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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
王都挑戦編 -所持金すべて失い歌姫を護衛する-
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守れ!歌姫!護衛クエストで等級アップだ!⑧

前回のあらすじ:歌姫のマネージャーであるペトラさんを、凶悪殺人鬼の磔吸血鬼(はりつけきゅうけつき)と勘違い。銀琴(ぎんごと)竹調(たけしらべ)のサポート魔法を受けながら、ビリジアン等級の元冒険者であるペトラさんとの戦いが今始まる。


「ほらほら、どうしました!!私のオブシディアンナイフを防いでいるばかりじゃ、勝利を掴めませんよ!!私は戦闘のブランクがあるんですから、現役の冒険者として、一矢報いてくださいね!!」


笑顔でナイフを振るうペトラさん。くっ…!!速い!!

ペトラさんは、完全に私を殺しに来ている。

闘技場という特別フィールドのおかげで、倒されても死なないから、遠慮なくナイフを振るってくる。

死にはしないけど、刺さったら死ぬほどの痛みを味わうだろう。

痛いのは嫌なので、ペトラさんと真剣に戦いたいと思います。


そう活き込んでみたものの、異世界での対人戦が初めての私は、ペトラさんに先手を取られたことの重大さに、今になってやっと気付く。

ペトラさんの繰り出す、高速のナイフ攻撃に手も足も出ない。

ペトラさんに一矢報いたいところだが、私のメイン武器である弓矢のような遠距離武器は、懐に潜り込まれた時点で、反撃は難しくなってしまう。

トウカさんとササラさんの支援魔法のおかげで、なんとかペトラさんの高速な攻撃を防げているが、防御で精一杯。反撃する暇などない。

一応、近距離戦闘のために腰にナイフを装備しているが、本職のナイフ使いであるペトラさんには通用しないだろう。下手なことをして、致命傷を受けても仕方ない。


攻撃手段である弓矢とナイフは使えない。

普通の戦闘なら手も足も出ない絶望的な状況。しかし、この世界には魔法がある。


「集え風の精霊よ!逆巻く風により我に推進力を与えよ!!ウィンドムーブ!!」


これは王都の図書館で読んだ魔道書で学んだ魔法。

自分の前方に強い風を噴き出し、後方へ大きく飛ぶ風属性の移動魔法である。これなら、前方から迫ってきたペトラさんへの牽制をしつつ、大きく距離を開けることが出来る。

距離が開けば弓矢が使える。


「ロケットアロー!!」


「移動魔法で距離を取ったのは先輩冒険者として褒めてさしあげますが、弓矢での攻撃には落胆を隠しきれません。先ほど私に避けられたのを忘れたのですか?」


私が先ほど放った矢は、紙一重のところで避けられてしまった。

難なく避けられた攻撃を繰り返す私に、ペトラさんは落胆の表情を浮かべるが、それを織り込んでのロケットアローだ。

ペトラさんが避けたところで、ロケットアローの爆発を発生させる。


「!?」


体の横で突如発生した爆発に、ペトラさんは防御を出来ず無防備状態で全身に爆発攻撃を受ける。トウカさんの支援魔法のおかげか、いつもより大きな爆発。

これほどの爆発であれば、さすがのビリジアン等級の冒険者でも、大きなダメージを与えられただろう。

ふぅっと一息吐いていたところで、私の思惑が外れたことを痛感する。


「矢はあくまでも囮。矢の後方で推進力を得るための爆発を、私への攻撃に使うとは…。予想外です。」


もうもうと黒煙が上がる中から、ペトラさんが眼鏡をくいっと上げながら現れる。


「予想外でしたが、問題ありません。」


ローブの両袖は爆発で吹き飛んでおり、剥き出しになった両腕からポタポタと血が流れている。

体のあちこちからも黒煙が上がっているが、確かな足取りで私の前に立つ。


ローブの両袖が吹き飛んでいるということは、まさかあの爆発を両腕でガードしたというの…!?

私の驚愕に気付くことなく、ペトラさんは頭の横をトントンと叩いている。


「しかも、大きな爆発音は私の聴力も奪います。少し聞き取りづらくなっているため、私の言葉が届いているか不安ですが、お伝えさせていただきますね。」


ごくりと唾を飲む私に、ペトラさんはにこりと笑って言い放つ。


「美雪さんの技、戦い方は全て見切りました。手痛いダメージを受けてしまいましたが、ここからは私が一方的に攻撃をさせていただきます。」


「全て見切った?一方的に攻撃?さすがのペトラさんでも言い過ぎでは無いですか?」


あまりにも強気なペトラさんの一言に、さすがにカチンときた私は、対抗的に眼鏡をくいっと上げ、挑戦的な言葉をぶつける。

私の挑発ともとれる言葉に、ペトラさんは眼鏡をくいっと上げ後、淡々と先ほどの言葉の根拠について説明を始める。


「申し訳ございませんが、事実です。あなたの実力を確認するため、今までは(けん)に回っていました。それを証拠に、私はまだ魔法とスキルを使っていません。」


「な!?」


魔法とスキルを使っていない!?

それじゃあ、さっきまでの攻撃は全て、ステータス頼りの素の攻撃だっていうの!?

ササラさんのステータスダウンの補助魔法を受けているというのに、単純な能力差でこんなに追い込まれているというの!?

あまりの衝撃的な事実に、手に持つ弓にじんわりと汗が浮かんでくるのを感じる。


「それでは、いきますよ!!」


ペトラさんはおそらく何かのスキルを使ったようだが、先ほどまでの突進との違いは感じられない。


「ストーンバレット!!」


私の目の前で、ペトラさんは詠唱破棄の地属性魔法ストーンバレットを使う。

正面から攻撃を受けようとした私の前に、ショットガンのような勢いで、たくさんの小石が飛んでくる。

初めて目の前で炸裂する他人の魔法。私は咄嗟に風魔法で防御する。


「ウィンドシールド!!」


迫りくる無数の小石が、渦巻く風の盾で吹き飛ばされる。

地属性魔法ストーンバレットを防いで安心したところで、私の左側からペトラさんの攻撃が聞こえる。


「確かに、ウィンドシールドならストーンバレットを防げます。しかし、そんな単調な攻撃を私がするとお思いですか?」


迫りくる小石が風の盾で吹き飛ばされたのを確認した瞬間、私の脇腹に鈍痛が走る。

痛みのする方を見ると、ペトラさんの左足が脇腹に刺さっていた。どうやら、ストーンバレットは私の注意を引く誘導で、本命はこっちの蹴りだったようだ。

脇腹の耐え難い痛みに距離を取ろうとする私だが、ペトラさんは容赦しない。右足でもう一度蹴りを放ってくる。


「ぐぅ…!!」


咄嗟に持っていた弓で蹴りを受け止めた私だが、手に電流が流れたかのような衝撃が走る。

腕を襲う痺れから、思わず私は弓を手放してしまう。


「防御無効のスキル痛撃です。手が痺れたでしょう?」


私が落とした弓を遠くへ蹴り飛ばし、ペトラさんはにやりと笑う。


「魔法、スキルの次は武技です。この一撃がトドメになるでしょう。我が力よ、圧縮せよ。圧縮して放たれるは、岩をも砕きし猛る虎の一撃!!」


弓を蹴り飛ばされ、今はペトラさんの攻撃を防ぐものが無い。

ペトラさんの武技の発動前詠唱に、ヤバいと思った時には、すでに手遅れだった。


猛虎岩砕掌(もうこがんさいしょう)!!」


最後のあがきで横っ飛びをするが、ペトラさんからは逃れられない。

ペトラさんの突き出した掌底が、私の腹をとらえる。ドンッという重い音と共に、私の体は吹き飛ぶ。

地面に数回バウンドした私は、闘技場の壁にぶつかったところで、やっと勢いが止まる。


「先ほどの爆発による腕のダメージと、掌底が当たる直前に少し距離を取られたことで、本来のダメージを与えることが出来ませんでしたね。これでは、余計に苦しめてしまいます。早くトドメを刺したいところですが…。なんとなく、嫌な予感がします。美雪さんがダメージ軽減アイテムを使い、カウンターを狙っている可能性もあります。ここは反撃を警戒するのが得策でしょう。」


ペトラさんが何かを言っているが、今の私には聞いている余裕はない。

痛い苦しい、痛い苦しい、痛い苦しい、痛い苦しい、痛い苦しい、痛い苦しい、痛い苦しい。

掌底を受けた腹からこみ上がってくる焼けるような痛みと、体の中の空気を全て吐き出したことによる息苦しさが私を襲っていた。

滝のようにどっと汗が流れ、もがき苦しむ程の痛みが襲うが、全身にまったく力が入らない。吐き出した息を吸うので精一杯である。

トウカさんとササラさんの補助魔法をもってしても、私とビリジアン等級の冒険者であるペトラさんとの実力はこんなに離れているのか。

転生特典で順風満帆だった異世界。その中で初めて味わう、圧倒的な実力差と死の危機。


「魔王を退治してもらうために異世界に転生してもらうよー!」

「助けてくれてありがとう!絶対絶命だったよー!私の名前は鬼火(おにび) (あい)!よろしくね!」

「話をさせてもらえるようで良かったでござる。まずは自己紹介。拙者の名はタツヒロというでござる。」

「美雪さんと愛さんって転生者ですよね?」

「御二人の姿には、死闘を繰り広げてきた感が足りなかったので、ダメージを与えさせていただきました。」

「トウカさん!!その説明じゃ、私がまるで、ド…、ドMの変態さんみたいじゃないですかー!!」

「いや、間違ったこと言ってないだろ?」

「私の名前は、ガイドさん!!王都初心者に対して、王都にどんな施設があるかを説明し、案内する者!」

「驚いてへん!!トウカはんに驚いてなんかないんやから!!あほう!!」


今まで異世界で経験してきたことが目の前に蘇ってくる。

なるほど。これが、死の淵の走馬灯ってやつか。

たしか走馬灯ってのは、死の間際に過去の経験から、今の危機を脱出するための何かを脳が探す、っていう現象だったはず。


様々な記憶が流れていく中、どうやら私の脳はひとつの結論に辿り着いたようだ。

護衛クエストの一日目の夜。ユウジとの会話が思い出される。


「異世界転生お約束のチート無双?」


「あぁ、美雪さんが亡くなった十年前には少なかったけど、俺が死ぬ少し前は異世界転生物が流行ってたんだ。転生特典のとんでもない武器やスキルといったチートで、異世界で無双するってやつ。」


「あー、ノアがそんなこと言ってたね。それがどうしたの?」


「いや、この異世界マグノキスって、転生者いっぱいいる上に、それぞれが強い武器やスキルといった転生特典を持ってるじゃん?俺のデュランダルや、美雪さんのスキル必中みたいに。異世界でチート使って無双を夢見てた俺としては、先輩転生者が多すぎて、思ったよりも活躍できなくて、少しもどかしく感じてるんだよ。」


以上、走馬灯が導き出した、現状を打破するかもしれない記憶。

つまり、現状を打破できる鍵は、異世界転生お約束のチートってこと?

でも、異世界に転生してから結構な期間が過ぎたけど、そんな異常な力に思い当たる節が無い。

ファストの町のダンジョンでベルセルクタイガーに襲われた時も、ボスモンスターである大悪魔グラットンに苦戦した時も、チートと呼べるような力は発動していない。

まったく使えない記憶じゃないか、と記憶の中に登場したユウジに対して怒りがたまる。

しかし、ユウジとの会話を思い出したのは全くの無意味ではなかった。ユウジとの会話に続いて、異世界転生直前に聞いた、ノアのとある言葉が思い出される。


「シークレットスキルはー、転生者が特別に1つだけ持ってるスペシャルな秘密の隠しスキルだよー!スキル等を確認する時にー、シークレットスキルだけは確認することが出来ないけどねー。」


シークレットスキル。

まさか、これが現状を打破できる、異世界転生お約束のチート?


「やっと辿り着いたのだな。お主の中に隠された本当の力の存在に。」


シークレットスキルについて思い出したところ、突然、今まで聞いたことが無い声が頭の中で響く。え?誰の声?

急に聞こえてきた声に警戒心を高めていると、謎の声は言葉を続ける。


「我の正体を追求している場合では無いことは、お主も理解しているだろう。今はお主の隠された力を考えるのが最善だ。」


私の隠された力?それってやっぱりノアが言っていたシークレットスキル?


「そうだ。しかし、隠された力のみで完全に現状を打破できるとは言えない。この状況を打破できるかどうかは、お主が隠された力の中で何を得るかだ。」


そう言われても、シークレットスキルが何なのか分からないから、何を得るかって言われても困る。


「私が助言できるのは、その隠された力の片鱗は、お主の今までの異世界生活の中で、すでに表れている、ということだ。」


シークレットスキルの片鱗が現れている?

んんー?ん?ん?んー?

思い当たる節が無く、疑問いっぱいの私に溜息を吐いた謎の声は、重々しい声で言葉を続ける。


「まぁ良い。命の危機に、隠された力が目覚めるという、古来より伝わりし力の覚醒だ。さぁ、全身の力を抜き、流れてくる他者の記憶に身を委ね、お主の隠された力の中へと潜るのだ!!」


謎の声が頭に響いた後、唐突な眠気が私を襲う。

睡魔に抗うことが出来ず、私の意識は深い闇へと飲まれる。



ふと気づいた時には、私は見知らぬ草原にいた。頬を撫でる風が心地良い。

見知らぬ草原のはずだが、似た雰囲気の場所は知っている。

始まりの草原。私が初めて異世界で訪れた場所。なんとなく、この場所は始まりの草原だと思える。

周囲をキョロキョロと確認していた私の背後から、突然声がかけられる。


「ユウキ!ちょっと聞いてる?ユウキは魔法も武技も使えないんだから、戦闘の技術を極めていかないといけないわ!昔からの幼馴染ってことで、今日はモンスターとの戦闘の代わりに、私がナイフでの戦い方を教えてあげる!ありがたく思いなさい!!」


私のことを「ユウキ」と聞いたことも無い名前で呼ぶのは、気の強そうな十歳くらいの少女。

可愛らしい顔で人差し指を伸ばし、話を聞いていない私へと注意してくる。

つり目が特徴的な彼女だが、少し目つきが悪い。私ほどじゃないけど。


なぜか怒っている彼女へ、私は黙ってコクコクと頷く。というか、私の意志に関係なく首が縦に振られる。視界や触覚といった感覚は私にも伝わってくるが、私の意志では体を動かすことは出来ない。

まるで、自分の体じゃない体の中に意識だけがある感じだ。不思議な感じ。

変な感覚に戸惑う私だが、目の前の少女はそんなこと関係ない。ユウキがこくこくと頷いたことに満足といった表情を浮かべる。


「よろしい!それじゃ、私がナイフで攻撃を仕掛けるけど、ユウキは避けてね!あ、リミッターストーンは忘れちゃダメよ?ユウキの本来のステータスを発揮されたら、私なんかじゃ攻撃を当てられないんだから!今日はステータスに頼らず、近接戦闘を学ぶってのが趣旨なんだからね!良い?リミッターストーンを装備よ?分かった?」


ユウキはポケットから取り出した黒い石のついたネックレスを首にかける。

これは、妹が作ってくれた、ステータスを大きく制限するリミッターストーンが付いたネックレス。しっかりと首の後ろでネックレスの留め金をつける。

リミッターストーンの効果により、体がズシリと重くなり、力が抜けるのを感じる。リミッターストーンの効果を確認したユウキは、コクコクと頷く。


「準備はオッケーね!それじゃ、母直伝のナイフ術を披露するから、うまくいなしたり、避けたりしてね!私はアイアンナイフを使うから、避けるのに失敗したら、いくらユウキでも痛いじゃ済まないわよ!痛いのが嫌なら、真剣に私のアドバイスを聞きながら避けること!良い?ユウキの準備が良ければ始めるわよ?」


特に準備不足ということも無いのか、ユウキはコクコクと頷く。

鉄製のナイフを目の前に、ユウキは落ち着いてるなーって、呑気に思っていたが、私は感覚を共有してるよね?え、痛いのは嫌だよ!?がんばって避けるのよ、ユウキ!!


「それじゃ、いくわよー!スティンガー!!」


ナイフを持った少女が突進からの刺突をしかけてくる。

勢いののったナイフによる刺突だか、冷静に体に届く寸前までナイフの攻撃を視界に収めた私…、いや、ユウキは目の前の少女の手首を、最小限の動きで弾く。

ユウキの体に当たる寸前だったナイフは、直前で軌道を変える。え、今ので防げたのと混乱する私だが、

ユウキはナイフの行く末を視界に収めない。目の前の少女に集中をしている。

少し待っても痛みが無いことから、ギリギリで避けることに成功したのだろうが、生きた心地がしない。

間一髪で刺突攻撃を避けて安心する私だが、少女が体を捻るのに気付いたユウキは、後ろ跳びをする。

少女が放ったのは後ろ回し蹴り。

ナイフが弾かれた勢いそのままに、次の攻撃として後ろ回し蹴りを繰り出したようだ。

ユウキが少女の攻撃を避け切ったことに、一瞬少し不満そうな表情をしなたが、すぐ笑顔でユウキに声をかける。


「そう!ナイフっていう明確な武器があるから、意識がナイフに向きがちだけど、敵の攻撃は変幻自在!最初の武技を避けれたからって安心しちゃダメ!ナイフ以外の攻撃手段なんて、いっぱいあるんだから!ちゃんと相手の全身から視界を切らずに、次の敵の攻撃を読むこと!これ、重要ポイントよ!」


少女の言葉に、先ほどまでのペトラさんとの戦闘が思い返される。

私は避けた攻撃に対しても、いつまでも視線を残したままにしていた。もう当たらないと思っていても、本当に避け切れるまで、無意識に目で追っていた気がする。

だから、死角から次の攻撃を受けてしまったのか。

見知らぬ少女の言葉に、ペトラさんとの戦いの中で、私が足りなかった部分が浮き彫りになっていく。あー、タメになるなぁ。

私が少女の言葉から学んでることなど露知らず、少女はユウキに対して大きな溜息を吐く。


「まぁ、ユウキは難なく出来てたけどね…。せっかくユウキのお母さんに教えてもらった、必殺の後ろ回し蹴りなのに…。なんで難なく避けちゃうのよ!!」


怒る少女に、ユウキは両手を合わせて謝る。

それにしても、ユウキは物静かな少年だな。全然喋らず、頷くか身振り手振りで少女と意思疎通を行っている。


「って、またやっちゃった…。ごめん、今のは完全に八つ当たりだね。本当にごめんなさい。」


少女は深くお辞儀をする。

ちゃんと自分の非を認めて、頭を下げられるのは良いことだ。幼い少女にしては、堂の入った謝罪に、親の教育が行き届いていることを感じる。

って、こんなことを考えている場合じゃないわね。今は少女の戦闘訓練に集中しなきゃ。私の気持ちに応えるように、少女は次の説明へと移る。


「それじゃ、気を取り直して!次は実戦形式よ!はい、これ受け取って!」


少女はユウキの手に木製のナイフを握らせる。

ユウキの手を取った時に、少し恥ずかしかったのか、えへへとはにかんでいたのが可愛い。

可愛い笑顔だが、自分は鉄製のナイフで、ユウキには木製のナイフってのが、少女が可愛いだけじゃないってことを表している。

そんな私の困惑に少女は気付く訳が無く、両手を腰に置いた彼女は、元気良くユウキへ話しかける。


「ユウキは父親譲りの大剣を使いたいと思うけど、あれを使われたら私死んじゃうから!だから、木のナイフで我慢してね!あ、あと、なるべくナイフは寸止めでお願いね!痛いのは嫌だから!」


なかなか素敵な性格の少女ね…。少女の親の教育が良いって言葉は取り消そうかな…?

でも、そんな少女の言葉に、ユウキは「仕方ないね。分かったよ」って感じの頷き方をする。


「さーって、お互いナイフを手にしたところで、実戦形式の訓練にいきましょー!実戦形式だから、攻撃の中に魔法を混ぜていくわよ!その次はスキル!!今日は日が暮れるまで、私のナイフ攻撃を避けてもらうわよー!あ、反撃は寸止めよ?痛いのは嫌だからね!」


少女の言葉に、ユウキは空を仰ぎ見る。太陽はちょうど真上くらい。

日が暮れるのは数時間後だろう。なかなか大変な戦闘訓練だが、ペトラさんとの戦闘で自分の対人戦の甘さを感じていた今の私にとっては、望むところ。どんと来いだ!

いつまで私の意識がユウキの中にいれるか分からないが、ここでナイフでの戦闘術を学ぼう。



「はぁ、はぁ…。ふーっ!!もう夕方だね!これで、今日の戦闘訓練はおしまい!お疲れ様、ユウキ!」


始まりの草原が夕焼けによって赤く色付いてきたところで、少女はナイフを止める。

実戦経験を学べる良い機会だった。今学んだことを、頭の中で反復しようとしていたところで、少女が笑顔で人差し指をユウキと私へ向ける。


「それじゃ今日の戦闘訓練の復習ね!重要ポイントよ!準備は良い?」


ユウキは黙ってこくこくと頷く。


「ナイフでの戦闘は、いかに相手の攻撃を避け、相手の攻撃を誘い、ダメージを与えられるかが重要!ナイフの刃渡りなんて、たかが知れているんだから、一撃で決めようと思ってはダメ!相手の動脈とか急所を狙える技術力があるなら良いけど、未熟な内の大技は相手のカウンターを受けてしまうからね!焦らず、慌てず、冷静に!相手の隙を淡々と狙うのよ!」


少女の言葉に私はうんうんと頷く。

自分より少し年齢が低く見える彼女だが、幼い頃から学んできたであろう戦闘技術には、多くのことを学ばせられる。


「ユウキは使えないけど、魔法を攻撃に織り交ぜるのも有効ね!相手の隙を待つだけじゃなく、魔法を使って自分から作りにいくの!ナイフでの攻撃の中に、死角からの魔法!相手は集中力乱されて、隙が生まれるはず!そこをナイフでブスリよ!あ、ブスリはダメ!!刺さったら抜けなくなって、次の攻撃に移れないからね!ナイフでスパッよ!!血管なら掠めただけでも、出血を狙えるわ!」


にやりと笑う少女に、少し恐怖を感じたところで、私の意識がユウキの中からすぅーっと抜けていく。

なんとも不思議な感覚だが、おそらく元いた場所に意識が戻るのだろう。


「ユウキ、ユウキが喋らないせいで最後まで名前を知れなかった少女。二人ともありがとう。」


意識だけの私の声は届かないとは思うが、二人へ感謝の気持ちを伝える。

二人が私の方を見たような気がするが、気にしないことにしよう。

今のところは、手に入れたナイフ同士での戦闘術を思い返しながら、浮遊感に身を任せることにする。



程無くして私の意識が覚醒する。

夢から覚めたようなフワフワした感覚で、ぼんやりと目の前を確認すると、ペトラさんがゆっくりと私に近付いてくるところだった。


「さっきの不思議体験が私のシークレットスキルなのかな?まぁ、でも今はそんなことを考えている場合じゃないわね。」


何時間も夢を見ていたが、現実の時間では少ししか経過していなかったらしい。

いつの間にか切ったらしい血の味のする口元を拭う。呼吸を落ち着けながら、痛む体にムチ打ち、私はゆっくりと立ち上がる。


震える手で、腰のホワイトアイアンナイフに触れる。

こんな使い方をするとは微塵も思っていなかったな。

そんなことを考えながら、腰に差していたナイフを鞘から抜き去り、手に持つ。


「メイン武器である弓矢は蹴り飛ばされて、どこにあるか分からない…。ダメージを隠し切れない、ガタガタな体…。手には、使用経験の少ないナイフ…。ピンチは変わらずってとこね…。」


現状を把握しながら、夢の中のユウキがしていたようにナイフを構える。

初めてするナイフでの戦闘スタイルだが、意識と体の感覚をユウキと共にしていたからかな?長年そうしてきたかのように、妙にしっくりくる。


「ピンチは変わらずだけど…。負ける気がしない!!」


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