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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
王都挑戦編 -所持金すべて失い歌姫を護衛する-
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守れ!歌姫!護衛クエストで等級アップだ!⑥

前回のあらすじ:銀琴(ぎんごと)ことトウカさんと竹調(たけしらべ)ことササラさんの仲直りは失敗し、夜には珍しくユウジと語り合った護衛クエスト一日目が無事に終了した。


「今日の護衛クエストを始める前に、ちょっと私の話を聞いてくれ。」


護衛クエスト二日目。

昼前に闘技場に集まった私達は、トウカさんの用意してくれた昼食をいただいていた。そんな中、トウカさんが神妙な表情で私達へ声をかける。


「護衛クエストだけど、トラブル発生だ。」


「トラブル?」


「昨日、磔吸血鬼(はりつけきゅうけつき)に冒険団モブのモブスくんが襲われた。今日からの護衛クエストは黒い羽根だけでなく、磔吸血鬼にも注意するように。」


「トウカ、質問!磔吸血鬼って何?」


「磔吸血鬼ってのは、最近の王都を騒がせる正体不明な殺人鬼なんだけど、詳細は私が説明するより、お尋ね者クエストの方が良いな!お尋ね者クエストには、様々な情報がまとまってるからよ!美雪(みゆき)達は護衛クエスト受ける前に、お尋ね者クエスト受けてたよな?」


「はい。えーっと、磔吸血鬼…っと。あった。」


トウカさんの言葉に、マグカでお尋ね者クエストの一覧を確認する。見つけた磔吸血鬼の情報は、簡単にまとめると、以下のとおりだった。


・狙うのは少年

・黒いコートで容姿を隠した女性

・名前の由来は少年の両手に杭を打ち、磔にして生き血を吸うため

・少年を襲う前は声がガラガラだが、吸血後は綺麗な声に変わる


「狙うのは少年…。だから、冒険団モブのモブスくんが襲われたのね。なるほど。正体不明って割には、意外と情報が多いですね。」


「過去にモブスくんと同じように、生命力の強い冒険者の少年を襲ったことがあったんだよ。磔吸血鬼に磔にされて生き血を吸われたけど、なんとか生き抜いた彼からの情報が、お尋ね者クエストに登録された情報ってわけさ。」


「なるほど。今回護衛対象であるレイヤくんも少年だから、磔吸血鬼を警戒しなければいけないわね…。黒い羽根に加えて、磔吸血鬼…。これは警戒を強くしないと…って、磔吸血鬼が少年を狙うってんなら、シロ君も注意が必要ね。」


私の心配の言葉に、シロ君はぐっと両手で拳を握り、力強さをアピールする。表情を引き締めたシロ君は、チラッと装備品の杖を見た後、大きな声で宣言する。


「心配無用です!僕も冒険者なんですから、自分の身は自分で守ります!」


「美雪!私もシロ君を護衛する!!」


シロ君の言葉に引き続き、愛も両手を腰に、胸を張って宣言する。


「愛は磔吸血鬼って強敵と戦いたいだけでしょ?ユウジ、いつも通り中間職的なポジションで、シロ君の防衛と、愛の暴走に対して、バランスを良い感じに頼む。」


「中間職的なポジションで、バランスを良い感じに…?雑な指示だけど、了解。なんとかする。」


「ん。あんがと。」


昨夜、ユウジと色々話せたからかな?より遠慮なく接することが出来る。私の言葉に、ユウジはやれやれと言いつつも、笑って応じる。

私とユウジの親し気な会話に、昨夜の事情を知らない愛とシロ君が首を傾げているが、気にせずにトウカさんへ質問をする。


「冒険団モブのモブスくんは、磔吸血鬼に襲われつつも、一命は取り留めたって聞いたけど…、彼の容態はどうなんですか?」


「モブスくんは吸血による失血で倒れたけど、冒険団モブには、光魔法の治癒に特化したドクターモブがいるからな。彼女の迅速な手当てのおかげで、数日寝込んでれば復活するらしいぞ。ただ、冒険団モブの面々は、仲間が襲われたから殺気だってる。気を付けろよ。」


冒険団モブの方々が殺気だってるのも分かる。私だって、愛やシロ君が襲われたら…、一応ユウジも襲われたら、取り乱すと思う。


「間違っても、やーい、モブどもー!仲間が襲われたんだってー!さっすが、モブ!だっせー!!なんて、からかいにいっちゃダメだぞ。まじで怒るからな、あいつら。」


「いや、そんなことしませんよ。って、その言い方…。トウカさん、やりました?」


「んや、ち、違うぞ!!私じゃない!!えーっと…、ほ、他の人がやってた!!そう、ササラ!!ササラが言ってた!!私は偶然それを目撃した!」


いや、ササラさんがそんなことするわけないじゃないですか…。本当にこの人はもう…。


「ササラがそんなこと言うわけないやん。適当なこと言うのはやめてくれまへん?」


「んげ、ササラ!!」


「その、んげって言うのもやめてくれまへんか?さすがのササラも傷つくわぁ。」


いつの間にか私達が昼食を取る控室にササラさんがいた。

数回目の不意打ちのため、もう慣れた。


「それで、どうした?ササラ?」


「どうしたじゃあらへんよ。トウカはん、ペトラはんが呼んでるで。昨晩のモブが襲われたことへの対策やな。はよ行くで。」


「りょーかい。んじゃ、私はペトラのとこ行ってくるから、美雪達は昨日と同じく観戦席の警備をよろしくー!今日は銅級冒険者志願者の昇級試験があるから、見てたら勉強になると思うぞー!警備も大事だけど、たまにチラ見しても怒らないから、しっかり勉強するんだぞー!良いか?チラ見だぞー!」


「ほんま、トウカはんは後輩たちに対しては優しいどすなぁ。ササラ、妬けてまうわぁ。それでは、美雪はん達、失礼するな。ほな、トウカはん、行くでぇ。」


「ちょっと待てよ、ササラー!!昨日はお前のせいで、美雪達にだいぶ怒られたんだからな!!今日は仲良くしようぜー!!なんなら、手つなぐか?」


「なんや突然!?つ、つながへんわ!!あ、あほう!!ほんま、あほう!!」


ササラさんとトウカさんはぎゃあぎゃあ言い争いながら、控室から出ていく。

こうして、護衛クエスト二日目が始まる。



「銅等級の昇級試験って、試験官の人と実戦形式なんだねー!強い人がいっぱいだー!!ねぇねぇ、美雪!私も参戦して良い?良いよね?」


「ダメよ。」


「えー?あの試験官やってる騎士長(きしちょう)っておっさん、すっごい強そうだよー?まだまだ実力隠してるっぽいけど、相当な実力者だよー?私も戦いたい!!戦ってきて良い?良いよね?」


「ダメよ。」


護衛クエスト二日目も、闘技場で開催されるイベントを観戦していた。

今日のイベントは、冒険者ギルド主催の昇級試験。五名のビリジアン等級の冒険者が、上級冒険者である銅等級冒険者の仲間入りを目指して、昇級試験に臨んでいる。

昇級試験は試験官との実戦形式の戦いで実力を見るようだ。大きな盾と大きな槍を持った銀色の短髪の騎士が、冒険者五人を手玉に取っている。


「美雪ー、ダメよダメよって、反応が冷たいよー…って何を見てるの?」


「ん?あ、これ?磔吸血鬼の情報。」


昇級試験も気になるところだが、今は昨晩起きた問題の方が気になる。


「磔吸血鬼がどったの?」


「いや、なんか引っかかるんだよね。この情報。」


「狙うのは少年で、黒いコートで容姿を隠した女。名前の由来は少年の両手に杭を打ち、磔にして生き血を吸うため。少年を襲う前は声がガラガラだが、吸血後は綺麗な声に変わる。これがどったの?」


愛が読み上げ暮れる磔吸血鬼の情報を聞きながら、頭の中で繰り返し確認する。

この情報を半分以上満たす女性を、私は知っている。


「でも、それだけで犯人扱いするのはいけないよね、うん。念のために注意するくらいにしましょ。」


「なんだか分かんないけど、りょーかい!」


愛、なんだか分かんないけど了解してはダメよ。

でも、まだ不確定な情報だから、愛が詳細を聞かないでいてくれるのは助かる。

彼女のことを警戒するのは私だけで充分だ。


しかし、私達の闘技場の警戒虚しく、護衛クエスト二日目、三日目、四日目は何事も無く、あっという間に過ぎていった。



そして、運命の五日目が訪れる。


「美雪達!今日までご苦労様!でも気を抜いちゃいけないよ!!今日はついに歌姫のコンサートイベント当日だ!!たくさんの人が、この闘技場に集まる!その隙を、黒い羽根や磔吸血鬼は狙ってくるだろう!要注意だ!私は前座としてのササラとの対バンライブがあるから、その間はモブやササラの護衛達と一緒に、気を張ってくれよ!!」


「「「りょーかい!」」」


護衛クエストの最終日、あと一時間ほどで始まる歌姫のコンサートイベントに向けて、私達は一致団結をしていた。

そんな中、とある女性が私達の控室を訪れる。


「ゲホゲホ…。コンサートイベントに向けで一致団結しているどころ失礼します、ゲホゲホ。トウカ、そろそろ出番ですので、準備をお願いじまず。」


「おいおい、ペトラ。またいつもの声ガラガラかよ。」


「ずみません…。」


私達の控室を訪れたのは、声がガラガラのペトラさんだった。


「いつもの?」


「あぁ、ペトラはいつも歌姫のコンサートイベントのリハーサルに全力出し過ぎて、喉を傷めるんだよ。出演者達に大声で指示を出しているからな。眼鏡くいっの頭良いクールキャラだけど、意外と熱血キャラなんだよな!」


「なるほど。」


ガラガラ声のペトラさんを見ながら、私の中で疑惑がドンドン膨らんでいく。

少年が大好きなショタコンで、最初に出会った時は黒いコートで容姿を隠していた。そして、今の彼女の声はガラガラ。初めて会った時の綺麗な声は、すっかり失われてしまっている。


「それじゃ、私はササラとの対バンライブに向けて準備に行くな!美雪達も、もう少ししたら、舞台袖で護衛をよろしくなー!」


ひらひらと手を振りながら、トウカさんが控室から出ていく。私は黙って、トウカさんを見送る。


「おい!!モブスが目覚めたぞ!!」


トウカさんがいなくなり、静かになった私達の控室の扉が勢いよく開かれ、冒険団モブの団長であるモバさんが現れる。


「モブスくんが!?今どこ!?」


「俺達の控室だ!!」


「分かった、ありがとう!!すぐ戻ってくるから、ユウジとシロ君は、ここで待ってて!!」


「急にどうした…、って、行っちまったな。」


ユウジの声は無視し、私の中で膨らんでいく疑問を確信に変えるため、私は控室を飛び出す。目的地は冒険団モブの控室。磔吸血鬼に襲われたモブスくんの元へと走る。


「美雪!!私も行くよ!!」


状況を察したのか、私と一緒に愛も飛び出す。愛と共に、冒険団モブの控室を目指す。


「モブスくん!!大丈夫!?」


「え?あなた達は確か…、銀琴のサポーター?そんなに心配してくれるなんて…!嬉しいですね!僕は大丈夫です。ありがとうございます!」


冒険団モブの控室に入ると、大椅子をベット代わりに寝かせられているモブスくんがいた。

まだ体調が万全じゃないのか、特徴の無い顔を少し青白くしている。


「モブスくん!!磔吸血鬼について、教えて!!」


「え、あ、はい!!」


突然の訪問に、突然の質問という失礼極まりない私だが、モブスくんはにこりと笑って、私の質問に答えてくれる。


「教えてと言われても、僕はいつの間にか背後にいた磔吸血鬼に麻酔薬のようなもので、すぐ眠らされてしまったんですよね…。睡眠薬から目覚めて気が付いたのは、磔にされた壁から仲間達によって降ろされたところです。冒険者として、恥ずかしい限りです…。」


「どんな情報でも良いの!!磔吸血鬼について何か気付いたこと無いかな!?」


「ちょっと!!モブスはまだ本調子じゃないのよ!!」


モブスの隣に座っていた特徴の無い医者のような女性が声を荒げる。


「良いんだよ、ドクターモブ。彼女は僕の敵討ち…、いや、磔吸血鬼から守りたい人がいるのかな?そんな彼女の力になれるなら、僕は少しくらい無茶をするよ。」


「モブス…!」


決意を固めたモブスくんの言葉に感動したのか、潤んだ表情を浮かべるドクターモブ。二人は頬を赤らめて見つめ合っている。


「なんか良い雰囲気のところ悪いんだけど、早く私の質問に答えてくれる?磔吸血鬼について、何か気付いたこと無いかな?」


「「ひぃ!!」」


モブ二人のおかしな雰囲気を払拭するため、スキル眼光威圧をオンにする。


「あ、今気づきました!!磔吸血鬼に眠らされる前に、磔吸血鬼の姿がちらりと見えたのです!!」


「え!?どんな姿!?」


「顔はローブのフードで隠れていたため見えませんでしたが…、磔吸血鬼の顔の位置の何かが、キラリと光ったことを覚えています…。すみません、役に立たない情報で…。」


顔の位置の何かがキラリと光る…?

モブスくんの言葉に、私の中でひとつの物が思い当たる。

彼女が、いつもくいっとしていた物。それなら、キラリと光るだろう。


間違いない。歌姫のマネージャーであるペトラさんが磔吸血鬼だ。私の中の疑問が、確信へと変わる。


「シロ君が危ない!!行くよ、愛!!」


「よく分かんないけど、りょーかい!!」


「ありがとう!!モブスくん!!失礼しました!!」


ペトラさんと一緒に控室に残してきたシロ君は、磔吸血鬼が標的にする少年。

護衛クエストの中でも、ペトラさんは何度もシロ君にちょっかいを出していた。好意を隠すことなく、何度も何度も。

私は冒険団モブの控室から飛び出す。


「ねぇねぇ、美雪!!どういうこと!?」


「ペトラさんが磔吸血鬼だったのよ!!控室に残してきたシロ君が危ない!!」


「なんだってー!?そりゃあ、大変だ!!急ぐよー!!」


私の言葉に驚く愛と共に、控室へと戻る。



「シロ君!!」


勢いよく私達の控室の扉を開けると、そこにはシロ君とペトラさんはいなかった。


「ユウジ!!」


部屋の中には、ユウジだけが取り残されていた。しかし、そんなユウジも控室内の大椅子で、深い眠りについていた。


「ユウジ!!何があった!!起きろ!!」


愛が豪快にユウジの服の襟を掴み、前後に揺さぶる。しかし、ユウジは起きない。


「ダメだ!!ユウジ全然起きないよ!!こんなに揺さぶっても起きないなんて、おかしいよ!!」


「まさか、麻酔薬…!!やっぱり…!!」


磔吸血鬼がモブスくんに使っていたのも麻酔薬。そして、ユウジも麻酔薬で眠らされている。


「やはり、ペトラさんが、磔吸血鬼…!?」


「見てあそこ!!シロ君と、ペトラ!!」


愛が大声で、とある場所を指差す。

それはステージ正面の観客席にある、完全個室の特別席。あまりにも離れているため、私からは二人が見えないが、愛がいると言っているなら、間違いない。


「行くよ!!愛!!」


「うん!!」


愛と一緒に控室を飛び出し、一目散に特別席を目指す。

お願い!!無事であってくれ!!シロ君!!

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