守れ!歌姫!護衛クエストで等級アップだ!⑦
前回のあらすじ:磔吸血鬼の正体はペトラさん!?一緒に行方をくらませたシロ君を救うため、美雪と愛は、闘技場の特別席を目指す。
「美雪!!特別席はこの角を曲がってすぐだよ!!」
「了解!!シロ君、無事でいてね!!って、愛、危ない!!」
「!?」
私の注意に、愛は後ろ跳びで回避。先ほどまで愛がいた場所に、大きな斧が振り下ろされる。
振り下ろされた斧は、闘技場の岩の床を大きく砕き、1メートル以上後方を走っていた私のところまで岩の破片が飛んでくる。恐ろしい一撃だ。
もし少しでも、私の声かけが遅かったら…。ぞくりと背筋に嫌な感覚が走るのを感じながらも、斧を振り下ろした相手を確認する。
「ぶもももぉぉぉおおお!!」
斧を振り下ろしたのは、大きな角を持った二足歩行の巨大な牛だった。
牛と言っても、首より下から腰にかけてはムキムキの人間のような体つきをしており、両手で大きな斧を持っている。この特徴のモンスターは、シロ君から聞いたことがある。
「ミノタウロス…!?なんで闘技場にモンスターが!?」
ふしゅー、ふしゅーと鼻息を荒げるミノタウロスは、荒野かダンジョンにしかいないモンスターのはず。間違っても闘技場にいるモンスターじゃない。
でも、なぜ闘技場にいるのかなんて考えている場合ではない。目の前のミノタウロスは、ぎょろぎょろした目で私達を睨んでいる。
「なるほど。よっぽどこの奥には行かせたくないのね?」
こんなところで時間を無駄にしている場合じゃないのに…!!そんなことを考えていると、隣の少女が獰猛な笑顔を浮かべる。
「へぇ、大きな斧持った牛男ねぇ…!!鬼火流剛術の相手に不足無し…!!美雪、ここは私に任せて!先に行って!!おい、牛!!お前の相手は私だ!!」
「ありがとう、愛!!先に行くね!!」
目の前の強敵ミノタウロスは、頼れる仲間の愛に任せることにする。
しかし、ミノタウロスの横を走り去ろうとした私に向けて、斧が振り下ろされる。
「私を無視すんな!!鬼火流剛術 弐の型!!菖蒲!!」
ミノタウロスが振り下ろした斧は、愛の蹴りによって弾かれる。
「おい、牛!!お前の相手は私だ!!鬼火流剛術と正々堂々と戦おう!!久しぶりの戦いなんだから、簡単に倒れたら許さないよ!!」
あぁ、愛さん、今日は戦意漲ってらっしゃる。
護衛クエストの間、戦闘することが出来ずにストレスたまってたからなぁ。仕方ないか。
ミノタウロスは今の愛には厳しい相手かもしれないけど、ここは闘技場だ。もし倒されてしまっても、控室で復活することが出来る。ここは愛に任せて、私は特別席を目指そう。
「ここが、特別席ね…。シロ君!!」
「!?」
勢いよく特別席の扉を開くと、椅子で眠らされたシロ君の表情を、ローブを着たペトラさんが見つめていた。振り返ったペトラさんの眼鏡がキラリと光る。
「やはり、あなたでしたか。ペトラさん。」
「み、美雪さん!?ゲホゲホ!!み、ミノちゃんは!?」
「ミノちゃん?…って、あぁそうか。なるほど。この特別席の前にいたミノタウロスは、ペトラさんの従魔ってやつですね?」
「!?」
ガラガラ声のペトラさんは、まずいことを言ってしまったという表情で固まる。
従魔魔法は、モンスターを従魔として味方に出来る魔法。以前、シロ君から教えてもらった。
なぜ闘技場にミノタウロスが?と思ったが、ペトラさんの従魔で間違いない。
「そこまでして、シロ君をその毒牙にかけたかったのですか…?」
「ゲホゲホ!!そんな毒牙だなんて…。私にそんなやましい気持ちはありません!!」
「否定しても無駄です。もうあなたが磔吸血鬼だって分かってるんです。そのローブ姿に、磔にするための黒い杭が動かぬ証拠です。」
私は眠るシロ君の近くに置かれた、黒い細長い物を指差す。
あれは、どう見ても杭。磔吸血鬼が、少年を壁に磔にするために用いられる杭で間違いない。
「磔吸血鬼!?杭!?いや、これはチョコパウ…」
「言い訳無用!!指向性爆破!!」
シロ君がペトラさんの近くで眠っているため、私は爆発させる方向を選べる爆発魔法を用いる。
ペトラさんはとっさに後ろ跳びをした後、腕をクロスして防御する。しかし、私の爆発魔法の威力を完全に防ぐことは出来ない。特別席の窓ガラスをぶち破り、ペトラさんは吹き飛ぶ。
「ふぅ、これでひとまずはシロ君から離すことには成功ね。」
「なんですか…、今の爆音は…って、なんで窓ガラスが吹っ飛んで…?え?」
私の爆発魔法の音で起きたシロ君は、目の前の滅茶苦茶になった特別席に言葉を失っている。
「シロ君はここにいて!!私が決着をつけてくる!!」
「へ?決着?」
私はペトラさんを追うため、吹き飛ばした窓から闘技場へと飛び出す。
風魔法で着地の勢いを殺すと、ペトラさんは闘技場の真ん中で、両手から煙を上げながら立っていた。
指向性を高め、威力を減らした爆発魔法では、大きなダメージを与えられないか。と考えていた時、ペトラさんの背後に立つ、とある人物と目が合う。
「あれ、トウカさん?あ、そうか。なるほど…。」
特別席から吹き飛ばしたら、そりゃあ闘技場の真ん中か。
周囲を確認すると、どうやら歌姫のコンサート前のトウカさんとササラさんの対バンライブが始まる直前。
おいこら、美雪。なにやってんだ?美雪はん、なにやってますのん?って感じの二人の視線と、たくさんの観客の疑問の視線が突き刺さる。
ペトラさんも、周囲の状況に気付いたのか、大口を開けてぽかーんとしている。
あ、うん。やってしまったな、これは。
「うん…、今は異常時ってことで許してもらおう…。」
コンサートイベントに突然の参戦をしてしまった私は、一旦そのことは横に置いておく。
目の前の問題に集中するため、マグカから弓矢を取り出し、怒りの表情を浮かべるペトラさんと対峙する。
「え、えーっと、皆はん!!驚かせてしまったこと、かんにんなぁ!今日はいつものトウカはんとの対バンライブじゃ、皆はんも飽きてまうかなーってことで、ササラ達は考えました!!特別イベントや!!そうやんな?トウカはん?」
「お、おう!!今日は特別に、私とササラの支援魔法をみんなにお見せするぞー!!そんなわけで、ビリジアン等級の元冒険者、歌姫のマネージャーであるペトラと、最近王都を賑わせている、凶悪な殺し屋の目つきこと黒等級冒険者、美雪の一騎討ちだー!!」
ん?凶悪な殺し屋の目つき?ん?
トウカさんの言葉に疑問を持つが、ササラさんの言葉がそれを遮る。
「ビリジアン等級と、黒等級。普通やったら絶対に勝てへん実力差やけど、その差を支援魔法で埋めさせてもらうでー!ビリジアン等級の元冒険者ペトラはん相手に、黒等級の初級冒険者である美雪はんが、トウカはんとササラの支援魔法でどこまで健闘できるか、これを皆はんにお伝えするどす!」
「ササラの言う通りだ!!普段、支援魔法は攻撃魔法に比べて大したことないって思われがちだけど、そうじゃないってことをお伝えするぜー!!」
ササラさんとトウカさんの言葉に、疑問を浮かべていた観客達は、納得をしたのか大きな歓声を上げる。
二人はアドリブで、コンサートに突然現れた私達をそういうイベントにした。イベントが滅茶苦茶にならなくて良かった。ありがとう。
心の中で、ササラさんとトウカさんに感謝をする。
「それじゃ、行くでぇトウカはん!!準備はえぇか?」
「準備ばっちりだぜー!!この銀琴シルバーグリフォンで、八雲流奏術を見せてやるー!!久しぶりに奏でるぜー!!」
初めて見るトウカさんの銀琴。メイン武器であり、彼女の異名の由来である銀琴は…。あれは、琴なのかな?ん?
私の質問を代弁するように、ササラさんは質問をする。
「前から思ってたんやけど、トウカはんの銀琴って、どこが琴なん?琴じゃなくてギターやんな?」
ササラさんの質問のとおり、トウカさんが持っているのはエレキギターによく似た、ぴっかぴかの楽器だ。間違っても琴じゃない。
「いや、この世界で弦楽器って言ったら、吟遊詩人が持ってるハープじゃん?ハープって竪琴でしょ?ギターを見た事が無い、頭の古い化石おじいちゃん師匠が、私のギターを竪琴って言って譲らなかったんだよ。それで、いつの間にか、銀琴なんて呼ばれてたんだよね。だから、これはギターじゃなくて、琴。」
「そんな事情があったんやな。ササラ、納得や。トウカはんは準備万端のようやし、ササラも準備するなぁ。出でよ!ササラの打楽器!!竹製要塞バンブー・フォートレス!!」
ササラさんの呼び声に応じて、彼女を囲むように地面からたくさんの竹が生えてくる。
目の前で起きる突然の出来事に、呆気に取られていると、地面から生えてきた竹は、ササラさんを中心に大きな要塞へと変わる。
無理矢理例えるなら、巨大門松?いや、竹で出来た巨大なパイプオルガンってとこかな?
「いや…、ササラの竹製の楽器も大概だぞ…?それ本当に楽器?私が引き籠る前は、竹製のドラムだったじゃねぇか…?なんで、こんな巨大な要塞になって…。って、そうか。私が引き籠ってたこの一年、すごい頑張ったんだな、ササラ。」
「そうや、ササラがんばった!!トウカはんの分も頑張った!!やけど、驚くのはまだ早いでぇ!!開放せぇや!!バンブー・フォートレス!!」
ササラさんの声に応じるように、竹の要塞の中央部分が開く。すると、一人分のスペースが出来上がる。
「さぁ、トウカはん!そこは、トウカはんの演奏スペースや!これが、竹製要塞バンブー・フォートレスの銀琴竹調共同演奏モードや!」
「んえ!?私、そこに立つの!?恥ずかしいんだけど!!」
「あほう!!そんなこと言ってる場合じゃあらへんやろ!?はよう、トウカはん専用スペースに立つんや!!ほら、はよう!!」
「なんでそんな必死なんだよ…?そんで、なんでササラの楽器の中に私専用のスペースがあんだ…?」
「何しとんねん!?そない細かいこと気にしとる場合やないやろ!?ほら、はよう!!はよう!!」
「あー、もう分かったよ!!やるよ!!やってやるよ!!とうっ!!」
大きく飛んだトウカさんは、ササラさんの用意した専用スペースに降り立つ。
さすが、高等級冒険者の跳躍力。専用スペースまでそこそこの高さと距離だが、ひとっ飛びだ。竹製要塞バンブー・フォートレスの中央で、トウカさんは大声で叫ぶ。
「準備オッケー!!演奏前のマイクパフォーマンスはここまでだ!!私は美雪のバフ、ササラはペトラのデバフ!!ササラ、準備オッケーか!?」
「ササラ、準備オッケーどす!!」
「それじゃあ、私は美雪のステータスを上げるぜ!!闘魂の狂想曲!!」
トウカさんは銀琴こと銀色のギターをかき鳴らし始める。
魂をかき立てる演奏と共に、私の全身は薄っすらと赤い光に包まれる。赤く発光するだけでなく、全身が軽くなり、なんだか力が湧いてきた気がする。
これがトウカさんの演奏による支援魔法の効果!マグカで自分のステータスを確認すると、倍以上のステータスに跳ね上がっている。
「ほな、ササラはペトラはんのステータス低下やな!静寂の鎮魂歌!!」
ササラさんは竹製要塞の一部を、先が丸い棒でポーンポーンと叩いていく。
独特な音色と共に、ペトラさんの体が青い光で包まれていく。
「初めてササラのデバフを自分の身で味わいますが…。こんなにも体が重くなるものなんですね…。でも、あなた相手には丁度良いハンデです。」
私へ挑発をしながら、ペトラさんはどこかから取り出した、黒いナイフをくるくると回す。
ステータスが下がっていることを感じさせない堂に入ったナイフさばきに、ペトラさんが元ビリジアン等級の実力というのも頷ける。
「本当は美雪さんの誤解を解いて円満に解決としたいところですが…、ここまで盛り上がってしまっては戦わないわけにはいかないですね。よろしくお願いいたします。」
「ちょ、ちょっと待ってください!誤解?え、誤解?」
ペトラさんの言葉に、私は首を傾げる。そんな私の疑問に、ペトラさんは眼鏡をくいっと上げた後、溜息を吐いてから答える。
「はい、誤解です。どうやら、美雪さんは私のことをモブスくんを襲った磔吸血鬼と誤解しているようですが、私は磔吸血鬼ではありません。真正のショタコンである私が、ショタを害するわけないじゃないですか。ショタは愛でるものですよ?」
「え?でも、シロ君をさらったし…?」
「さらったのではありません。一緒に特別席でコンサートを見ようと誘ったのです。シロきゅん、まじ天使。ショタコンなら、絶対に誘いますよね?誘わない方が失礼です。」
「黒いローブ…?」
「冒険者ギルドで初めて会った時も着てたじゃないですか。少し寒かったので、防寒着代わりに着ていただけです。」
あれー?どういうこと?
私の推理は間違っていたというの?いや、他にも根拠はある。ひとつひとつ確認しましょう。
「喉ガラガラ…?」
「トウカも言ってましたが、リハーサルで声を出し過ぎたんです。別にショタの血を飲んでも回復しないと思います。シロきゅんの血ならショタパワーで回復しそうですが…。いえ、やはりショタを傷つけることは出来ません。」
「麻酔薬…?」
「美雪さんの仲間であるユウジに睡眠薬を使ったのは申し訳ございませんでした。シロきゅんとの時間を邪魔されたくなかったので、つい睡眠薬を使ってしまいました。あ、ミノちゃんも同じ理由です。足止めです。少しでも長くシロきゅんとのスイートタイムを満喫しようと思ったのです。」
「控室にあった磔用の杭…。」
「磔用の杭…?って、あぁ、あれですか!あれはシロきゅんのために用意した、チョコパウンドケーキです。シロきゅんの小さく可愛い口に入るサイズに切り揃えたんです。杭に見えました?」
「モブスくんが言ってた、磔吸血鬼の顔でキラリと光る物は、ペトラさんの眼鏡じゃ…?」
「磔吸血鬼の顔でキラリと光る物?それって、牙なんじゃないですか?吸血鬼ですよね?牙がキラリと光ってもおかしくないですよね?」
眼鏡をくいっと上げるペトラさん。彼女を磔吸血鬼と疑っていた全てが否定された。額から流れる汗を気にすることなく、ペトラさんへ尋ねる。
「え…?それじゃ、本当に磔吸血鬼ではないんですか…?」
「はい、そうです。ここまでそれっぽい疑惑が出ると、疑ってしまっても仕方ないと感じますが、ひとつ確かな証拠があります。モブスくんが襲われた際、私はライブのリハーサル中でした。一人になった時間はありませんよ?」
あ、完璧なアリバイがあった。推理小説で一番最初に確認するべきものじゃん…。
完璧な論破である。ぐぅの音も出ない。
私はゆっくりと頭を下げる。腰を九十度に曲げ、絞り出すように声を出す。
「本当に、申し訳ございませんでした…。」
「謝らないでください。美雪さんが勘違いして私に攻撃をしかけたことは、今は気にしないことにします。結果的に、コンサートは盛り上がっていますからね!誤解も解けたところで、早く戦いに移りましょう。これだけの盛り上がりなのですから、簡単に倒されないでくださいね?」
眼鏡をくいっと上げたペトラさんから、殺気が放たれる。顔は笑っているが、全身からの威圧感を隠しきれていない。
私も眼鏡をくいっと上げて位置を整え、手に持つ弓矢に力に込める。
「それでは、参ります!!」
そう言ったペトラさんは、黒いナイフで私に切りかかってくる。私も負けじと矢を放つが、無駄のない動きでかわされる。
普段の私であれば捉えられない速度の攻撃だが、トウカさんの支援魔法のおかげか、とっさに弓で攻撃を防ぐことが出来た。
ペトラさんのナイフと、私の弓で鍔迫り合いのような状態で、私達は話し合う。
「私のことを犯罪者扱いしたことは気にせず、全力で戦いに来てください。決して手を抜いてはいけませんよ?観客は普段の闘技場イベントで目が肥えてますから、手抜きとか、そういうものは伝わってしまいます。白けてしまうので、絶対にやめてくださいね?」
「でも、私達が戦う理由は無いんじゃ…!?」
「理由が、無い…?」
「!?」
ペトラさんから突然放たれる殺気に、私は後ろ跳びで回避する。
先ほどまで私がいたところには、ペトラさんの長い足。ギリギリのところで、ペトラさんの蹴りを避けることが出来たが、ペトラさんは楽しそうに笑っている。
「私とあなたが戦う理由は四つ。一つ目は、戦わないとコンサートイベントは盛り下がってしまうこと。二つ目は、疑われたことに対して、ちょっと私は怒ってること。三つ目は、久しぶりの戦闘に、元冒険者として血が騒いでいること。そして、最後の理由、それは…。」
「それは…?」
「美雪さんが、シロきゅんとの、スイートタイムを邪魔したこと!!」
高速で接近したペトラさんのナイフの連撃は、先ほどよりも速い。
いなしきれなかったナイフが頬を掠める。つぅーっと流れる血に、私は戦慄を覚える。
「ぶっちゃけちゃいますが!!美雪さんはシロきゅんと仲良し過ぎて、初めて会った時から嫉妬対象でした!!クールな眼鏡キャラで私とキャラ被りしているし!!ここで、どちらがシロきゅんに相応しいか、決めさせてもらいます!!さぁ、武器を構えなさい!!」
クールキャラを捨て、大きな声で叫びながら私を指差すペトラさん。
私の勘違いを発端にして、ビリジアン等級の元冒険者という格上との戦いが始まる。




