明日に備えて、スキルを取得しよう!
前回のあらすじ:ガイドさんに巻き上げられた所持金をクエストで補おうとするも、美雪と愛の冒険者としての等級が低いため、初級冒険者向けのクエストしか受けられない美雪達。そんな窮地に、銀琴のヤクモが現れる。
「お風呂満喫したー。ぽっかぽかだー…って、どうしたのー、美雪ー?そんな真面目な顔で自分のマグカを睨んでー?マグカおびえてるよ?」
「ん?いや、スキルを取得しようと思って。レベル20の時に取得可能になったスキルを選んでなかったなーと思って。明日に備えて、今の内にスキル取得しとこうかなと思っ…って、マグカがおびえるって何よ?無機物を怖がらせるほど、私の眼光は鋭くないわよ。多分。」
銀琴のヤクモことトウカさんと再会した日の夜。
所持金が心許ない現状を打破するための秘策を、明日用意すると宣言したトウカさん。酔っ払いながらの宣言だった上に、なんとなく嫌な予感がするため、手持ちの武器を増やすためにスキルを取得することにした。
「スキル?あ、ほんとだ。一個スキル取得できるね!それじゃ、シロ君呼んでくるよー!」
「あ、遅い時間だから、お眠なシロ君に迷惑かけちゃダメ…って、行っちゃったわね。ごめん、シロ君。」
愛はシロ君とユウジの部屋を目指して、あっという間に走り去る。
念のために追いかけると、愛は力いっぱい男子部屋の扉を開くところだった。
バンッという音と共に、開かれる扉。遠慮なんてない愛の豪快な行動。そのうち、扉を開ける前にはノックをする、ということを教えよう。
「おーい!!シロ君ー!!スキル取得するから、ちょっと来てー!!」
「う、うわぁ!!ちょっと!!着替え中ですよー!!」
部屋の中から飛んできた枕を、堂々と顔面で受ける愛。どうやら、シロ君は着替え中だったようだ。
なぜか部屋の外にいたユウジが、ぼそっと呟く。
「いや、そのお約束なラッキースケベ展開…。普通、男女逆だろ…。」
「あ?男女逆?ラッキースケベ展開?お前、愛か私の着替え中にやりやがったら、顔面に私の最大威力の武技、神槍投擲による永遠の神罰†終焉†だからな?」
「ゲイボルグスロー・エターナルジャッジメントラグナロク!?何それ!?明らかにヤバい系の技じゃねぇか!!気を付ける!!ラッキースケベ展開は、絶対に起こさないように気を付ける!!」
ぶんぶんと首を縦に振るユウジ。必死に気を付けると連呼するユウジに、少し安心していたところで、愛が私の袖を引きながら言いずらそうに呟く。
「ねぇ、美雪…。」
「ん?どうした、愛?」
普段、元気いっぱいの愛が妙にしおらしい。どうしたのだろうか…。
「いや、やっぱり良い。ごめん、忘れて…。」
ふるふると震えながら、私から視線を逸らす愛。
これは一大事だ。震える愛の肩を揺らしながら、真意を聞き出す。
「美雪がどうしても、っていうから言っちゃうけど…。」
愛の真剣な表情に、私はごくりと息を呑む。愛は口元を抑えながら、ぼそりと呟く。
「あのね…。美雪の神槍投擲による永遠の神罰†終焉†って技名…。言ってて恥ずかしくない?…ぷふっ!!」
震えていた愛は堪えられないとばかりに笑い出す。どうやら、愛は私の恥ずかしい技名に対し、必死に笑いを堪えていたようだ…。愛の一言に、ユウジも口を抑えて私から視線を逸らす。
「それもこれも、あのふざけたノアのせいよー!!」
「いや、なんで俺の首を締め上げる!?」
ノアが命名した恥ずかしい名前の技を、愛に注意された羞恥心から私はユウジの首を締め上げる。八つ当たりってことは実感している。
ユウジを締め上げていたところで、少し顔を赤くしたシロ君が部屋の中から現れる。
「ごめんなさい、愛さん…。先ほどは急なことだったので、慌てて枕をぶつけてしまって…って、えっと…。ユウジが締め上げられてるのは、いつもの光景なのでスルーしますが…。」
「スルーしないで…くれ…!!」
「いえ、スルーします。」
「!?」
「スキルの取得でしたね!僕もレベル20の時のスキルを取得していませんので、一緒に取得をさせてください!あと…、ちょうど良い機会なので、皆さんの今までの取得済みスキルも共有し合いながら、新しいスキルを取得しましょう!さぁ、中へどうぞ!」
「情報の共有は大事ね。それじゃあ、失礼します。」
ぐったりし始めたユウジから手を離し、シロ君に案内されて男子部屋へとお邪魔する。
意外と綺麗に整頓された男子部屋に感心しながら、近くのベットに愛と一緒に座る。と思ったら、座る私の足と足の間に座る。私の体を背もたれにして座る愛は、得意げな顔で私に笑いかける。
「この方がお互いのマグカ見えるでしょ?えへへ。」
私より背が低い愛がこうして座ると、確かにお互いのマグカを確認することが出来る。それに、風呂上がりだから、愛の体はとても温かく、冷え性の私には嬉しい限りだ。ほっこり良い気分で、愛の頭の上に自分の顎をのせる。
「それでは、これから新しいスキルを取得しますが、僕達はパーティです。スキルの取得は一人の問題ではなく、パーティ全体のバランスを考える必要があります。各自の取得済みのスキルを考慮しながら、新しいスキルを取得しましょう。」
「「「了解」」」
シロ君の声に、私達は大きく頷く。さっきまで青白くなっていたユウジもすっかり回復し、シロ君の隣にどっしりと座っている。どうやら、レベル30のスキルを未取得だったユウジも、一緒にスキルを取得するようだ。
「まず、僕の取得済みスキルから共有しますね!僕の取得済みスキルは三つ。レベルアップ時に魔力のステータスを上げる魔力促進と、ダンジョンなどの地形を把握して地図を作製するためのスキル製図と、皆さんご存知の回復と防御を司る光魔法です!」
ファストの町のダンジョンで迷わずに攻略出来たのは、シロ君作成の地図を活用したことが大きかった。
スキル製図は戦闘スキルでは無いが、シロ君の完全記憶能力と掛け合わせると、見事な地図が生まれ、ダンジョン攻略に大きく活躍をする。
「僕の取得済みのスキルは補助系が多いため、今回は魔法を進化させて攻撃の威力を上げたいと思います!」
「魔法を進化させて威力を上げる?」
シロ君の言葉に、私は愛と一緒に首を傾げる。
「はい!魔法は条件を満たし、スキルポイントを使用することで進化させることが出来ます!今回は地属性魔法を進化させて、岩魔法にしようかと思います!」
「岩魔法になると、どう変わるの?」
「魔法を進化させると、威力と速度が大きく上がります!僕がよく使う、地属性魔法のストーンブラストは、拳大の石を相手にぶつけますが、岩魔法のロックブラストになると、人の頭よりも大きい岩になり、相手に向かう速度も上がります!MP消費も大きく上がりますが、それに見合った威力を手に入れることが出来ます。岩魔法を取得しても良いですか?」
シロ君の魔法進化の説明を聞き、自分のマグカを確認してみると、取得可能スキルの中に暴風魔法がある。説明を確認すると、暴風魔法は風魔法の進化魔法のようだ。
おっと、今は自分のスキル確認をしている場合じゃない。シロ君の提案に返答しなくては。
「オッケー!岩魔法の取得で良いと思う!シロ君の後方支援が強くなるのは私達にとって、すごく助かるもの!」
「よく分かんないけど、オッケー!岩を飛ばすってのは、私の修行にも役立ちそう!後で私に岩を飛ばしてねー!全部、撃ち落とす!!」
「純粋な強化だし、良いんじゃね?シロは魔法特化型だし、岩魔法への魔法進化は妥当な判断だな。」
「ありがとうございます!それでは、地属性魔法を岩魔法へと進化させます!」
全員承認だったため、今回のシロ君のスキル取得は岩魔法への魔法進化に決定する。
次は私達パーティの守りの要となっているユウジの番だ。
「俺の取得済みスキルは五つ。敵の攻撃を集中させるスキル威圧と、魔法を剣に乗せて大きく強化する代わりに、武器の消耗が大きくなるスキル魔法剣と、盾の習熟度を大きく上げるスキル盾使い。あとは、シロの魔力促進の防御と魔防版、防御促進と魔防促進だな。」
ユウジの取得済みスキルは、防御に特化したスキルが多い。
最前線に特攻しがちな愛が致命傷を負わないのは、モンスターの反撃から守っているユウジのおかげだったりする。
褒めると調子に乗るから褒めないが、実はパーティの中核を担う、守りの要である。
「防御特化のユウジは何を取得するの?」
「俺はもっと守りを強くしようと思う。そんなわけで俺は魔法剣の盾版の、魔法盾を取得しようかなと思う。水魔法を波魔法に進化ってのも考えたけど、次のスキル取得だな。今は守りを上げるよ。」
「ユウジの魔法剣は、不壊の神話級の剣デュランダルがあるから成り立つんじゃなかった?ユウジの今の盾で大丈夫?」
ユウジが今使っている盾は、以前クイーングラスホッパーから取得した姫甲飛虫の盾。軽さの割には堅牢って盾だった気がするが、魔法盾の効果に耐えられるだろうか。
「まぁ、強い盾を手に入れたら、ユウジに渡していけば良いんじゃない?防御力が上がるのは良いと思うよー!硬い防御を破る、私の修行にも役立ちそう!」
「愛の修行に付き合うって、俺サンドバックになるってことか…?」
愛のサンドバック発言にユウジは目を見開いて驚くが、私達は無視することにする。愛は数日に一回、戦意が漲って止まらない時がある。愛が暴れ出したら、ユウジに押し付けよう。
「ユウジ以外は盾を使えないから、ゲットしたらユウジが使うことになるもんね。盾は消耗品って考えで、パーティ全体の守備力を上げますか!ユウジ、魔法盾で良いよ。」
「いずれはデュランダルのような、不壊の盾が手に入るかもしれませんからね。魔法盾で良いかと思います!」
こうして、ユウジが新しく取得するスキルは魔法盾に決まった。
次は元気いっぱい、私達パーティの一番槍こと攻撃特化の愛の番だ。
「私の取得済みスキルは…。えーっと、どうやって表示させるんだ、これ?美雪お願い!」
「えっとー。魔法の代わりの鬼火流剛術ってスキルは置いておいて…。愛の取得済みスキルは三つ。拳での攻撃が上がる剛拳に、蹴りの攻撃が上がる剛脚、トラップ内の罠を感知する罠感知ね。そして、はい、これが新規取得可能スキル。好きなスキルを選んで頂戴。」
愛が操作できないと投げ出したマグカを操作し、取得済みスキルと新規取得可能スキルを確認する。
愛は真剣な表情で、新規取得可能スキルを確認する。
「愛は見事な攻撃特化だな。今回は何を取得するんだ?」
「状態異常耐性の促進スキルがあるから、状態異常に異様に弱い愛は、これを取得してほしいとこだけど…。」
「や!そんな軟弱なスキル!!」
「だよね。それじゃ、好きなスキルを選んでみて!」
むむむ、といった表情でマグカを真剣に確認する愛。一緒にスキルの効果を確認しながら、愛の取得可能スキルを選ぶこと数分。
やがて、一つのスキルを指差す。
「これ!!魔力昇華ってやつ!!」
「まさか、愛が魔力系を選ぶとは…。って、なるほどね。このスキルなら愛にぴったりね!」
スキル魔力昇華は、MPを消費する代わりに身体能力を向上し、攻撃と速さを上げるスキルである。
魔法が使えないけど、少しばかりのMPを持つ愛は毎日MPを無駄にしている。その無駄になるMPを活かせるスキル魔力昇華は、愛にぴったりのスキルである。
シロ君曰く、MPは使い切ると少しずつ増えるらしいので、寝る前に使ってもらうことにしよう。
「最後は私ね。私の取得済みスキルは、転生特典のスキル必中と温度操作魔法を除いて三つ。必中は飛び道具系の攻撃が、狙ったところに行くスキル。温度操作魔法は温度を操作する魔法。あとは、MPとスタミナ消費を減らすスキル倹約に、飛び道具の武器とかが手元に戻ってくるスキル自動回収。そして、爆発魔法ね。」
取得済みスキルを確認した私は、手元のマグカで取得可能スキルを確認する。
前回、爆発魔法を取得した時よりもいくつか増えているが、一番目を引くスキルは、眼光威圧。なぜか太字になって、他のスキルよりも大きい文字になっている。
そんなに私にこのスキルを取得させたいのか…。だが、断る。
眼光威圧は、目つきの悪さを極めて相手を恐慌状態にするスキル。生まれつき目つきが悪い私が使ったら効果大のスキルかもしれないが、子供の頃から色々と言われてきた目つきの悪さを、これ以上悪くするわけにはいかない。
「美雪はこの剛弓ってスキルが良いんじゃないかな?なにせ、剛だよ!剛!!」
「風魔法を暴風魔法に進化させて、純粋に魔法の強化もありですね!」
「火魔法、氷魔法を取得して、攻撃のレパートリーを増やすってのもありじゃねぇか?」
愛、シロ君、ユウジがそれぞれお勧めスキルを紹介してくれる。三人の意見を参考にしながら、私は取得するスキルを決める。
「みんなアドバイスありがとう。そして、ごめんなさい。今回は、このスキル。気配感知を取得しようと思う。モンスターや悪意を持った敵の気配を感知するスキルなんだけど、明日のトウカさんの秘策だけじゃなく、ダンジョン攻略にも役立つと思うの。どうかな?」
「えー、剛弓にしようよー!!」
「最近は槍投げで攻撃することも増えたから、弓の威力を上げるよりも、モンスターからの奇襲を防いで、パーティ全体の安全を確保したいんだよね。だから、剛弓はパスかな。」
私の言葉に、愛はそっかー。と言った後にしゅんとする。落ち込む愛に、後ろ髪を引かれる思いだが、シロ君が後押しをしてくれる。
「ファストの町のダンジョンでは、モンスターからの不意打ちに苦しめられましたからね。良い選択だと思います!」
「俺も異論無し。賛成二の反対一で賛成の勝ち。愛、諦めろ。」
愛はぶっすーとした表情だが、反論はしてないので納得してくれたようだ。
「それじゃ、スキル気配感知を取得するねー…。」
マグカを操作してスキル気配感知を取得しようとしたその時、アクシデントが起きる。
「やっぱり、美雪は剛弓が似合うと思うなー!!」
指先がもう少しでマグカに触れるかという時、急に顎の下の愛が大きく動く。
「んごっ!!」
愛が大きく動いた結果、私は顎を力強く打たれ、恥ずかしい声を上げてしまう。気分はアッパーを食らったボクサーだ。
「ごめん、美雪ー!!」
「だ、大丈夫だよ…。でも、次は気を付けてね?」
クラクラする頭を抑えながら、愛に注意する。元気いっぱいの愛の頭に、不用心に頭をのせていた私の失敗でもある。軽い注意で済ませようとした私の言葉に、愛の顔が真っ青になる。
「ひぃっ!!本当にごめんよー!!そんなに怒らないでよー!!」
私の注意に、愛が異様なテンションで全力の謝罪をする。
いや、そんな怒ってないよ。だから、大げさに謝らないで。そう伝えようとしたところで、シロ君とユウジが慌てた様子で私の言葉を止める。
「み、美雪さん!!愛さんだって、悪気があってやったわけじゃないんです!!ただ、元気が有り余っていただけなんです!!だから、そんな怒らないでください!!」
「美雪さん!!愛のいつもの暴走だ!!許してやってくれ!!って、ほら!!愛、早く謝れ!!もっと真剣に謝れ!!殺されたいのか!?」
「いや、そんなに怒ってないよ…。」
「ひぃ!!本っ当にすんませんでしたー!!殺さないでください!!鬼火流剛術 謝の型!!土下座!!」
愛がこの世の終わりといった表情をした後、ゆっくりと土下座をする。
突然の土下座に慌てていると、愛の両脇でシロ君とユウジも土下座をする。三人揃っての土下座に、私の中に嫌な予感が湧き上がってくる。
「ま、まさか…?」
手元のマグカを確認する。そこには、驚愕の一行が記載されていた。
「スキル眼光威圧を取得しました、ね…。なるほど…。」
「「「ひぃぃぃいいいい!!」」」
仲間達の恐怖の悲鳴を背後に、私は取得してしまった眼光威圧の威力を実感する。




