守れ!歌姫!護衛クエストで等級アップだ!⑤
前回のあらすじ:銀琴のヤクモと竹調のササラは仲が悪い。主に銀琴のせいで。
「ダメですよ、乱暴で粗雑な常時喧嘩腰のトウカさんと違って、ササラさんのような気位の高い、上品でおしとやかな女性は、パーソナルスペースを大事にするんですから。トウカさんのように、失礼にズカズカと距離を詰めたら、そりゃあ怒られますよ。おしとやかさと冷静さ、女性らしさを学びましょう。」
「美雪って、大概失礼なやつだよな?」
「トウカさんはナチュラルに失礼で、野蛮で暴力的で、相手に良い印象を与えないんです。自分の暴力性を正しく理解して、相手の考えを尊重し、言葉遣いを正すべきです。ちょっとイラッとしても一旦深呼吸で、気持ちを落ち着かせましょう。理性を持ちましょう。」
「お?ホワイト坊ちゃんも美雪に毒されたか?言葉のトゲが鋭いぞ?」
「タイプが違う二人だから、ササラさんに嫉妬するのも分かるけど、トウカさんにも良いところありますよ。小さくて大人しそうな見た目とは違って、粗雑なヤンキー感が否めないトウカさんですが…、すごく魅力的ですよ!正統派美少女のササラさんに比べたら、そりゃあ魅力的には数倍劣りますが…。下手したら暴走機関車の愛にも劣りますが…。粗雑で乱暴なところを抑えれば…、黙って大人しくしていれば、可愛らしい女性、ササラさんと五分五分に近付けると思います!」
「ユウジ。女好きの観点で私をディスるんじゃねぇぞ?全然、フォロー出来てねぇからな?」
「トウカはバカで短気な乱暴者なんだから、落ち着いたササラとは合わないんだ!美女にひがむバカなヤンキーって感じの三下感がすごいぞ!!バーカ!!バーカ!!」
「よーっし、全員表に出ろー!喧嘩の時間だー!!」
にこにこと私達の注意を聞いていたトウカさんだが、鬼火流のノンオブラードな言葉に、ついにブチ切れる。
歌姫護衛クエストの一日目夕方。
私達はトウカさんの控室で夕食を取りながら、一日中ずっと機嫌が悪いササラさんにどうしたら良いか、とトウカさんに相談されていた。
私達は、天才ピアニストであるレイヤくんを狙う黒い羽根の魔の手が、闘技場の中に無いかを一日中調べていたため、正直少し疲れている。そのため、トウカさんの相談にも辛辣になってしまった。
喧嘩っ早い愛とトウカさんの二人が、こくりと頷いた後に、一緒に控室から出ようとしたところ、控室の扉が開く。そこには、トウカさんの相談の中心人物であるササラさんが立っていた。
「トウカはん、ちょっとええか?」
「あん?何だ、ササラ?そんな神妙な表情を浮かべやがって。今、愛ちゃんと喧嘩してくるとこなんだから、入り口を塞ぐなよ…、って、痛い!!」
ササラさんとの仲を相談されたばかりなのに、なんでこんなに早く喧嘩腰になるのかな…?
あの愛ですら、空気を読んでトウカさんの頭にチョップで注意する。
「痛ぇな…。急になにしやがんだ、愛ちゃん…、って、そうか。おー、ササラ。どうした?一緒に飯でも食っていくか?」
「嬉しい提案やけど、ササラはもうご飯を食べてもうたわ。それはまたの機会にさせてもらうわ。それよりも、これ。みんなで食べとくれやす。」
「ん?これって有名な洋菓子店フランソワの人気ケーキじゃねぇか?」
「トウカはんの頬を叩いてしまったお詫びや。ササラ、言い過ぎたし、暴力はやっぱりあかんかった。ほんま堪忍な、トウカはん。」
どうやら、ササラさんはわざわざお詫びと差し入れをしに来てくれたようだ。
失礼なトウカさんの無礼を水に流し、自分の非を認めて頭を下げる。
ササラさん…、なんて人間の出来たお方なんでしょう…!!
さぁ、トウカさん!笑ってお互い熱い握手を交わしましょう!仲直りのチャンスです!
「いや、ササラ。お前何を企んでるんだ?そんなしおらしく、敵に塩まで送って?お前のキャラじゃないだろ?え、これ毒入り?」
「毒なんて入ってへんわ!!トウカはんのあほう!!」
失礼過ぎるトウカさんに、ササラさんの平手打ちが炸裂する。これは叩かれても仕方ない。
「痛い!?おいこら、暴力はあかん、じゃなかったのかよ!?さっそくの暴力じゃないか、って、走り去っちまった…。何だったんだ、あいつ?」
私達四人、みんな言葉が出ない。揃って「うわー」って顔してる。
「まぁ、良いや!人気のケーキ手に入ったし、みんなで食べようぜ!お!チョコパウンドケーキあんじゃねぇか!細長く焼かれ、外側カリカリ、中ふわふわが堪らないんだよー!私、これ大好きなんだよねー!誰にも渡さないぞー…って、ケーキ全部で六個あるじゃん!五人で六個だから、じゃんけんで勝った一人は二個なー!ほらー、手を出せー…って、どうした?」
「いや、その一個はササラさんが仲直りした後に、一緒に食べるための一個ですよね…。トウカさん、ササラさんに謝って来てください。」
「トウカさんの好きなチョコパウンドケーキが入ってるのも、涙ポイントですよね…。トウカさん、ササラさんに謝った方が良いですよ。」
「美雪さんや愛に聞いた話だったから、どっちが悪いか判断出来なかったけど、これはトウカさんが悪いな…。弁解の余地も無ぇよ…。トウカさん、ササラさんに謝りに行ったほうが良いっすよ。」
「トウカが悪い。全部トウカが悪い。ほんとバカ。トウカ、ササラに謝って来い。今すぐ。」
「なんで、四人してササラの味方なんだよ!?このケーキで懐柔されちまったのか!?」
「「「「はぁ…。」」」」
「四人揃って溜息!?え?なんで!?」
トウカさんとササラさんの和解は程遠いかもしれない。主にトウカさんのせいで。
ササラさんに対して申し訳無い気持ちいっぱいのまま、差し入れのケーキをいただく。転生前の日本のケーキと遜色が無いレベルのケーキに、ほっこり笑顔で舌鼓を打つ。
「とても美味しいケーキですね。ふんわりとしたスポンジの生地に、滑らかなクリームと果実の酸味が堪りません。しかし、少し甘味が足りないですね。これは、甘えることで、甘味を足しましょう。ホワイトくん。あーんってしてもらって良いですか?ペトラお姉ちゃん、あーんでお願いします。できれば、頬を赤らめて。」
「あれ、ペトラさん!?いつの間に!?」
余っていた六個目のケーキは、いつの間にか私達の控室にいた、歌姫のマネージャーであるペトラさんによって食されていた。
驚く私達を気にかけることなく、ペトラさんは眼鏡をくいっと上げ、説明を始める。
「皆様、お疲れ様です。護衛クエストの一日目、昼の部は無事に終わりました。しかし、本番は夜です。当日を見据えてのリハーサルが行われますので、黒い羽根が現れる可能性が高いです。お疲れのところ、申し訳ございませんが、もうひと頑張りをお願いします。あ、ホワイトくんは夜も遅いので、私の膝枕で寝てて構いませんよ?」
「遠慮します。僕も冒険者なので、睡魔と戦います!」
「あー、ホワイトきゅん健気…。尊い…って、癒されてる場合ではありませんね。それでは、ケーキを食べ終わったら、各自持ち場についてください。よろしくお願いいたします。」
「「「了解!!」」」
ペトラさんの指示に、私達は声を合わせる。
昨日は色々あってあまり眠れていないから、正直なところ眠いが、がんばろう!残りのケーキをがっと口にかっこみ、ごくんと一飲みし、頬をぺちぺち叩いて気合いを入れる!
よし、やるぞー!!
「んごー。んごー。」
「すー。すー。」
闘技場の観戦席に移動してから程無くして、愛は豪快な寝息を、シロ君は静かな寝息を立て始める。
さっきシロ君、眠気と戦うって言ってなかったっけ?と思いながらも、二人に毛布をかけてあげる。これでよし!ってことで、一緒に護衛をする男へ声をかける。
「ユウジ、年少組二人はぐっすりだ。年長組である私達は、二人の分も護衛をしよう!」
「あ、あぁ、そうだな!!な、何も無いと思うけど、がんばろう!がんばるぞー!!」
「なにをそんなに気張ってるの?冒険団モブが、数多い人員で幅広く防衛してくれてるんだから、私達はこの南西をのんびりと守りましょう?」
「そうだな!うん!だ、大丈夫!美雪さんは俺が守るぞ!!」
「いや、歌姫とレイヤくんを守ろうな?護衛クエストの本質を見誤るなよ、ユウジ?」
「そうだな!」
なぜかソワソワ緊張しているユウジと共に、歌姫達のリハーサルの様子を見守る。
そういえばユウジとこうして二人っきりで落ち着いて話すのは初めてな気がする。だから、ユウジは緊張してるのか?今さら緊張する仲でもないだろう。ユウジの緊張など気にせず、適当に話し始める。
「歌姫のリハーサルって言っても、実際に歌ったりはしないのね。今日のリハーサルは、立ち位置や当日の流れといった段取りの確認かな?歌姫がどんな風に歌うか楽しみだっただけに、ちょっと残念。」
「まぁ、歌姫の歌声は当日の楽しみに取っておこうぜ。護衛なら、もしかしたら観客より近くで見れるかもしれないからな!俺も歌姫の歌声聞くのは初めてだから、実は楽しみだ!」
「楽しみって、ユウジは歌姫のコンサート来たことないの?前は王都にいたんでしょ?そんなにナンパで忙しかったの?」
「またナンパか…。俺、美雪さん達と出会ってナンパしてないよな?そろそろ、ナンパ野郎って汚名は返上させてくんない?」
不服とばかりに、じとーっとした目で見てくるユウジ。私は正直な感想を告げる。
「それは無理かなー。ユウジと一番最初の出会いがナンパだったからね。悪いけど、なんかナンパキャラが私の中で払拭できないわ。人の第一印象って大事ね。」
「あぁ、ナンパキャラの払拭のために、もう一度最初から出会い直したいな…。って、最初の出会いのやり直しはダメだ。絶対に。」
「へ?どういうこと?ナンパキャラが良いの?」
「あ、いや、そういう意味じゃないんだ。悪い、気にしないでくれ。」
「気にしないでくれって言われたら、余計気になるんだが…って、変なユウジね…。いや、いつもユウジは変か。なるほど。」
「いや、俺はこのパーティの中じゃ、常識的なキャラだと思うぞ。俺達のパーティじゃ、男は常識人、女性はその逆だろ?」
「なるほど。確かに愛は非常識が服着て歩いてるみたいだからね。愛に比べたらユウジは…、って、ユウジの言い方だと、私も非常識側よね?ん?どういうことかな?」
「美雪さん、スキル眼光威圧はやめてくれ!!まじで、怖い!!」
私のスキル眼光威圧の発動に、ユウジは両手を振り回しながら私から距離を取る。
私よりも体の大きいユウジが、スキル眼光威圧でバタバタと慌てふためく。最初は後悔したスキル眼光威圧の取得だが、オンオフの切り替えが出来ると知ってから、有用性が跳ね上がった。正直、取得して良かった。
慌てふためくユウジに、スキル眼光威圧をオフにする。落ち着きを取り戻したユウジに、ずっと気になっていた質問をしてみることにする。
「ねぇ、ユウジ。なんでお前は私に、さん付けなんだ?ユウジの方が年上だろ?それに、パーティを組んでる仲間なんだから、気兼ねなく美雪って呼んでくれて構わんぞ?正直なところ、年上男性に、さん付けで呼ばれるのは少し抵抗がある。」
「んえ!?いや、美雪さんの方が年上だろ!?呼び捨てなんて、出来ないぞ!!」
「ん?」
「へ?」
なんとなくお互いの話が噛み合っていないことを感じる。今後の為にも、ゆっくりと確認をしていく。
「私は確か16歳だぞ?お前は二十代後半だろ?私の方が年下だけど?」
「確かに俺は転生時に26歳にしたけど、転生前は17歳だ。美雪さんは転生前は二十代後半だっただろ?だから、美雪さんの方が年上だぞ?今の見た目は逆だけど。」
「なるほど。異世界転生ってのはそういうことも起こるのね…。って、ユウジに転生前の年齢言ったことあったっけ?」
「ん?あ、あぁ、神に聞いた!ノアに!」
年齢は女性にとって一番の秘密なのだが、あの適当な神なら、さらっと言っちゃいそうだ。
「ノアなら有り得るな。」
「あぁ、あのノアだからな。」
転生者同士の意気投合に、うんうんと頷きながら、思いついた質問をする。
「なんでユウジはわざわざ年齢を上げたの?年齢低くした方が若くて体力あって、お得じゃない?」
「ちょっと理由があってな…。まぁ、その理由は残念ながら空振りしたけど…。」
「いや、どんな理由よ。って、これも気にするなってやつ?」
「うん、そう。今はまだ言えないけど、いつかは教えるよ。」
「いや、別に良いよ。秘密のままにしときな。」
意味深に言われても、正直なところあまり気にならない。私の言葉に、ユウジはぽかーんとしてるけど、気にならないものは気にならないのだから、仕方ない。
「理由は気にならないけど、一つ納得したことがあるよ。ユウジって、年相応の落ち着きが無くて、変な男だなーって、ずっと思ってたからね。」
「ぐっ…。」
私の言葉に、目に見えてへこむユウジ。本当のこととはいえ、少し言い過ぎたな。フォローしとこう。
「でも、私はユウジのキャラは良いと思うぞ。」
「ん?」
「愛の暴走をよく止めてくれるじゃん?ツッコミとして。シロ君や私じゃ出来ないことだから、正直なところすごい助かってる。いつもありがとう。」
「急になんだよ?ちなみに、愛の暴走だけじゃなく、美雪さんの暴走も止めてるぞ?」
「ん?何言ってるんだ?私は暴走したことないぞ?」
私の言葉に、腑に落ちないといった顔で答えるユウジ。
抗議しようとするユウジは無視する。寝息を立てる愛とシロ君の幸せそうな寝顔を見ながら、ふと思いついたことをユウジに言ってみる。
「しかし、うちのパーティって精神年齢めちゃくちゃね。愛は年齢相応より少し下くらいの猪突猛進ガール、シロ君は逆に少し大人びた博識少年。ユウジは見た目おっさんの男子高校生で、私は見た目は女子高生、頭脳は大人。見事にみんなバラバラね。」
「そうだな。でも、バラバラのおかげで色々な視点で物事を捉えられるから良いんじゃないか?」
「なるほど。暴走もせず、停滞もせずね。確かに私達は良いバランスかも。ユウジ、たまには良いこと言うじゃない!」
「たまにはは余計だけど…、ありがと!」
にかっと笑うユウジ。それは見た目の年齢に合っていない無邪気な笑顔だった。なるほど、確かに中身は男子高校生だ。
それから私とユウジは日本で見るものと変わらない月を見ながら、他愛ない話をする。
ユウジは私が転生した頃より、十年ほど先の未来から転生したらしく、私の知らない日本の事情をたくさん教えてくれた。
ユウジは出会いこそあれだったが、同じ日本からの転生者だからか、安心感や懐かしさを感じる。無意識にホームシックを感じてたのかな?束の間ののユウジとの談笑は、意外と盛り上がった。
「おーい、美雪ー。今日のリハーサルは終わりだー。護衛クエスト一日目おしまいだー!」
「「お疲れ様でーす!」」
ユウジと話してたところで、トウカさんが観客席に現れる。今日の護衛クエストはこれで終わりだ。
何も起きなかったけど、護衛クエストは何も無い方が良い。一安心。
「って、愛ちゃんとホワイト坊ちゃんは寝ちゃったかー。そこそこ遅い時間だから、仕方ないか!んじゃ、帰るぞ!美雪は愛ちゃんを背負って、ユウジはホワイト坊ちゃん背負って!」
帰る用意を始めるトウカさんに続き、眠ったままの愛とシロ君を背負い、宿屋へと向かう。
「この後どうする、美雪とユウジ?」
「どうする、って何がですか?」
「良い時間だし、宿屋に少年少女を置いて、飲み行く?」
くいっとおちょこを持ち上げるようなハンドサインをしたトウカさんの質問に、私とユウジは笑いながら同時に答える。
「「いや、未成年なんで遠慮します!」」
「ん?どういうこと?」
頭にはてなが浮かんでるトウカさんを横目に、見た目未成年の私と、中身未成年のユウジは二人で笑う。
こうして無事に終わった護衛一日目。
と、思っていたが実際は違った。
私達が宿屋金字塔へと向かう中、冒険団モブのモブスくんが、王都を賑わせる殺人鬼である磔吸血鬼に襲われた。




