守れ!歌姫!護衛クエストで等級アップだ!⑨
前回のあらすじ:圧倒的なペトラさんの攻撃に、窮地に立たされる美雪。もうダメだと諦めかけたその時、美雪の中の隠された力シークレットスキルが目覚める。
「まさか私の武技を受けて立ち上がるとは驚きですが、そんなフラフラな体でナイフを構えても、虚勢にしか感じられません。すぐに楽にしてあげます。」
ナイフを片手に接近してくるペトラさん。
まっすぐ私の胸に迫るペトラさんのナイフ。私はなんとか手に持つナイフで防ぐが、多くのダメージを受けてフラフラな私の体は、衝撃を殺し切ることは出来ない。
大きく吹き飛び、壁に打ち付けられる。
「トウカとササラの支援魔法があっても、私達の実力差は埋められないってことです。トウカが美雪さんのことを、見込みがある冒険者と評価していましたので、楽しみにしてたのですが…。正直なところ、少し残念です。」
「少し残念…?まだ、その評価は早いですよ…。」
フラフラな体でもなんとか立ち上がる。
ペトラさんのナイフも、さっきの夢のおかげか、私の体に届く前に防げている。大丈夫、まだ戦える。
私が立ち上がったことに対して、驚愕の表情を浮かべるペトラさんに、ニヤリと笑って挑発する。
「私はまだまだ戦えますよ…?」
「立ち上がるだけじゃなく、挑発まで出来ますか。正直驚きです。それでは、これはどうでしょう!!」
ペトラさんはナイフを持って、突進をしてくる。
まっすぐ突っ込んでくるだけのように見えるが、注意深く観察をすると、重心は少し左側に傾いている。
おそらく、私の虚を突くような何かをした後に、左側から奇襲攻撃をしてくるだろう。
「ロックウォール!!」
突然、私の目の前に岩の壁が現れる。ペトラさんの岩魔法ロックウォールだ。
岩魔法は地属性魔法の進化系。
大きな岩の壁が私に向かって倒れてくるロックウォールは、先ほどの地属性魔法ストーンバレットよりも威力も攻撃範囲も大きい。
突進に見せかけての岩属性魔法ロックウォール。
目の前に突然出現した岩の壁がゆっくりと私に向かって倒れてくるが、驚かない。想定内だ。
「ウィンドボム!!」
風属性魔法と爆発魔法を合わせたウィンドボムで岩の壁を吹き飛ばす。
そして、左側から現れるナイフを、夢の中でユウキがそうしたように、ペトラさんの手首を最小限の動きで弾いて防ぐ。
ペトラさんがナイフを弾かれた勢いそのままに、体をひねり始めたところで、すかさず横っ飛び。
先ほどまで私の体があったところに、ペトラさんの右足が伸びる。
夢の中で少女が使った、ナイフの突き刺し攻撃からの後ろ回し蹴りと同じような動き。
夢の中のユウキのように軽やかに避けることは出来なかったが、ペトラさんから視線を外さなかったおかげで、なんとかペトラさんの蹴りは回避することが出来た。
ふーっと息を吐く私に、ペトラさんは驚愕の表情を浮かべる。
「私のナイフだけじゃなく、魔法、さらには次の連撃まで防いだ!?どういうこと!?さっきまでの動きとは別物過ぎる!!」
夢の中で手に入れた戦闘技術が、役に立っている。
息を整えている私に対し、ペトラさんは眼鏡をくいっと上げながら、解析を始める。
「まさか、今までは実力を隠していたというの!?いや、そんなことをするためには、大きなダメージを受け過ぎている…!!一体、どういうこと!?少し倒れている間に、何が起きたというの!?」
夢の中で半日ほど、ナイフの実践訓練を受けてました。
そんなことを言いようもんなら、私は変な人認定されてしまう。困りつつもキャラを守るため、私も眼鏡をくいっと上げながら、ペトラさんの質問に回答する。
「多分、睡眠学習…?」
「多分、睡眠学習!?どういうこと!?」
クールに回答しようと思ったけど、自信がない上に、疑問形になった気がする。
そんな私の回答に、ペトラさんを余計混乱させてしまった気がする。申し訳ない。
「美雪さんの突然の強化の理由は、まったくもって理解が出来ませんが、今は気にしないことにします!!いきますよ!!」
突き出されるペトラさんのナイフを防いだり、避けたりしながら、私は勝利への道筋を考える。
やがて、私はひとつの結論に辿り着く。
この状況からペトラさんに勝つことが出来るのは、ひとつの魔法だ。
思いついた勝利への道筋を、念のため何回か再考する。
しかし、結論は変わらない。
この魔法が狙い通りに発動したら、ペトラさんに勝つことが出来るだろう。
苦戦の中で、やっと見えてきた勝利への道筋に、にやりと笑いそうになるのを堪えながら、私は必殺の魔法の発動を待つ。
下手なタイミングで発動したら、必殺の魔法は不発に終わってしまう。
不発で終わった魔法を再度使おうとしても、ペトラさんには同じ手は通用しないだろう。
チャンスは一度きり。
だから、私は少女が夢の中で教えてくれたことを実践することにする。
焦らず、慌てず、冷静に。私はペトラさんの隙を淡々と狙う。
しかし、さすがビリジアン等級の冒険者のペトラさん。
攻撃の中の隙を伺うため、反撃をせず、回避と防御に集中しているが、隙がまったく無い。
もしかしたら熟練のナイフ使いなら、隙を見つけられているかもしれないが、今の私にはそんな技術はない。
それじゃ、このままいつまでも隙が出来るのを待っているべきか?
答えはノー。大きなダメージを受けている私の方が、先にスタミナ切れを起こすだろう。
ペトラさんの攻撃を避けているだけでは、現状は好転しない。
だからこそ、私は自分から動いて、ペトラさんの隙を作る。
夢の中の少女は、相手の隙を待つだけじゃなく、死角からの魔法を使って自分から隙を作りにいくことを教えてくれた。
私はそれを実践する。
しかし、必殺の魔法の隙を待つ私は、魔法で隙を作ることは出来ない。
隙を作るために魔法を発動したら、魔法への警戒が強まり、必殺の魔法は避けられてしまうかもしれない。
隙を作るための魔法はダメだ。
魔法がダメなら、諦める?
答えはノー。私は自分にしか出来ない手段で、ペトラさんの隙を作りにいく。
「さっきからチラチラと、なに見てるんですか?ペトラさん?」
「!?」
ペトラさんは私の視線から、次の攻撃を読んでいるのだろう。戦闘中なのに、よく目が合う。
だからこそ、目が合ったタイミングで、私はスキル眼光威圧を発動した。
スキル眼光威圧を取得する前ですら、殺し屋と言われた私の目つきの悪さ。
それを極限まで高めるスキル眼光威圧の発動に、ペトラさんは咄嗟に視線を逸らす。
ペトラさんの体が硬直しているのが分かる。怖いだろう?私の全力の睨みは。
必殺の魔法を発動するなら、今しかない。
決まれば勝利をぐっと引き寄せることが出来る特別な魔法。
私はゆっくり大きな声で、必殺の魔法を発動する。
「弾けろ!!プチボム!!」
隙の出来たペトラさんに、私は必殺の爆発魔法、プチボムを発動する。
プチというだけあり、私が使える爆発魔法の中で一番消費MPが少なく、発動の早い代わりに、爆竹程度の小さな爆発しか起こせない魔法。
これが私の必殺魔法。
相手にダメージを与えることが期待できない、威力の少ない小さな爆発魔法のため、今までは有用性が感じなかった魔法だが、夢の中での少女の言葉に、考えが変わった。
このプチボムっていう魔法は今回の戦いにおいて、勝負を決める必殺の一撃となる。
パンッという小さな音と共に、ペトラさんの眼鏡が吹き飛ぶ。
何度も何度も眼鏡をくいっと上げていたペトラさん。
視力がすごい悪いのだろう。
私は必殺の爆発魔法プチボムで、ペトラさんの視界を奪うことにした。
眼鏡が吹き飛ばされたペトラさんは、驚愕の表情で、私を見る。
そんなペトラさんの目は数字の3。全然、見えていないだろう。
「私の眼鏡が!?これを狙っていたと言うの!?」
「はい。ずっと狙っていました。視界が奪われれば、さすがのペトラさんでも、私の攻撃を避けることが出来ないでしょ?」
「くぅ!!しかし、そう思う通りにはいきませんよ!!」
必殺の魔法が思ったように決まり、ペトラさんの眼鏡を吹き飛ばせたことへの安心感からか、私に隙が出来たのだろう。
眼鏡が吹き飛んでも、反撃の手を止めなかったペトラさんのナイフが、私の目の前を通り過ぎる。
なんとかギリギリのところで避けられたが、ペトラさんの眼鏡と同じく、私の眼鏡も吹き飛ぶ。
予想外の反撃に、私は思わず距離を取る。
ペトラさんは不敵ににやりと笑う。手に持つナイフから、私の眼鏡を吹き飛ばした感触が伝わったのだろう。
「私の視覚を奪う、という点はとても良かったのですが、美雪さんの視覚も奪わせていただきました。これで、条件は五分五分です。」
決め言葉だったのか、くいっと眼鏡を上げようとするペトラさん。その指は、空を切る。
癖でしてしまった行為に、ペトラさんの表情は赤くなる。
「私の眼鏡を私が気付かない内に吹き飛ばし、いつの間にか視覚を奪う、という点はとても良かったのですが、美雪さんの視覚も奪わせていただきました。これで、条件は五分五分です。」
真っ赤な顔で言い直したペトラさんに、少し申し訳ない気持ちになる。
申し訳ない気持ちになるが、これから言わなければいけないことに、さらに申し訳ない気持ちになる。
「申し訳ございませんが、五分五分ではありません…。私、伊達メガネです。」
「え?」
「私の眼鏡は、少しでも目つきの悪さを和らげるための物なんです。実は視力は悪くありません。だから、何も変わっていません。」
「え?」
「なんか、すみません…。」
「だ、大丈夫です!!私は美雪さんの気配で、カウンターで攻撃を出来ます!!視力が奪われたところで、問題ございません!!」
試しに、足元にあった小石をペトラさんに投げてみる。
ペトラさんの言葉の通り、投げた小石はナイフで弾かれる。
「そこにいるんですね!!」
それどころか、石の飛んできた方向から私がいる方向が分かったのか、ペトラさんは突進をしてくる。
しかし、やはりペトラさんは眼鏡を失ったことで周囲が見えていないのか、少し避けただけで、突進は簡単に避けれてしまう。
一安心だが、ペトラさんは飛んでくる小石を、ナイフで弾けるくらい気を尖らせている。
下手に接近戦を挑んでは、手痛い反撃を受けてしまうだろう。
幸いなことに、考える時間はある。
なにせ、ペトラさんはキョロキョロ周囲を警戒しているのだから。
私もキョロキョロと周囲を見渡し、ペトラさんに蹴飛ばされた弓を探す。弓なら接近しなくても、攻撃が出来る。
「接近したらカウンターを受けるなら、接近せずに弓矢で攻撃をしたら良いと思っています?残念ながら、美雪さんの弓は、場外まで蹴り飛ばしましたよ?探しても無駄です。」
私が攻撃してこないことから、ペトラさんは私の考えを悟ったようだ。
弓矢を探すことはやめ、マグカからもうひとつの武器を取り出す。
取り出したのは、始まりの草原で、ワイバーンから手に入れた竜槍。
ずしりと重みを感じる、先が尖った長い鉄の棒のような武骨な槍を片手に、私はペトラさんに向き直る。
「MP、HP、スタミナ。全て限界が近いけど、これで決める!!」
風魔法で天高く飛び立った私は、キョロキョロと周囲を警戒するペトラさんに狙いを定める。
「これが、正真正銘の最後の一撃!!神槍投擲による神罰!!」
私の手から、竜槍が放たれる。
ペトラさんが慌ててナイフで反撃を繰り出すが、爆発によって推進力を得た竜槍を防ぐことは出来ない。
ペトラさんの持っていた黒いナイフは砕かれ、竜槍はペトラさんの肩に深々と突き刺さる。
しかし、神槍投擲による神罰はこれだけでは終わらない。
ロケットアローの原理で爆発から推進力を得た槍は、ボムアローの原理で突き刺さるのと同時に、大きな爆発をする。
闘技場に、大きな爆発音が響く。
「勝負ありぃぃぃいいい!!!激戦を制したのは、美雪だぁぁぁああああ!!!」
トウカさんの大きな声の後、観客の歓声が闘技場を包む。
爆発で発生した煙の中には、ペトラさんはいない。
頭の中で何度も響く、レベルアップを告げる機械音声によって、ペトラさんを倒したことを実感する。
闘技場で敗北した人は、死ぬ程のダメージを受けても死ぬことはなく、控室へと転送される。
ペトラさんも今頃、控室だろう。
勝てた。
かなりギリギリだったが勝てた。
絶対に勝てないと思ったペトラさんだが、シークレットスキルの覚醒をきっかけに、勝利を収めることができた。
満足感に包まれる私だが、神槍投擲による神罰を放った後のため、体は空中にある。
浮遊感から、落下する感覚へ変わる。この高さから地面に激突したら、無事にすまないだろう。
勝利じゃなくて引き分けか、と思っていた私の体は、いつの間にか落下点にいた愛に、優しく受け止められる。
「愛?」
「そう、私!!美雪、勝ったんだね!すごいよ!!」
私を受け止めた愛の力強い笑顔。そして、ぎゅうっと抱きしめられる。
「痛い、痛い!ボロボロなんだから、優しくして?」
「わぁ、ごめんごめん!!」
慌てて私を離す愛。私は自分の足で立ち上がり、えへへと笑う愛に、なんとか笑って答える。
「愛がミノちゃんを止めてくれてたからだよ。ありがとう。」
「ミノちゃん?あぁ、さっきの牛野郎ね!ぼっこぼこにしてきた!!今まで戦った中で一番の強敵だったけど、私も勝ってきたよー!!」
にかっと笑った愛は、誇らしげに私に拳を向ける。
愛の向けて来る拳の意味を理解した私は、愛の手に、ゆっくりと自分の拳をこつんとぶつける。
「えへへへ!」
「ふふふ。」
笑い合う私達に、トウカさんが大きな声で闘技場を盛り上げる。
「見てください!!素敵な二人の友情!!愛ちゃんが、美雪の健闘を称えております!!そんな美雪の健闘も、私とササラの補助魔法のおかげ!!私とササラの補助魔法によって、美雪は格上のペトラ相手に勝利を収めたんです!!私とササラの、友情の、補助魔法によってな!!な?そうだろ?ササラー?」
私がペトラさんに勝利を収められたのは、自分とササラさんの補助魔法のおかげ、ということをトウカさんは強調する。
否定は出来ないけど、勝利気分が少し薄れるなぁ…。
愛と私の抗議の声に答えるように、ササラさんが冷静にトウカさんへ返答する。
「友情?何言うとんの?ササラは友情なんて、思うてへんわ。」
「かーっ!!ササラちゃんは相変わらず、手厳しいねぇ!!」
ササラさんの言葉にも負けず、嬉しそうな笑顔で私に駆け寄ってきたトウカさんは、私の片手を天高く持ち上げる。
まるで、プロレスの勝利した方を誇示するように。
私の勝利ポーズに、闘技場の観客達は大きな拍手で、健闘を称えてくれる。
盛り上がる観客達の歓声を背後に、補助魔法によって勝利をもたらしてくれた二人に、私はお礼をする。
「トウカさん、ササラさん。補助魔法ありがとうございました。」
「美雪が対バンライブに乱入してきた時は、びっくりしたけど、盛り上がったからオッケー!」
「おおきに、美雪はん。ササラ、今日のことは忘れまへん。」
トウカさんは誇らしげに笑い、ササラは今まで見たことない表情で嬉しそうに笑っている。
そんな二人に、私も笑顔で答える。
「トウカさん、ササラさん。そして、愛。最後に、ひとつお願いです。」
「ん?どうした、美雪?」
「なんでも言うてくれて構へんで!」
「お願い?」
私の言葉に、トウカさんは気遣うように、ササラさんは妙にテンションの高い声で、愛は小首を傾げて答える。
補助魔法を使ってもらったばかりで少し申し訳ないが、早く伝えないと大変なことになる。
私は力を振り絞って、三人にお願いを伝える。
「私、もう限界…。気を失うから、あとはよろしく…。」
「「美雪ー!?」」
「美雪はーん!?」
トウカさんに片腕を上げられたまま、私はぐったりと倒れる。
ペトラさんに勝利を収めたが、私の体力は限界だった。
ペトラさんから受けたダメージは、今までの人生で一番のもの。
先ほどまでは必死で歯を食い縛って耐えていたが、全身の痛みが勝利の安堵と共に襲い掛かってくる。
多くの観客に見守られる中、強敵に勝利した満足感と共に、私はゆっくりと意識を失った。




