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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
王都挑戦編 -所持金すべて失い歌姫を護衛する-
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守れ!歌姫!護衛クエストで等級アップだ!④

前回のあらすじ:護衛クエストを一緒に受ける冒険者パーティとの顔合わせを済ませ、護衛クエスト一日目が始まる。


歌姫のマネージャーである昼食を済ませた私達は、闘技場の会場へ移動する。


「むぐむぐ…、美雪(みゆき)ー。今日は、私は闘技場に出れないの?むぐむぐ」


「入り口でシロ君とユウジが説明してくれたじゃない。今日は、パーティ対抗戦。出場するパーティ以外は戦えないから、我慢して頂戴。」


「むぐむぐ、護衛クエスト中は我慢する!むぐむぐ。今日は他の冒険者を見て、勉強する!むぐむぐ」


昼食が足りないとごねた大食いの(あい)には、マグカに保存していたサンドイッチを与えていた。

両頬にパンパンにサンドイッチを蓄えた愛と一緒に、観客席の中の一つに腰掛け、闘技場で行われているパーティ対抗戦を観戦する。

今は中堅戦の最中らしく、黒薔薇剣劇団(ブラック・ローズ)の中堅だと思われる鎧を身に纏った女性剣士と、洋食屋くろばらの中堅と思われるコックのような服装の男が、お互いのパーティの威信を賭け、全力で武勇をぶつけ合っていた。

歌姫の護衛クエスト?いや、サボってるわけじゃないよ?ご飯を食べたら、ちゃんと警備するし、今もシロ君とユウジが護衛してるし。


「んー。見てるだけなんて、退屈ーって思ってたけど、戦い方の勉強になって良いねー!むぐむぐ」


「見るのも勉強ね。鎧を纏った女性剣士は、その見た目から鈍重に見えるけど、風魔法を背後に放出しての加速で、攻撃に勢いを持たせてるわね。重装備とは思えない、鋭い一撃。まるで巨大な猪の突進ね。同じ風魔法使いとして、参考になるなぁ。」


「コックの方も、水魔法で攻撃してるように見えるけど、あれは相手の動きを制限するためだね。何かで水の粘度を増してるのかな?攻撃自体は効果が無いように見えるけど、魔法を受けた方は動く度に、徐々に体力が削られていくよ。むぐむぐ」


むぐむぐとサンドイッチを頬張りながらも、真面目に戦う相手の実力を解析する愛。

普段のアホっぽい発言とは異なり、戦闘分析中の愛の発言は真面目なものである。さすが、シロ君にバトルジャンキーと評される愛。


「どっちの冒険者も良い感じなんだけど、鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ)の敵じゃないかなー。今の私じゃ五分ってとこだけど、レベル上がって、もっと体が軽くなって、真鬼火流剛術(しんおにびりゅうごうじゅつ)が使えたら余裕で倒せるね。むぐむぐ」


さすが自分の剛に自信たっぷりの愛。鬼火流剛術が一番強いって考えは変わらない。さすが、ユウジに暴走機関車と評される愛。


「美雪なら、あの二人をどう倒す?むぐむぐ」


「私が?んー、私なら鎧騎士の方は、初手で神槍投擲(ゲイボルグスロー)を放つかな?当たればラッキーで致命傷を与えられるし、外れても足場は崩せるからね。あの重装備なら、足場を崩せば機動性は失われるでしょ?そしたらもう勝ったも同然。相手の攻撃を丁寧に避けながら、温度操作魔法で鎧を徐々に温めて終わりかな。」


「うわー、鬼畜だー。それじゃ、あっちのコックの方は?」


「コックの方が私としては苦手かなー。あのトロトロの水は、対戦相手の動きを確実に奪ってくるもんね。でも、動きを止めるのに固執し過ぎかな?私だったら、動きが止められるのは最初から覚悟して、大技一発どーんかな。具体的には、トロトロ水で攻撃してくる間、長い詠唱が必要な炎氷双嵐(アイスフィアトルネード)を準備。相手がトドメを仕掛けてきたところで、カウンターで発動かな?」


「でも、鬼火流剛術ならあの竜巻の魔法にも余裕で耐えられるよ!!弐の型で受け流して、終の型をぶちこむ!!」


「いや、いつの間に愛と私は戦ってた?」


なぜか私に拳を突き出して、対抗心を燃やす愛。味方相手でも、鬼火流剛術が一番強いって考えは変わらない。さすが、私に天上天下唯我独尊を地で行く戦い大好き暴走少女と評される愛。


「まぁ、こうして事前に戦い方を見られてるから、好き勝手に対策練られるんだけどね…。やっぱり情報は大事だな。愛、なるべく私達の戦い方とか弱点は内緒にするのよ?」


「えー、私は鬼火流の考えを、この世界に広めていかないといけないんだけど?あと、鬼火流には弱点無いから!」


「んー…?低すぎる魔法防御と状態異常耐性は、立派な弱点のような…?」


自信満々に胸を張る愛を、じとーっとした目で見る。

まぁ、良いか。闘技場で行われる対抗戦の観戦に戻る。



「!?」


中堅戦が終わりに近づいてきた頃、愛が急に勢いよく後ろを振り返る。

ん?どうした?と私も一拍遅れて振り返ると、そこには黒髪ロングの和装美女が立っていた。


「お二人はん、サボるのはあかんとちゃいますか?」


「サボってないよ!!でも、トウカには言わないで!!」


いつの間にか背後に立っていた和装美女は、私達と一緒に護衛クエストを受ける竹調(たけしらべ)のササラさんだった。

愛がササラさんに何度も、トウカにサボってたこと言わないでーとお願いをしていると、彼女は悩まし気に溜息を吐いた後、少し不機嫌そうに呟く。


「大丈夫どす。ササラ、告げ口なんてしまへん。ササラ、トウカはんとなるべく話したくないもん。」


なるべく話したくないって…。トウカさん、ササラさんにだいぶ嫌われてるな…。


「お前はんら、確かトウカはんのサポーターの…、美雪と愛やったか?護衛をサボってはるんなら、少しササラに時間をもらえないやろか?」


「サボってたわけじゃないけど、良いよー!ちょうどサンドイッチも食べ終わったとこだしー!!」


「おおきに。ほな、美雪はんの隣に失礼するな?」


「あ、どうぞ。」


愛の元気いっぱいの言葉ににこりと微笑み、上品に私の隣に座るササラさん。一挙手一投足に華がある。

私達には無いササラさんの落ち着きに、同じ女性として感心していると、少し言いにくそうにササラさんは質問をする。


「トウカはん、ササラのことを何か言うてはりまへんでしたか?」


「トウカ?トウカなら…、むぎゅう。」


なにかまずいことを言いそうな予感がしたため、愛の口を片手で塞ぐ。

急に何すんのー?と目だけで非難する愛の顔に、ぐいっと自分の顔を近付け、ササラさんに聞こえないよう、こそっと注意する。


「一応聞くけど、ササラさんになんて言おうとした?」


「トウカはササラのこと苦手って言ってた。ササラが一緒って聞いて、露骨に嫌そうな顔してたよー、って言おうとしたけど、それがどうしたの?」


愛の言葉に、私の嫌な予感が当たったことを実感する。良かった、止めて。


「ササラさんはこれから一緒に護衛クエストをする仲間でしょ?無駄にトウカさんとの仲を険悪にしても、やりづらくなるだけでしょ?だから、トウカさんがササラさんに言ってたことは秘密。オッケー?」


「オッケー!」


作戦会議を終えた私達は、怪訝な表情を浮かべるササラさんに向き直る。私から伝えようかなとも思ったが、愛の成長を確認するため、私は黙って見守ることにする。

愛は野生の獣の本能のようなもので、私の意図を汲み取ったのか、にやりと私に微笑んだ後、ササラさんにトウカさんのことを伝える。


「トウカはササラのこと、なーんにも言ってなかったよー!すっこしも話題に出なかったー!あ、ササラと一緒なの?そっか。くらい!」


「せやか…。トウカはん、ササラのこと何も言うてなかったんかえ…。」


悪口を言ってたよりは良いけど、ササラさんのこと褒めてたよーとかにすれば良いのに…。まぁ、ササラさんが怒ってないからマシってことにしよう。


「トウカはんは一年近く引きこもりをしてて…、その間に色々とササラは頑張ったってのに…、トウカはんは何も言うて無かったんどすか…。トウカはんが引きこもって投げ出したクエストとか、ササラが代わりに受けて事無きを得たり、放っておいたら何も食べないで引きこもるトウカはんに、ササラは甲斐甲斐しく差し入れをしたりしたってのに…、何も言うて無かったんどすか?えぇ身分やなぁ、トウカはんは。」


あ、これは何も言って無かったじゃダメなやつだ。

ぶすーっと頬を膨らませて、ササラさんめっちゃ不機嫌じゃん。ぶすーっと頬を膨らませても、すごい可愛いのだけど。

でも、トウカさんが引き籠ってる間に、ササラさんは裏で色々としてくれてたんだな。そりゃ、こんなにササラさんが色々したのに、トウカさんが何も無しじゃ怒っても仕方ない。

ていうかトウカさんは、こんなに色々としてくれたササラさんに、感謝の気持ちをちゃんと伝えても良いんじゃない?

何が、「げっ!!よりによって、ササラかよ!!」だよ。ササラさんの裏のがんばりはトウカさんは知らないから仕方ないかもだけど…。これは後でちゃんと注意しないとだな。


「美雪、どうする…?めっちゃササラ怒ってるよ?」


「大丈夫、私に任せて。」


小声で相談してきた愛に、ササラさんに見えないように親指を立てた私は、ササラさんへ笑顔を向ける。スキル眼光威圧をオフに出来た私は、笑顔でも相手を威圧することは無い。


「ササラさん。トウカさんは私だけに耳打ちしてくれたんですけど、トウカさんはササラさんのことを、こう言ってました。」


「トウカはんがササラのことを?どう言うてたん?」


「ササラさんは、トウカさんと違って周囲への気配りが出来て、すごく素敵な女性だと褒めてましたよ?トウカさんが引き籠っている間、ササラさんが色々としてくれていたことも気付いていて、感謝の言葉を言ってました!」


私の言葉に、ぱぁっと明るくなるササラさん。

トウカさんのフォロー作戦成功!と思われが、ササラさんはすぐに、すんと達観した表情へと変わる。


「トウカはんがそんなこと言うわけないやん。さっきのササラの言葉に、気を遣ってくれたのは分かるけど、トウカはんがそんなこと言わないこと、ササラよく知っとるで。」


あ、トウカさんのフォロー作戦、失敗しました。

駄目だー。完全にトウカさんの普段の行いがあんまりなせいで、必死にフォローしても効果が無い!

私があわあわと慌てながら次の策を考えていたところで、ふぅと溜息を吐いたササラさんは私に話しかける。


「まぁ、えぇわ。ここにいないトウカはんを非難しても仕方あらへん。それよりも、トウカはんと美雪はん達が出会った時の話を聞かせてくれへんか?トウカはんが引きこもりから復帰したと思うたら、知らへん四人をサポーターとして連れて来たんや。ササラとしては警戒してまうやろ?」


にこりと笑いながらも、ササラさんの目の奥は笑っていない。

もしかしたら、これがササラさんが話しかけてきたことの本題かもしれない。

そりゃそうだ。苦手なトウカさんが連れてきた謎の四人組。ササラさんからしたら私達は不審者極まり無い。

ササラさんの警戒心を無くすため、私はゆっくりとトウカさんとの出会いの話を説明する。



「ファストの町のダンジョンで、トウカはんと冒険者フィーネはんに助けられたと。それから、トウカはんは先輩冒険者として、美雪はん達に優しくしてると。さすが、世話焼きでお節介なトウカはんやな。お優しいこって。尊敬してまうわ。」


世話焼きでお節介って言葉に、トゲを感じるな…。尊敬してしまうって言葉にも、なんとなく嫌味を感じる。本当に仲が悪いな、トウカさんとササラさん。


「……って、……………もん…!」


ぶすーっと不機嫌そうに何かを呟くササラさん。

不躾で無遠慮なトウカさんへの怒りかな?聞こえなくて良かったのかもしれない。

ぶすーっとしてたササラさんだが、ふーっと一息吐いた後、にこりと笑顔を浮かべる。


「美雪はんと愛はんは、トウカはんのことどう思っとるんどすか?」


「トウカさんのことどう思ってるか?…んー、愛はどう?」


「トウカはいつか倒す相手!トウカは鬼火流剛術を小馬鹿にしてるからね!いつか見返す!!」


「そうどすか…。トウカはんのこと、殺してしもうてはあかんからな?」


愛の元気いっぱいな鬼火流の考えに、心配そうな表情で注意するササラさん。

なんだかんだ言っても、トウカさんに対して殺すほどの憎悪は無いササラさんに一安心しながら、私もトウカさんに対して思ってることを伝える。


「トウカさんは、すごく面倒見の良い先輩冒険者です。乱暴な言葉遣いが目立ちますが、初級冒険者である私達のことを気にかけてくれています。とても頼りになる先輩です!」


「あのトウカはんが?ふーん、そうかえ。ほー、そうなんかえ。」


私の言葉に対して、じとーっとした表情で見つめてくるササラさん。

あれ、なんだか機嫌が悪いような?仲が悪い相手が褒められたから、不機嫌になったのかな?


「!?」


ササラさんと私が気まずく見つめ合ってる中、愛が急に勢いよく後ろを振り返る。

ん?なんかさっきも同じことがあったような?と私も一拍遅れて振り返ると、そこには銀髪ショートの女性が立っていた。


「おい、ササラ。そろそろ歌姫達のリハーサル始まるぞ。私のサポーター達で遊ぶのは程ほどにしてくれよ。」


「トウカはん!?」


ササラさんの背後から、急にトウカさんが現れる。なんだろう、上級冒険者は気配を消して、いつの間にか背後に回らないといけない掟とかあるのかな?

ササラさんは相当びっくりしたのか、先ほどまでの落ち着いた様子とは異なり、真っ赤な顔で勢いよく立ち上がる。ババッとトウカさんの目の前に立ったササラさんは、大きな声で抗議をする。


「トウカはん!!急にササラの背後に立たんでくれへんか!!」


「驚かせて悪いけど、そんな大声を耳元で出すなよー。」


「驚いてへん!!トウカはんに驚いてなんかないんやから!!あほう!!」


「阿呆ってなんだよ!!さっきの喧嘩の続きなら買うぞ!!」


ぐいっとササラさんに近付くトウカさん。お互いの顔はもう少しで触れるほどの距離である。

さすが、喧嘩上等なトウカさん。あっという間に喧嘩の流れからの、見事なヤンキー睨みである。


「近いねん!!あほう!!」


「痛いっ!?」


睨むトウカさんの頬に、ササラさんはバチーンと平手打ちをする。

勢いよく振り抜いたササラさんの平手打ちに対し、なぜか愛はグッと親指を立てる。


「見事なビンタだね!」


(つう)っ…。トウカはん、無駄にレベル高いから、叩いたササラの手も痛いわ!!あほう!!トウカはんのあほう!!」


叩いたときに手を痛めたのか、片手を抱き締めるようなポーズでササラさんは走り去る。

トウカさんのペースに合わせたせいで、上品でおしとやかだったササラさんは台無しである。毎回こんな感じだったら、ササラさんがトウカさんのことを敵視してしまうのは納得だ。


「そんな、真っ赤な顔して怒ることないだろう…、って、走って行っちゃったよ。なんだ、あいつ。」


いや、驚かせた上に、最初から喧嘩腰なトウカさんが悪いよ?

ササラさん、トウカさんが引き籠ってる間に色々と世話を焼いてくれてたんだよ?

それなのに、そんな相手に喧嘩腰で、からかって挑発して…。

じとーっとした視線を向ける愛と私に、ササラさんが走り去った方向を親指で指し示しながら、トウカさんは困った表情で笑う。


「な?私がササラが苦手な理由分かっただろ?私めっちゃあいつに嫌われてるんだよ。」


「いや、いつも今みたいな感じで怒らせてるからじゃないですか?」


「トウカが悪い。トウカ、ササラに謝って来い。」


「なんで、二人ともササラの味方なんだよ!?ササラと話して、ほだされちまったのか!?」


トウカさんが抗議の声を上げる。

そんなトウカさんに、愛と私はふうっと憐憫の表情を浮かべた後、闘技場の警戒へと繰り出す。


一緒に護衛するトウカさんとササラさんが仲が悪いのだ。私達が精一杯サポートをしよう。

そんな決意を胸に、私達は護衛クエストに戻る。

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