王都ってどんなとこ?王都初心者の私達の前に、ガイドさん現れる!
前回のあらすじ:宿屋での思いがけない出会いに驚きながらも、王都挑戦に対する覚悟を新たなものにした美雪と愛。
「それでは、僕とユウジは王都での諸々の手続きを済ましてきてしまいますので、美雪さんと愛さんは王都の中を探検してみてください!」
宿屋 金字塔で一泊し、簡単な食事を済ませた私達は、王都二日目である今日の予定を共有していた。
「た・だ・し!!トラブルは起こしちゃダメですよ!」
今日の予定共有に、うんうんと頷いていた愛と私に対し、シロ君が人差し指を立てて険しい表情で注意する。
「大丈夫!任せて!!美雪の暴走は私が止めるよ!!」
「暴走するのは愛でしょ?大丈夫、このトラブルメーカーはちゃんと私が制御するから。」
「いえ、トラブルメーカーはお二人です。」
「「えー?」」
シロ君の言葉に、ユウジもこくこくと頷く。愛はともかく、私をトラブルメーカー扱いするとは…。こんなに理知的な女性に対して、失礼だな。
「本当は僕かユウジが同行できれば良かったのですが…。僕は王都に住むための在住申請、ユウジは転生神殿で転生した者としての手続きと転生者情報の更新がありますからね…。」
「そういえば、ユウジは王都に転生したって言ってたわね。」
「あぁ、そのせいで王都に立ち寄った際には、色々と面倒な手続きが必要になるんだ。まぁ、転生直後は恩恵も大きかったけど。」
転生神殿で転生すると、そんな面倒な手続きがあるのか…。愛と私は始まりの草原に転生したから必要ないけど、転生場所によってこういうこともあるのか。多分、もう使わない知識だけど、憶えておくことにしよう。
「しかし、美雪さんと愛の二人っきりか…。心配だな…。」
「心配ですね…。」
ユウジとシロ君が順に、愛と私の顔を見ながら不安げに呟く。愛はともかく、私を不安視するとは…。こんなに理知的な女性に対して、ほんとに失礼だな。
「いやいや、そんなに心配しなくても大丈夫よ!今日は大人しく王都の中を散策するわ!だから、そんなトラブルなんて起きないわよ!」
シロ君とユウジの不安や心配を払拭するため、私はウィンクと共に力強く親指を立てる。愛も一緒に両目を瞑って親指を立てる。ウィンク出来ないのね、愛。
「「やっぱり心配だ…。」」
「「えー…。」」
その後、私達を宿屋から出さないという選択肢の検討を始めたシロ君とユウジを、無理矢理に各種申請へ見送った私達は、ひとまず王都の正門へと行ってみることにした。
「さて、とりあえず正門前に来てみたけど、これからどうしよっか?」
「ご飯も食べたばかりだからねー。どっか強い敵と戦える場所とかないかな?」
「そんな場所があっても、今日はいかないわよ。まだ王都でやっていける実力を身につけてないのを実感してね。」
「ちぇー。でも、そうするとどうしようか?」
「どうしようね?あてもなくフラフラしてみる?」
正門前で両手を組んで立ち尽くす私達。どこに行くかも決まっていない一歩を踏み出そうとしたその時、私達へ声がかけられる。
「そこのお困りの少女二人!!王都の案内なら私にお任せください!」
突然の声に振り向くと、そこにはバスガイドのような服装に、片手に黄色い旗を持った女性が、にっこり笑顔で立っていた。
「誰だ!?」
突然かけられた声に、愛は警戒心マックスで質問をする。そんな愛の声に、バスガイドのような女性は笑顔で旗を振りながら答える。
「私の名前は、ガイドさん!!王都初心者に対して、王都にどんな施設があるかを説明し、案内する者!もし、王都のどこを観光すれば良いか分からないのであれば、少しばかりのチップと引き換えに、私が案内をしてあげます!いかがでしょうか!」
「どうする、美雪!?」
突然のガイドさんの案内の申し出に、私は両手を組んで考えてみる。
王都初心者の私達二人にとっては、有り難い申し出じゃないか…?若干の怪しさが否定しきれないけど、王属騎士団が守る王都内で、こんなに堂々としてるってことは犯罪者とかではないだろう。料金も、少しばかりのチップと言っているし…。
少しの間、悩んだ私は眼鏡の位置を戻した後、結論を告げる。
「ガイドさん、王都の案内をお願いします!!」
せっかくの王都情報ゲットのチャンスだ!リスクを恐れていては、前に踏み出せない!ガイドさんの申し出を受けることにする。
「承りましたー!それでは、手近なところから、ごあんなーい!まずは、四英雄の石像!お二人も王都に来た際に見てると思いますが、こちらの石像は実は五代目なのです。」
「五代目?じゃあ、英雄の孫の孫ってこと?」
「そういう意味の五代目ではございません。この英雄像は四回建て直されているのです。最初に建てられたのが、百年以上前ですからね。風化やモンスターの突然の訪問など、四度ほど壊れているのです。その度に建て直されているのです。なので、五代目です。」
「なるほど。」
英雄像の説明に納得した私達に、ガイドさんは畳み掛けるように英雄がどういう人達だったかの説明を続ける。英雄が英雄と呼ばれるまでの研鑽の日々を聞くことができ、私はガイドさんに案内を依頼したことに満足する。
「それでは、英雄像の案内はこの辺にして、次の場所へ向かいます。王都の中心と言っても過言でない!中央通りへ、ごあんなーい!」
にっこり笑顔で旗を振るガイドさんに連れられ、王都の中央通りへ進む。
「ここは、王都の中央通り!正門前広場から、王城前の城門まで真っ直ぐ伸びる道です。この道によって王都は大きく東側と西側に分かれております。東側は宿屋や飲食店、食料や生活用品を売る商店が建ち並び、王都民が住まう居住区となっております。」
ガイドさんの案内に従って右手側を確認すると、様々な商品を売る活気溢れる商店街や、美味しそうな食べ物を売る出店などが並ぶ。
「商店!少し時間をもらって、良いですか?」
「良いですけど、どうしました?」
「ファストの町から王都に来るまでに倒したモンスターの素材があるので、売却して当面の生活費にしようかなと思いまして!良いですか?」
私の言葉に、ガイドさんはにやりと笑った後、ゴルド商店王都支部を紹介してくれる。
割愛するが、ナチュラさんとラルチさんにそっくりだったラクレさんとレトチさんと同じく、ゴルド商店王都支部には、ファストの町でお世話になったおばちゃんにそっくりのおばちゃんがいた。
なんでも、ファストの町のおばちゃんと、王都のおばちゃんは双子らしい。こっちは血縁があった。おばちゃんそっくりのおばちゃんだったため、遠慮なく素材を売却することが出来た。
「いやー、さすが王都の商店!ファストの町では買い取ってもらえなかった、バッタの姫の素材とダンジョンのボス素材も買い取ってもらえたー!おかげで、当分の生活費どころか、装備品の新調も出来る!満足です!」
「それは、とても良かったです!えぇ、本当に…!」
なぜか一緒に喜ぶガイドさんと一緒に、ゴルド商店王都支部から中央の通りに戻ったところで、愛がお肉の串焼き屋の前から動かなくなる。きらきらとした目で、よだれを垂らす愛。なんて分かりやすいのだろう。良いよー、買ってあげるよー!今の私の懐は商店での素材の売却費があるため、問題ない!
ピギーブルの串焼きと、ワイルドターキーの串焼きをそれぞれ一本ずつ買ってあげる。愛は一本じゃ満足しない。だから、二本購入だ。両手に焼肉串を持った愛は、にっこにこで両手の肉に被りついている。大人しくなった愛を横目に、ガイドさんの案内の続きを聞く。
「冒険者のお二人にとっては、王都の西側はとても重要です!冒険者ギルド王都支部、各冒険者パーティのホーム、素材や武器の売買が出来る様々な商店、冒険者達がお互いの実力をぶつけ合うコロシアムなどなど、冒険者御用達の施設が数多くございます!」
冒険者達がお互いの実力をぶつけ合うコロシアム!?そんなの、愛が聞いたら走って、挑戦しに行くに違いない!!私は心配いっぱいで、愛の表情を伺う。
しかし、愛は串焼きに夢中で、ガイドさんの話を聞いていなかった!助かった!
いや、これを予想して私は串焼きを買ったのだ。そういうことにしておく。
ほっと胸をなで下ろしながら、ガイドさんの案内の続きを聞く。
「数多くの冒険者が行き交う王都の西側ですが、その中でも、最も重要なのは王都内で挑戦できる地下ダンジョンが、北側と南側にあることです!冒険者として王都を訪れたお二人ならご存知かと思いますが、重要な情報をご案内させていただきます!北側にあるダンジョンは、推奨挑戦レベル36の、防御力と魔法防御力が高めの堅牢なモンスター多めの地下ダンジョン。南側のダンジョンは、推奨挑戦レベル51の、攻撃力と魔法攻撃力が高めの獰猛なモンスター多めの地下ダンジョン。この二つのダンジョンに挑戦して、お二人はレベルアップをすると良いかと思います!」
にこにこと笑うガイドさんが紹介するのは、始まりの草原にて私達が挑戦目標に挙げた二つのダンジョン。ひとまずは、推奨挑戦レベル36の北側のダンジョン挑戦を目指すが、平均レベル23の私達パーティは、まだまだレベルが足りない。レベル不足は、クエストで生活資金を稼ぎながら補っていこう。
決意を固めていたところで、私の肩がトントンと叩かれる。愛が串焼きのおかわりを欲してるのかなと振り返ると、見知らぬエルフの少女が立っていた。
「す、すみません…、姫様を…。エルフの姫である、ロックォーヌ・ティルノシリア様を…、この写真の方を見かけませんでしたか?」
「エルフの姫?」
少女が差し出す写真を確認すると、見るからに高貴なドレスに身を包んだ、儚げに笑う絶世の美女が写っていた。この世界にも写真はあるのかと思いながら、過去の記憶を漁ってみるが、写真の中の美女には見覚えがない。
聞いたことも見たこともない、エルフの姫という人物について突然聞かれ、困惑していると、ガイドさんがにっこりと笑う。
「こちらの女性は、最近王都の名物になりつつある、行方不明のエルフの姫を探す薄幸の少女です。もし、その写真に写っている女性を見かけましたら、彼女に伝えてあげてください。」
「薄幸!?あ、いえ、否定は出来ませんね…。はい、私は薄幸なエルフの少女です。薄幸な私は基本的にここにおります…。ちょっとした情報でも構いませんので、姫様の情報がありましたら…、すみませんが、私に教えてください。よろしくお願いします…。」
深く頭を下げたエルフに対し、私も頭を下げる。ちらっと横を確認すると、愛が食い入るように薄幸少女の差し出す写真を見つめていた。
「どうしたの、愛?」
「ん?なんだかこの写真、どこかで見た覚えがあるなーって思って。全然思い出せないけど。なんだろうなー…。」
「姫様をご存知ですか!?」
「ちょっと待って…、今思い出してるとこだから…。むむむむー…。」
必死に記憶を思い出そうとしているのか、真剣な表情で写真の中の女性を見つめる愛。
あれ、昨日もこんなことがあったな…と思っていたところで、ぐーっという可愛らしい音が、愛のお腹から聞こえてくる。
「あ、お腹空いた。エルフの姫って奴のことを、考えても思い出せないものは仕方ない!気にしないことにする。でも、頭を使ったら、お腹空いた!美雪、串焼きおかわり!」
愛は考え事をすると、多くのカロリーを消費するらしい。
催促する愛に言われるがまま、串焼きを買ってあげると、すぐさまかぶりつく。にっこにこの笑顔で肉を頬張る愛に、私も食欲を刺激される。エルフの姫を探す薄幸の少女も、目をキラキラとさせながら串焼き肉を見つめていたので、買ってあげようとしたら断られる。エルフは肉は食べないらしい。そうか、エルフはベジタリアンか。
ネギまによく似た串焼きが売っていたので、ネギまの肉抜きという名のネギ串を頼み、エルフの少女に渡す。ガイドさんにもシルバーブルの肉の串焼きを渡し、四人で束の間の間食タイムを楽しむ。
「それでは、串焼きを満喫したところで、中央通りから王都の西側にある施設を順にご案内していきますねー!」
「お腹いっぱい!満足ー!!」
串焼きでお腹を満たした私達は、薄幸なエルフの少女と別れ、ガイドさんの案内の続きを聞く。愛も満腹のようでにっこにこ笑顔だ。
ガイドさんは冒険者ギルド王都支部、武器屋、防具屋、装飾品屋など、冒険者として生活していくのに必要な施設を紹介してくれた。こんな路地裏に、こんな有用な施設が!?と、普通に探索をしていたら見つけられないような隠れた名店を数多く教えてくれる。
にこにこと案内をしていたガイドさんだが、急にとある場所で止まる。そこは、焼け焦げた建材のような何かが散らばった閑散とした広場。
この場所がどうしたのだろうと思っていると、ガイドさんが笑顔で説明を始める。
「この場所はトラップタワー跡地です。つい半年ほど前は、この場所にトラップタワーと呼ばれる、モンスターを効率的に処理して、ドロップアイテムを集める、王都の商業的にとても重要な施設があったのですが…。塔崩しという異名の、極悪非道な男によって、このような更地になってしまったのです。地下には、毒の沼トラップが残っているため、再建もなかなか進まず、こうして跡地として残されているのです。」
塔崩し。ファストの町の冒険者ギルド長が言っていた、名も知らぬ強者の一人だったはず。トラップタワーと呼ばれる塔を崩したから、塔崩しという異名で呼ばれているのだろうか…?安直だな…。
ガイドさんの言葉に更地を確認すると、地面のところどころに穴が開いており、ボコボコと沸きだつ毒沼がチラチラと見える。再建が進まないのも納得。下手したら作業中に床を踏み抜いて毒沼にドボンだもん…。
「前職は、トラップタワー内で開催される見学やお祭りの案内役をしていたのですが、トラップタワーが壊されてしまったため、私は失業して…、こうして王都の案内役をしてるんですよー…。あー、塔崩しの野郎めー…。まじで許せねぇ!!」
にこにこと笑っていたガイドさんが急に怒気を露わにし、地面に転がっていた石を力強く蹴り上げる。塔崩しへの怒りがすごい。
彼女の変わりように戸惑う私達に気付いたガイドさんは、にこっと微笑んだ後、トラップタワー跡地の説明に戻る。
「王都の経済にとって重要拠点であったトラップタワーですが、塔崩しによって破壊されてしまい、王都は混乱の渦です。なにせ、魔力で動くトラップタワーは、戦線を退いた元冒険者にとって、余った魔力を売ることが出来る貴重な施設だったんですから。許せないですよね。」
トラップタワーをどうやって動かしているか気になっていたが、どうやら元冒険者の魔力を利用していたらしい。ガイドさんに聞いてみると、冒険者のセカンドライフとしてトラップタワーの魔力源は人気職だったそうだ。
引退した冒険者のセカンドライフを支えるどころか、ドロップアイテムで人々の暮らしまで豊かにする施設。トラップタワーってすごい施設だったんだな。しかし、目の前には跡地と呼ばれる、毒沼トラップだらけの広大な土地。無常である。
「そんな重要施設だったトラップタワーの喪失に、我現る!!みゃー!!」
「誰だ!?」
突然かけられた声に、愛は警戒心マックスで背後を振り返る。
愛に遅れながらも、私も振り返ると、そこには、鬼をモチーフにした目元を覆う仮面を被った和服の妙齢の女性が立っていた。絹のように滑らかな肌、一点の濁りも無い夜空を思わせる腰まである黒髪に、ほんのり紅色の艶めかしい唇。顔の半分を隠す鬼の仮面が、その奥にどんな美貌を隠しているのかと興味を惹かせる。和風美女とはまさにこのこと。
そして、何よりも目を惹くのが、厚手の着物でも隠し切れない、彼女のボン、キュッ、ボン!!な見事なプロポーション!!二つの大きな山が、彼女が動くたびに揺れている。
女性の魅力や色気を、これでもかってくらい詰め込んだ和風美女が、両足を大きく開き、左手を腰に、右手を逆斜め上に突き出すポーズで、堂々と立っている。
「我の名前は、武姫!!よろしくみゃ!!」
武姫と名乗った彼女は、右手をぐるっと回した後に、びしっと仮面のライダー的な人を思わせるポーズをする。いや、なんでそのポーズ?なんで、やり切ったって感じの堂々とした顔?せっかくの和風美人が台無しですよー?
「鬼火流剛術!!肆の型!!薊!!」
武姫さんのポーズに、愛は肆の型で応える。両足を開き、左手の拳を腰に、右手の拳を武姫さんに突き出す。力強さを誇示するかのような鬼火流剛術の肆の型。肆の型…?
攻撃重視の壱の型、防御・カウンター重視の弐の型、速度重視の参の型、全てを投げ出しての一撃必殺の終の型という鬼火流剛術の型。それぞれの型の違いについて、以前聞いたことがあるが、その中には肆の型なんてなかった。肆の型とは、一体…?
「鬼火流剛術の肆の型…?それは一体、どんな技なんみゃ…?我も負けてられないみゃー!!」
私の疑問に応えるように、武姫さんが緊張感を持った表情で質問をする。質問をしながらも、武姫さんのポーズは、より力強い物へと変わる。両手を頭上高く上げ、片足を上げたポーズ。どうしよう、和服美女がどんどん残念なポーズに変わっていく。あと、みゃあみゃあという独特な語尾が気になって仕方ない。
武姫さんのポーズの変化に、愛はにやりと笑いながら肆の型についての解説を始める。
「鬼火流剛術の肆の型は、見た目重視の型!!ただただ、かっこいいポーズをするだけの型!!攻撃、防御、速度なんて捨て、ただただ、かっこいいポーズをするだけの型!!それが、鬼火流剛術の肆の型!!」
「いや、肆の型ってそんな型なの!?無駄じゃん!!」
思わず私はツッコミをしてしまう。私のツッコミに、愛は首を横にふいふいと振りながら、答える。
「無駄じゃないよ!!鬼火流剛術の肆の型は、お姉さんのかっこいいポーズにも負けない、大事な型だよ!!ばばーん!!どうだー!!」
「いや、あのポーズかっこよかった!?あと、そのポーズなら対抗できるの!?」
「我のポーズのかっこよさに気付いて、即時に己のかっこよさで相対するとは…。やるみゃあ…。それに、鬼火流剛術の使い手とはみゃ…。名も知らぬ少女よ…、やりおるみゃあ…。」
凛々しい表情で、ゆっくりと愛に近付いた武姫さんは、片手を伸ばす。
「お姉さんこそ、やるなぁ…!!」
愛も剛々(ごうごう)しく笑った後、武姫さんの手に、自分の片手を合わせる。がっちりと結ばれた二人の手。お互いの実力を称え合う、見事な握手。二人の表情は満足気。
「いや、その親友感なに!?ついていけないんですけど!!」
愛の奇行に、私のツッコミが追い付かない。こういうのはユウジの役割なのに…!!
ユウジに対して怒りの感情を感じながら、ぎゃあぎゃあみゃあみゃあと二人に対して抗議をしていると、にっこりと笑うガイドさんが武姫さんの説明をしてくれる。
「まさかこんなところで会えるとは思っていませんでしたが、ご案内をさせていただきます。この方は、原初の鍛冶屋。こんな見た目と変な喋り方…、さらに、奇人と呼ばざるを得ない性格ですが、原初の創造者の一人であり、この世界に散らばる星四以上の武器の九割以上は、彼女の作品であると言われています。まさに残念美人な彼女ですが、腕は確かな鍛冶屋です。」
ガイドさんの紹介に、武姫さんが大きな声で笑いだす。
「みゃはははー!!そうみゃ!!我はゴイスーで、ベリーグッチョルンパな鍛冶屋なんみゃー!!そんな我だが、トラップタワーに代わる施設を作るため、王都に馳せ参じたみゃー!!ちょっとドジっ娘で、ここに来るまでも、ちょっとしたことがあって、作ったばかりの武器を失った上、一つ森を燃やす原因を作ってしまったけどもー!!我は天才鍛冶屋みゃー!!我の天才さを、崇め奉るが良い!!ばっばーん!!みゃはははー!!」
堂々と話す武姫さんの、森を燃やしたという言葉に、数日前の記憶が蘇る。
始まりの草原で燃える森を目の前に遠回りを強いられ、予定よりも一日長く移動に時間を要したこと。さらに、燃える森の中から現れた赤髪の変な男に言いがかりをつけられたこと。
その原因の一端が、目の前にいる武姫さんだったと…。私の計画を狂わせた一因が、目の前に…。
「天才…?天災の間違いでは…?」
「いたたたたー!!何するみゃー!!痛いみゃー!!ほっぺをつねらないで欲しいみゃー!!」
気が付いたら私は、武姫さんのほっぺたをつねっていた。
「あ、ごめんなさい。つい。」
「「つい!?」」
私の言葉に、愛とガイドさんの驚き声が重なる。
無意識でまたやってしまった。どうも、こっちの世界に来てから、怒りを感じるとつい手が出てしまう。猪突猛進ガールの愛の影響を受けてるのかな?疑問に感じながらも、先輩直伝のベアクローじゃなかっただけまだマシ、と考えることにする。
思わずやってしまった凶行に、申し訳なさいっぱいで武姫さんに謝るが、彼女は豊満な夢を上下に揺らしながら爆笑をしている。
「みゃはははー!!名も知らぬ目つきの凶悪な少女よ!!それに、我に呼応できる剛の少女よ!!我にこんなに親し気に接してくれるのは、久々みゃー!我は二人のことが、とっても気に入ったみゃー!!みゃはははー!!」
ほっぺをつねることが、親し気な触れ合い?武姫さんの言葉に少し疑問を感じたが、まぁ彼女が笑顔なので良しとする。
武姫さんは、にこにこと笑いながら愛と私の肩をバンバンと叩く。その度に、武姫さんの大きな山は上下に大きく揺れる。でも、私の慎ましやかな胸は揺れない。ちくせう。
「我は、このトラップタワーの跡地に、王都名物を作るみゃ!二か月後くらいにまた来てみると良いみゃー!!その時は、たっぷりサービス出来るように、我がんばっちゃうからみゃー!!それじゃあみゃー!!みゃはははー!!」
爆笑しながらも、王都名物の新名所を作り始めた武姫さんと別れる。
ガイドさんに連れられるがまま、入り口に石像のモチーフになっていた四英雄を称える博物館、四英雄が研鑽を積んだとされる由緒正しい道場、王属騎士団が訓練をするとされる騎士団訓練場を案内される。
伝説の冒険者達のルーツを知ることができ、冒険者としてのモチベーションが上がっていくのを感じる。
「はーい!以上で、ガイドさんによる王都案内はお終いでーす!」
「「ありがとうございます!!」」
ガイドさんの案内を聞きながら、数々の王都の名所を練り歩いたところ、いつの間にか夕方になっていた。お礼をしようとしたところで、ガイドさんがにこにこと笑いながら、右手で親指と人差し指を合わせて丸を作る。
「そのハンドサインは…、あー。お金ですね。今日一日のガイド費ですね。いくらでしょう?」
「持っている金ぜんぶです!」
ん?
「持っている金ぜんぶです!」
にこっと笑うガイドさんの言葉に、自分の耳がおかしくなったかと思ったが、二度繰り返された言葉は同じものだった。どうやら、間違いじゃないようだ。
「持っている金ぜんぶ!?一日の案内で!?法外すぎるでしょう!!」
抗議のために張り上げた声に、ガイドさんはにこにこと笑いながら答える。
「法外?そんなことはございませんよ!銀等級の冒険者である、私が直々に王都を案内したのです!そのくらいの金額になってしまいます!」
「銀等級…!?それでも、高過ぎるでしょう!!」
私の持っている金ぜんぶと言ったら、先ほどゴルド商店で売った素材費も含めて、人引き車をもう一台買えるくらいはある。それを全部!?一日で!?いくらなんでも高すぎる!!
そんな私の抗議に、ガイドさんはにこにこと笑いながら答える。
「いえ、そんなことはございません!銀等級である私が、本来ダンジョンに潜って稼げたであろう金額に、新米冒険者を狙う輩から二人を守った防衛費。私が王都で培ってきた経験を基に、冒険者にとって数々の有用な施設を案内した情報費。美人な私と一緒に過ごせた交際費、その他もろもろの諸経費に、新米冒険者である美雪さんの持ち金を考慮すると…。はい、妥当なところです!」
「どこが妥当りゃ…、っれ、あれ?なんりゃ、こりゃ…?」
費用の内訳に納得がいかない私は、激しく抗議をしようとしたが、舌が回らない。それどころか、全身が痺れる上に、少しずつ力が抜けていき、やがて立っていられなくなる。
妙な虚脱感から膝を折る私達へ、にこっと笑ったガイドさんは私達に起こった異変の説明を始める。
「すみません。最近は私のガイドに対する費用を出し渋る方が多いので、ちょっと毒を盛らせていただきました。今なら、この解毒薬もサービスでお渡ししますので、ガイド費用を支払いすることをオススメしますよ!私もお二人を天国にご案内はしたくありませんので!」
にこにこと笑いながら、緑色の液体の入った瓶を左右に振るガイドさん。この異常の原因はガイドさんか…。くそぅ…、立派な脅しじゃないか…。
用心棒である愛に頼ろうと、残った力を振り絞り、なんとか横の方を見ると、愛は青い顔で倒れている。あ、愛は状態異常に弱いんだった。
悔しい気持ちが溢れ出してくるが、愛はぶっ倒れているし、私の視界も少しずつボヤけてきたため、これ以上迷っている暇はない。震える手でマグカを支払いモードにしてガイドさんに突き出す。
「まいどありー!」
自分の物と思われる緑色のマグカで金額を確認したガイドさんは、にこっと笑った後、愛と私に緑色の液体を振りかける。
解毒薬が効いてきたのか、これ以上は状態が悪化しないことを感じたが、まだまだ体には力が入らない。愛も顔色が良くなったが、倒れたまま。起き上がることは出来ないだろう。
「王都には私以外にも、たっくさん悪い人がいるんですよー!下手に信頼しない方が良いですよーって教育費は、サービスしておきますね!それでは、またいつかー!」
全財産を失った私は、楽しそうに去っていくガイドさんを睨むことしか出来なかった。
すぐに近くを通りかかった騎士によって助けられたため、事無きを得たが、私はこの日の悔しさを忘れない。しかし、悔しさを嚙み締める前に、考えなければいけないことがある。
私、所持金ゼロ。明日からの生活費、どうしよう。




