも、聞き馴染みのある声。おそらく、あの神だろう。
「久しぶりー、美雪ちゃーん!」
手を左右に振りながら、私に間延びした声をかけるのは、少女とも少年とも見れる、中性的な子供。
力を振り絞って声のする方を見ると、一人の子供が空中であぐらをかいていた。
子供の正体はノア。私が転生した異世界、魔法世界マグノキスの創造神である。
ノアはにやにやと笑いながら、楽しそうに私の表情を確認した後、おおげさに両手を上げて、話し始める。
「いやー、美雪ちゃんが、土壇場でシークレットスキルに目覚めるとは、予想がーい!驚きだよー。」
「今までも睡眠中に不思議な夢を見ることが多かったけど、今回のは特に顕著だったわね。私のシークレットスキルは、睡眠学習ってとこ?」
「うーん、もうちょっとカッコいい名前だけど、まぁ良いかー!睡眠学習!そんなとこだよー!」
「やっぱり、睡眠学習か…。」
転生初日に愛を弓矢で打ち抜いた夢、黒い影と戦って敗北した夢、その後の再戦でレベル10の壁を超えた夢、おそらくトウカさん視点での強敵から逃げる夢。
そして、先ほどのナイフでの戦闘術を学ぶ夢。
異世界に転生してから、不思議な夢を何度か見てきた。
夢の中で、多くのことを学んできたが、それは全てシークレットスキルの効果だったようだ。
私の中の隠された力を知った私は、これからどのように扱っていくか考える。
思考モードに入ろうとした私は、ノアの間延びした声で現実に戻される。
「しっかし、セクレトが美雪ちゃんのシークレットスキルの覚醒を促すなんてー、驚きだねー!」
セクレトという初めて聞く名前に首を傾げるが、とある人物が思い当たる。
きっと、ペトラさんとの戦闘中、夢を見る前に話した声の持ち主だろう。一体、なぜ彼があの場面で、私のシークレットスキルを覚醒させたのだろう。
疑問がいっぱいだ。せっかく訳知り顔のノアがいることだし、確認しよう。
「あの、ノア…。」
「うんうん、分かるよー!セクレトについて聞きたいんだねー?ボクも美雪ちゃんの質問に答えたいとこだけどー、こんなに呑気に話してて良いのー?歌姫の護衛クエストなのにー、歌姫のライブ本番中に気を失ったどころかー、ペトラ・ジャーマネって、護衛クエストの依頼主を倒して良かったのー?良くないよねー?寝てる場合じゃないんじゃなーい?」
ノアの抗議の声に、私はハッとして目を開ける。
「確かに!!歌姫の護衛クエスト中に寝てる場合じゃない!!大変なことしちゃった!!やばい!!」
「うわぁ!!びっくりした!!」
勢いよく起き上がった私は、周囲を確認するがノアはいない。夢から目が覚め、現実世界に戻ったようだ。
「どうしたの、美雪?そんな慌てて?」
目覚めてすぐの私の大声に驚き、心配そうに私の表情を伺うのは、私のベットに腰かけていた愛だった。
ごめんごめんと驚く愛に謝りながら、周囲を見回してみると、私達が宿泊している宿屋金字塔だった。
どうやら気を失った私は、宿屋金字塔のベットに寝かされたようだ。
「愛!!こんなところで何してるの!?護衛クエストは!?」
「護衛クエスト?それなら、昨日美雪が寝てる内に終わったよー!無事にクリアー!問題無しだよー!」
「昨日?へ?」
「美雪は闘技場でペトラと戦ってぶっ倒れた後、今までぐっすり寝てたんだよー。そこから半日以上、爆睡!今日は美雪が倒れた日の、次の日の昼前だよー!」
「次の日の、昼前?へ?」
愛の言葉を呑み込めない私は、詳細を確認することにする。
「ごめん、愛。昨日、私が倒れてからのことを順に話して。」
「昨日どうなったか順を追って?美雪はペトラと決闘して、見事にペトラをぶっ倒して、ぶっ倒れたじゃん?その後は、私、シロ君、くそトウカ、ササラで、歌姫のコンサート中も護衛を続けたよ!護衛護衛、強敵来ないかなーって活き込んだけど、特に目立った敵が出なかったー。でも、その代わりに歌姫のコンサートを堪能できたよ!歌姫の歌めっちゃすごかったし、黒と青のモンスターの羽で装飾されたドレスも綺麗だったし、大満足だったー!」
「なるほど…。」
私がぶっ倒れて寝込んでる間、歌姫の護衛クエストは無事に完了できたのは本当のようだ。
ユウジと話した夜から密かに楽しみにしてた、歌姫ミラウェル・シンガーソングの歌声を聞けなかったのは残念だったけど、無事だったなら良い。
「そっか…、護衛クエストは無事にクリアできたのね。良かった…って、痛てて…。」
歌姫が無事だったことに安心しながら立ち上がろうとした時、お腹にずきりと痛みが走る。
そういえば、ペトラさんの武技、猛虎岩砕掌をお腹にくらってたっけ。
ぺろっと服をめくってみると、お腹に大きな青あざが出来ていた。
「うわっ!大きな怪我!!痛そう!!シロ君に治してもらおう!!呼んでくるね!!」
シロ君に回復魔法をお願いするため、走り出した愛だが、部屋の入り口で小柄の女性に止められる。
「ダメだ。シロ坊に回復してもらうのは、私が許さないぜ。」
「なんで、トウカ!?」
愛を止めたのは銀琴のヤクモこと、トウカさんだった。
私達の部屋の入り口に両手を組んで、堂々と立ち塞がっている。
普段のトウカさんとは違い、口を真一文字に結び、怒りの表情を浮かべている。
「その怪我は、美雪が暴走して、ペトラを磔吸血鬼と勘違いして負った怪我だ。今回の美雪の暴走は、私とササラのアドリブのおかげでなんとか取り繕ったけど、あわや歌姫のコンサートイベントをぶち壊すレベルだった。それに、護衛クエストの肝心な歌姫のコンサート中は気を失ってた、っつうんだから、情状酌量の余地も無いだろ?だから、反省するためにも、今日は治すべきじゃないと私は判断する。よって、魔法での回復は私が認めない。」
「なんでだよー!?あんなに痛そうじゃん!!美雪辛そうだよ?」
「ダメだ。これは、譲らないぞ。」
「ケチー!!」
「ケチ?出血してたところは回復済みで、命を失う心配は無いだけ優しいだろ?全身の打撲が少し痛むくらいだ。それに、冒険者稼業に影響が出ないよう、明日には治すって言ってんだから優しすぎの、激アマだろ?激アマトウカちゃんだろ?」
「はぁ!?変な意地悪はやめろよな、トウカー!!」
今にもトウカさんに掴みかかろうとする愛の肩を掴んで止める。
「はい、ストップ、愛。心配してくれるのは嬉しいけど、トウカさんの言ってることは完全に正しい。今回悪いのは私。ちゃんと反省するためにも、この怪我は治さないでおくよ。」
意識するとズキズキ痛むお腹をさすりながら、私は愛に笑いかける。
私の言葉に、愛は唇を尖らせながらも、振り上げた拳を降ろす。分かってくれたようだ。
「美雪がそう言うなら、良いけどー…。なんか、トウカの言いなりってのは嫌。」
「おいおい、愛ちゃん?それはどういう意味かな?んー?」
「そのままの意味だよ、ばーかばーか。」
「んー?よし、表出ようか、愛ちゃん?その喧嘩買っちゃうぞー!」
「ばかトウカなんて、鬼火流剛術のサビにしてやるよ。」
「やめなさい。」
「「ひぃっ!!」」
睨み合って喧嘩を始めようとする愛とトウカさんを、スキル眼光威圧で止める。
びくっと怯えて止まる二人を横目に、溜息を吐く。
なんかすぐに喧嘩始めるな、この二人。相性悪いのかな?
いや、二人とも喧嘩っ早いからだわ。
愛は強い人いたら喧嘩挑もうとするし、トウカさんも基本的に喧嘩腰だもんな。
「二人はご飯もう食べちゃった?」
「「まだです!!」」
「じゃあ、ご飯にしましょう。着替えるから少し待ってて。」
隙あらば喧嘩を始めようとする愛とトウカさんを睨んで牽制しながら、身支度を整え、昼食を食べに食事スペースへと向かう。
「あ、美雪さん、起きたんですね!おはようございます!」
食事スペースにシロ君がいた。
食べていたピザトーストのような物を置き、席を空けて私達のスペースを用意してくれる。
シロ君の用意してくれたスペースに座り、一息ついたところで、私は深々と頭を下げる。
「昨日はごめんなさい。暴走した。本当にごめん。」
私の謝罪が突然のことだったからか、シロ君はキョトンとする。
少しの沈黙の後、シロ君は両手を振りながら、笑顔でフォローをしてくれる。
「いえいえ、僕を助けようとしてくれた結果なんですから、僕は攻める資格無いですよ!あ!美雪さん、昨日の怪我まだ残ってますよね?回復しましょうか?」
「シロ坊、それはダメな。」
「ごめんね、シロ君。」
「?」
私の怪我を回復してくれると言う、心優しいシロ君に申し訳ない気持ちになりながら、回復できない事情を説明する。
「そういうことですか…。分かりました!僕も心を鬼にして、美雪さんの怪我を回復しません!!」
「ありがとう、シロ君!」
胸を張るシロ君に、私は笑顔で答える。
ズキズキとお腹が痛むが、今日はシロ君の回復魔法に甘えちゃいけない。この痛みを感じながら、多くの人に迷惑をかけた反省をしなきゃいけない。
そんなシロ君と私に、むむむーっといった表情で抗議を唱える少女が一人。愛だ。
なにか思いついた様子の愛は、ニヤリと笑った後、指をわきわき動かしながら、私へと近づいてくる。
「心を鬼にしてかー。鬼火流の者としては、簡単に鬼って言われると、ちょっとその決意を試したくなっちゃうなー!ほれほれー!」
「いや、なにに張り合おうとしてるのよ…、って、怪我を増やそうとしないで。痛い痛い!!お腹をポンポンわきわきしないで!!」
「い、痛いんですか!?すぐに回復しますね!!」
「おい、シロ坊、お前の中の鬼はどうなってんだよ。激アマかよ…。」
杖を取り出して回復をしようとするシロ君の頭を、トウカさんがぐいっと鷲掴みにして止める。
私のお腹をわきわきと揉んでくる愛、悲鳴を上げる私、回復魔法を唱えようとするシロ君、それを妨害するトウカさん。
宿屋金字塔の食事スペースは、私達の大声で包まれる。
そんな私達がわぁわぁ騒いでいる中、ユウジが食事スペースに現れる。
「おはよう。みんな元気だな…。少し元気を分けて欲しいくらいだよ…。」
頭をがしがしとかきながら現れたのは、ユウジ。なんだか眠そうである。
眠そうなのも仕方ない。ペトラさんに昨日盛られた睡眠薬が抜けきっていないのだろう。
そんな眠たげなユウジへ、愛、シロ君、トウカさんの順で明るく声をかけていく。
「あ、肝心の護衛クエスト中に爆睡してた木偶の坊ことユウジじゃん。その大きい体って何のためにあるの?おはよう。」
「美雪さんが暴走を責められていますが、本当に何もしてなかった大柄の役立たずって、ユウジですよね。大きい体の防御キャラなのに、護衛クエスト中に寝てるってどういうことですか?あ、おはようございます。」
「無駄にでかいユウジ。ひとまず、私に感謝しような?レベルが高いからステータス高いって理由で、爆睡するお前の大きい体を背負って、ここまで運んだのは私なんだからよー。おかげで私はくたくただけど、ひとまず、おはよう。」
「三者三様の、おはようの挨拶が辛辣過ぎる…。俺だって頑張りたかったんだけど、睡眠薬を盛られたんだから、仕方ないだろ…?」
厳しい言葉をかけられるユウジの肩をぽんと叩き、私は優しくフォローする。
「うん、今回ばかりはユウジに同情する。なんかごめんね?」
優しく笑顔での私のフォローに、ユウジは戦慄の表情を浮かべる。
がくがく震える体を両手で抱きかかえるように抑えながら、大声を上げる。
「おい!!美雪さんが妙に優しい!!逆に怖い!!俺、今日殺されるのか!?」
「せっかくフォローしたのに、なんでかな?ユウジ?」
「あ、やべぇ!!地雷を踏んだ!!助けて!!」
「いや、私は労わっただけなんだぞ?なんで、そんなに怯える?ん?」
「あばばばばばば!!」
「美雪さん!!昼食にしましょう!!今日の日替わりは、月一のお勧め絶品メニューですよ!」
震えるユウジの胸倉を掴んでいた手を離し、シロ君が指さす先を確認する。そこには、日替わりランチメニューの看板があった。
今日の日替わりのランチセットは、ウィンドゴートの肉を使ったジンギスカン鍋の定食のようだ。
他の冒険者が食べるランチセットの香りに、私のお腹は、ぐぅーっと鳴く。そういえば、昨日から食事をしていなかったな。
必死に謝るユウジに溜息を吐き、すでに食事中だったシロ君以外の人数分、私達は日替わりのランチセットを注文する。
程なくして運ばれてくる、焼肉と野菜炒めがのった独特な形の小鍋に、山盛りのご飯。
どうやら、これがウィンドゴートの肉を使ったジンギスカン鍋の定食のようだ。
小鍋と表現したが、三百グラムくらいはありそうな大盛りの肉。ランチという割には、重めのメニュー。
冒険者という肉体労働には、このくらいの重さでも良いのかな?
寝起きの私はこんな食べられるかな…と不安になりながらも、ウィンドゴートの肉を口に含む。
「あ、美味しい。」
あまりの量に最初は驚いたが、濃いめに味付けられたウィンドゴートの肉で作られたジンギスカンは、疲れた体を元気づける絶品だった。
少し獣臭いけど、それが癖になるウィンドゴートの肉を頬張る。そして、ご飯を口いっぱい頬張る。
「うん、美味しい。ワイルドな旨味が堪らないジンギスカンと、ご飯がよく合う。」
「疲れた体に、ジンギスカンからパワーが染み入ってくるなぁ…。体が目覚めていくのを感じる。元気が湧く…。うまい。」
ユウジと感想を言いながら、夢中で食べていると、ご飯がすぐに無くなる。
でも、大丈夫。今日はサービスデイだから、ご飯おかわり無料。
「あ、ユウジ、私の分も。」
「ん。」
おかわりに行こうとするユウジに私の分も頼みながら、食事を満喫する。
「うまーい!!これなら、無限に食べれるー!!」
「無限?愛ちゃんが無限食うなら、私はその二倍の無限の量を食うわ!!んまい!!あー、これなら無限だわー!!む、げ、ん、だわー!!」
愛とトウカさんは張り合いながら、びっくりする量を胃に納めていく。
両頬いっぱいにご飯を含んだ二人は、お互いに張り合いながら大声を上げる。
「うっせぇぞ、トウカ!!お前の無限なんて、大したことないってのを教えてやるよ!!鬼火流剛術、食の型!!ウツボカズラ!!」
「あぁ!?なんじゃ、その型は!?手が、手が高速で動いて、口に肉を運んでいるー!?ま、負けねぇぞ!!おい、ユウジ!!私にもおかわり!!」
「私も!!」
二人はユウジに向けて空になったお茶碗を伸ばす。
すでに私と自分の分のお茶碗を持ったユウジは困った表情を浮かべる。
「俺の手は二本しかないから、おかわりは美雪さんと俺の分で限界。」
「んじゃ、ユウジの分おいてけよ。」
「トウカ、名案!ユウジのお茶碗は私が見ててやるよ!」
「いや、なんでだよ!!」
シロ君が立ち上がって手伝いを始めるまで、三人はやんややんや言い合う。
やがて、シロ君が山盛りにして運んできたおかわりのご飯も、愛とトウカさんはあっという間に食べ尽くし、次のおかわりの発声をする。
「んまい!!まだまだ食える!!」
「まだ腹減り過ぎて、もうご飯だけで食えるわ!!」
運ばれてきたご飯も、あっという間に二人の口の中に消えていく。
その勢いは、周囲の冒険者達が、二人の食事量に驚いて足を止めるほど。
いつしかランチタイムは大食い大会へと化していた。
二人はいがみ合いながらも、多くのご飯と肉を小さい体に納めていく。そんなに食わないで…といった表情の、ラクレさんとレトチさんの視線が痛い。
だんだんお腹いっぱいになってきたのか、二人のペースが落ちてくる。
「うぅ…、おい、トウカ、ギブアップするらな、今の内だぞ…!!」
「は…?まだ腹八分目だし…。うぷ…、デザートは別腹ってのを考慮すると…、もうワンセットいけるぞ…!!」
なんだか限界のような二人。しかし、二人の箸は止まらない。
なんでここまして、二人は張り合おうとするんだろう?なにが二人を突き動かしているの?
食後のお茶を飲んでいた私は、はぁーと溜息を吐き、スキル眼光威圧をオンにする。
「食事は適切な量を、適切に。美味しくね?」
「「は、はい!!すみません!!」」
暴走しようとする二人を、スキル眼光威圧で止めておく。
食事は大人しく適切な量を、程ほどの騒がしさくらいで、美味しく食べるのが良い。
大人しくなった二人を横目に、私達は食後の予定を決めることにする。
「トウカさん、午後は冒険者ギルドで良いですか?」
「そうだな。ひとまず、食後は冒険者ギルドに行って、一応成功になるかな?って心配ありの護衛クエストの報酬を受け取るぞ。他に早急な用事ある?」
「「「無いでーす!」」」
他に優先する予定の無い私達は、トウカさんの提案を午後の予定にする。
冒険者ギルドを訪れた私達に気付いた冒険者ギルドの受付の女性は、笑顔で対応する。
「いらっしゃいませ、トウカさん。歌姫様の護衛クエストの件ですよね?依頼者であるペトラ様から伺っております。依頼主を勘違いで倒しちゃうなんて、この冒険者ギルドでも、前代未聞のハプニングですよ!さすが銀琴ですね!よ、銀琴!」
「なぁ、それ褒めてないよな?前に迷惑をかけた時のは、謝って許してもらったよな?あん?」
「私にすごむのはやめてもらって良いですか?荒くれの代名詞と言っても過言でない、傍若無人な銀琴のヤクモさん!」
「私のポリシーを教えてやる。喧嘩上等だ!よーっし!受付相手でも、遠慮はしないぞー!!」
冒険者ギルドのカウンターをまたいで、意気揚々と受付の女性に殴ろうとしたトウカさんを羽交い締めにして止める。
バタバタと手足を動かすトウカさんを無理矢理に抑えながら、私は受付の女性に頭を下げる。
「すぐに喧嘩をふっかけないでくださいよ、トウカさん。受付さん、本当にすみませんでした…。」
私の謝罪に、受付の女性は黙ってにこりと笑う。
イエスでもノーでもない返答。どっちかな?怒ってるのかな?
そんな私の申し訳ない気持ちを気にすることなく、トウカさんは受付の女性へ質問をする。
「ちなみに、護衛クエストはどうなんだ?成功?失敗?」
「歌姫様および天才ピアニストであるレイヤ様は無事だったので、護衛クエスト自体は成功となります。おめでとうございます。冒険者ポイントが一定に達しましたので、美雪さんと愛さんは青等級冒険者へ昇級となります。昇級の手続きを行ってきますので、こちらへマグカをお渡しください。」
にこりと笑った受付の女性の言葉に、喜びを隠しながらマグカを渡す。
マグカを受付の女性に渡したところで、愛は歓喜の言葉を上げる。
「やったね!!美雪ー!!ミノタウロスぶっ倒したおかげで、レベルも30以上になったし、これでダンジョンに行けるね!!」
王都のダンジョンは、未熟な冒険者が無駄に命を落とさないよう、レベル30以上、青等級以上が挑戦できるっていう条件を憶えていた愛。
憶えてて偉いでしょ?って表情の愛の頭を、偉い、偉いと撫でてあげる。
受付の女性に、愛と私はマグカを渡して、ハイタッチをする。
私もペトラさんに勝利したことで、レベル32。
これで、王都のダンジョンに挑戦できるぞ!と思ったけど、重大な問題に気づく。
先立つものがない。つまり、お金が無い。
ガイドさんに所持金全部をカツアゲされたのが約一週間前。
護衛クエストを受ける前に受けたクエストによって、少しは財布事情が回復したが、護衛クエスト中は他クエストを受けることが出来なかった。
そのため、私達の財布事情はかなり心許ない。正直、生活費でギリギリだ。
ダンジョンへ挑戦するための食料やポーション、装備品の充実に回すお金が足りないのが現状である。
そんなわけで、ダンジョン挑戦するための軍資金を、護衛クエスト成功の報酬金で手に入れたい。
しかし、本当に大丈夫だろうか…?依頼主のペトラさんを倒しちゃったし…。
報酬金もらえるかな…?もらえないと、ガイドさんに巻き上げられた私達の財布事情としては、すごく厳しいのだけれど…。
慌てず、冷静に、ゆっくりと確認しましょう。
「あ、あの…、私達の、報酬金って…?」
「クリアは良いけど、報酬金は大丈夫か?依頼主のペトラを、この美雪が暴走して、倒しちまったけど。ペトラ、怒ってなかった?」
私のおどおどとした態度に痺れを切らしたのか、トウカさんが受付の女性へ言葉をかける。
受付の女性はにこりと笑って、私達の質問に答える。
「ご安心ください。少しでも怪しいと思ったことを警戒するのは、護衛クエストでは大事、と逆にペトラさんは評価をしてくれています。久々に冒険者として戦闘が出来て楽しかった、とも言ってくれております。ペトラさんは人間の出来たお方ですね!」
受付の女性の言葉に安心し、思わず表情が緩む。良かった、ひとまず報酬金は貰えそうだ。
「まぁ、そんな人間の出来た女性を、問答無用で美雪さんはぶっ倒しちゃったんですけどね!」
「ほんと、すみませんでした…。」
にこりとした表情のまま、受付の女性は答える。笑顔だけど、言葉にはトゲがある。怖い。
「さて、美雪さんいじりはこの辺にして、護衛クエストは無事に成功なので、報酬金が用意されております。あ、あと歌姫様から手紙もございます。こちらも合わせてお渡しさせていただきますね。」
「ミラウェルから手紙?なんだろ?」
受付の女性から、トウカさんは手紙を受け取る。
なんとなく既視感のある手紙に首を傾げているところで、受付の女性が申し訳なさそうに、歌姫さんの手紙とは別に、一枚の紙をトウカさんに手渡す。
「あと、こちらはトウカさんへ。お願いしますね。」
「手紙の他にも?なんだろ…?」
受付の女性からもらった紙を確認したトウカさんは、びくっと驚いた後、一瞬でぐしゃっと握りつぶして、笑顔に戻る。
「よーし!それじゃミラウェルの手紙を確認しよっかー!」
「「「いやいやいや、気になる気になる!!」」」
「うるせぇ。」
「「「!?」」」
先ほど握り潰された謎の紙に対する私達の疑問は、トウカさんの睨みによって一蹴される。
「こっちの紙は、サポーターの美雪達には関係ないやつだよ。今はミラウェルの手紙の方が大事だろ?今回の護衛クエストの締めになる大事な手紙だから、集中して聞けよ?」
ふぅと息を吐いたトウカさんは、歌姫であるミラウェル・シンガーソングさんの手紙を読み始める。
「えーっと、銀琴こと、トウカ・ヤクモさん。並びにサポーターの皆様、極度の人見知りである私は、言葉では伝えることが出来ないため、こうして手紙を書かせていただきました。此度の護衛クエスト、皆様にはお詫びしなければいけないことがございます。…って、あぁ!?」
ミラウェルさんの手紙を読みながら、キレ始めるトウカさん。
おそらく、手紙の先を読んで怒りが湧き上がってきたのだろう。今にも手紙を破きそうなトウカさんを、どうどうとなだめながら、手紙の続きを読んでもらう。
「美雪達も驚くと思うぞ…?心して聞けよ?」
トウカさんの質問に、私達は深く頷く。
ふぅっと一息吐いたトウカさんは、ゆっくりと手紙の続きを読み始める。
「今回の護衛クエストですが、凶悪誘拐犯である黒い羽根の予告手紙と思われてしまった手紙は、私がレイヤ宛に出したラブレターになります…。」
「「「え!?」」」
トウカさんの言葉に、驚いた私達の言葉が重なる。
混乱する私達に、うんうんと満足気に頷いたトウカさんは、ゆっくりと手紙の続きを読み始める。
「私がレイヤ宛に出したラブレターを偶然、目にしたペトラが、偶然、黒い羽根からの手紙と誤解したことにより、今回の護衛クエストは始まりました。衣装を彩っていた黒い羽根の中の一枚が、偶然、手紙の側に落ちていたことも、誤解を加速したと思います。つまり、凶悪誘拐犯である黒い羽根は、最初から存在しなかったのです。本当に申し訳ございません…。」
徐々に笑いを堪えるようになってきたトウカさん。
衝撃の護衛クエストの正体に混乱しているところで、トウカさんは手紙の最後の一文を読み始める。
「何度もペトラおよび皆様の誤解を解こうとしましたが、口下手な私は結局誤解を解くことが出来ませんでした。また、磔吸血鬼が現れたところで、嘘から出た実ってことで、愛するレイヤの無事のために、護衛を続けてもらうことにしました。重ねてお詫びいたします。また、私達の護衛が無事に完了したことにお礼をさせていただきます。ありがとうございました。だってさー…。」
今回の歌姫の護衛クエストの結論を、歌姫の手紙によって知る。
そういえば、歌姫は何度もあうあうと私に伝えようとしていたな…。これだったかー…。
そっかー。最初から凶悪な誘拐犯はいなかったのかー…。確かに、平和この上ないってくらい、護衛クエスト中は何も無かったもんなー。そりゃそうか、黒い羽根なんて存在しなかったんだから。
この護衛クエストは、護衛をする敵がいない平和なものだった…。
私が依頼主を襲った以外は…。
ズキズキと痛むお腹をさすりながら、反省する。
「なんか変なオチになっちまったけど、磔吸血鬼から守ったってのは事実だから、護衛クエストって形は保てたと思うぞー!それじゃ、これは美雪達の取り分な!護衛クエストの報酬四千ゴールドの半分!二千ゴールドな!確認してくれー!」
私達の前に、ずしりと多くの金貨の入った布袋が置かれる。
自然と私達の目が布袋に集まる中、トウカさんは足早にギルドの受付へと向かっていく。
「私は残りの、諸々の手続きしてくるー!ちょっと遅くなるだろうから、美雪達とはここでバイバイだな!またそのうちー!お疲れー!」
「待って、トウカさん!!」
手を振りながら立ち去ろうとするトウカさんに、私は声をかける。
ん?どうした?って表情で振り返るトウカさんに、私は深々と頭を下げる。
「ありがとうございました!!」
護衛クエスト中、色々と面倒をみてもらったトウカさんに、感謝の気持ちを伝える。
私の言葉に続き、愛とシロ君、ユウジも深く頭を下げる。
私達の感謝に、少し照れ臭そうに笑ったトウカさんは、背中を向けて手を左右に振る。
「先輩冒険者として当然のことをしたまでだ!だから、そんな恥ずかしいお礼をするんじゃない!それじゃ、また近いうちにー!次会った時は、美雪達の仲間に入りたいって冒険者を紹介すっから、ちゃんとパーティ名を考えとけよー!」
護衛クエスト前に言われていた、私達のパーティ名について再確認される。
私達の仲間になりたいという、特殊な冒険者のことが気になるが、足早に去っていくトウカさんに、それ以上のことは質問できなかった。
トウカさんと別れた後は、宿屋金字塔へと向かう。
宿屋までの道を歩きながら、今回の護衛クエストについて考えてみる。
歌姫、竹調ことササラさん、冒険団モブといった多くの人と出会い、磔吸血鬼と勘違いしてペトラさんと戦い、誘拐を企てる敵と思っていた黒い羽根はそもそも存在しなかった。
色々あった歌姫の護衛クエストだが、当初の目的である青等級冒険者への昇級と、クエスト報酬金を得ることが出来た。
満足感と共に、パーティの仲間達に明日以降の相談をする。
「ガイドさんにお金を巻き上げられた時はどうなるかと思った私達の王都挑戦だけど、こうして報酬金を得ることが出来て、なんとかなりそうだね!」
「今日は宿屋に戻って、明日からの計画を立てようぜ!」
「えー?ダンジョン行こうよ?まだ、時間早いよ?」
「ごめんなさい…。僕まだレベル28です…。ダンジョン挑戦できるレベル30を満たしていません…。」
「それじゃ、当分はダンジョン挑戦資金を集めるためにも、クエストに行こうっか!みんな青等級になったし、今までのクエストより、難しい討伐クエスト受けられるよ!難しいクエストなら、シロ君のレベル30の壁も超えられるでしょう!それなら、愛も満足かな?」
「強敵と戦えれば、良いよー!」
「それじゃ、当分の間はシロ君のレベルが30超えるまで、クエストで資金稼ぎね!」
仲間達の表情と雰囲気も、護衛クエストを受ける前より明るくなっている。
しかし、無事に終わっていたと思われた護衛クエストだが、これからの私達を大きく変える出来事が、実は起きていた。
その私達を大きく変える出来事が判明するのが数日後。この時の私達はまだ知らない。




